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32 皇弟ハロルド
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今、皇子課では珍しく全体会議が開かれようとしている。上座にはジェラルド様にユリアン様。
第一皇子課からモーガンさんとその部下の方が四名。皆さんとは挨拶程度しかお付き合いはなかったが、どうもジェラルド様の反モニカ思想が色々と邪魔をしていたらしい。
ジェラルド様に追い回されるようになった後くらいからは、モーガンさん以外の方もフレンドリーに接してくれるようになっていた。皆さんもきっと、ジェラルド様の諜報員なのだろう。
そして、我が第二皇子係からはいつものレン係長、マサさん、ノーラさん。少しやつれて戻ったトムさん。(色々ドロテアが大変だったらしい)――で……
「サラさん……」
会議が始まる前、ユリアン様が早口で説明してくれた。
官僚試験で二位の成績を修めたサラさんを、手薄な事務処理をこなしてもらうため人事に無理を言って引き抜いたらしい。
事前にマサさんが口添えし、ユリアン様も乗ったらしい。ユリアン様の事だから、私の友を引き抜いて少しでも利用しようとしたのだろうけれど……。
「最初から同じ時期に課内にいたら、モニカに怪しまれてご褒美をあげられなかったよね? だからサラにはモニカと入れ違いで課内に来てもらうようにしていたんだ。ごめんね、モニカ」
「それでも、もう少し早く教えて欲しかったです。サラさんは口止めされれば命令ですから仕方ありませんが、ユリアン様は違いますよね?」
「ほらね、やっぱりモニカが怒ったよー」
「だから、早く説明した方が良いって言ってたわよね」
「ハッハッハッ。隠し事をする男は嫌わるもんですな」
「私もですが、先輩方も同罪ですよ。ユリアン様が絞られた後、一緒にモニカさんに謝ってください」
「お待ちください。つい最近合流した私は、完全無実です」
いやいや、係の皆さんが悪いと思っていないし、そもそもそんなに怒っていない。それにジェラルド様や第一の皆さんが嬉々とした目で見ている中、小さなことをグチグチ言い続ける気もない。
「皆さんごちゃごちゃ言っていますが、本当に怒っていません。ただ、ユリアン様にはもう少し早く教えて欲しかったというだけです」
「やっぱりモニカは心が広いわ~」
「さすがモニカさん。私は最初から理解してくれるって言ってたんだよ」
「俺もだぞぉ!」
「私もだぁッハッハッハッ」
「やはり、もと主のご息女とは格が違いますね」
第二の皆は私を褒め殺して、上手くこの場を治めようとしているらしい。
「なんだ、つまらんな。モニカ・クラウスティンの悪辣っぷりが見られるかと期待したのだが。ユリアンに考え直してもらうチャンスだったのに」
「いや、ジェラルド様はいい加減お認めになった方がよろしいですよ。モニカ嬢はずっと、清廉なご令嬢でした」
「モーガンさんの言う通りだと、第一の皆の見解は一致しております。もうジェラルド様の言葉に惑わされませんからね!」
第一の皆さん、対ジェラルド様への援護ありがとうございます。
「素晴らしい! 兄上の係の者も、本当に良い人材ばかりですね!」
「ユリアン様。第一の皆さんに便乗し、有耶無耶になさろうとしてもダメですよ。後でココと執務室に伺いますからね」
「そう!? 大歓迎だよ、モニカ!」
「なんだ。オノロケか」
「そんなに二人きりになりたかったのね~」
「うっ……」
皆がヤンヤヤンヤと盛り上がるのが面白いのか、ココまで楽しそうに手当たり次第じゃれついては撫でてもらっている。この雰囲気では、何を言ってもノロケととられそうだ。
(皆さんいつからこんな、のほほんとしちゃったのかしら?)
