1 / 27
第一章
一 恋人の命令
しおりを挟む
一
「お前の開通、今夜八時な」
胸を刺された。かと思った。
大学のゼミで出会った恋人の部屋で、恋人はさほど面白くもなさそうに言いながら、呼び出されてのこのこ顔を出した俺が履き古したスニーカーを脱がないうちに、玄関でスマホの画面を見せてきた。
まるでインターネットの工事みたいだと、開通という言葉の意味を考えるともなく考えながら、俺は画面に映る文字を口にする。
「四十代、バリタチ、明るくて優しい変態です」
ゲイ向けのマッチングアプリは、高級スーツに身を包むお金持ちそうな男性の上半身を写している。いかにもらしかった。
「経験豊富そうでちょうどいいだろ?」
「……」
「お前のせいだし。返事は?」
「……そうだね」
俺と恋人は、セックスがうまくいかない。
いざ挿入されるとなると、我慢してもあまりの痛みに泣いてしまい、やめてと叫んで逃げようとしてしまった。
押さえつけられ、口の中に靴下をねじ込まれて、体を拘束されながら犯され、切れて血まみれになった。下半身が鮮血に染まる俺の姿に恋人が萎えて終わったのは、二週間ほど前の出来事だ。
外傷は治ったものの、二度とセックスはしたくない。だが別れたくもなかった。
やれもしないのに恋人? と問われ、俺は何も言えなかった。だが彼は、別れるとまでは言わなかった。そこに一縷の望みを抱いていた。
そして今夜の呼び出しに至る。別れを覚悟していた俺に突きつけられたのは、残酷な選択だった。
「やられて慣れてこいよ。ムリならいらない」
「……わかった」
いらない、という言葉が突き刺さる。あれだけ想像して辛くなった別れようという言葉のほうが、現実よりもはるかにマシだった。
自分からの告白で付き合うようになった。当初、温度差はなかったと思う。
順調に交際して三ヶ月、セックスへの期待が高まっていき、あの失敗を機に、一気に冷められた。いまは目も合わない。繋ぎ止めようとする自分が滑稽に思える。
「じゃ、そういうことだから」
部屋を追い出されて、結局、靴も脱がなかった。二人で食べようと菓子を買ってきたけれど、差し出す暇もなかった。
雪が降ってきた。道理で寒いわけだ。かじかむ指に吐息を当ててすり合わせ、寒いなぁとひとりごちながら勝手に納得して、俺は恋人のアパートに背を向けて歩き出した。
「お前の開通、今夜八時な」
胸を刺された。かと思った。
大学のゼミで出会った恋人の部屋で、恋人はさほど面白くもなさそうに言いながら、呼び出されてのこのこ顔を出した俺が履き古したスニーカーを脱がないうちに、玄関でスマホの画面を見せてきた。
まるでインターネットの工事みたいだと、開通という言葉の意味を考えるともなく考えながら、俺は画面に映る文字を口にする。
「四十代、バリタチ、明るくて優しい変態です」
ゲイ向けのマッチングアプリは、高級スーツに身を包むお金持ちそうな男性の上半身を写している。いかにもらしかった。
「経験豊富そうでちょうどいいだろ?」
「……」
「お前のせいだし。返事は?」
「……そうだね」
俺と恋人は、セックスがうまくいかない。
いざ挿入されるとなると、我慢してもあまりの痛みに泣いてしまい、やめてと叫んで逃げようとしてしまった。
押さえつけられ、口の中に靴下をねじ込まれて、体を拘束されながら犯され、切れて血まみれになった。下半身が鮮血に染まる俺の姿に恋人が萎えて終わったのは、二週間ほど前の出来事だ。
外傷は治ったものの、二度とセックスはしたくない。だが別れたくもなかった。
やれもしないのに恋人? と問われ、俺は何も言えなかった。だが彼は、別れるとまでは言わなかった。そこに一縷の望みを抱いていた。
そして今夜の呼び出しに至る。別れを覚悟していた俺に突きつけられたのは、残酷な選択だった。
「やられて慣れてこいよ。ムリならいらない」
「……わかった」
いらない、という言葉が突き刺さる。あれだけ想像して辛くなった別れようという言葉のほうが、現実よりもはるかにマシだった。
自分からの告白で付き合うようになった。当初、温度差はなかったと思う。
順調に交際して三ヶ月、セックスへの期待が高まっていき、あの失敗を機に、一気に冷められた。いまは目も合わない。繋ぎ止めようとする自分が滑稽に思える。
「じゃ、そういうことだから」
部屋を追い出されて、結局、靴も脱がなかった。二人で食べようと菓子を買ってきたけれど、差し出す暇もなかった。
雪が降ってきた。道理で寒いわけだ。かじかむ指に吐息を当ててすり合わせ、寒いなぁとひとりごちながら勝手に納得して、俺は恋人のアパートに背を向けて歩き出した。
227
あなたにおすすめの小説
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは(山端のは)
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
※ムーンライトノベルズにも掲載しております
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
愛憎の檻・義父の受難
でみず
BL
深夜1時過ぎ、静寂を破るように玄関の扉が開き、濡れそぼった姿の少年・瀬那が帰宅する。彼は義父である理仁に冷たく敵意を向け、反発を露わにする。新たな家族に馴染めない孤独や母の再婚への複雑な思いをぶつける瀬那に、理仁は静かに接しながらも強い意志で彼を抱きしめ、冷え切った心と体を温めようとする。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる