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第3章 深まる愛編

24 カレンの恋、再び 前

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 助けてと、頼られると断れないお人好し。でも、甘えられるものには、遠慮なく甘えるちゃっかりさん。
 そして、愛くるしい見た目に反し、鋼のメンタルを持っている。

 私、カレンが最近友達になったは、こんな感じだ。商魂たくましい商売人でもある。
 自分のことに無頓着なのか、あまり自分語りをしなくて謎が多いところも興味をそそる。


 彼女の名はセルマ。王都にある魔法雑貨屋『天使のはしご』を経営している。

 私が魔法師団のディラン様に一目惚れして、無理矢理お祭りを見に行く約束を取りつけたにも関わらず、なにも言わず乗ってくれた。
 お祭りの日は、お店を開けたかったのかもしれないのに……。

『お祭りの時は無茶言ってごめんね』
『私がそちらの方が楽しいと思って判断したのですから、気にしないでください! リアム様とも良い思い出ができたのですよ』

 でも、商売人として心配になるかといえば、そうでもない。
 『ダルマ』なる商品を流行らせ、赤一色の展開だった物を、ピンクや黄色と次々作ってガンガン儲けている。

 天使の輪を綺麗にのせた肩までのふわふわとした亜麻色の髪に、お人形さんのような可愛い系の整った顔立ちから、ただの癒し系女子と誤解している人も多いはず。
 小粒な体は本人曰く、おじいさんより体力がないらしい。

 でも、酒は浴びるように飲むし、ヤバイ時にもまったく動じないし、達観したような言動もあって、普通の女子とは思えない。
 まあ、見た目とのギャップも、珍味のように癖になるのかも……。

 それと、なぜか野良猫軍団と仲が良いらしい。
 先日も、猫たちがセルマの元に駆けつけ、私も助けられた。

『あの猫軍団って、セルマの知り合い猫なの?』
『親分のカイさんと、仲良くなっただけですよ』

 こんな感じで躱された。最初は私もセルマがおっとりしたタイプかと思っていたが、ちょっと違うことが付き合い出して分かってきたのだ。

(セルマには絶対秘密がある!)




 それとなーく、街中でリアム隊長の彼女の話題に耳をそば立てた。 

 王都の職人組合の会長は語る――

「いやあ、お客さん思いで親切な方です。私の頑固者師匠が、説明も聞かずに商品を買った時なんか、わざわざ追いかけて来てくれたんですよ。今や仲睦まじい姿で有名な騎士隊長さんとセルマさんですが、お付き合いする前の初々しいお二人を知ってることが、私のちょっとした自慢です」

 あどけなさの残る見習い騎士はこう言った――

「セルマさんですか? 僕――あ、お、俺の憧れの姉貴分なんです! リアム隊長がセルマさんを泣かせた時は、絶対俺が隊長を懲らしめます! まだ見習い騎士ですけど、ワンチャンあるかもしれないですからね!」

 小さな女の子連れのママさんは――

「娘が柄の悪い男の人に絡まれた時、あの小さな体で男に向かって行ってくれたんです。私が怖くて震えるばかりだったのに……。すごく勇気があるお嬢さんですよね。さすがは隊長が選んだ方です」

 若い女の子たちははしゃぎながら――

「あたし、助けてもらったことがあるのよ。痴漢に遭って泣いていた時、二人が来てくれたの。生隊長さんもカッコよかったし、彼女さんもすごく可愛かった~。いつかあんなラブラブなお付き合いがしてみたいなぁ~。憧れるよねぇ~」

 とある少女は嬉しそうに――

「私ね、雑貨屋のお姉ちゃんにすごいことを教えてもらったんだ。ん? なにかは、お姉ちゃんと私の秘密だよ。あ、おばあちゃんとお父さんが来たから行くね!」

 こんな感じで、セルマは街の皆から愛されている。
 彼氏のリアム様との手繋ぎ姿で一躍時の人となったけど、王都の花形騎士隊長リアム様とセルマ自身の日頃の行いで、成るべくしてなった話題の二人って感じ。

