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4 寝室の壁と婚約指輪
四 気づかれないように(※)
なにをしているんだろう、俺。
俺は別荘まで戻ってきた。リビングに入ると、体が冷えきっていることに気づく。寒かった。日が落ちてきて、夜が早かった。山の夜は早いんだ。
暖房の前のソファに沈みこむ。
さっきの教会での出来事は、見なかったことにしよう。
そう思う。
だって、俺には無関係なんだ。
俺は契約したたけのつがいで、これからその契約だって反故にしようとしてる。
いま文弥さんは俺の番だけど、実際は、誰のものでもなくて、俺のものでもない。
俺がいなくてもすぐに代わりが見つかる人だ。
恋愛をしたくないと言っていたのに、本当は好きなひとがいたんだ。告白はどうなったんだろう。成就したのだろうか。きっとするだろう。
文弥さんこそ、俺たちの関係をどうしようと思っているんだろう。
やめにするんだろうか。本命がいるからと、俺との契約は解除するんだろうか。
いずれにせよ、もし先ほどの相手でなくたって、文弥さんはいつか、奥様を迎えて、幸せな結婚生活を送る。文弥さんを幸せにしてくれるひとが現れる。
俺は一時的なつがいなんだ。
そのひとと、将来のある関係になって、そこには子どもがいて、産むのは俺じゃない。
「ただいまー」
ぐるぐる考えているうちに窓の外はすっかり暗くなって、文弥さんがやっと帰ってきたのでソファを立って出迎えた。
「おかえりなさい」
文弥さんはすごくごきげん。うれしいことがあったみたいだ。ぱあっと光り輝くような笑みを浮かべている。いまにも踊り出しそう。
「尚くん! ごめんね、お待たせして」
「いえっ、大丈夫です」
「なにしてた?」
「えっと、ぼーっとしてました」
「少しはゆっくりできたかな?」
「はい。おかげさまで」
「イタリアンレストランの出店がでていてね、どれも美味しそうで、尚くんに食べてもらいたくて、手当たり次第に買ってきちゃった。知り合いからもらったりんごも」
知り合いって、指輪らしき小箱を渡したあの人だろうか。どうして、知り合いだなんて言うの。
文弥さんが手にしている半透明のビニール袋に、色の良い、小ぶりのりんごが五、六個入っている。
俺は目を背けた。
「……美味しそうです」
文弥さんは、広々としたダイニングテーブルの上に、ピッツァの箱や、リゾット、パスタなどの入った容器を並べていく。
「おなかすいてるー? すぐ食べる?」
「あ、どちらでも……」
文弥さんは俺を横抱きにした。
「わっ、えっ?」
「先に尚くんを食べてもいーい?」
でも俺が返事をしようとするのを、唇を押し当ててきて遮ってくる。
リビングの奥に廊下があり、水回りと階段があった。横抱きにされたまま階段を上がっていく。
二階にある南向きの子ども部屋のような趣の洋室に連れ込まれた。ベッドにそうっとおろされると、俺はわかった。
「あ、ここ、文弥さんのにおい……」
文弥さんは着ていたコート、ジャケット、ネルシャツの順に脱ぎながら、ベッドに膝をつく。
「お。ご名答。僕の部屋だよ。五歳までここに住んでたんだ」
「やっぱり」
と笑うと、文弥さんは俺を覗き込みながら目を細めた。その目があまりにも優しいので、俺はどきりとする。
思わず目をそらした。
だが許してくれなかった。顎を掴まれて、唇に、文弥さんの人差し指が触れる。
「食べていい?」
「でも、あの」
「ごめん。訊いてないんだけどね」
文弥さんは室内の壁際についているオイルヒーターを稼働させ、俺の着ているものを有無を言わさず剥ぎ取って、ヘリンボーンの床にぽいぽい投げ捨てていく。
あっという間に下着一枚になって肌を合わせると気持ちよくて、どうしようもない。
泣きそうだった。
俺とのデートをやめて、教会で告白していたじゃないですか。
なのに、いまから俺を抱くんですか?