「あまり顔を出せなかったが、皇子課は本当に良い課だな。よし、皆で知恵を出し合い、この会議の議題をサッサと片付けてしまおう!」
若干食傷気味の私を置いてきぼりにし、ジェラルド様の一声で、やっと課内会議が始まった――
「ボルダン伯爵家の後ろにいたのはハロルド様でした。没落間近でも狩りが盛況だったのは、ハロルド様のお声掛けがあったからのようです」
ハロルド様は現皇帝レオナルド様の弟君であり、ジェラルド様とユリアン様にとっては叔父君。今はローバンダイン公爵家のご当主だ。
「叔父上か。また厄介だな。となれば、次の皇太子の座を狙っているのか」
「私だけでなく、兄上も危なかったのか……」
確かにハロルド様にも皇位継承権があり、ジェラルド様とユリアン様がいなくなれば、ハロルド様が皇太子となる……。
ボルダン伯爵家主催の狩りで、あの家から恨みを買った私だけではなく、ユリアン様、いや、皇位継承権のある方の命を狙うのに協力した理由は充分。
(外にあまり出られないジェラルド様より、代理出席したユリアン様が先に狙われたということかしら)
「闇業者からも相手にされなくなっていたボルダン伯爵が毒薬を準備出来たのも不思議でしたが、ハロルド様が後ろに居たからでしたか……」
「そうー。どうもハロルド様が取引するよう、口利きしたみたいですねー」
トムさんの疑問に調べがついたのか、マサさんが答える。
「皇帝陛下へのご報告は、やはりまだされないのでしょうか?」
「ショックが大きいだろうな……。私は先日、父上に対しやらかしているし、直接被害を受けたユリアンの判断に従うよ」
モーガンさんとジェラルド様のやり取りを聞き、ユリアン様に皆の視線が集中した。
「皆、聞いて欲しい。今度、皇位継承権のある者で腹を割った協議をする事となった。叔父上が仕掛けてくるならば、その日までが山となるだろう。それまで皇子課全職員で叔父上を警戒してくれ。そして、父上も同席するその協議の場で、叔父上の口から私の暗殺に加担した事を認めてもらう」
その腹を割った話し合いの件を話題にされると、私も肩身が狭い立場だった。
陛下はご自身の過去を告白した上で、双子の皇子の意志を確認する事にしたらしい。親兄弟想いの皇子たちが互いに遠慮するのを懸念した陛下は、ジェラルド様と私が皇帝陛下の執務室で窃盗を働いた罪を帳消しにする代わり、後日改めて二人の皇子に本音で皇位継承権について話し合うことを求められたのだ。
(私の罪を、ユリアン様が肩代わりする事になってしまったわ……)
「かしこまりました。我々皇子課職員は、今はハロルド様の動きを注視するにとどめましょう」
レン係長の発言に、「はい」と力強く第一も第二も賛同する。いつの間にか皇子課は一つにまとまっていた――
この国にはろくな皇子がいないではないか! いや、けして兄上の血筋を馬鹿にするわけではない。
重要な公務以外表に出てこない第一のジェラルド。帝王教育に忙しいなどの言い訳がいつまで通用すると思っているのだ! お前は今度二十歳だろうが!
第二のユリアン。仮面なぞ被り、のらりくらりと人を躱しおって。無能だから仮面を外せないだけの臆病者ではないか! 男なら顔の傷くらい勲章にしろ!
