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第2章 お付き合い編
20 祭りのあとの寂しさも、二人でいれば……
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「余計な動きはするなよ? 全員ここで大人しく見ていろ」
「「くっ」」
リアム様とディラン様が動けない今、カレンさんを助けられるのは私しかいませんね! ようし!
「私がカレンさんを――」
『俺を忘れるなよ?』
「カイさん!」
なんと、カイさんが野良猫の軍勢を連れて来てくれました。
『人混みも猫には関係ない。屋根移動できるからな。ま、祭りでたくさんエサにありつけるのを、騒ぎで邪魔されちゃかなわんから来たまでだ』
「カイさん……。男前過ぎます……」
『俺はメスだぞ? とにかく、まずはあの女を解放すればいいんだな?』
そう言ってカイさんは仲間を引き連れ、コッソリと忍び足で黒装束の男の背後に回りました。
その間にもバイコーンさんは暴れまわり、建造物が破壊されようとしています。
ディラン様の張った結界は、どこまでもつのでしょうか? それに、土壁を越えていつ、リアム様とディラン様の方へ向かうかヒヤヒヤです。
なんとか今はお二人の方に、バイコーンさんは辿り着けないようですが。
歯噛みするお二人を、余裕綽々で眺めていた黒装束の男ですが、すでに野良猫軍団が周囲を取り囲んでいますよ?
『者共、かかれ!』
「「シャー」」
「なんだこいつら!? このっ! やめろ! くそっ!!」
黒装束の男が野良猫さんたちの一斉攻撃に気を取られた隙に、カレンさんが男から距離を取りました。
男は魔法使いのようです。野良猫さんたちに向かって、魔法を放とうとしています。
しかし、カレンさんがそれを許しません。
「させないんだからっ!」
カレンさんの手元からシュルシュルと蔦が伸び、男に巻きつこうとします。
その間、リアム様が強化された腕力でバイコーンさんに剣の鞘ごと一撃を加え、追加で手刀を叩き込み、とうとうバイコーンさんは白目を剥いて倒れました。
カレンさんの方へ応援に駆けつけたディラン様が、黒装束の男を結界に閉じ込めます。
これでもう黒装束の男は、魔法を使うことができないようです。
「終わったな……。カイ殿、来てくれたのか」
「ニャ」
「カレンさん、無事で良かった。貴女が敵の動きを鈍らせてくれたお陰で、こうして逃がさず捕らえることができました」
「えへへ。こちらこそ、駆けつけてくれてありがとうございました」
良かった……。みなさん無事です。バイコーンさんも、気を失っただけで済みました。
こうして、王都全体を巻き込まんとした事件に、終止符が打たれました。
『ああ、腹へったなあ。人気がないうちに、食えるもん探して食っちまうぞ!』
「「ニャー」」
そう言ってカイさんは、野良猫さんたちを引き連れ、男前に去って行きました。
一部、首輪をした子も混じっているような気もしましたが、きっと気のせいでしょう。
「ゾイか。カレンさんと私二人がかりで捕らえなければならないくらいの力に納得しましたよ」
「……。一人では俺に勝てないくせに……。この若造が……」
「お前こそ人質をとった卑怯者だろう。その若造に追い抜かれ、隊長の座を奪われた、己の能力のなさを省みろ」
取り押さえた男の覆面を剥がすと、一昨日『天使のはしご』で話題になった、厄介な人認定の魔法師団副隊長ゾイさんだったようです。
「馬鹿な奴だな。真面目に働いていれば、そのうち昇進できたものを。欲を出すからすべてを失うんだ」
「その時には、リアムさんが騎士団長で、私が魔法師団長になっていますがね」
ディラン様も、なかなか辛口で容赦のない方ですね。
「「隊長ー」」
「遅い!」
「「隊長ー」」
「あなたたち、遅過ぎますよ」
騎士団と魔法師団のみなさんが、ちょっと遅れてやって来ました。
あ、これは……。怒られるコースですね。
「お前たちには騎士として、まだまだ脚力が足りないようだな! 現場に来るのに何分かかっている! その二本の足はお飾りか!!」
「どうして私のバイコーンが奪われたことに、誰一人気づかなかったのでしょうか? 不思議ですね。まさか、副隊長側に造反していたのですか?」
ガミガミとチクチクで、叱り方にも各隊長の性格が表れていますね。
誰よりも高い身長で騎士様たちを見下ろし、腰に手を当て、大きな声で真っ直ぐ叱るリアム様。
かたや、頬に片手を添えて、首をかしげるようにし、微笑みをたたえながら静かに叱るディラン様。
お可哀想に、団員のみなさん真っ青です。
隊長たちがお怒りのまま、他に事件を起こしていないか、ゾイさんへの追及がはじまりました。
ゾイさんは、ディラン様の監督不行届での降格を狙い、バイコーンに興奮剤を与えて、わざと逃がしたと自白しました。
周囲を騎士団と魔法師団の皆様が取り囲み、防音魔法をかけ、リアム様とディラン様が自白させましたが、その自白させる方法がやっぱり怖そうです。
そんなにあっさりと吐いてしまうなんて……。防音と目隠しをした中で、一体なにが行われたのでしょうか?
