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4 寝室の壁と婚約指輪
五 夜明けのひかり
「なーおくん」
「はい」
文弥さんはダイニングテーブルにお行儀悪く頬杖をつき、リゾットを口に運びながら、たびたび俺を呼んでは嬉しそうに微笑んでいる。
「ミートソースのリゾット、おいしいよ。尚くん、一口どう?」
「あ、いただきます」
取り皿をとろうとする俺の口元に、文弥さんはスプーンを寄せてくる。
「あーん」
「あー……」
俺はやむなく口を開けた。もぐもぐ。
ミートソースのリゾットは確かに美味しい。
「尚くんのはベーコンとアスパラだね」
「はい。美味しいです」
文弥さんがじっと見つめてくる。一口ほしそう。
「一口……」
「食べる!」
「あーん……?」
「あーん!!!」
文弥さんはにっこにこ。美味しい美味しいと嬉しそう。アスパラとベーコンのリゾットも、たしかに美味しい。
昨夜、文弥さんは出先から帰ってきて、文弥さんの部屋でセックスして、何度も何度もした。なぜか文弥さんはすごく興奮していて、おさまるのに時間がかかった。
俺は感傷的になって泣いていたものの、あまりに求められるため、途中で涙も乾いて、喘がされて喉は枯れ、水分不足でくたくた。
文弥さんは俺を執拗に抱き、何度も俺の奥で射精。夢中で、余裕もなさそうだった。
俺も何度もイって、最後のほうは意識が薄れ、疲れ果てて倒れて寝た。文弥さんも疲れて満足して、セックスの熱気がこもっているうえ、オイルヒーターがきいてきた暑い部屋で、ふたりで抱き合って、汗だくのままで一眠り。
起きたら午前五時だった。
シャワーを浴びて、夜ご飯として買ったまま放置していたテーブルの上のイタリアンのテイクアウトを温めて朝食。
時間が経ってしまったにもかかわらず、リゾットもピッツァも、なにもかもが驚くほど美味しい。文弥さんがりんごを剥いてくれて、食べたら、俺が食べたりんご史上いちばん美味しかった。
ゆっくり食べていたら、夜明けの時間が迫っていた。片付けの後、文弥さんに誘われて、しこたま厚着してウッドデッキに出ると、まだ暗くて寒い。
吐く息が白く浮かんで、そのまま凍りそう。
薄暗くて、夜明け前の、青い世界だ。
同じく厚着をした文弥さんが、土間の収納から、大きめのソファ一脚と石油ストーブを出してくる。俺も手伝った。
「鼻が凍りそう……。尚くん、平気?」
「平気です。俺、雪国育ちなんです」
「尚くんが平気なら僕も平気……」
ソファで文弥さんに横抱きにされ、膝の上に乗せられて、ふわふわの毛布をかぶって、文弥さんが淹れてくれたあたたかいミルクティーを飲みながら、東の空を眺める。
少し高台にある別荘は、なだらかな別荘地をゆるく見下ろして、抜群の眺めだ。夜明けまであと少し。
「耳も凍る……」
俺は文弥さんの両耳を、両手でそうっと包んだ。といってもニット帽と手袋ごし。
文弥さんは幸せそうに笑っている。
「尚くん優しいね」
「いえ……」
文弥さんは、俺の左手を両手で取った。
「少し、外してもいい?」
「はい」
ふたりの手袋を外す。
空気が刺すように冷たい。凍りそう。
「ごめんね。少しだけ」
なんだかひやりとした感触がして、不思議に思う。だが、文弥さんが手を離したからわかる。
薬指の金属。
「これ……」
俺は息を呑んだ。
文弥さんは躊躇うように言った。
「婚約指輪。少し大きいかな」
ベージュのリングケース。
違う。ベージュなんじゃなくて、白い箱が黄ばんでる。
指輪は、とても古いものだった。別の人のものみたいだ。
文弥さんは言った。
「これ、探してもらっていたんだ」
「……?」
「ここの管理人に。ここ、むかし両親と住んでいて……、僕、親の指輪をここでなくしちゃって。見つけたら、尚くんに渡したかった」
そうだったんだ……。
ということは、あの教会での出来事は、告白ではなかったのだろうか。
でも、立ち聞きしていたなんて言えない。
「そんな大切な指輪なのに……」
俺の左手の薬指には、ぶかっとした指輪。サイズが大きめ。いかにも婚約指輪らしく、透明できらきらと輝く石がついている。大きい一粒ダイヤは、朝の光を吸い込むみたいにきらめく。
「大切だから、尚くんにはめていてほしい」
「でも……」
「順番が前後しちゃったけれど、僕から、尚くんに、婚約指輪です」
「でも……」
「あ、2カラットのダイヤなんて普段遣いには向かないから、普段はつけなくてもいいよ。デザインが気に入らなかったらごめん。サイズ直しついでに直そう。結婚指輪は今度買いに行こうね」
「指輪、俺が受け取っても、いいんですか?」
文弥さんは微笑んだ。
「尚くんじゃないとだめなんだ」
太陽の光が強く差してくる。まぶしい。
喉が熱くなって、目や鼻が凍りそうだから、我慢して、ただ、左手を胸に抱いていた。
「尚くん」
「はい」
「今日、尚くんのことを紹介したい。……会ってくれる?」
「も、もちろん。どなたですか?」
