はじめての契約つがい

みつきみつか

文字の大きさ
16 / 54
3 新婚旅行の申し込みと発育不良のΩ

六* 好き合ってるわけじゃない



 ふと気づいて、時計を見たら、午後十時。
 すんごいよく寝た。
 十二時間くらい寝た。
 寝間着は汗だくで、着たまま水浴びでもしたみたいだ。一時の高熱は下がったけれど名残のようにまだ熱い。
 俺の部屋。文弥さんはいなかった。
 たしか、迎えにきてくれて、途中で意識がなくなって、気づいたらベッドに寝かされてた。
 それから、文弥さんが作ったうどんを食べて、またこてんと寝た。
 ベッドも湿っぽい。着替えたいな。ベッドから抜け出して部屋を出る。廊下。
 あ、リビングに明かりがついてる。
 話し声もする。文弥さんの声だ。誰かと話してるみたいだ。でも相手の声は聞こえない。電話かな。
 文弥さんにしては、しゃべり方が荒っぽいな。

「仕方ないでしょう。配偶者なんだから」

 俺は足を止めた。
 俺の話題?

「ただの契約しただけのΩですよ。好き合って結婚したわけじゃないです。大叔母様のお見合い攻撃が鬱陶しいんで……、余計なことは言わないでください。どれほど説明してもわかってくれないんです」

 なんだか、聞いちゃいけない気がする。
 そして、聞きたくない言葉のような気もする。

「身寄りのない同居人を看病するのなんて、人として当たり前でしょ。旧態依然とした社風を変えるために、僕を少数派のロールモデルにするだなんて言い出したのは、他ならぬお祖父さまではありませんか」

 スピーカーにもしていないのに、「生意気な」という声が聞こえた。
 相手は怒鳴ったんだと思う。

「今日の埋め合わせはちゃんとしますので。でも長期休暇はとりますよ、当然でしょ。僕は若手の見本にならなきゃいけないんです。長期休暇をとりやすくしないと。一週間ほど海にいって砂浜を耕して帰ってくるだけです」

 じゃあおやすみなさい、といって文弥さんは電話を切った。
 俺は慌てて、静かに自室に戻る。湿って冷たくなったベッドにもぐりこんで、あがった心拍数を耐えてやり過ごしていた。
 あぁ、そっか。
 そうだ。
 なんだか、文弥さんってもしかして俺のことが好きで、契約にかこつけて結婚したのかなって思っていたんだ。そんな勘違いをしてた。好きだから抱いてたのかなって。
 だから、俺との子どもができるのを望んだり、新婚旅行に行きたがったり、お金をかけたりしていたのかなって。
 だって、俺をあんなに甘やかすから。はじめてのことを俺としたいって言うから。
 でも違ったんだ。
 これはちゃんと、建前どおりの契約結婚で、俺と文弥さんは、体面上結婚しただけで、契約したときの説明のとおりに違いない。
 最初から言われていたじゃないか。お見合いが面倒で、アプローチが嫌で、執拗に迫られて迷惑してるって。一年ぐらいは誰とも恋愛をしたくなくて、仕事に集中したいって。
 だから、後腐れのない俺と、書類だけの結婚をして、でも少しは体面を保たないといけないから、一緒に暮らしたり、夫婦みたいな生活をする。
 セックスもちゃんとして、新婚旅行もいって、はたからみれば、正真正銘の夫婦。
 それくらいしないと、嘘っぽくなるからだと思う。本当のことは、バレちゃいけない。だから俺に対しても演技をすることで、真実のように見せていただけ。
 だから、契約どおりなんだ。
 最初からわかりきってたことだ。
 文弥さんが俺まで騙したから、うっかり間違えてしまった。でも違うんだ。契約通りじゃないか。
 なのにどうして、こんなに胸が痛いんだろう。
 文弥さんが俺のことが好きだってふりをしてたから。なんて、文弥さんのせい。
 文弥さんは何も間違っていなくて、俺が約束を忘れて、勘違いしただけなのに。勝手に傷つくなんて、おこがましい。
 俺はベッドボードに置いた抑制剤を、枕元にあった水で流し込む。
 飲み忘れてたんじゃなくて、わざと飲まなかったんだ。
 迎えに来て、おんぶして連れ帰って、そばにいて看病をしてくれて、一所懸命作ったうどんを食べさせてくれる文弥さんが、あまりにも優しい目で俺を見るから。
 もし、このまま抑制剤を飲まなければどうなるんだろうって。
 そんなことを考えてしまった。
 体調不良のまま発情期を抜けて、たとえば治療したりして、そうでなくても、次の機会に、もっとちゃんとした発情期がきたら。避妊薬なんて飲まずに、セックスを続けたら。
 そうしたら、文弥さんとの子どもができる日が来るのかなって。
 ……へんな夢なんて見るもんじゃないな。
 俺はただの契約つがいなんだから。



<新婚旅行の申し込みと発育不良のΩ 終わり>
感想 77

あなたにおすすめの小説

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。