嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第1章 黒領主の婚約者

9 ユージーン・ロシスター その3

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 エリカがハイド領に潜入して半年が過ぎた頃、後見人の叔父がきな臭い動きをしていると知らせが届いた。クローディアが成人したら直後に亡き者とし、ハイド伯爵領を自分の物にするつもりらしい。

 “馬鹿な奴です。ロシスター家で一番陰険なひねくれ者の三男を、完全に敵に回したいようですね。いつでも御命令ください。ヤっちゃいましょう!”

 エリカにお膳立てされずとも、そうするつもりだ。許せるはずがない。今までクローディアを悲しませた分まで、きっちり贖罪させてやる。



 身内を殺そうとすれば罪は重い。叔父本人と妻は、命があれば囚人の仲間入りをするだろう。従姉妹のドナって女が未成年で、罪に問われる可能性がなく腹立たしいが、いつか機会はあるはずだ。
 まずは、叔父夫妻を潰しておこう。

 エリカの報告から、叔父夫妻が領地から出て王都に行った際、毒を買う計画を立てている事がわかった。店の名前を突き止めさせた俺は、憲兵にタレこんで購入現場を目撃させ、証拠の一つを公にすることにした。

 イスティリア王国騎士団にいるすぐ上の兄を頼ろうかとも考えたが、まだ使いどころではないはず。 
 兄貴にはもっと無茶をする場面で、後々登場してもらおう。




「宵闇に光る星が綺麗に見える日だな」

「……どうぞ……」

 叔父が合言葉を呟くと、店の扉が僅かに開いた。どこのどいつからその店を紹介されたのかは知らん。それは憲兵が調べればいい。
 今は、クソどもが店を出た後、店主を捕えて売った物を吐かせるまでしかできない。

 クローディアの近くに危害を与える物があると思うだけで即時排除したいが、予想より早く動いても、エリカが全力で阻止するはず。
 俺をひねくれ陰険末子と見くびるところはムカつくが、あれで優秀な騎士だ。

 クローディアを頼んだぞ、エリカ……。




 そしてついに、ハイド伯爵家相続の届出文書を、叔父がクローディアの名前を使い偽造したと連絡が入った。クローディアが成人した後で万が一が起きた場合、次は誰に伯爵家を相続させるかの意思表示を公にするための届出だ。
 クローディアの誕生日以降で犯行におよぶ可能性が高いが、悪人の考えること。死亡日など何とでもできると考え、突発的な犯行におよぶ恐れもある。

 クローディアを害そうとする動きをしたら、いつでも取り押さえるようエリカに指示を出してはいたが、もういい……。
 毒物と偽造された相続人届出があれば充分だ。ここで打って出よう!



「これは毒物だな? 次期領主に毒をもろうとした罪で連行する!」
「こ、これはただのジュースです。ひ弱な姪を慮って買ってきた、薬草入りの特製品なのです!」

「ほう。ならば、お前がここで飲んで見せろ」
「ひいっ!」

 俺は兄に依頼し、派遣してもらった騎士数人を伴って伯爵領に赴き、身を潜めていた。
 数日後、まんまと予想通り動いた叔父一家を、クローディアから遠ざけることに成功した。

 主犯の叔父が捕まり、叔母も毒物を入手する際に同行し犯行を共謀した証拠を得ていたので、一緒に連行した。
 クローディアの従姉妹にあたるドナと言う娘は、遠方の母方の親戚の家に引き取られることになったらしいから、二度とクローディアに関わることはないだろう。

 もしノコノコ現れたらその時は……。

 しかし、あのヘイデンという家令が曲者かもしれない。騎士を見る目が犯罪者の目だったな。引き続きエリカに見張らせておこう。

 それにしても、こんなにも近くにクローディアがいるのに、声すらかけられないなんて……。なんて苦行なんだ!


 ***


 これまでハイド領で起きた事を報告したり、父と一緒に、特例でそのままクローディアに伯爵領を相続させるべく国王に掛け合ったりで、俺は王都に戻っていた。

 やっと後見人一家がいなくなり、無事成人したクローディアに、どうやって近づき婚約を承諾してもらおうか。阿呆と社交界で有名な邪魔者サディアスを、いかにして排そうか。
 そんなことを考えていた矢先、クローディアがヘイデンの横領を暴き、近いうちに証拠を集めきって突きつける気だとエリカから連絡が来た。

 何て無茶をするんだ! いてもたってもいられず、俺は再び伯爵領に向かうことにした。

 ここまでくると父や兄たちも俺の執念深さに心底引いていたが、親兄弟にどう思われようが痛くも痒くもない。クローディアさえ守ることができればそれで良い。

「三男は自由で良いな」

 ロシスター侯爵領を継ぐ予定の長兄ウォルトに言われた。先に生まれただけで、跡継ぎの座を得られた奴に言われたくはない。

「お前は騎士よりも諜報部門がお似合いだな」

 次兄ブルーノにはこう言われたが、褒め言葉でしかない。クローディアを影ながら支える力を、認めてくれてありがとうだ。

「クライヴの意思に背くようなマネをすれば、俺がお前を叩き切るからな!」

 しつこいな父よ。俺だって無理強いする気はサラサラないって。まあ、あんたに負ける気もしないがな。
 クローディアには、俺のことを必ず好いてもらうだけだ。


 ***


 エリカにクローディアのいる執務室まで案内させ、間一髪のところで間に合った。
 焦がれてやまなかったクローディアを目の前にし、溢れる恋情が押さえきれなくなりそうだ。クローディアの声をもっと聴いていたい。もっと側にいたいし、もっと互いを理解し合いたい。
 ずっと守ってやりたいし、触れてもみたい。早く二人きりになりたい……。

 邪魔だな。

 ヘイデンはとっちめる際に気絶させておいたから、小うるさいエリカを下がらせよう……。
 なんだ、その目は? 何もしないからとっとと下がれ! エリカめ、大分クローディアに絆されたようだな。しかし、気持ちはよく分かるぞ。



「どうして私の名前を? 初めてお会いしますよね?」

 やはり覚えていなかった……。これしきで負けるか。

 俺は咄嗟に伯爵家においてくれとクローディアに頼んでいた。けして嘘はついていない。
 ロシスター侯爵家のことと、エリカのことを話していないだけだ。侯爵家の三男が使用人として使ってくれと正直に話しても、クローディアは首を縦に振ってはくれないだろうからな。

 ――ヤバい。承諾してくれて舞い上がりそうだ。
ここまでくるのに、六年もかかった。これからはいつでも側にいられる……。

 ――こうして、俺のハイド伯爵領での家令生活が始まったのだ――
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