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4 ある夏のふたり
十一 好物の焼いた肉
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疲れたせいか寝てしまって、起きたら隣に和臣さんはいなかった。キッチンから物音が聞こえてくる。
寝室を出ると、対面キッチンでてきぱき作業中。
……ほっとするなぁ。
毎朝、こうやって起きていた時期を思い出す。いまは夕飯だけど。
和臣さんは茹でていた食材を流しで冷ましながら、俺が起きてきたのに気づいて、にこにこしてる。
「体、大丈夫? 久しぶりなのに無理させてごめん」
「いえ、すみません、平気です」
「ごはんできるよ。すぐ食べる?」
「食べます!」
空腹。おなかすいた。
にこにこする和臣さんのそばで、皿を出したり箸を出したり、準備を整える。俺のリクエストでステーキ。俺のためにいいお肉を買ってきてくれた。
下ごしらえはしてあって、焼くだけ。焼いて切って皿にのせて、付け合せのブロッコリーやコーン、たまねぎ。サラダもスープもできてる。るんるん。
カウンターテーブルに並んで食べるのも久しぶりだ。
「いただきます!」
「いただきます」
ステーキ、俺の一口サイズに切ってくれてある。ナイフとフォークを使うのが不器用だから。
ごはんにのせて食べる。至福……。
肉とご飯ってなんでこんなに相性いいんだろ。すりおろし玉ねぎとポン酢のソースもうまいし。
「美味しそうに食べるね」
「美味しいです!」
「お肉好きだね」
「大好きです!」
「ふふっ」
めちゃくちゃ美味しくてばくばく食べてしまって、あっという間。
和臣さん驚いてるね。
「ふふ。おなかすいてたね。ゆっくりね」
「すみません、家での飯が久しぶりで」
「仕事、相変わらず忙しいんだ」
「はい」
「西社長に、多紀くんこき使うの程々にしてほしいって言ったら、叱られちゃった」
「え?」
「一ヶ月くらい前かな」
和臣さんは、東京に来ていた西さんに会ったらしい。別件だったそうだけど、そこで俺の話題になって、働かせすぎでは? と苦言を呈したそうな。
裏でなんてこと言ってんだよ。保護者め。
そうしたらさ、と和臣さんは西さんの口調を真似しはじめる。
「『小野寺はわかってないようやけど、相田くんはうちにとって必要不可欠なんや。いま忙しいんは、俺と相田くんの問題や。お前に口出されるいわれはない。抱え込みがちなのは、アホとちゃうからそのうち気づくわ』って」
西さん……。そんなことを……。
「『会社なんて、どんな規模でも、誰かひとりおらへんかったら回らへんことはないんや。やけど、うちは、相田くんがおれば、できることが掛け算になる』」
「掛け算にできてるんでしょうか……」
和臣さんは俺の頭を撫でてる。
「『相田くんは、置かれた場所で咲きすぎるねんな。どんな人間とでもうまくやれる。俺やお前は敵ばっかやろ。その分、強烈な味方もできるけど。相田くんは違う。日和見なとこもあって、本来なら信頼できひんタイプの人間。そういうのが嫌いやっていうクセの強いやつもおる。俺とお前、そして俺らの敵や味方はそういうやつ。つまり俺はクセが強い。でも相田くんを、不思議と手放したくないねん。揉まれてるのに素直でスれてない。もし俺が今部下を選ぶなら、小野寺よりも相田くんや。お前は仕事できるけど、そつがなさすぎてキモいし、なにより何考えてるかわからん。いつか背中から撃たれる。相田くんは信用できる。安心して背中を預けられる』」
俺は笑った。
小野寺、信用ないな。
「『他人の期待に応えたい子なんや。思いっきり期待すればええ。そのままでええなんて言うほうが可哀相やろ。俺はな、俺自身が誠実に向き合っとったら、相田くんが潰れるとは思わんのや。だから今までもこれからも頑張ってもらうつもりや』だって。あのひと体育会系だからね。最後は根性って感じ……」
俺は感動して涙目。それでも、通信大学の単位のためにも毎日ちゃんと定時で帰るようにって言ってくれたんだよ、このあいだ。
和臣さんは不服そう。
「そういえば……『小野寺が部下やった時間より、相田くんが部下の時間のほうがもう長いんや。お前の言うことなんか聞くもんか。俺と相田くんの仲を邪魔すんな』……って、なにが『俺と相田くんの仲』だよ。俺よりも多紀くんをよく見てるようなこと言っちゃってさ……」
「見てる意味が違うんじゃないですかね」
「多紀くんがわかってないみたいだからこれ言っちゃったけど、こんなので西社長に心酔しちゃだめだよ。女好きだから悪影響……」
