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chapter:5.
しおりを挟む白軍にての敵陣視察の任から(半ば強制的に)帰還したオレは、軍略会議の場で白軍に潜り込んで得た情報を報告していた。
一応、これまでのオレ、ブレイドの動きを纏めると、「世界征服」を志し#城将官_ルーク_#として黒軍に入隊、その後白軍潜入調査を命じられ「白軍#僧正官_ビショップ_#ブレイド」として暗躍。その後、白軍に入ったことで得た「記憶を改ざんする」能力を使い白軍の兵たちの記憶から「ブレイド」の存在を消し、元々オレの中に居た「皆に愛されたい」という感情が人格化した存在「ウェイルド」に交代、ウェイルドは新たに得た「ブレイドの行方を追う」という使命と「魔物の召喚」の異能をもって、白軍での立場を築き上げ、#騎士官_ナイト_#クラス以上でしか知りえない情報までもを手にすることに成功した。
オレの見立てでは、この戦争は既に終盤に差し掛かっている。
そして、もう一つ、通常ならばありえないであろう事実を、上官に報告している。
黒軍の軍略会議では、#王_キング_#、#女王_クイーン_#を始め、#騎士官_ナイト_#、#城将官_ルーク_#、#僧正官_ビショップ_#までの役職が参加している。#歩兵_ポーン_#が参加することはまずない。
ちなみに、今回の会議では、#王_キング_#は欠席となっている。
「じゃあぁ、白軍はそんなありえない状態だって言うのぉ?」
白緑の髪を弄びながら、だらりとした態度で黒軍#女王_クイーン_#のレインが言う。女性のような口調だが、彼はれっきとした筋骨隆々の男性である。背だって上背ならばオレよりも高い。
「女王陛下、先ほども申し上げました通り、『ありえないなんてことはありえない』のです。実際、オレが白軍に配属されて得た二つの能力はどちらも常軌を逸脱している能力でしょう」
「そうだな。その能力が#黒軍_コチラ側_#で使えないと言うのはもったいない気もするが」
オレの言葉に頷くのは、オレを実質強制帰還させた#騎士官_ナイト_#のツクヨミだ。白軍時代のオレと戦場で遭遇しているので、白の頃のオレが召喚した魔物たちの脅威は十分に知っているはずだ。
「そういえば、その『白の力』で召喚した魔物等は、どうなっている? こちらの脅威になるようでは困るのだが」
そう尋ねるのは、先日から前線に投入された#僧正官_ビショップ_#のエレン。彼の実力ならば、白軍のレオンハルトを討ち取るのも時間の問題だろう。
「魔物たちは、『ウェイルド』がスポットから降りた後は基本的に自分たちの種族に合わせて行動してるようだ。もっとも、彼らは召喚していた『ウェイルド』に従っていただけであって、白軍のコマではないしな。つまり、#オレ_ブレイド_#にも奴らの掌握、支配は無理だ」
その答えに納得したのか、エレンは再び口元を引き締めた仏頂面に戻る。……こういう所は白軍のシエルにも似たようなところがあって少しどきりとすることもある。
「そう言えば、さっき言ってたアレってホントなのかよ」
オレの異能にそれた話題を、再び軌道修正したのは、同じ#城将官_ルーク_#のリンゲージ。軌道修正はするものの、彼の能力からして、このことは予想の範囲内だったかもしれないが。
「あぁ。白軍は今、#王_キング_#も#女王_クイーン_#も適合者がいないため、その席は空席だ」
オレがこの結論に至ったのは、シエルとアルテミシアの戦況報告の時だ。ウェイルドはあの場に居てさぞ肝を冷やしたようだが、オレはウェイルドの視線越しに現状観察を続けていた。
白軍では#王_キング_#と#女王_クイーン_#に謁見できるのは#騎士官_ナイト_#階級のみとされているので、#僧正官_ビショップ_#であったウェイルドもオレも、謁見はかなわなかった。
しかし、謁見できずとも、戦争という状況下、戦場の視察や自分達の兵の状態くらいは確認しに来るはずだ。だがそれはとうとう一度も来なかった。
そして、オレが確信を得たのは、シエル、アルテミシア両騎士官達の態度である。