父が生きていたら、このザマをなんと思っただろうか……。
心苦しかったが、兄上には早く皇太子を選ぶべきだと何度も何度も伝えて来た。けして自分が皇太子になりたいわけではない。私は純粋に、皇帝と帝国の行く末を案じているのだ。
兄上と兄上の子を盛り立てるため、私は公爵となる事を快諾した。下手に皇位承権を持つ者を増やしたくないと、娘を授かった後は子作りをしなかった。それでも兄上のためなら、いつでも皇帝として矢面に立つ覚悟はしていたのに……。
(皇太子宣言をする前に相談の場を設けたいだと? 相談に乗って欲しいだなんて言葉を兄上に言わせるとは、どうしようもない甥どもだ)
だが、兄上は温厚なお人。問題ありだが我が子である皇子たちを、あと一押しがなくどちらも見離せないのだろう。まして、息子以外の者――すなわち私を選ぶことも出来ず、苦しまれているのだ。
兄上は本当にお優しい。それで良いのだ。父が強硬な姿勢で国を発展させ、兄上が穏やかな政治を敷いたからこそ、この帝国はここまでの大国となったのだ。兄上は優しさを忘れず、今のままであって欲しい。
(なら、私が兄上の悩みの種を取り除くしかないな)
このレーヴァンダール帝国と兄上のため、腑抜けた皇子たちを私が放逐してやろうではないか――
第一皇子課からモーガンさんとその部下の方が四名。皆さんとは挨拶程度しかお付き合いはなかったが、どうもジェラルド様の反モニカ思想が色々と邪魔をしていたらしい。
ジェラルド様に追い回されるようになった後くらいからは、モーガンさん以外の方もフレンドリーに接してくれるようになっていた。皆さんもきっと、ジェラルド様の諜報員なのだろう。
そして、我が第二皇子係からはいつものレン係長、マサさん、ノーラさん。少しやつれて戻ったトムさん。(色々ドロテアが大変だったらしい)――で……
「サラさん……」
会議が始まる前、ユリアン様が早口で説明してくれた。
官僚試験で二位の成績を修めたサラさんを、手薄な事務処理をこなしてもらうため人事に無理を言って引き抜いたらしい。
事前にマサさんが口添えし、ユリアン様も乗ったらしい。ユリアン様の事だから、私の友を引き抜いて少しでも利用しようとしたのだろうけれど……。
「最初から同じ時期に課内にいたら、モニカに怪しまれてご褒美をあげられなかったよね? だからサラにはモニカと入れ違いで課内に来てもらうようにしていたんだ。ごめんね、モニカ」
「それでも、もう少し早く教えて欲しかったです。サラさんは口止めされれば命令ですから仕方ありませんが、ユリアン様は違いますよね?」
「ほらね、やっぱりモニカが怒ったよー」
「だから、早く説明した方が良いって言ってたわよね」
「ハッハッハッ。隠し事をする男は嫌わるもんですな」
「私もですが、先輩方も同罪ですよ。ユリアン様が絞られた後、一緒にモニカさんに謝ってください」
「お待ちください。つい最近合流した私は、完全無実です」
いやいや、係の皆さんが悪いと思っていないし、そもそもそんなに怒っていない。それにジェラルド様や第一の皆さんが嬉々とした目で見ている中、小さなことをグチグチ言い続ける気もない。
「皆さんごちゃごちゃ言っていますが、本当に怒っていません。ただ、ユリアン様にはもう少し早く教えて欲しかったというだけです」
「やっぱりモニカは心が広いわ~」
「さすがモニカさん。私は最初から理解してくれるって言ってたんだよ」
「俺もだぞぉ!」
「私もだぁッハッハッハッ」
「やはり、もと主のご息女とは格が違いますね」
第二の皆は私を褒め殺して、上手くこの場を治めようとしているらしい。
「なんだ、つまらんな。モニカ・クラウスティンの悪辣っぷりが見られるかと期待したのだが。ユリアンに考え直してもらうチャンスだったのに」
「いや、ジェラルド様はいい加減お認めになった方がよろしいですよ。モニカ嬢はずっと、清廉なご令嬢でした」
「モーガンさんの言う通りだと、第一の皆の見解は一致しております。もうジェラルド様の言葉に惑わされませんからね!」
第一の皆さん、対ジェラルド様への援護ありがとうございます。
「素晴らしい! 兄上の係の者も、本当に良い人材ばかりですね!」
「ユリアン様。第一の皆さんに便乗し、有耶無耶になさろうとしてもダメですよ。後でココと執務室に伺いますからね」
「そう!? 大歓迎だよ、モニカ!」
「なんだ。オノロケか」
「そんなに二人きりになりたかったのね~」
「うっ……」
皆がヤンヤヤンヤと盛り上がるのが面白いのか、ココまで楽しそうに手当たり次第じゃれついては撫でてもらっている。この雰囲気では、何を言ってもノロケととられそうだ。
(皆さんいつからこんな、のほほんとしちゃったのかしら?)
