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chapter:1.
しおりを挟む「今日も快勝だったな、オレ達の陣営は!」
今日のところの戦線を離れる時に、幼馴染のレオンハルトが声をかけてきた。
「さすがだな、僧正殿の召喚生物は。敵さんみんな、しっぽ巻いて逃げてったじゃねぇか」
「僕の魔物たちも確かに脅威にはなったけれど、レオンの鎌や、どこから湧いてくるかわからない岩なんかの障害物も、軍に貢献していたと思うよ」
俺はにっこりとレオンハルトに笑顔を向けながら答える。レオンハルトはそれを聞くと、得意気な顔をしている。戦況も相まって、機嫌は良さそうだ。他にも同じ陣営の仲間たちから声をかけられながら、俺たちは拠点へ戻るべく列を作って歩いていた。
手っ取り早く言うと、俺たちは戦争をしている。白と黒の陣営で、相手の王様を討ち取らんとすべく、日夜土ぼこりと血と硝煙にまみれている。自分たちの王を守りきり、戦争に勝てば、未来永劫の幸福が約束され、俺たち一人ひとりの願いが、たとえどんなものでもかなえられるという。逆に敗けたら……その時のことは考えたくない。軍の上層部も特別伝達しないという事は、よほど非道い仕打ちが待っているに違いないと言うのが俺の予想ではある。
つまるところ、わざわざ危険を承知でこの戦場に戦いに来ているのは全て、叶えたい願いがある者たちだという事だ。自分の陣営の勝利によって、どうしようもない願いをかなえに来ている連中が、お互いに潰し合っているのだ。
俺の願い事は「消えた友人を捜すこと」だ。ただ何となく白の陣営の軍隊に入った俺と同期で、一番の友達だったブレイドという男を捜しているのだ。同じビショップ階級まで上り詰め、次の遊撃では指揮隊長に、という話まで持ち上がっていた友人が、ある日突然消えたのだ。ただいなくなったというのではなく、荷物も経歴も、他の仲間たちの記憶からも、ブレイドが存在していたという痕跡自体が消えていたのだ。もちろん、レオンハルトにも確認してみたが、彼もまた覚えていないと言う。元々物覚えの良い方ではない幼馴染だが、性質の悪い悪戯を仕掛けるような男でもない。それ以来俺は、ブレイドの痕跡を追う事も儘ならず、消えた友人のことを気にかけながら、日々戦線を攻略していっている。「不治の病を治したい」と語っていた友人のことを、唯一忘れていない俺が、彼を探し出さなければならないのだ。
ちなみに、レオンハルトの願い事は「世界平和」だと言うのだから聞いてあきれる他ない。命を懸けて戦ってまで、そんな漠然としたことを願う彼の気がしれないと、みんなで笑っている。多少傲慢なところはあれども、まっすぐでイイ奴なのだ。その隣で、誰にでも作り物の笑顔を貼り付けている自分が、酷く歪んでいる自覚はある。ただ、これは戦争なのだ。仲間となれ合う為にここに来たわけではない。最初こそ何となく入隊したが、その中で見つけた自分の願いを、俺は叶えたいと思っている。
俺は大斧に体重を預けながら、遠方に広がる自軍と敵軍の争いを見ていた。今日の俺の仕事は、戦場の観察である。正直言えば自分の願いさえ叶ってくれればそれでいいので、戦況自体に興味があるわけでもない俺は、今日の任務はひどく退屈に感じていた。元々、能力的に前線に出張るよりも、こうした後方からの支援の仕事が多い俺ではあるが、全体を見回すような仕事よりも、むしろ前線で大斧を振り回して魔物を暴れさせる方が好みだったりする。両目に当てていた望遠グラスには、鎌を振り回して黒の陣営の兵たちを薙ぎ払うレオンハルトが映っている。溜め息を吐きながら、俺はグラスを目から離した。
「何サボってんだよ、ウェイルド」
