嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第2章 黒領主の旦那様

23 疑念は確信へ

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 次の日も、またその次の日も、レイラ様はコテージへ通ってくれた。
 レイラ様は普段温厚な方だが、魔法を使う場面になると、厳しい師匠に変わる。

「クローディアちゃん! 集中して! そのままだと魔力を無駄に垂れ流す事になるわよ!」

「何度言わせれば分かるの! 呪文を省こうなんて千年早いわ! 一言一句しっかり覚えて!」

「ちーがーうー!! それは視界を奪う呪文ー!!」

 魔力の流れに集中しながら呪文を唱えようとすると、どちらかがおろそかになる。レイラ様からの強烈な鼓舞を何度も受け、必死に呪文を唱え続けた。

 御付きのコンラッドさんは涼しい顔で見ていられるようだけど、私もユージーンも、あまりのレイラ様のギャップに衝撃を隠せない。
 鬼気迫るレイラ様を前に、気を抜く事などできず、限界まで魔力を使っていたみたい。

 足に力が入らなくなり、片膝をついてしまった。

「ごめんなさい。無理をさせ過ぎたわね。少し休憩にしましょうか?」

 再び穏やかな笑みを浮かべ、温厚なレイラ様に戻った。甲斐甲斐しく私の手をとり、椅子に座らせてくれる。その後は手ずからお茶を淹れてくれた。

「まさに飴と鞭だな」

 ユージーンの呟きは私にだけ聞こえる。表情に出さず、心の中では大いに賛同する。

 休憩時間には、私の私生活の事も心配してくれているみたいで、話題は多岐にのぼった。

「クローディアちゃんは、どうしてユージーン君と婚約する事に決めたの?」
「えっと……。ユージーンは、私がピンチになった時、いつも助けてくれたんです」

 何から話していいのか分からず、常日頃思っている事を素直に言葉にした。

「まあ! そんなに何度も危険な目に遭ってきたの?」
「ええと……。父が亡くなって、叔父一家が私の後見人として家にやってきたのですが――」

 私はかいつまんで、叔父夫妻に毒殺されかけていた事、家令に横領されていた事、叔父にあてがわれた婚約者が婚約破棄をしてくれなかった事などを話した。
 詳細をたずねられ、聞かされる人も気分の良い話ではないから申し訳なくなりつつも、レイラ様が繰り出す親身な相づちに、一通りをお聞かせしていた。

「あの……。レイラ様……?」
「うっ」

 語り終えてレイラ様を見ると、麗しい瞳からは大粒の涙が溢れ出していた。

「すみません。辛気臭い話をしてしまって! 泣かないでください、レイラ様! 私はユージーンのお陰で命拾いをし、今こうしてレイラ様に師事しているのですから……」
「嫌だわ、私ったら……。年を重ねると涙腺が弱くなってしまうのよ……。……もうこんな時間になっていたのね……。続きは明日にしましょうか?」

「はい。本日もありがとうございました。おやすみなさい。レイラ様、コンラッドさん」

 相変わらずコンラッドさんは「フン」と鼻だけで返答し、視線も合わせてくれなかったが、レイラ様の肩はずっと小刻みに震えていた。

「嫌な話をしてしまったよね……」
「レイラ様がクローディアの過去を受け止めようとしてくれたんだ。それはレイラ様が決めたことだから、気にせずいいんだよ……。遠慮しすぎれば、レイラ様の強さを信じないことになる」

「うん……。そのとおりだわ」

 それでもひと様に聞かせる話ではないと、その晩は自己嫌悪に陥った。私はお優しいレイラ様に甘えているのだろう。
 話し易いからと言って、身に起きた不幸をペラペラ喋るなんて……。そんな考えに苛まれながら、魔力を使った私はグッスリと深い眠りについていた。


 ***


 俺の疑念は確信に変わった。あまりにも二人は似すぎているんだ……。レイラ様はクローディアの母親だ。間違いない。
 昔、父が言っていた。クローディアの母親は『遠い異国のお姫様で、国に帰っている』と……。

 俺は気づかれないようにクローディアを先に浴室にやり、レイラ様の後を追った。




「お待ちください、レイラ様。泣く時のお顔がクローディアと一緒です。涙を流さないようにと無理をするのか、わざと目を見開いてから上を向く。そしてその後、その感情をも受け止めるよう胸一杯に息を吸う」

 レイラ様の細い肩がわずかにヒクつく。それでも愛した人と同じ黒い瞳は、俺をしっかり捉えていた。

「――初めてお会いした時から似ているとは思っておりましたが……。貴女がクローディアの母君ですね?」

 突然身構えたコンラッドが俺に剣を向けてきた。動きが分かりやす過ぎて気にも留めなかったが。
 さらりと避けた俺に、コンラッドが忌々しげな顔つきで舌打ちをしやがった。

「お止めなさい! コンラッド! 彼はロシスターの騎士です。お前でも容易く敵わない実力者だと分かっているのでしょう?」
「クッ……。しかし、レイラ様……」

 それでも治まらないコンラッドを、レイラ様が嗜めた。

「コンラッド……。これ以上の発言は許さないわ」
「はい」

 心なしか縮こまったコンラッドに、未来の自分を重ねたくなったが、まだ早すぎるよな?
 気合いを入れ、おれはレイラ様に向き直った。

「クローディアだけに背負わせず、私もともに背負って行く所存です」
「そう……。ありがたいわ……。ユージーン君。今夜、私の思い出話を聞いてくれないかしら? あの娘が眠ったら、何時になってもかまわないから、公城に来て……」
「かしこまりました。それでは後ほど」

 公城ということは……。レイラ様が一人娘の公女か……。いや、代がわりをして、今の公は女性だったはず。ということは、レイラ様は……。

 レイラ様の顔が苦し気にしかめられている。俺は触れてはいけない場所をつついたのか?
 だが、クローディアが本当に穏やかに安心して生きていくためには、生い立ちを知る選択肢は必要だと自身にも言い聞かせる。
 辛い事が起きた時も、これからは俺がクローディアの心も守ってゆくのだ。

 一度コテージに戻り、寝息をたて始めたクローディアの額にキスを落とす。

「行ってくるよ。大丈夫、俺はいつまでも一緒だから」

 長く黒い睫毛が震えている。俺には計り知れない悲しみを抱えているクローディア。
 でも、その悲しみを軽くし続けることはできるはずなんだ――
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