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小説家の弟子
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アーケードをくぐってすぐ右の喫茶店。
……ここか。
中に入るとすぐに先生が目に入った。
才色兼備で凛とした佇まい。
「遅い、もう終わったわよ」
「え、もうですか!?」
「私の書く話に文句は一つもつかないわ。さ、もう帰るわよ」
「そんなぁ」
「それでは、笹野先生」と言って、担当編集者は帰ってしまった。
惜しいことをした。学校の掃除サボっておけば良かった。
「今日も懲りずにプロット作ってきたのか?」
「はい。渾身の一作を!」
「そのセリフ聞き飽きたわ」
ですよねぇ。
「私の家に来るなら、その前に買い物に付き合いなさい」
「はいはい、わかってますよ」
そのセリフも聞き飽きてます。
先生との付き合いは今日で丁度一年。今までに出したプロットは全て没。短編集を見てもらっているが好評ではない。
スーパーに行くと、カゴ持ちは必ず僕。
先生は容赦なく食材を入れてくる。米、調味料、キャベツ、白菜、大根、などなど、俺の腕だけでなく、カゴまで壊れそうだ。
「先生、マジでギブ! ギブギブギブ」
「体力つけなさい。小説家は書き続けるスタミナが一番重要なのよ」
「いや無理ですって」
「しょうがないわね」
そう言って先生は、一緒にカゴを持ってくれた。大幅に軽くなった。このままカゴから手を離しても、先生一人で余裕で持てそうだ。
「先生」
「何だ?」
「力、強いですね」
先生は満面の笑みで、
「ぶち殺すわよ」
と殺気を漏らした。
目が怖かった。
「龍門時君?」
声のする方に目を向けると、同じクラスの蛍石蛍がいた。
まずい、こんなところ蛍にどう言い訳したら……
「あれ、龍門時君、お姉さんいたんだぁ。凄い美人さんだぁ」
そう来たか。そりゃそうですよねぇ。カップルと見間違えないですよねぇ。
先生がヒールを履いているため、俺よりも身長が高くなっている。そう見えてもおかしくはない。
言い訳しようとした自分が恥ずかしい。
「そうなんだ。実はこの人」
「私は龍の姉じゃないわよ」
「えっ……」
何余計なこと言っちゃってるんですか!
折角誤魔化せると思ったのに!
「じゃぁ、お母さん? ですか?」
「面白いことを言うわね、あなた。」
まずい、先生の目が笑ってない。
デリケートな先生に天然な蛍を混ぜたら、街一つは吹っ飛びそうな感じなんですけど!?
既にカゴから大根を取り出している先生。
「蛍石さん、この人は僕の親戚なんだ」
「じゃぁ、おばさん?」
大根にヒビが入った。
助けて神様……もう泣きたい。
「でも凄い若くて、大人って感じです。憧れます」
俺は驚きを隠せなかった。
蛍が空気を読んだだと!?
「あら、ありがとう。でも、私は龍の叔母さんじゃないわ」
「じゃぁ……」
俺は咄嗟に
「い、いとこだよ!」
と嘘をついた。
先生がまた何か言い出す前に俺は先生の背中を押して「じゃ」と軽く挨拶してとっとと退散した。
「ちょっとどうしたのよ?」
「後で言いますから、今は合わせてください」
「で?」
先生の家に着いてすぐに尋問された。いや、拷問を受けた。
ここは素直に答えよう。
「いや、なんか……恥ずかしいというか何というか……」
「へぇ、龍は私の弟子なのが恥ずかしいんだそっかそっか。あのベストセラー作家、笹野神奈先生の弟子は恥ずかしいんだぁ」
キレてる!?
