24 / 56
第四章 屋上、夜
三 辞令
しおりを挟む
「今日は助かったよ、結川」
「いえいえ! 成功を祈ってます!」
技術部くんは残業の休憩中にメッセージを送信し、帰宅した庶務の子とのデートを取り付けていた。すごい行動力!
デートの服装コーディネートのため、さっそく残業後にふたりでお店に寄って、俺は相談に乗っていた。帰りにごはんをご馳走してくれて、中華を食べた。
そろそろ解散しようかという技術部くんに、俺は思い出して言った。
「あ、そうだ。すぐそこに神社があるんですよ」
「神社?」
「ええ。小さいんですけど、縁結びなんです」
ビルとビルと民家の隙間にある小さな神社。
目立つ場所ではないのだけど、このあたりを散策しているときに見つけたんだ。街頭ひとつで暗いし、遅い時間帯だから周辺環境に配慮して小声。
発見! 赤い鳥居!
「ここです!」
「こんなところあるんだ」
「はい! 縁結びの願掛けしましょう!」
俺は彼を促して、なかに入って、鈴はなかったので、お賽銭箱に五円を入れて、ふたりで手を合わせる。
上手くいきますように!
頼むよ、神様。
べつにさ、社内プロジェクトだから成功したいって話ではないんだ。
何組が社内で成婚しようが、社外で成婚しようが、俺にノルマはないもんね。
俺は会社がいうみたいに、社内の仕事に没頭しすぎて婚期を逃しがちなひとのライフを充実させる目的でやっているわけでもない。
ただ単に、一歩を踏み出したひとを応援したいんだ。
最初は、きっと恥ずかしいはずなんだ。なのに、勇気を出して、俺に登録用紙を持ってきてくれた。
もちろん、そのままうまくいってほしい。
万一、今回はうまくいかなくても、いつかうまくいきますように。
「健闘を祈ります!」
「おう!」
「上手くいったら、次回は、相手の人とここに報告しにきちゃってくださいね」
「結川……」
そうして神社を出て、技術部くんと解散したところで俺の電話が鳴ったのである。
『高岡です』
「お疲れ様です」
かちかちとマウスを扱う音が聞こえる。
まだ職場みたいだ。
『徹平くん、イントラ掲示板に辞令でてるよ。業務時間外なのに。フライングじゃない?』
「えー!」
『神戸支社。噂、聞いてたよ。本当だったんだ』
「……はい」
神戸に行く件。
人事の係長か課長がミスったのかな。辞令がイントラにあがるのは来週月曜日の予定のはず。
俺は会社の方向に足を向ける。
「俺、異動になります」
『徹平くん』
「はい」
『僕、もう徹平くんと別れるつもりないよ』
えっ、いまって付き合ってるんだっけ。
てか周りに誰もいないよね?
まだ財務のデスクで仕事中のように聞こえるけど、半径十メートル以内に他の従業員はいないよね?
大丈夫だよね??
「とりあえず、記事おろしに行きますね。総務の管理者権限がないと非公開にできませんよね」
『うん。待ってる』
高岡主任は、どうするつもりなんだろう。
自分の人生。
もしいま、俺と付き合っていたとして、それでいいのかな。そういうところ、話さないといけないのかもしれない。
三年前の清算を終えた俺たちの、今後、進む道についてさ。
本社ビルに到着。
午後十時ともなると人の出入りはなくて、守衛さんに「トラブル対応です」といって入る。
一階ロビーの明かりは暗くて、遠くで咳払いや足音が聞こえたり、ちょっと気配があるだけ。
自分のデスクにいって、パソコンを立ち上げて、イントラに総務の管理者権限で入って、社内掲示板の公開済みになっている記事を非公開に戻して、来週月曜日の公開に設定し直して、そしたら作業は終わり、メールで報告して……。
頭の中で作業を組み立てながら、エレベーターに乗り込んだ俺は、財務課のフロアを押していた。
「いえいえ! 成功を祈ってます!」
技術部くんは残業の休憩中にメッセージを送信し、帰宅した庶務の子とのデートを取り付けていた。すごい行動力!
デートの服装コーディネートのため、さっそく残業後にふたりでお店に寄って、俺は相談に乗っていた。帰りにごはんをご馳走してくれて、中華を食べた。
そろそろ解散しようかという技術部くんに、俺は思い出して言った。
「あ、そうだ。すぐそこに神社があるんですよ」
「神社?」
「ええ。小さいんですけど、縁結びなんです」
ビルとビルと民家の隙間にある小さな神社。
目立つ場所ではないのだけど、このあたりを散策しているときに見つけたんだ。街頭ひとつで暗いし、遅い時間帯だから周辺環境に配慮して小声。
発見! 赤い鳥居!
「ここです!」
「こんなところあるんだ」
「はい! 縁結びの願掛けしましょう!」
俺は彼を促して、なかに入って、鈴はなかったので、お賽銭箱に五円を入れて、ふたりで手を合わせる。
上手くいきますように!
頼むよ、神様。
べつにさ、社内プロジェクトだから成功したいって話ではないんだ。
何組が社内で成婚しようが、社外で成婚しようが、俺にノルマはないもんね。
俺は会社がいうみたいに、社内の仕事に没頭しすぎて婚期を逃しがちなひとのライフを充実させる目的でやっているわけでもない。
ただ単に、一歩を踏み出したひとを応援したいんだ。
最初は、きっと恥ずかしいはずなんだ。なのに、勇気を出して、俺に登録用紙を持ってきてくれた。
もちろん、そのままうまくいってほしい。
万一、今回はうまくいかなくても、いつかうまくいきますように。
「健闘を祈ります!」
「おう!」
「上手くいったら、次回は、相手の人とここに報告しにきちゃってくださいね」
「結川……」
そうして神社を出て、技術部くんと解散したところで俺の電話が鳴ったのである。
『高岡です』
「お疲れ様です」
かちかちとマウスを扱う音が聞こえる。
まだ職場みたいだ。
『徹平くん、イントラ掲示板に辞令でてるよ。業務時間外なのに。フライングじゃない?』
「えー!」
『神戸支社。噂、聞いてたよ。本当だったんだ』
「……はい」
神戸に行く件。
人事の係長か課長がミスったのかな。辞令がイントラにあがるのは来週月曜日の予定のはず。
俺は会社の方向に足を向ける。
「俺、異動になります」
『徹平くん』
「はい」
『僕、もう徹平くんと別れるつもりないよ』
えっ、いまって付き合ってるんだっけ。
てか周りに誰もいないよね?
まだ財務のデスクで仕事中のように聞こえるけど、半径十メートル以内に他の従業員はいないよね?
大丈夫だよね??
「とりあえず、記事おろしに行きますね。総務の管理者権限がないと非公開にできませんよね」
『うん。待ってる』
高岡主任は、どうするつもりなんだろう。
自分の人生。
もしいま、俺と付き合っていたとして、それでいいのかな。そういうところ、話さないといけないのかもしれない。
三年前の清算を終えた俺たちの、今後、進む道についてさ。
本社ビルに到着。
午後十時ともなると人の出入りはなくて、守衛さんに「トラブル対応です」といって入る。
一階ロビーの明かりは暗くて、遠くで咳払いや足音が聞こえたり、ちょっと気配があるだけ。
自分のデスクにいって、パソコンを立ち上げて、イントラに総務の管理者権限で入って、社内掲示板の公開済みになっている記事を非公開に戻して、来週月曜日の公開に設定し直して、そしたら作業は終わり、メールで報告して……。
頭の中で作業を組み立てながら、エレベーターに乗り込んだ俺は、財務課のフロアを押していた。
556
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる