エリート先輩はうかつな後輩に執着する

みつきみつか

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番外編17 リクエストなどなど3

前撮りの話

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「こちらにお入りください」

 といって本日カメラを構えた女性に案内されたのは、立派なソファのある趣のある洋室。
 クリーム色のカーテンが揺れる、光溢れるきれいな部屋。

「緊張するね」
「ですね」

 和臣さんは真っ赤になりながら言った。

「多紀くん、かっこいい」

 へへ。タキシード着てる。ぴしっ! って感じ。
 俺がタキシードを着ている様子の何がそんなに嬉しいのか、和臣さんは目を輝かせてうっとりしている。
 俺は言った。

「同じ格好ですよ」

 惚れ惚れするほど似合っているのは、客観的にみて、和臣さんのほうである。
 式場ですれ違ったありとあらゆるひとの視線を集めてきた。普段からそうだけど、モテモテである。

「多紀くんとお揃い、嬉しい……」

 本日は写真撮影である。前撮り。
 和臣さんはソファにかけて、俺も隣に並んでかける。カメラを構えられて緊張。

「仲良くお話ししてくださいねー」
「はい」
「だって。んじゃ、多紀くん、俺の膝の上に乗ろうね」

 なんで? 指示と違わない?

「いいですね!」

 と、カメラさん。
 そっか。そうなのか。
 じゃあ、いっか。

「重くないですか?」
「軽いよ。大丈夫」
「重くなってきたらちゃんと言って下さいね。降りますんで」
「体を密着させると重くないんだよ。くっつくのが一番だよ。降りなくていいんだよ。むしろ勝手に降りちゃだめだよ」

 和臣さんは俺をお姫さま抱っこ。うむむ……なんだか、こういう役割だと認識されそう。まぁ、そうなんだけど。

「肩回しちゃってください」
「はい」
「顔はこっち。視線は旦那様で。顔をあと五度、下向きにしてください」

 難しいな。カメラのほうに顔を向けつつ、視線は和臣さん。

「いいですねー!」
「多紀くん。笑って。ちゅー」
「ちゅー」

 目を閉じて、唇が触れた瞬間、シャッターを切られた。

「えへへ。ラブラブ写真だ」
「人前でこういうの、恥ずかしいですね……」
「はー。恥ずかしがってる多紀くんかわゆ」
「恥じらっているところにほっぺにちゅーでいきましょう」
「了解です!」

 ちょ……。なに通じ合ってるの。

「多紀くんのほっぺたー」
「恥ずかしいですってば」

 和臣さんは俺の頬をついばみながら、真剣かつ深刻に言った。

「多紀くん。これは俺たちがラブラブなカップルだとアピールするための写真だから。どんなに傍目に恥ずかしいカップルでも人前でいちゃいちゃしていても許されるんだよ?」

 それもそうか……。
 俺も友達の結婚写真で新郎新婦が仲良しなの、微笑ましいとしか思わないもんな。

「結婚式で写真使うんだ。世界一イチャイチャして撮らないといけない……。みんなに見せつけてやるんだ」
「………………とうとう一ヶ月後ですねぇ」

 人前式で挨拶して、そこからは食事と歓談メインの簡単な流れで、お互いのことをよく知ってくれている、会社関係のひとだけ呼んでいる。親兄弟と瑞穂さんとの食事会は別で済ませている。
 友達関係のちょっとまとまった集まりって感じ。
 ほぼすべてのひとが、俺と和臣さんのキスシーンをすでに目撃してるし。
 キス写真が流出しても、結婚するし、今更だな。
 でも和臣さん、恥も外聞もないんだよな。

「手の甲にもちゅーしちゃおー」
「いいですね!」

 和臣さんとカメラさんはノリノリ。
 打ち合わせ済みかな?
 和臣さんは俺の手の甲をかじって舐めてる。えぇ……?

「多紀くん。俺と結婚してくれる?」
「ええ、はい。でも、かじるのは待って。あと最近、一日一回かならず聞きますね、それ」
「何回でも元気よく答えて! 『はい』又は『YES』!」
「はい」

 同じだよ。

「多紀くん、大好き!」
「いいですねー!」

 和臣さんの視線はまっすぐできらきら。心から幸せそう。カメラさんもノリノリ。
 ま、いっか……。





〈前撮りの話 終わり〉
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