拷も――お役目を終え、リアム様が私のところへ戻って来ました。
「魔法師団の方は、なぜか権力欲が強い奴が多くてな。早く昇進したい気持ちは分からんでもないが、ディランが若いからか、隊長の座を狙う奴が多い」
「男性の世界も大変ですね。ただ、魔法師団の方々の、権力欲が強いというわけではないと思いますよ」
リアム様は、鬼軍曹ならぬ鬼隊長なのでしょう。誰もリアム様から隊長の座を奪おうと思えないだけでは?
まあ、ディラン様も一見お優しそうですが、歯向かわない方がいいと思います。
それさえも気づかなくなる程、権力というものに目がくらむのでしょうか?
私もそうですが、女性は結婚に対しての想いが強いですよね。でも、難敵は外野かもしれません。
相手の男性は、どれくらいいい仕事についている人なのか、容姿は格好いいのか。
根掘り葉掘り聞かれる結婚相手のスペックが、その人の価値を決めるかのようです。
同じように男性は、仕事上での地位に縛られてしまう人が多いのでしょうか。
高い地位にあれば、人脈も広がり、お金もより多く稼げ、いい女が寄ってくる。
出世欲や権力欲が悪いとは思いません。
むしろ、上手くお付き合いすれば、甲斐性あるいい男に変貌できるかもしれません。
しかし、人を妬み、嫉み、負の感情に囚われてしまうのは如何なものでしょうか? それらが成長に繋がるのはいいですが、他人様を蹴落とし、傷つけてまで欲した後に、一体なにが残るのというのでしょうか? 醜い自分ですか?
そんな時間があるのなら、自分や大切な物事に時を費やせばいいのにと、私は思います。
あくまでも他人は他人。その人がどうあれ、自分の幸せに、これっぽっちも関係ありませんからね。
私がそんなことを考えているうちに、事件の後処理が終わったようです。
「俺たちは、協力してくれたこの方たちを送り届けなくてはならない。連行するのにヘマはするなよ」
「「はいっ」」
帰路につく人々の流れに乗り、リアム様と私は、かろうじて開いていた酒屋さんでお酒を買って、『天使のはしご』へと戻って来ました。
「せっかくの祭だったのにな……。あまり見ることができなかったし、なんだか寂しく感じるな……」
「私はこうしてリアム様と過ごせ、とてもいいお祭りになりましたよ。日本には花火と言うものがありました――」
“汗ばむ身体。下駄で痛む足。浴衣の帯は少し苦しいけれど、背筋がシャンと伸びるよう――
身体に響く花火がうち上がる音、花開き、流れ落ちる儚い花火、火薬の匂い――
祭りの後の静けさに、切なくなり、虚脱感と寂しさを感じながら帰路に着く――”
あの切ない感情を抱くのは、前世でも今世でも変わりありませんでした。
日常を取り戻そうとする心理的な作用は、魔法がある世界でも同じなのですね。
でも、リアム様といると、その切なさも感じますが、一緒に過ごせることへの幸せも感じます。
あと何年、こうして一緒にお祭りの日を迎えられるのでしょう……。