「はいはい。大丈夫ですよ」
西さん、女好きだけど熟女好きだからさ。その影響は受けないと思うよ。
寝室を出ると、対面キッチンでてきぱき作業中。
……ほっとするなぁ。
毎朝、こうやって起きていた時期を思い出す。いまは夕飯だけど。
和臣さんは茹でていた食材を流しで冷ましながら、俺が起きてきたのに気づいて、にこにこしてる。
「体、大丈夫? 久しぶりなのに無理させてごめん」
「いえ、すみません、平気です」
「ごはんできるよ。すぐ食べる?」
「食べます!」
空腹。おなかすいた。
にこにこする和臣さんのそばで、皿を出したり箸を出したり、準備を整える。俺のリクエストでステーキ。俺のためにいいお肉を買ってきてくれた。
下ごしらえはしてあって、焼くだけ。焼いて切って皿にのせて、付け合せのブロッコリーやコーン、たまねぎ。サラダもスープもできてる。るんるん。
カウンターテーブルに並んで食べるのも久しぶりだ。
「いただきます!」
「いただきます」
ステーキ、俺の一口サイズに切ってくれてある。ナイフとフォークを使うのが不器用だから。
ごはんにのせて食べる。至福……。
肉とご飯ってなんでこんなに相性いいんだろ。すりおろし玉ねぎとポン酢のソースもうまいし。
「美味しそうに食べるね」
「美味しいです!」
「お肉好きだね」
「大好きです!」
「ふふっ」
めちゃくちゃ美味しくてばくばく食べてしまって、あっという間。
和臣さん驚いてるね。
「ふふ。おなかすいてたね。ゆっくりね」
「すみません、家での飯が久しぶりで」
「仕事、相変わらず忙しいんだ」
「はい」
「西社長に、多紀くんこき使うの程々にしてほしいって言ったら、叱られちゃった」
「え?」
「一ヶ月くらい前かな」
和臣さんは、東京に来ていた西さんに会ったらしい。別件だったそうだけど、そこで俺の話題になって、働かせすぎでは? と苦言を呈したそうな。
裏でなんてこと言ってんだよ。保護者め。
そうしたらさ、と和臣さんは西さんの口調を真似しはじめる。
「『小野寺はわかってないようやけど、相田くんはうちにとって必要不可欠なんや。いま忙しいんは、俺と相田くんの問題や。お前に口出されるいわれはない。抱え込みがちなのは、アホとちゃうからそのうち気づくわ』って」
西さん……。そんなことを……。
「『会社なんて、どんな規模でも、誰かひとりおらへんかったら回らへんことはないんや。やけど、うちは、相田くんがおれば、できることが掛け算になる』」
「掛け算にできてるんでしょうか……」
和臣さんは俺の頭を撫でてる。
「『相田くんは、置かれた場所で咲きすぎるねんな。どんな人間とでもうまくやれる。俺やお前は敵ばっかやろ。その分、強烈な味方もできるけど。相田くんは違う。日和見なとこもあって、本来なら信頼できひんタイプの人間。そういうのが嫌いやっていうクセの強いやつもおる。俺とお前、そして俺らの敵や味方はそういうやつ。つまり俺はクセが強い。でも相田くんを、不思議と手放したくないねん。揉まれてるのに素直でスれてない。もし俺が今部下を選ぶなら、小野寺よりも相田くんや。お前は仕事できるけど、そつがなさすぎてキモいし、なにより何考えてるかわからん。いつか背中から撃たれる。相田くんは信用できる。安心して背中を預けられる』」
俺は笑った。
小野寺、信用ないな。
「『他人の期待に応えたい子なんや。思いっきり期待すればええ。そのままでええなんて言うほうが可哀相やろ。俺はな、俺自身が誠実に向き合っとったら、相田くんが潰れるとは思わんのや。だから今までもこれからも頑張ってもらうつもりや』だって。あのひと体育会系だからね。最後は根性って感じ……」
俺は感動して涙目。それでも、通信大学の単位のためにも毎日ちゃんと定時で帰るようにって言ってくれたんだよ、このあいだ。
和臣さんは不服そう。
「そういえば……『小野寺が部下やった時間より、相田くんが部下の時間のほうがもう長いんや。お前の言うことなんか聞くもんか。俺と相田くんの仲を邪魔すんな』……って、なにが『俺と相田くんの仲』だよ。俺よりも多紀くんをよく見てるようなこと言っちゃってさ……」
「見てる意味が違うんじゃないですかね」
「多紀くんがわかってないみたいだからこれ言っちゃったけど、こんなので西社長に心酔しちゃだめだよ。女好きだから悪影響……」
「はいはい。大丈夫ですよ」
西さん、女好きだけど熟女好きだからさ。その影響は受けないと思うよ。
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