ロイヤルストレートフラッシュ

高梨

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ダイヤモンド王国

世界を作る四つの国

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「スペード国を、止めなくちゃ。世界は、滅びてしまう」

トマトが現れた時の明るい表情とは一転して、悲しそうな表情になったレタスの声は確かに震えていた。
「スペード国…っつうことは、ダイヤモンド国以外にも国があるのか」
「この世界は、巨大な四つの国の均衡によってなりたっています」
トマトは手元の地図をもう一度眺めた。見慣れない大きな大陸が、四つに分かれているようにも見える。
レタスは地図を指さしながら、ぽつぽつと話し始めた。

――大陸は東西南北、四つの国に分かれています。それぞれの国は得意分野があり、その役目を大まかに果たすことで、様々な民族の住む、この大きな大陸を統治しています。
西が、今いるダイヤモンド王国。商業や取引に長けた、金銭の国です。
南は、クラブ王国。知識と農業に長ける、自然豊かな国です。
東は、ハート王国。慈愛に満ちた、命の国です。
そして北がスペード王国。戦いと死を尊重する、剣の国です。
四つの国は、大陸内外で起こる問題に、それぞれの得意分野で対応し、助け合って生きてきました。
スペード王国の王が、変わるまでは。

――少し前、スペード王国の王が死に、後継者の問題が起きました。スペード王国では、王家の血筋ではなく、大陸中央の山の頂にある剣を抜けた者が王になるという決まりがありました。
町の力自慢たちが何度も剣に挑みましたが、剣は抜けませんでした。しかし、突然現れた細身の少女が、いとも簡単に抜いて見せたのです。
貴族たちは猛反対しましたが、少女は女王になってしまいました。
少女はどの国の人間であるかもわかりません。どの民族であるかさえ、わかりません。
ですが、決まりは決まりでした。
そこから、新女王は大陸の統一を始めたのです…。

――あっという間に、ハート国はスペード国に占拠されてしまいました。なにせ慈愛の国と戦いの国で戦争をしては、ハート国に勝ち目はありません。1か月もたたないうちに、ハート国はスペード国の植民地となってしまいました。慈愛の国からは悲鳴と怒号が聞こえ、毎日のように奴隷が売買され…そして、「愛」という役割を失った大陸は、急速に荒み始めたのです。
クラブ国は未だ攻撃を受けてはいませんが、恐らく時間の問題でしょう。
ダイヤモンド国では、お姫様が行方不明になっています。

――戦いの国が暴走し、愛の国が崩壊し…このまま他の勢力が来たりしたら、大陸は一瞬で支配されてしまうでしょう。
他の勢力がこちらへ向かってきていることも、わかっています。それを退けるのが、スペード国の役目でありましたから。
あと半年もしないうちに、スペード国が大陸を支配するが先か、他の勢力に滅ぼされるが先か、というところで、トマトさんがやってきた、というわけなんです。


なんともまあ、トマトは開いた口をふさごうとも思わなかった。
ぼちぼちやっと20代だといったところのトマトにやっと理解できる規模の話ではあったが、どちらにせよその解決を求められている以上、小市民トマトは「荷が重い」としか考えることはできなかった。
「信じて、もらえませんか」
レタスがさらに顔を伏せて言う。家の外はまだ盛り上がっていそうだ。
「信じるも何も、荷が重いし…何からどうしたらいいのか…」
「そ、それなら大丈夫です!」
レタスは冒険の書を必死で羽ばたいて持ち上げて言った。

「ここに、全部これからやることが書かれていきます。先代のトマトさんも、この本を見て冒険なさいました!お願いです、貴方の事は命を懸けてお守りしますので、この世界を救ってくださいませんか!?どうか、この通り!!」
本を持ったままレタスが頭を下げる。その声は、先ほどとはまた違った震えを持っていた。
「…家に帰る方法は」
「この本に書かれます、ゆくゆくは!」
「…どっちにしろ帰れないのか」

トマトは大きくため息をついた。
「…わかったよ。どうせやんなきゃ帰れないんだろ」
「助けてくれるんですか!!」
レタスが本を置いて飛び上がる。

「わあ、本当に、ありがとうございます!!このレタス、最後まで、全身全霊、お供いたします!!」
最高の笑顔で、レタスは敬礼した。
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