文弥さんは言った。
「僕の両親」
「はい」
文弥さんはダイニングテーブルにお行儀悪く頬杖をつき、リゾットを口に運びながら、たびたび俺を呼んでは嬉しそうに微笑んでいる。
「ミートソースのリゾット、おいしいよ。尚くん、一口どう?」
「あ、いただきます」
取り皿をとろうとする俺の口元に、文弥さんはスプーンを寄せてくる。
「あーん」
「あー……」
俺はやむなく口を開けた。もぐもぐ。
ミートソースのリゾットは確かに美味しい。
「尚くんのはベーコンとアスパラだね」
「はい。美味しいです」
文弥さんがじっと見つめてくる。一口ほしそう。
「一口……」
「食べる!」
「あーん……?」
「あーん!!!」
文弥さんはにっこにこ。美味しい美味しいと嬉しそう。アスパラとベーコンのリゾットも、たしかに美味しい。
昨夜、文弥さんは出先から帰ってきて、文弥さんの部屋でセックスして、何度も何度もした。なぜか文弥さんはすごく興奮していて、おさまるのに時間がかかった。
俺は感傷的になって泣いていたものの、あまりに求められるため、途中で涙も乾いて、喘がされて喉は枯れ、水分不足でくたくた。
文弥さんは俺を執拗に抱き、何度も俺の奥で射精。夢中で、余裕もなさそうだった。
俺も何度もイって、最後のほうは意識が薄れ、疲れ果てて倒れて寝た。文弥さんも疲れて満足して、セックスの熱気がこもっているうえ、オイルヒーターがきいてきた暑い部屋で、ふたりで抱き合って、汗だくのままで一眠り。
起きたら午前五時だった。
シャワーを浴びて、夜ご飯として買ったまま放置していたテーブルの上のイタリアンのテイクアウトを温めて朝食。
時間が経ってしまったにもかかわらず、リゾットもピッツァも、なにもかもが驚くほど美味しい。文弥さんがりんごを剥いてくれて、食べたら、俺が食べたりんご史上いちばん美味しかった。
ゆっくり食べていたら、夜明けの時間が迫っていた。片付けの後、文弥さんに誘われて、しこたま厚着してウッドデッキに出ると、まだ暗くて寒い。
吐く息が白く浮かんで、そのまま凍りそう。
薄暗くて、夜明け前の、青い世界だ。
同じく厚着をした文弥さんが、土間の収納から、大きめのソファ一脚と石油ストーブを出してくる。俺も手伝った。
「鼻が凍りそう……。尚くん、平気?」
「平気です。俺、雪国育ちなんです」
「尚くんが平気なら僕も平気……」
ソファで文弥さんに横抱きにされ、膝の上に乗せられて、ふわふわの毛布をかぶって、文弥さんが淹れてくれたあたたかいミルクティーを飲みながら、東の空を眺める。
少し高台にある別荘は、なだらかな別荘地をゆるく見下ろして、抜群の眺めだ。夜明けまであと少し。
「耳も凍る……」
俺は文弥さんの両耳を、両手でそうっと包んだ。といってもニット帽と手袋ごし。
文弥さんは幸せそうに笑っている。
「尚くん優しいね」
「いえ……」
文弥さんは、俺の左手を両手で取った。
「少し、外してもいい?」
「はい」
ふたりの手袋を外す。
空気が刺すように冷たい。凍りそう。
「ごめんね。少しだけ」
なんだかひやりとした感触がして、不思議に思う。だが、文弥さんが手を離したからわかる。
薬指の金属。
「これ……」
俺は息を呑んだ。
文弥さんは躊躇うように言った。
「婚約指輪。少し大きいかな」
ベージュのリングケース。
違う。ベージュなんじゃなくて、白い箱が黄ばんでる。
指輪は、とても古いものだった。別の人のものみたいだ。
文弥さんは言った。
「これ、探してもらっていたんだ」
「……?」
「ここの管理人に。ここ、むかし両親と住んでいて……、僕、親の指輪をここでなくしちゃって。見つけたら、尚くんに渡したかった」
そうだったんだ……。
ということは、あの教会での出来事は、告白ではなかったのだろうか。
でも、立ち聞きしていたなんて言えない。
「そんな大切な指輪なのに……」
俺の左手の薬指には、ぶかっとした指輪。サイズが大きめ。いかにも婚約指輪らしく、透明できらきらと輝く石がついている。大きい一粒ダイヤは、朝の光を吸い込むみたいにきらめく。
「大切だから、尚くんにはめていてほしい」
「でも……」
「順番が前後しちゃったけれど、僕から、尚くんに、婚約指輪です」
「でも……」
「あ、2カラットのダイヤなんて普段遣いには向かないから、普段はつけなくてもいいよ。デザインが気に入らなかったらごめん。サイズ直しついでに直そう。結婚指輪は今度買いに行こうね」
「指輪、俺が受け取っても、いいんですか?」
文弥さんは微笑んだ。
「尚くんじゃないとだめなんだ」
太陽の光が強く差してくる。まぶしい。
喉が熱くなって、目や鼻が凍りそうだから、我慢して、ただ、左手を胸に抱いていた。
「尚くん」
「はい」
「今日、尚くんのことを紹介したい。……会ってくれる?」
「も、もちろん。どなたですか?」
文弥さんは言った。
「僕の両親」
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