そんなの、あの人に不誠実じゃないですか。
「尚くん」
「はい」
文弥さんは上になって、俺の乳首を唇で転がしている。徐々に固く尖っていく先端を、とうとう舌で押しつぶされ、俺は喉をそらした。
「うっ、あっ」
「尚くん、感じやすいね。こうされるの好き?」
文弥さんが両方の乳首を両手の指でちろちろと弾く。唾液で湿った乳首は赤く熟れて、ぎゅうと摘まれるとたまらなかった。
「ああっ」
「尚くん」
「ん、んぅ」
「尚くん……」
文弥さんは俺の額にキスをしてる。前髪を唇で食んで、鼻先を合わせて、俺の唇を舌でこじ開ける。
「んっ」
「尚くん。僕を見て」
俺は文弥さんを見る。目が合った。
「体は大丈夫そう? 続けてもいい?」
「……はい」
俺、なにやってんだろ。文弥さんに、他に好きな人がいるとわかっていながら、体の関係を続けるなんて。
文弥さんだって、何を考えてるの。俺との関係なんてやめて、あの人とこういうことをしたほうがいいんじゃないの。
「尚くん……」
文弥さんは丁寧に俺のそこを舐めたり触ったりする。触られると俺はだめなんだ。否応なく、体が反応してしまう。
でもやっぱり心はついてこなかった。
体がつながって、辛さが押し寄せてきて、俺は後ろからしてほしいとねだって、後背位で突かれながら文弥さんのにおいがする枕を抱きしめて、喘ぎながら泣いた。
文弥さんに気づかれないように。
俺は別荘まで戻ってきた。リビングに入ると、体が冷えきっていることに気づく。寒かった。日が落ちてきて、夜が早かった。山の夜は早いんだ。
暖房の前のソファに沈みこむ。
さっきの教会での出来事は、見なかったことにしよう。
そう思う。
だって、俺には無関係なんだ。
俺は契約したたけのつがいで、これからその契約だって反故にしようとしてる。
いま文弥さんは俺の番だけど、実際は、誰のものでもなくて、俺のものでもない。
俺がいなくてもすぐに代わりが見つかる人だ。
恋愛をしたくないと言っていたのに、本当は好きなひとがいたんだ。告白はどうなったんだろう。成就したのだろうか。きっとするだろう。
文弥さんこそ、俺たちの関係をどうしようと思っているんだろう。
やめにするんだろうか。本命がいるからと、俺との契約は解除するんだろうか。
いずれにせよ、もし先ほどの相手でなくたって、文弥さんはいつか、奥様を迎えて、幸せな結婚生活を送る。文弥さんを幸せにしてくれるひとが現れる。
俺は一時的なつがいなんだ。
そのひとと、将来のある関係になって、そこには子どもがいて、産むのは俺じゃない。
「ただいまー」
ぐるぐる考えているうちに窓の外はすっかり暗くなって、文弥さんがやっと帰ってきたのでソファを立って出迎えた。
「おかえりなさい」
文弥さんはすごくごきげん。うれしいことがあったみたいだ。ぱあっと光り輝くような笑みを浮かべている。いまにも踊り出しそう。
「尚くん! ごめんね、お待たせして」
「いえっ、大丈夫です」
「なにしてた?」
「えっと、ぼーっとしてました」
「少しはゆっくりできたかな?」
「はい。おかげさまで」
「イタリアンレストランの出店がでていてね、どれも美味しそうで、尚くんに食べてもらいたくて、手当たり次第に買ってきちゃった。知り合いからもらったりんごも」
知り合いって、指輪らしき小箱を渡したあの人だろうか。どうして、知り合いだなんて言うの。
文弥さんが手にしている半透明のビニール袋に、色の良い、小ぶりのりんごが五、六個入っている。
俺は目を背けた。
「……美味しそうです」
文弥さんは、広々としたダイニングテーブルの上に、ピッツァの箱や、リゾット、パスタなどの入った容器を並べていく。
「おなかすいてるー? すぐ食べる?」
「あ、どちらでも……」
文弥さんは俺を横抱きにした。
「わっ、えっ?」
「先に尚くんを食べてもいーい?」
でも俺が返事をしようとするのを、唇を押し当ててきて遮ってくる。
リビングの奥に廊下があり、水回りと階段があった。横抱きにされたまま階段を上がっていく。
二階にある南向きの子ども部屋のような趣の洋室に連れ込まれた。ベッドにそうっとおろされると、俺はわかった。
「あ、ここ、文弥さんのにおい……」
文弥さんは着ていたコート、ジャケット、ネルシャツの順に脱ぎながら、ベッドに膝をつく。
「お。ご名答。僕の部屋だよ。五歳までここに住んでたんだ」
「やっぱり」
と笑うと、文弥さんは俺を覗き込みながら目を細めた。その目があまりにも優しいので、俺はどきりとする。
思わず目をそらした。
だが許してくれなかった。顎を掴まれて、唇に、文弥さんの人差し指が触れる。
「食べていい?」
「でも、あの」
「ごめん。訊いてないんだけどね」
文弥さんは室内の壁際についているオイルヒーターを稼働させ、俺の着ているものを有無を言わさず剥ぎ取って、ヘリンボーンの床にぽいぽい投げ捨てていく。
あっという間に下着一枚になって肌を合わせると気持ちよくて、どうしようもない。
泣きそうだった。
俺とのデートをやめて、教会で告白していたじゃないですか。
なのに、いまから俺を抱くんですか?
そんなの、あの人に不誠実じゃないですか。
「尚くん」
「はい」
文弥さんは上になって、俺の乳首を唇で転がしている。徐々に固く尖っていく先端を、とうとう舌で押しつぶされ、俺は喉をそらした。
「うっ、あっ」
「尚くん、感じやすいね。こうされるの好き?」
文弥さんが両方の乳首を両手の指でちろちろと弾く。唾液で湿った乳首は赤く熟れて、ぎゅうと摘まれるとたまらなかった。
「ああっ」
「尚くん」
「ん、んぅ」
「尚くん……」
文弥さんは俺の額にキスをしてる。前髪を唇で食んで、鼻先を合わせて、俺の唇を舌でこじ開ける。
「んっ」
「尚くん。僕を見て」
俺は文弥さんを見る。目が合った。
「体は大丈夫そう? 続けてもいい?」
「……はい」
俺、なにやってんだろ。文弥さんに、他に好きな人がいるとわかっていながら、体の関係を続けるなんて。
文弥さんだって、何を考えてるの。俺との関係なんてやめて、あの人とこういうことをしたほうがいいんじゃないの。
「尚くん……」
文弥さんは丁寧に俺のそこを舐めたり触ったりする。触られると俺はだめなんだ。否応なく、体が反応してしまう。
でもやっぱり心はついてこなかった。
体がつながって、辛さが押し寄せてきて、俺は後ろからしてほしいとねだって、後背位で突かれながら文弥さんのにおいがする枕を抱きしめて、喘ぎながら泣いた。
文弥さんに気づかれないように。
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