いいえ、ずっとこうして一緒に過ごせるように、お互いに想い合って、関係性を大切にする努力をして生きてゆけばいいのでしょう。
私はそのままの気持ちをリアム様に伝えます。
私たちは、当然他人同士です。同じ心を共有できるわけではありません。
ですが、少しでもリアム様とユニゾンしたいのです。
「大きな音と共に空に上がった色鮮やかな火の花々は、一瞬で儚く消えます。花火が終わり、バカ騒ぎをしていた人々も、寂しさと疲労感に包まれ、どこか切ない気持ちで家路につくのです」
「まるで今の俺みたいだな……。また来年もあるとは思えど、無性に心が寂しさを感じる」
多分、そんな繊細なリアム様だからこそ、私はどんどん好きになっていくのです。
そして、大好きなリアム様は続きを話してくれました。
「だがな、切なくならないように、これからどこへでも何度でも、一緒に行こう。二人から始めて、そのうち子どもが生まれて賑やかになって、ゆっくり二人で過ごせるのも今のうちだけだと思えば、切ないなんて感じている暇はないだろう?」
「えっ。そ、それって……」
まだ結婚どころか、キスさえもしていないのに、子どもだなんて……。
人生経験四十年。それでも目が泳いでしまいます。
私がユニゾンしたい気持ちを、先に言われてしまいましたね。
「あ……、すまん。先走りすぎたな。いずれセルマとそうなりたいとは思っているが、今は、まだまだセルマと二人だけの時間が大切だ」
もっともっとと思う気持ちは私も同じです。リアム様とお付き合いして三ヶ月弱。
私たちの時間はまだまだたくさんあるのです。
だって、今世での私は、巻き込まれない力を神様にいただきましたから――
「いらっしゃいませ」
魔法雑貨屋『天使のはしご』に、今日もわけありっぽいお客さんがやって来ました――
「「くっ」」
リアム様とディラン様が動けない今、カレンさんを助けられるのは私しかいませんね! ようし!
「私がカレンさんを――」
『俺を忘れるなよ?』
「カイさん!」
なんと、カイさんが野良猫の軍勢を連れて来てくれました。
『人混みも猫には関係ない。屋根移動できるからな。ま、祭りでたくさんエサにありつけるのを、騒ぎで邪魔されちゃかなわんから来たまでだ』
「カイさん……。男前過ぎます……」
『俺はメスだぞ? とにかく、まずはあの女を解放すればいいんだな?』
そう言ってカイさんは仲間を引き連れ、コッソリと忍び足で黒装束の男の背後に回りました。
その間にもバイコーンさんは暴れまわり、建造物が破壊されようとしています。
ディラン様の張った結界は、どこまでもつのでしょうか? それに、土壁を越えていつ、リアム様とディラン様の方へ向かうかヒヤヒヤです。
なんとか今はお二人の方に、バイコーンさんは辿り着けないようですが。
歯噛みするお二人を、余裕綽々で眺めていた黒装束の男ですが、すでに野良猫軍団が周囲を取り囲んでいますよ?