「いや、だって先生の弟子なのに全然才能ないというか、先生の顔に泥を塗っちゃうというか」
「いいじゃない。というか、龍を弟子にした時点でもう泥塗られてるわ」
「い、言われなくてもわかってますよ」
わかっていることを言われると心が痛い。
「いや、わかってないわ」
俺は疑心を抱いて、顔を上げた。
「いや、俺は本当に才能とかないですよ。だってプロットいくら出しても先生の審査通らないし、小説書いても」
「そうね、今のあなたじゃプロには通用しないわ。でもね、あなたには書き続ける力がある」
俺は目を見開いた。
「私に弟子入りしようとしてきた子はあなたが初めてじゃないわ。弟子なんて何人もいたわ。でも、一人も私についてこれなかったわ。厳しすぎるとかで、書くのが嫌になった凡人、他の作家に弟子入りしていった妥協者。色々いたわ。……でも、龍は違う。あなたは一年間、弱音は吐いても、諦めなかった。それはもう才能よ。あなたは自分で自分の才能をつくったのよ、この一年で。確かにまだ龍は穴だらけかもしれない。でも、一年間耐えた龍なら、私は正式に弟子として認め、スパルタで一人前のプロとして育てるわ。顔に泥? 上等よ。私は泥で汚れても美しいから」
先生に褒められたのは初めてだった。
先生の弟子。弟子なんだ。
先生みたいになりたい。いや、なるんだ。
俺はそう決意した。
「でも、泥塗ったらさすがの先生でも汚な……」
フォークが俺の横に風を切って飛んできた。
「あ……いや、何でもないです」
……ここか。
中に入るとすぐに先生が目に入った。
才色兼備で凛とした佇まい。
「遅い、もう終わったわよ」
「え、もうですか!?」
「私の書く話に文句は一つもつかないわ。さ、もう帰るわよ」
「そんなぁ」
「それでは、笹野先生」と言って、担当編集者は帰ってしまった。
惜しいことをした。学校の掃除サボっておけば良かった。
「今日も懲りずにプロット作ってきたのか?」
「はい。渾身の一作を!」
「そのセリフ聞き飽きたわ」
ですよねぇ。
「私の家に来るなら、その前に買い物に付き合いなさい」
「はいはい、わかってますよ」
そのセリフも聞き飽きてます。
先生との付き合いは今日で丁度一年。今までに出したプロットは全て没。短編集を見てもらっているが好評ではない。
スーパーに行くと、カゴ持ちは必ず僕。
先生は容赦なく食材を入れてくる。米、調味料、キャベツ、白菜、大根、などなど、俺の腕だけでなく、カゴまで壊れそうだ。
「先生、マジでギブ! ギブギブギブ」
「体力つけなさい。小説家は書き続けるスタミナが一番重要なのよ」
「いや無理ですって」
「しょうがないわね」
そう言って先生は、一緒にカゴを持ってくれた。大幅に軽くなった。このままカゴから手を離しても、先生一人で余裕で持てそうだ。
「先生」
「何だ?」
「力、強いですね」
先生は満面の笑みで、
「ぶち殺すわよ」
と殺気を漏らした。
目が怖かった。
「龍門時君?」
声のする方に目を向けると、同じクラスの蛍石蛍がいた。
まずい、こんなところ蛍にどう言い訳したら……
「あれ、龍門時君、お姉さんいたんだぁ。凄い美人さんだぁ」
そう来たか。そりゃそうですよねぇ。カップルと見間違えないですよねぇ。
先生がヒールを履いているため、俺よりも身長が高くなっている。そう見えてもおかしくはない。
言い訳しようとした自分が恥ずかしい。
「そうなんだ。実はこの人」
「私は龍の姉じゃないわよ」
「えっ……」
何余計なこと言っちゃってるんですか!
折角誤魔化せると思ったのに!
「じゃぁ、お母さん? ですか?」
「面白いことを言うわね、あなた。」
まずい、先生の目が笑ってない。
デリケートな先生に天然な蛍を混ぜたら、街一つは吹っ飛びそうな感じなんですけど!?
既にカゴから大根を取り出している先生。
「蛍石さん、この人は僕の親戚なんだ」
「じゃぁ、おばさん?」
大根にヒビが入った。
助けて神様……もう泣きたい。
「でも凄い若くて、大人って感じです。憧れます」
俺は驚きを隠せなかった。
蛍が空気を読んだだと!?
「あら、ありがとう。でも、私は龍の叔母さんじゃないわ」
「じゃぁ……」
俺は咄嗟に
「い、いとこだよ!」
と嘘をついた。
先生がまた何か言い出す前に俺は先生の背中を押して「じゃ」と軽く挨拶してとっとと退散した。
「ちょっとどうしたのよ?」
「後で言いますから、今は合わせてください」
「で?」
先生の家に着いてすぐに尋問された。いや、拷問を受けた。
ここは素直に答えよう。
「いや、なんか……恥ずかしいというか何というか……」
「へぇ、龍は私の弟子なのが恥ずかしいんだそっかそっか。あのベストセラー作家、笹野神奈先生の弟子は恥ずかしいんだぁ」
キレてる!?
「いや、だって先生の弟子なのに全然才能ないというか、先生の顔に泥を塗っちゃうというか」
「いいじゃない。というか、龍を弟子にした時点でもう泥塗られてるわ」
「い、言われなくてもわかってますよ」
わかっていることを言われると心が痛い。
「いや、わかってないわ」
俺は疑心を抱いて、顔を上げた。
「いや、俺は本当に才能とかないですよ。だってプロットいくら出しても先生の審査通らないし、小説書いても」
「そうね、今のあなたじゃプロには通用しないわ。でもね、あなたには書き続ける力がある」
俺は目を見開いた。
「私に弟子入りしようとしてきた子はあなたが初めてじゃないわ。弟子なんて何人もいたわ。でも、一人も私についてこれなかったわ。厳しすぎるとかで、書くのが嫌になった凡人、他の作家に弟子入りしていった妥協者。色々いたわ。……でも、龍は違う。あなたは一年間、弱音は吐いても、諦めなかった。それはもう才能よ。あなたは自分で自分の才能をつくったのよ、この一年で。確かにまだ龍は穴だらけかもしれない。でも、一年間耐えた龍なら、私は正式に弟子として認め、スパルタで一人前のプロとして育てるわ。顔に泥? 上等よ。私は泥で汚れても美しいから」
先生に褒められたのは初めてだった。
先生の弟子。弟子なんだ。
先生みたいになりたい。いや、なるんだ。
俺はそう決意した。
「でも、泥塗ったらさすがの先生でも汚な……」
フォークが俺の横に風を切って飛んできた。
「あ……いや、何でもないです」
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