(至るところで噂は聞くけれど、セルマの話題は人助けばかりね……。リアム様と幸せそうにしてるからいいけれど、お人好しすぎてなんだか心配……)




 そんなセルマに、今日は恋の相談をしようと思う。
 いつ切り出そうかって迷っていたけれど、彼女はいつでも迎え入れてくれるのだろう。本当、お人好しだ。

 彼女が経営する魔法雑貨屋『天使のはしご』には、いつも穏やかな時間が流れている。

「セルマー。来たよー!」


 私が恋したお相手はこちらも花形、魔法師団王都部隊長ディラン様だ。
 魔女科に通う子たち、いや、魔法学校に通う生徒たちで、憧れない人はいないってくらいすごい魔法使いだ。

 私が通う上級魔法学校のOBで、先生とデモ対決をしてぶっ飛ばしたとか、ヤンチャな先輩たちに絡まれたけれど、指先一つでダウンさせたとか、今も様々な伝説が語り継がれている。

 リアム様は堅実に隊長まで登り詰めたお方だけど、ディラン様は二十五歳にして周りの並みいる魔法師を追い抜き、その才能で上級魔法学校を卒業して間もなく隊長になったお方だ。

 あまりのすごさに、『その容姿は見た者を魅了し、石化させるほど格好いい』とか、『美しい容姿は偽りで、実体はガリガリの不細工』やらと噂が飛び交っていたが、まさか、あんなに素敵な人だったなんて……。
 魔法使いとしても憧れの人がドストライクで、しかも一緒にお祭りを見に行けたなんて、幸福の絶頂過ぎで死にそうだった。


 あの日の帰り、ディラン様に家まで送ってもらって、魔法のことや噂の真相について話しができた。

 先生との対決でぶっ飛ばしたとか、先輩たちをダウンさせたとかは本当だったらしい。
 魅了して石化させるっていうのも、『なぜか私を見た人が固まるので、そんな噂になったようです』と、言っていた。

『ガリガリの不細工ですか……。手厳しいですが、本当ですからね……』

 って? だから、思わず言っちゃったよ。

『それは、あまりにも端麗な容姿に度胆を抜かれただけですし、素敵過ぎるディラン様への妬みで、ワザと悪い嘘を流した奴でもいたんですよ!』
『えっ!? あ、ありがとうございます。カレンさんにそう言ってもらえると、気遣いでも嬉しいですね』

 ですって! キュンキュンしちゃたよー!

 共通の学べることがある関係性って、すごくいいかも。
 二十歳と二十五歳って、年齢的にもいい感じじゃない? ……て、思ったりするけど。
 でも、私はまだ学生の身分。相手は立派な社会人……。

 きっと大人だから、いいようにあしらわれているのかもね……。
 私の将来は決まっていない。魔法師団に入れる可能性もあるし、得意の占いで生計を立てるのも悪くはない。

 もちろん、王都部隊の魔法師だなんて、エリート魔法使いが目指すような職業だし、ディラン様に近づけるかもしれないから、すごく惹かれるよ。
 でも、上司と部下って、関係が複雑になっちゃうのかな?

 なんか色々考えてると、ゴチャゴチャしてきて考えがまとまらなくなる。
 早くセルマに会いたい……。学校終わりの時間なら、まだリアム様も任務中だし、セルマを独り占めできるもんね。

「ひゃあ! カレンさん! すみません、在庫の確認をしていたので気づくのが遅くなりました! お茶を淹れますから、一緒に休憩しましょう」

 やっぱりセルマは、ここ『天使のはしご』に優しく迎え入れてくれる。

「今、大丈夫だったー?」
「はい。一段落したので休もうと思っていました。いらっしゃいませ、カレンさん」

 おお。そう言いながらも、地味に小さく縮こまって、ダルマの整理をしていたな?
 って、青!? 新作?

