嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第1章 黒領主の婚約者

10 暗中飛躍

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 ここは違法ラインギリギリ、かろうじて合法の賭博場――今日も葉巻の煙がたゆたう中、自称紳士の男たちが賭け事に耽っている。

「あっ! キタキタキタ! ロイヤルストレートフラーーッシュ!! アハハッ。今日はついているなぁ!」
「これで今まで負け込んだ分を、取り返せたんじゃあないか?」
「良かったなぁ。もう預けてた貯金の利息も取り戻せたかい?」

「うるさい奴等だなあ! 私はここで先行投資していただけだ!」

 周囲の男たちに妬まれもせず、からかわれているこの男――負け続けるくせに、ムキになって一向に引かないことで有名になった、サディアス・オルディオだ。
 彼は今日、人生で最高にツイテいた。ただし、過去形だ。これから彼には悲劇が訪れるのだから……。



「おい、あれってケネス・マクラウドじゃないか?」
「あの有名なマクラウド侯爵家の跡取りか」
「ああ。いつも女と一緒だから、こんな所に来るなんてめずらしいな」
「連れもいるから、女の方は休みなんだろう?」

 男を連れて賭場に来ていたケネス・マクラウドと呼ばれる人物が、警戒心を抱かせない温厚な笑みを浮かべ、サディアスに声をかけた。

「へぇー。君すごいねー。もう帰るならどう? 奢るからそこのパブで、俺たちにコツでも教えてくれよ? ここには俺もだいぶ投資しちゃっててさー」
「ははは。いいね。私が投資先の見極め方を教えてやるよ!」


 ***


 鼻息荒くふんぞり返って得意がるサディアスを連れ、ケネスたちが賭場の近くにあるパブに入って一時間ほどが経過した――

 ほろ酔いで気持ちがさらに大きくなり、サディアスがペラペラと喋り倒しているが、ケネスとその連れは愛想良く話しを聞いている。

「そんなに負けていたのに、よくお金が続いたねー。何? もしかして高貴な未亡人でも引っかけてるの?」
「違う、違う。婚約者の家の家令が、金を送ってくれたのだ。婿に入るとはいえ、当主の夫になって実質権限を握る私に、あらかじめ取り入ろうとしていたのだろう」

 饒舌になったサディアスは何でも話す。

「へぇー。それはとっても羨ましい話だねー」
「しかし、その家令が辞めてしまったから、近頃軍資金が入らなくなってな。でも、今日の大勝ちで取り戻したから、やはり私は持った男だ!」

「そうだな。話しが早く済みそうで助かる」

 ケネスの連れの男が立ち上がり、頭に被っていた茶色いカツラを取る。サラリと金色の髪が流れ落ちた。

「へ? おっ、お前はクローディアの隣にいた使用人!?」
「本当に勝てて良かったな。こっちとしても、お前が全部すったままだったら面倒だった」

 形の良い口元に弧を描いているが、黄金の目は笑っていない。

「こいつは俺の親友でね、ユージーン・ロシスターっていうんだよ。ちなみに俺の姓はマクラウドね」
「ロシスター侯爵家とマクラウド侯爵家!?」

 動転するサディアスの顔色が、見る見るうちに悪くなってゆく。

「阿呆でも俺らの家を知っているのか。まあいい。さあ、ハイド伯爵領の金を返してもらおうか?」
「な、なにを言っている! これは私がもらったお金だぞ!?」

「ヘイデンが横領の罪で捕まったことくらい、阿呆でも知っていただろう?」
「し、知らない。私はヘイデンなんて知らない」

「君さー。大人しく、渡した方が良いと思うよ? その家令が横領していたのを知ってて、賭博に使ったんだよね? 返さなかったら君も捕まるよ?」

 明らかに動揺するサディアスに、ケネスが人好きのする笑みを向けながら追い打ちをかけていく。

「あとさ、周りは全員憲兵だからね。君を捕まえようとしてるんだけど、金を返せそうだから動かないだけ」
「利子なしで充分楽しんだんだ、温情を与えられているうちにさっさと出せ。とっとと渡さないとキッチリ利子をつけるぞ?」

 キョロキョロと周囲を見回し、やっと観念したのか、サディアスは持っていた800万イェンと記載された小切手を、渋々ユージーンに渡した。

「まだ200万イェン足りんな。お前、成人してんだろ? だから賭場にいたんだよな? チャラにしてやるから、ほら、これにサインしろ。クローディアとの婚約解消届だ」
「いっ、嫌だ。サインしたくない!」

「だーかーらー。書いた方が良いんだって。学習能力がないの? 200万イェンをチャラにしてくれるって言ってるんだよ? それとも罪を償いに行く?」

 憲兵がスッと立ち上がる。類は友を呼ぶのだろう。ユージーンの親友、優男で色男のケネス・マクラウドは容赦のない男だ。
 身分や権力は、使えるなら大いに使う。マクラウド家は兵団長を輩出してきた家柄だ。

 腹黒い二匹の蛇に睨まれ、冷や汗でテカテカのガマガエルのようになったサディアスは、とうとう観念した。

「か……、書きます……」

 解消を申し出たハイド伯爵側から200万イェンが支払われ? 無事、クローディアとサディアスの婚約は解消された。


 ***


「本当にとんだ小者だったねー。ああ面白かった! 久しぶりに天使が悪魔になるところも見られたしね」
「それはお互い様だろ? ……。ま、色々と世話になったな、ケネス」

「いーよ。その代わり、今度クローディアちゃんを紹介してね。って、まだ素性を明かしてないんだっけ? 面倒なことしてるよねー。婚約解消もできたし、早く名乗ればいいんじゃない?」

「……。まだダメだ」
「ふぅーん。俺には理解できないね。また伯爵領に戻るんだろ? 次王都に来たら、今度こそゆっくり飲もうよ」

 飄々としたマクラウド侯爵家の跡取りは、足取り軽く夜の街に消えて行った。

「ふっ。女か。さて、俺も今日まではタウンハウスに滞在して、父と兄たちに胡麻でもすっておくか」

 婚約が解消されたことをクローディアに伝えた時、どんな顔を彼女はするだろう?
 空に浮かんだ月を見上げ、ユージーンは愛おしそうに目を細めた――
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