『者共、かかれ!』
「「シャー」」
「なんだこいつら!? このっ! やめろ! くそっ!!」
黒装束の男が野良猫さんたちの一斉攻撃に気を取られた隙に、カレンさんが男から距離を取りました。
男は魔法使いのようです。野良猫さんたちに向かって、魔法を放とうとしています。
しかし、カレンさんがそれを許しません。
「させないんだからっ!」
カレンさんの手元からシュルシュルと蔦が伸び、男に巻きつこうとします。
その間、リアム様が強化された腕力でバイコーンさんに剣の鞘ごと一撃を加え、追加で手刀を叩き込み、とうとうバイコーンさんは白目を剥いて倒れました。
カレンさんの方へ応援に駆けつけたディラン様が、黒装束の男を結界に閉じ込めます。
これでもう黒装束の男は、魔法を使うことができないようです。
「終わったな……。カイ殿、来てくれたのか」
「ニャ」
「カレンさん、無事で良かった。貴女が敵の動きを鈍らせてくれたお陰で、こうして逃がさず捕らえることができました」
「えへへ。こちらこそ、駆けつけてくれてありがとうございました」
良かった……。みなさん無事です。バイコーンさんも、気を失っただけで済みました。
こうして、王都全体を巻き込まんとした事件に、終止符が打たれました。
『ああ、腹へったなあ。人気がないうちに、食えるもん探して食っちまうぞ!』
「「ニャー」」
そう言ってカイさんは、野良猫さんたちを引き連れ、男前に去って行きました。
一部、首輪をした子も混じっているような気もしましたが、きっと気のせいでしょう。
「ゾイか。カレンさんと私二人がかりで捕らえなければならないくらいの力に納得しましたよ」
「……。一人では俺に勝てないくせに……。この若造が……」
「お前こそ人質をとった卑怯者だろう。その若造に追い抜かれ、隊長の座を奪われた、己の能力のなさを省みろ」
取り押さえた男の覆面を剥がすと、一昨日『天使のはしご』で話題になった、厄介な人認定の魔法師団副隊長ゾイさんだったようです。
「馬鹿な奴だな。真面目に働いていれば、そのうち昇進できたものを。欲を出すからすべてを失うんだ」
「その時には、リアムさんが騎士団長で、私が魔法師団長になっていますがね」
ディラン様も、なかなか辛口で容赦のない方ですね。
「「隊長ー」」
「遅い!」
「「隊長ー」」
「あなたたち、遅過ぎますよ」
騎士団と魔法師団のみなさんが、ちょっと遅れてやって来ました。
あ、これは……。怒られるコースですね。
「お前たちには騎士として、まだまだ脚力が足りないようだな! 現場に来るのに何分かかっている! その二本の足はお飾りか!!」
「どうして私のバイコーンが奪われたことに、誰一人気づかなかったのでしょうか? 不思議ですね。まさか、副隊長側に造反していたのですか?」
ガミガミとチクチクで、叱り方にも各隊長の性格が表れていますね。
誰よりも高い身長で騎士様たちを見下ろし、腰に手を当て、大きな声で真っ直ぐ叱るリアム様。
かたや、頬に片手を添えて、首をかしげるようにし、微笑みをたたえながら静かに叱るディラン様。
お可哀想に、団員のみなさん真っ青です。
隊長たちがお怒りのまま、他に事件を起こしていないか、ゾイさんへの追及がはじまりました。
ゾイさんは、ディラン様の監督不行届での降格を狙い、バイコーンに興奮剤を与えて、わざと逃がしたと自白しました。
周囲を騎士団と魔法師団の皆様が取り囲み、防音魔法をかけ、リアム様とディラン様が自白させましたが、その自白させる方法がやっぱり怖そうです。
そんなにあっさりと吐いてしまうなんて……。防音と目隠しをした中で、一体なにが行われたのでしょうか?
拷も――お役目を終え、リアム様が私のところへ戻って来ました。
「魔法師団の方は、なぜか権力欲が強い奴が多くてな。早く昇進したい気持ちは分からんでもないが、ディランが若いからか、隊長の座を狙う奴が多い」
「男性の世界も大変ですね。ただ、魔法師団の方々の、権力欲が強いというわけではないと思いますよ」
リアム様は、鬼軍曹ならぬ鬼隊長なのでしょう。誰もリアム様から隊長の座を奪おうと思えないだけでは?
まあ、ディラン様も一見お優しそうですが、歯向かわない方がいいと思います。
それさえも気づかなくなる程、権力というものに目がくらむのでしょうか?
