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第二章 男子トイレ、午後一時
六* 監視カメラ
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高岡主任は、少々申し訳なさげな表情で乗り込んできて、俺の隣に立った。
「徹平くん、社シス帰り?」
「はい」
「さっきは……。体は平気?」
「ええ」
「ごめん」
昨日やられたから、今日も感覚が残っていて、なかが柔らかかったみたいだ。痛くなかった。
謝られると困るな。
挿入のときはかなり無理やりだったけれど、ふたりでただ抱き合っていたときは、恋人に戻ったみたいで気持ちよかったんだよねぇ。
とんでもなく流される俺。
「徹平くんのそばにいると、むかしのことを思い出してしまって、触りたくてつい手が出る……」
そうはいうけど会社でやったことはないよ!?
いつかバレそう。
「あの、別れたときの話なんですけど……」
「うん」
「さっき言ったとおり、俺は、一方的に振ったつもりはなくて、なんていうか、そもそも島根で仲良くなって期間も三ヶ月で短かったから、関係を続けないものだと思っていて……」
たまたま近くにいたからノリで付き合うことになったというか。そしたらやたら楽しかったけど、離れたら続けようがないし。
高岡主任は形の良い眉を訝しげにひそめた。
「短いって? 僕と徹平くん、富山、八戸、徳島、姫路も一緒だったよね?」
「あっ、はい。姫路、楽しかったですよね!」
「うん。異動直後に、みんなで姫路城に行ったよね。あのとき、僕、徹平くんと二人になって、一緒になるの四ヵ所目なのに、徹平くんが余所余所しいから、迷惑かけてた僕のこと嫌いのかなって」
「迷惑?? 嫌いなはずないじゃないですか。なんというか、高岡主任は俺を覚えてないかなって」
「そんなわけないじゃん。富山の現場で僕の車がガス欠になったから夜にわざわざ迎えにきて家まで送ってくれたことも、八戸で道に迷ってたら連絡くれたことも、徳島で渋滞に巻き込まれて帰りが遅くなったとき、夜中まで待っていてくれたことも、ぜんぶ覚えてるし、徹平くんとの大事な思い出だよ。それに――」
「そんなのありましたっけ?」
「え……? もっと色々あるよ……? 僕たち、合計で三年弱一緒にいたんだよ……? 付き合ったのは松江だけど……」
隣に並ぶ高岡主任が手を繋いでこようとするので、俺は慌てて振り払った。
「あ……ごめん」
「いえ、違くて」
ここ監視カメラがある。
エレベーター内に、つい最近、監視カメラを設置した。俺担当。エレベーターの箱に入って真上を見たらカメラが見えるけれど、真上を見ないと見えない。死角になっている位置。
社内のイントラネットの掲示板で周知してるけど、高岡主任が来る前の出来事なので、おそらく高岡主任は知らないんだ。
「高岡主任、ここ――」
総務課と経理課のあるフロアに着いた。ちょうど上のフロアで会議があるのか、経理課のひとたちがエレベーター待ちをしていて、総務課の俺が降りるのを待っている。
俺は慌てて降りる。振り返る。
高岡主任の財務課は上。
乗り込んでいく人の向こうで、心許なさそうな表情を浮かべた高岡主任。
だから釈明したくなる。
誤解しないでほしい。振り払ったんじゃない。監視カメラに映ってしまったら、誰かに見られて、高岡主任の立場が悪くなる。だからなんだ。誤解だよ。
でも今は無理。ひとがたくさんいて、エレベーターはもう行っちゃった。
たしかに俺は、あれもこれも誤解だと言ってばっかりだ。
どうして、正しく伝えられないんだろう。
<第二章 終わり>
「徹平くん、社シス帰り?」
「はい」
「さっきは……。体は平気?」
「ええ」
「ごめん」
昨日やられたから、今日も感覚が残っていて、なかが柔らかかったみたいだ。痛くなかった。
謝られると困るな。
挿入のときはかなり無理やりだったけれど、ふたりでただ抱き合っていたときは、恋人に戻ったみたいで気持ちよかったんだよねぇ。
とんでもなく流される俺。
「徹平くんのそばにいると、むかしのことを思い出してしまって、触りたくてつい手が出る……」
そうはいうけど会社でやったことはないよ!?
いつかバレそう。
「あの、別れたときの話なんですけど……」
「うん」
「さっき言ったとおり、俺は、一方的に振ったつもりはなくて、なんていうか、そもそも島根で仲良くなって期間も三ヶ月で短かったから、関係を続けないものだと思っていて……」
たまたま近くにいたからノリで付き合うことになったというか。そしたらやたら楽しかったけど、離れたら続けようがないし。
高岡主任は形の良い眉を訝しげにひそめた。
「短いって? 僕と徹平くん、富山、八戸、徳島、姫路も一緒だったよね?」
「あっ、はい。姫路、楽しかったですよね!」
「うん。異動直後に、みんなで姫路城に行ったよね。あのとき、僕、徹平くんと二人になって、一緒になるの四ヵ所目なのに、徹平くんが余所余所しいから、迷惑かけてた僕のこと嫌いのかなって」
「迷惑?? 嫌いなはずないじゃないですか。なんというか、高岡主任は俺を覚えてないかなって」
「そんなわけないじゃん。富山の現場で僕の車がガス欠になったから夜にわざわざ迎えにきて家まで送ってくれたことも、八戸で道に迷ってたら連絡くれたことも、徳島で渋滞に巻き込まれて帰りが遅くなったとき、夜中まで待っていてくれたことも、ぜんぶ覚えてるし、徹平くんとの大事な思い出だよ。それに――」
「そんなのありましたっけ?」
「え……? もっと色々あるよ……? 僕たち、合計で三年弱一緒にいたんだよ……? 付き合ったのは松江だけど……」
隣に並ぶ高岡主任が手を繋いでこようとするので、俺は慌てて振り払った。
「あ……ごめん」
「いえ、違くて」
ここ監視カメラがある。
エレベーター内に、つい最近、監視カメラを設置した。俺担当。エレベーターの箱に入って真上を見たらカメラが見えるけれど、真上を見ないと見えない。死角になっている位置。
社内のイントラネットの掲示板で周知してるけど、高岡主任が来る前の出来事なので、おそらく高岡主任は知らないんだ。
「高岡主任、ここ――」
総務課と経理課のあるフロアに着いた。ちょうど上のフロアで会議があるのか、経理課のひとたちがエレベーター待ちをしていて、総務課の俺が降りるのを待っている。
俺は慌てて降りる。振り返る。
高岡主任の財務課は上。
乗り込んでいく人の向こうで、心許なさそうな表情を浮かべた高岡主任。
だから釈明したくなる。
誤解しないでほしい。振り払ったんじゃない。監視カメラに映ってしまったら、誰かに見られて、高岡主任の立場が悪くなる。だからなんだ。誤解だよ。
でも今は無理。ひとがたくさんいて、エレベーターはもう行っちゃった。
たしかに俺は、あれもこれも誤解だと言ってばっかりだ。
どうして、正しく伝えられないんだろう。
<第二章 終わり>
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