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6話 愚かなバーバラと素晴らし女性のロレッタ

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魔王サタン視点

「くそ……せっかくいい肉体を見つけたのにな……」

 魔王サタンの魂はバーバラから抜け出すとフワフワと上空を漂っていた。しかしなんだロレッタという奴は? まさかあれほどの魔術師がいたとは想定外だ……

 我がもう一度人間どもを支配するにはロレッタを倒さなければならない。奴の存在は後に脅威となる。今のうちに消さなければ……そのためにも次の肉体を探さなければ……

 魔王の魂は衛兵に連行されていくバーバラをチラッと見ると路地裏に向かった。しばらく身を……魂を潜めるとしよう。ここなら誰もいない。そう思っていたのだが……

「シャァアアアア!!」

 突然、オッドアイの白猫が威嚇声を上げて飛びかかって来た。そして我に向かって渾身の猫パンチを繰り出す。

「おっと、危ない! やめろ今の我は魂なんだ! 丁重に扱え!」

 我は空中を泳ぐ様に逃げ出した。今の我は虫の息。猫であろうと油断は出来ん……

「にゃぁ………」

 猫はしょんぼりと肩を落とすと、悔しそうに小さな鳴き声をこぼした。



* * *

ロレッタ視点

「………知らない天井……」

 目を覚ますとそこは豪華な寝室だった。自分の家もそこそこ良いところだと思っていたけど、ここは桁違いだった。

 あれ? 私何をしていたっけ? 確か悪魔化したバーバラを倒して、怪我をした人を助けて、目眩がして倒れて……

 曖昧な記憶を思い出そうとしていると、ドアをノックする音と共に第二王子のクリフト様がやってきた。

「ロレッタ殿、よかった~ 目が覚められた様ですね」

「あっ、はい……あの……ここは一体?」

「王宮の医務室です。おそらく急激に魔力を失ったせいで意識が無くなったのだと思います。ちょっと失礼……」

 クリフト様は隣に来て膝を付くと、そっと私の頭を撫でてくれた。えっ、これはまさか……少女漫画でお馴染みな頭なでなでだよね!?

「大丈夫です。楽にしていて下さい」

「はっ、はい……」

 クリフト様の大きな手が私の頭を何度も優しく撫でる。そのたびに体の奥の方が熱くなってボォーっとしてくる。やばい……理性が飛びそう……

「どうかな? 今の気分は?」

「幸せです……」

 こんなにも満たされた気持ちになったのは初めてだった。なるほど……これが人肌の温もり。凄く良い!

「しっ、幸せ? えっと……今僕の魔力を分け与えたから目眩とか頭痛が治ったりしていないかな?」

 クリフト様はキョトンとした顔で首を傾げる。えっと魔力を分ける? 言われてみれば魔力が戻った様な……

「えっ、あっ、はい、とても楽になりました」
 
 もしかしてクリフト様は純粋に私の事を気遣っての行為だったのかな? それなのに私は何を期待していたのだろう? 

「そっか、それはよかった。でも顔が赤いですよ? 熱があるんじゃぁ……」

「こっ、これは違います。大丈夫です。それよりも……バーバラはどうなりましたか?」

 なんとなくバーバラが衛兵に連れて行かれるのは覚えている。彼女のした事は許せないけどあの様子は異様だった。

「彼女はロレッタ殿の命を狙い、住民と建物に危害を負わせた罪があるので牢屋に入れています。まぁ、二度と日の光を浴びる事はないでしょうね」

 日の光を浴びない? それって前世で言うところの無期懲役かな? 流石にやり過ぎな気がする……

「あの、彼女は私と同じクラスメイトなんです。それに悪い悪魔に取り憑かれた様子でした。何か事情があったんだと思います!」

「たとえ事情があったとしても許される行為ではありません」

「ですが、怪我をした人は私とカトリーヌで治癒しました。それに命は狙われましたがこうして生きています。だから罪を軽くしてあげられませんか?」

 クリフト様は私の発言に驚いたような……関心した様な表情で頷く。

「ロレッタ殿はお優しい方なのですね。分かりました。では僕の方から一度話をしてみます。メイドを残しておくので何かあったら何でも言って下さい」

「ありがとうございます!」

 クリフト様は最後にもう一度私の頭を撫でると、部屋を出て行った。



* * *

第二王子、クリフト視点

「では話を聞かせてもらおうか」

 クリフトは薄暗い牢屋に向かうと、バーバラが捕まっている牢屋の前で足を止めた。

「クリフト様? 第二王子のクリフト様ですよね! たとえ王子でもこんな事をして許されると思っているのですか!? 早く出して下さい!」

 出会って早々バーバラは敵意のこもった声で話を切り出した。

「君はロレッタ殿の命を狙い、一般市民と歴史ある建物に危害を負わせたんだよ? 反省はしているのかい?」

「反省? 何を言ってるの? 悪いのは全部ロレッタよ!」

 バーバラは肩を震わせると、子供の様に地団駄を踏んだ。

「きっとこれはロレッタが仕組んだ事なのよ。そうよ間違いないわ。そこら辺の令嬢とは違って私は公爵の一人娘なんだから、きっと羨ましかったよの」

 バーバラの言い分に、僕は思わず自分の耳を疑った。何を言ってるんだこの人は? 自分で暴れて住民を傷つけておきながらロレッタ殿のせいにするのか?

「君は本当に自分がどんな罪を犯したの分かっているのか?」

「知ってるわよ。私が良いところの家の令嬢だからロレッタが嫉妬してこんな馬鹿げた計画を立てたんでしょ? 私はなんて罪深いのかしら」

 バーバラはうっとりとした表情で目を細める。どうやら分かっていな様だ。まさか兄以外にここまで愚かな人がいるとは思わなかった……

「ロレッタ殿は暴れ出したお前を止めて、傷ついた者を癒し、同じクラスメイトだから罪を軽くしてほしいと言ったんだぞ?」

「罪を軽くしてほしい? 何を言ってるの? 私は何も悪くないわ! むしろロレッタを早く独房に閉じ込めるべきよ! 私を唆した罪は一生をかけて償うべきだわ!」

「一生かけて償う? さっきから君は何を言ってるんだ?」

 もはやバーバラとの会話は無意味だった。この女は自分が何をしたのかまるで分かっていない。救いようのない者だ……

「第二王子クリフトの名に置いて命じる。お前の貴族としての身分、並び所収している土地、財産、を全て没収する。二度と自分が公爵家だと名乗るな!」

 バーバラは何か言いたそうだったが、反論する隙を与えずに僕は続きを語った。

「お前を痩せ干せた土地のハタマ村に追放する。そこで一から田畑を耕して生き延びてみろ。お前に必要なのはその慢心した考えを改める事だ!」

「つっ追放!? ちょっと待って下さい!」

 僕は兵士を呼ぶとバーバラを牢屋から引きずり出した。

「本当なら極刑にしたい所だか、ロレッタ殿の慈悲に免じで追放で済ませよう。連れて行け!」

 バーバラは信じられない! っと言いたげな表情で顔を歪ませる。追放で済んだだけでも有難いと思わないのか?

「嫌よ! どうして私がこんな目に合わないと行けないの! 離してよ!」

 バーバラは兵士を振りほどこうとするが、逆に押さえつけられる。

 それにしても……こんな愚かな者に対しても慈悲深いロレッタ殿は、なんて素晴らしい女性なのだろう……
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