「今度は青のダルマなの?」
「はい。学力向上や才能開花を願う方用なのです」

 この商魂のたくましいどん欲さには、目を見張っちゃうわね。
 いつものように店内にある椅子に座ると、セルマがお茶を出してくれた。
 フゥ~。紅茶も美味しいんだけど、セルマがわざわざ取り寄せているらしいこの緑色のお茶が、ホッとできて美味しいのよ。

 砂糖を入れようとしたら『知り合いで同じことをしていた人がいましたが、早死にしたので控えた方がいいと思いますよ?』と、言われた。
 可愛い顔してズバっと言うんだよね。そんなところも好感が持てた。

 ディラン様の件を話したら、どんな反応が返ってくるのかな……?

「ん? なによ、そんな小動物のようなつぶらな瞳でじっと見て。私になにかついてる?」
「いいえ。今日はどうされたのですか? なにか、お話したいネタでもありましたか?」

 そして、鋭いのよね。勿体振っていてもしょうがないし、とっととディラン様のこと相談しよう。

「この間の迎陽祭の帰りにさ、ディラン様と二人きりになれたじゃない?」
「はい。そのようでしたね」
「すごく有意義な時間だった。私に魔法のアドバイスをしてくれてさ――」

 私はセルマにあった事を話した。ディラン様は最後まで紳士的に私を送り届けてくれたこと。
 道中も魔法の話をして、終始、楽しくもタメになる時間を過ごせたこと。

 ディラン様を本気で好きになりかけていて、会いたくて、声が聞きたくて、切なくて、苦しいこと――

「また、恋魔力が暴発しそうなのですか?」
「さすがにまだ大丈夫よ。セルマの中の私のイメージって、どうなってるのよ!?」
「恋多き乙女ですかね」

 グウの音もでないわね。恋したばかりの今は、苦しくてもまだまだ楽しい時期。
 今後拗らせて、セルマが懸念するようなことにならないためにも、ディラン様とのことを少しずつでも進展させたい。

「進路で迷っているのよ。ディラン様は天才魔法師で、純粋に憧れているわ。私も魔女として、ディラン様のような魔法師になりたいと思う。でも、占いも得意だし大好きなの」
「はい。どちらも素晴らしい才能だと思います」

 んもう、もっと食いついてキャッキャウフフで話そうよ!
 でも、こんなセルマだから、話していて楽でいいんだよね。まったく疲れない。
 魔女科のみんなも楽しくて面白い子ばかりなんだけど、このセルマの独特な雰囲気が、心地よくて癒されるんだよね。
 あー。本当、癖になる。ここで生活したーい。

「でもさ、仕事上の憧れの人を男の人としても好きになるって、色々面倒になりそうじゃない?」
「そうですね。職場恋愛は上手く行っている時はいいですが、振られたり別れたりしたらキツイですよね」

 だよね。私もそう思う。って、まだまだ私のことも知ってもらえてないし、想いを伝えてすらいないのに、そんなことばかりを考えていても仕方ないんだけどさ……。
 でも……、色々と妄想しちゃうのよね……。

「想いがダダ漏れしちゃって、周りの団員に気を遣わせたり、両想いになったら任務よりディラン様を優先しちゃったり、お互い同じ時期に激務で疲れて果てて支え合えなくなったり――」
「う~ん。捕れる・・・狸の皮算用みたいな感じですかね……」

 ん? なんか聞いたことのない言葉ね?

「ねえ、『タヌキのカワザンヨウ』? それってなに?」
「まだ、狸という生き物を捕らえてもいないのに、その皮をどう益にしようか、あーでもないこうでもないと、計画を立てることを――」

 な、なにそれ……。私のディラン様への想いは、届くわけがないってこと? 考えるのも無駄だから、止めとけってこと?

「セルマ、酷い! どうしてそんなことを言うのよ!」
「ち、違います! カレンさん! 誤解なので――」



 まさかセルマに、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
 思わず私は勢いで、『天使のはしご』を飛び出してしまった――
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