不利に傾いた戦況を報告するのに、彼らはその上官の不在をさも日常茶飯事のように受け流していたのだ。「不在」という状況に疑問を持つでもなく、ただ、単純に#騎士官_ナイト_#階級が「代わりに」報告を受けるというだけの茶番だ。
#駒_兵_#を出して戦争をするためのこの場において、その二つの#駒_役職_#の不在は、レインの言うとおり実質「ありえない」事である。オレ達が#王手_チェック_#をかけるかけないにかかわらず、ハナからそんなものは居ませんというのだから。――そもそもオレが白軍3人目の#僧正官_ビショップ_#として戦場に出ていた時点で、おかしいと気付くのにさほど時間はかからなかったが、白軍ではそのあたりの認識は曖昧なようだ。
「じゃあぁ、アタシ達って何のために戦っているのかしらぁ? 相手の獲るべき#王_キング_#も不在で、当然#王手_チェック_#もかけられない。こんなのってあんまりじゃなぁい?」
そう。レインの言うとおりだ。だからこそ。
「#王_キング_#がいないなら、#盤面_戦場_#に残る#敵_駒_#を全て消せばいい。それがオレ達にとっての#王手_チェック_#だ」
オレがそう言い放つと、議席についていた面々が頷く。黒軍も、#王_キング_#以外の役職はこの会議に出ている面子以外は白軍に討ち取られている。
まだ戦況はどちらに転がるかわからない。
翌日からオレは自慢の戦車を転がして戦場に出るようになった。白軍の方はと言えば、「ウェイルド」という強力な異能を持った兵を失ったことによる混乱が続いているようで、オレはしてやったりと口元を歪める。
オレが進み始めると白軍の#歩兵_ポーン_#がいた。戦車で撃つと、弾は歩兵に当たり、また一人白軍の兵が減っていく。しかも、やっと進軍を開始したオレの目の前にいたという事はあの#歩兵_ポーン_#は「成り上がる」可能性もあったので、相手側からすれば惜しいことこの上ないだろう。
他の黒兵やレインが次々と白兵を狩っていく中で、オレは面白そうなモノを見かけた。エレンとレオンハルトの一騎打ちだ。近くではツクヨミとアルテミシアの一騎討ちも行われていたが、オレとしてはやはり敵陣エースにして元親友にして幼馴染み(もっともこれも記憶改ざんの異能で作り上げた幻覚に過ぎない関係だが)の行く末を見物してみたい。
戦車を停めて見物していると、不意に砲弾が飛んでくる。かなり近くに落ちたようだ、危ない。
砲弾の打ち手を見やると、やはりオレの予想通りの相手……メルセデイズだ。
「お兄様ったら、そんなところで呆けていると爆死しますわよ?」
戦車の照準をこちらに向けながらそう言うメルセデイズ……実は#オレ_ブレイド_#の実妹である。もちろん、メルセデイズの実姉であるアルテミシアもオレの妹ではあるのだが。
「私、怒っていますのよ、お兄様?」
再び砲弾を放ちながらメルはオレに話し続ける。
「お兄様ったら、私の友人のフリをして近づくなんて……許せませんわ」
オレも砲弾を打ち返しながら、徐々にメルへと距離を詰めていく。
「仕方ないだろう? オレの野望のためだ。まさかお前たち二人ともがオレの敵に回るなんて、残念だよ」
そう言って、砲弾を撃った直後にダガーナイフを3、4本ほど投擲する。ダガーは砲弾を追うように飛んでいき、#妹_メルセデイズ_#の肢体に突き刺さった。彼女の能力については潜入時に調査済み。誤魔化しなどは出来ないはずだ。
オレはメルセデイズの戦車を破壊し、彼女の陣取っていたポジションに着くと次の標的を定める。……もう一人の妹も、すぐに同じところに届けてやろうという、ささやかな兄心だ。
アルテミシアを打ち抜いた砲撃を見て、ツクヨミが舌打ちをする。
「邪魔をするな」
「すまんな、ちょっとした兄心ってヤツさ」
そう言うと、ツクヨミはフンと鼻を鳴らし、次のターゲットの元へと走り去っていった。
「さぁて、お次は誰にしようかな、っと」
【後書き】
2015年1月22日 初出、小説家になろう投稿
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