「あまり顔を出せなかったが、皇子課は本当に良い課だな。よし、皆で知恵を出し合い、この会議の議題をサッサと片付けてしまおう!」
若干食傷気味の私を置いてきぼりにし、ジェラルド様の一声で、やっと課内会議が始まった――
「ボルダン伯爵家の後ろにいたのはハロルド様でした。没落間近でも狩りが盛況だったのは、ハロルド様のお声掛けがあったからのようです」
ハロルド様は現皇帝レオナルド様の弟君であり、ジェラルド様とユリアン様にとっては叔父君。今はローバンダイン公爵家のご当主だ。
「叔父上か。また厄介だな。となれば、次の皇太子の座を狙っているのか」
「私だけでなく、兄上も危なかったのか……」
確かにハロルド様にも皇位継承権があり、ジェラルド様とユリアン様がいなくなれば、ハロルド様が皇太子となる……。
ボルダン伯爵家主催の狩りで、あの家から恨みを買った私だけではなく、ユリアン様、いや、皇位継承権のある方の命を狙うのに協力した理由は充分。
(外にあまり出られないジェラルド様より、代理出席したユリアン様が先に狙われたということかしら)
「闇業者からも相手にされなくなっていたボルダン伯爵が毒薬を準備出来たのも不思議でしたが、ハロルド様が後ろに居たからでしたか……」
「そうー。どうもハロルド様が取引するよう、口利きしたみたいですねー」
トムさんの疑問に調べがついたのか、マサさんが答える。
「皇帝陛下へのご報告は、やはりまだされないのでしょうか?」
「ショックが大きいだろうな……。私は先日、父上に対しやらかしているし、直接被害を受けたユリアンの判断に従うよ」
モーガンさんとジェラルド様のやり取りを聞き、ユリアン様に皆の視線が集中した。
「皆、聞いて欲しい。今度、皇位継承権のある者で腹を割った協議をする事となった。叔父上が仕掛けてくるならば、その日までが山となるだろう。それまで皇子課全職員で叔父上を警戒してくれ。そして、父上も同席するその協議の場で、叔父上の口から私の暗殺に加担した事を認めてもらう」
その腹を割った話し合いの件を話題にされると、私も肩身が狭い立場だった。
陛下はご自身の過去を告白した上で、双子の皇子の意志を確認する事にしたらしい。親兄弟想いの皇子たちが互いに遠慮するのを懸念した陛下は、ジェラルド様と私が皇帝陛下の執務室で窃盗を働いた罪を帳消しにする代わり、後日改めて二人の皇子に本音で皇位継承権について話し合うことを求められたのだ。
(私の罪を、ユリアン様が肩代わりする事になってしまったわ……)
「かしこまりました。我々皇子課職員は、今はハロルド様の動きを注視するにとどめましょう」
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この国にはろくな皇子がいないではないか! いや、けして兄上の血筋を馬鹿にするわけではない。
重要な公務以外表に出てこない第一のジェラルド。帝王教育に忙しいなどの言い訳がいつまで通用すると思っているのだ! お前は今度二十歳だろうが!
第二のユリアン。仮面なぞ被り、のらりくらりと人を躱しおって。無能だから仮面を外せないだけの臆病者ではないか! 男なら顔の傷くらい勲章にしろ!
父が生きていたら、このザマをなんと思っただろうか……。
心苦しかったが、兄上には早く皇太子を選ぶべきだと何度も何度も伝えて来た。けして自分が皇太子になりたいわけではない。私は純粋に、皇帝と帝国の行く末を案じているのだ。
兄上と兄上の子を盛り立てるため、私は公爵となる事を快諾した。下手に皇位承権を持つ者を増やしたくないと、娘を授かった後は子作りをしなかった。それでも兄上のためなら、いつでも皇帝として矢面に立つ覚悟はしていたのに……。
(皇太子宣言をする前に相談の場を設けたいだと? 相談に乗って欲しいだなんて言葉を兄上に言わせるとは、どうしようもない甥どもだ)
だが、兄上は温厚なお人。問題ありだが我が子である皇子たちを、あと一押しがなくどちらも見離せないのだろう。まして、息子以外の者――すなわち私を選ぶことも出来ず、苦しまれているのだ。
兄上は本当にお優しい。それで良いのだ。父が強硬な姿勢で国を発展させ、兄上が穏やかな政治を敷いたからこそ、この帝国はここまでの大国となったのだ。兄上は優しさを忘れず、今のままであって欲しい。
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