私もそうですが、女性は結婚に対しての想いが強いですよね。でも、難敵は外野かもしれません。
相手の男性は、どれくらいいい仕事についている人なのか、容姿は格好いいのか。
根掘り葉掘り聞かれる結婚相手のスペックが、その人の価値を決めるかのようです。
同じように男性は、仕事上での地位に縛られてしまう人が多いのでしょうか。
高い地位にあれば、人脈も広がり、お金もより多く稼げ、いい女が寄ってくる。
出世欲や権力欲が悪いとは思いません。
むしろ、上手くお付き合いすれば、甲斐性あるいい男に変貌できるかもしれません。
しかし、人を妬み、嫉み、負の感情に囚われてしまうのは如何なものでしょうか? それらが成長に繋がるのはいいですが、他人様を蹴落とし、傷つけてまで欲した後に、一体なにが残るのというのでしょうか? 醜い自分ですか?
そんな時間があるのなら、自分や大切な物事に時を費やせばいいのにと、私は思います。
あくまでも他人は他人。その人がどうあれ、自分の幸せに、これっぽっちも関係ありませんからね。
私がそんなことを考えているうちに、事件の後処理が終わったようです。
「俺たちは、協力してくれたこの方たちを送り届けなくてはならない。連行するのにヘマはするなよ」
「「はいっ」」
帰路につく人々の流れに乗り、リアム様と私は、かろうじて開いていた酒屋さんでお酒を買って、『天使のはしご』へと戻って来ました。
「せっかくの祭だったのにな……。あまり見ることができなかったし、なんだか寂しく感じるな……」
「私はこうしてリアム様と過ごせ、とてもいいお祭りになりましたよ。日本には花火と言うものがありました――」
“汗ばむ身体。下駄で痛む足。浴衣の帯は少し苦しいけれど、背筋がシャンと伸びるよう――
身体に響く花火がうち上がる音、花開き、流れ落ちる儚い花火、火薬の匂い――
祭りの後の静けさに、切なくなり、虚脱感と寂しさを感じながら帰路に着く――”
あの切ない感情を抱くのは、前世でも今世でも変わりありませんでした。
日常を取り戻そうとする心理的な作用は、魔法がある世界でも同じなのですね。
でも、リアム様といると、その切なさも感じますが、一緒に過ごせることへの幸せも感じます。
あと何年、こうして一緒にお祭りの日を迎えられるのでしょう……。
いいえ、ずっとこうして一緒に過ごせるように、お互いに想い合って、関係性を大切にする努力をして生きてゆけばいいのでしょう。
私はそのままの気持ちをリアム様に伝えます。
私たちは、当然他人同士です。同じ心を共有できるわけではありません。
ですが、少しでもリアム様とユニゾンしたいのです。
「大きな音と共に空に上がった色鮮やかな火の花々は、一瞬で儚く消えます。花火が終わり、バカ騒ぎをしていた人々も、寂しさと疲労感に包まれ、どこか切ない気持ちで家路につくのです」
「まるで今の俺みたいだな……。また来年もあるとは思えど、無性に心が寂しさを感じる」
多分、そんな繊細なリアム様だからこそ、私はどんどん好きになっていくのです。
そして、大好きなリアム様は続きを話してくれました。
「だがな、切なくならないように、これからどこへでも何度でも、一緒に行こう。二人から始めて、そのうち子どもが生まれて賑やかになって、ゆっくり二人で過ごせるのも今のうちだけだと思えば、切ないなんて感じている暇はないだろう?」
「えっ。そ、それって……」
まだ結婚どころか、キスさえもしていないのに、子どもだなんて……。
人生経験四十年。それでも目が泳いでしまいます。
私がユニゾンしたい気持ちを、先に言われてしまいましたね。
「あ……、すまん。先走りすぎたな。いずれセルマとそうなりたいとは思っているが、今は、まだまだセルマと二人だけの時間が大切だ」
もっともっとと思う気持ちは私も同じです。リアム様とお付き合いして三ヶ月弱。
私たちの時間はまだまだたくさんあるのです。
だって、今世での私は、巻き込まれない力を神様にいただきましたから――
「いらっしゃいませ」
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