すぐに、横で同じように望遠グラスを覗いていたガートレイに諌められる。ぼりぼりとフレーク状のスナックを口に運んでいる彼にだけは、任務に関する文句を言われたくない。
同じビショップ階級のガートレイは、常に口に何かを運んでいる。見ているだけでこちらが満腹になりそうな男である。実際、俺は彼と同じ任務に就くようになってから、3日で5kgほど痩せた。ガートレイ自身は、四六時中食事をしているくせに、なぜか醜く太ったりはせず、多少大柄な身体ではあるものの、筋肉質なたくましい肉体を維持し続けている。
「あぁ、ちょっと目が疲れてしまってね」
「じゃあ、お前にこのお菓子やるよ。オレのおススメなんだ」
そう言って差し出されたスナック菓子の袋を見ると、昔懐かしな美味しい棒的なアレで、『魅惑のブルベリーとレバーの豪勢ミックス味』と書かれている。
「一昨日発売された新フレーバーなんだぜ? 疲れ目にはこれだよな」
無表情のままフレークを口に放り込むガートレイに、俺はやんわりと断りを入れる。そんな実験的なフレーバーの被験者になる気は、さらさらない。
「ありがとう、ガートレイ。でも僕はその気持ちだけで十分だよ」
「そうか。なら、観察を続けようぜ」
俺は少なくともコイツにだけは、真面目に働けと言われる筋合いはないと思っている。
その日の任務は、比較的平和に終わった。平和、というのは、いつも通り俺たちの陣営が戦況を有利に進めたという事だ。
「ウェイルド僧正、ちょっといいか」
拠点へ戻ろうと、ガートレイと一緒に荷物を背負って歩いていた俺は、後ろからかけられた声に振り向く。
背後に立っていたのは、シエル騎士官だ。レオンハルトと同じナイト階級で、若くして遠征の隊を取りまとめるエリート候補。騎士にしては小柄な体躯だが、彼に召喚された精霊の力によって強化されたランスを振り回す勇姿は、敵味方関係なしに圧巻される。
「何でしょうか、騎士官殿」
「そうかしこまらなくても良い。ちょっとお前に折り入って話があってな」
キビキビとした敬礼をする俺にそう言いながら、シエルはちらちらとガートレイの方に目線をやる。彼に聞かせたくはない話なのだろう、(珍しく)空気を読んだガートレイは、
「ウェイルド、オレ、先に行ってるわ」
とだけ言い残し、そそくさと歩き去ってしまった。
相変わらずシエルの表情からは何を考えているのかが読めない。そもそも、今日はこの地での任務には就いていないはずの上官からの呼び出しに、良い予感というのもほとんど感じないわけだが。
シエル騎士官は、しばらくの間拠点に戻る隊列を見送った後、俺の顔を見上げ、ようやく本題を切り出した。
「お前の以前言っていた、ブレイド僧正官についてのことだが」
【後書き】
人物データ
ウェイルドは白のビショップ。オレンジの髪に真紅の瞳。武器は大斧。魔物を召喚する事が出来る。八方美人な性格。白のビショップとは友人。願い事は「消えた友人を捜す」です
ブレイドは白のビショップ。赤の髪に茶色の瞳。武器は鎌。記憶を改竄する事が出来る。心優しい性格。白のポーンとは悪友。願い事は「不治の病を治す」です
レオンハルトは白のナイト。薄紫の髪に黒の瞳。武器は鎌。物質を精製する事が出来る。傲慢な性格。白のビショップとは幼馴染。願い事は「世界平和」です
ガートレイは白のビショップ。青の髪に紫の瞳。武器は杖。結界をつくる事が出来る。食いしん坊な性格。黒のナイトとは実は兄弟。願い事は「敵陣営の救済」です
チェス盤戦争http://shindanmaker.com/286476より
2013年3月6日 初出
2013年11月23日 小説家になろう転載
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