元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

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第四章 屋上、夜

三 辞令

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「今日は助かったよ、結川」
「いえいえ! 成功を祈ってます!」

 技術部くんは残業の休憩中にメッセージを送信し、帰宅した庶務の子とのデートを取り付けていた。すごい行動力!
 デートの服装コーディネートのため、さっそく残業後にふたりでお店に寄って、俺は相談に乗っていた。帰りにごはんをご馳走してくれて、中華を食べた。
 そろそろ解散しようかという技術部くんに、俺は思い出して言った。

「あ、そうだ。すぐそこに神社があるんですよ」
「神社?」
「ええ。小さいんですけど、縁結びなんです」

 ビルとビルと民家の隙間にある小さな神社。
 目立つ場所ではないのだけど、このあたりを散策しているときに見つけたんだ。街頭ひとつで暗いし、遅い時間帯だから周辺環境に配慮して小声。
 発見! 赤い鳥居!

「ここです!」
「こんなところあるんだ」
「はい! 縁結びの願掛けしましょう!」

 俺は彼を促して、なかに入って、鈴はなかったので、お賽銭箱に五円を入れて、ふたりで手を合わせる。
 上手くいきますように!
 頼むよ、神様。
 べつにさ、社内プロジェクトだから成功したいって話ではないんだ。
 何組が社内で成婚しようが、社外で成婚しようが、俺にノルマはないもんね。
 俺は会社がいうみたいに、社内の仕事に没頭しすぎて婚期を逃しがちなひとのライフを充実させる目的でやっているわけでもない。
 ただ単に、一歩を踏み出したひとを応援したいんだ。
 最初は、きっと恥ずかしいはずなんだ。なのに、勇気を出して、俺に登録用紙を持ってきてくれた。
 もちろん、そのままうまくいってほしい。
 万一、今回はうまくいかなくても、いつかうまくいきますように。

「健闘を祈ります!」
「おう!」
「上手くいったら、次回は、相手の人とここに報告しにきちゃってくださいね」
「結川……」

 そうして神社を出て、技術部くんと解散したところで俺の電話が鳴ったのである。

『高岡です』
「お疲れ様です」

 かちかちとマウスを扱う音が聞こえる。
 まだ職場みたいだ。

『徹平くん、イントラ掲示板に辞令でてるよ。業務時間外なのに。フライングじゃない?』
「えー!」
『神戸支社。噂、聞いてたよ。本当だったんだ』
「……はい」

 神戸に行く件。
 人事の係長か課長がミスったのかな。辞令がイントラにあがるのは来週月曜日の予定のはず。
 俺は会社の方向に足を向ける。

「俺、異動になります」
『徹平くん』
「はい」
『僕、もう徹平くんと別れるつもりないよ』

 えっ、いまって付き合ってるんだっけ。
 てか周りに誰もいないよね?
 まだ財務のデスクで仕事中のように聞こえるけど、半径十メートル以内に他の従業員はいないよね?
 大丈夫だよね??

「とりあえず、記事おろしに行きますね。総務の管理者権限がないと非公開にできませんよね」
『うん。待ってる』

 高岡主任は、どうするつもりなんだろう。
 自分の人生。
 もしいま、俺と付き合っていたとして、それでいいのかな。そういうところ、話さないといけないのかもしれない。
 三年前の清算を終えた俺たちの、今後、進む道についてさ。
 本社ビルに到着。
 午後十時ともなると人の出入りはなくて、守衛さんに「トラブル対応です」といって入る。
 一階ロビーの明かりは暗くて、遠くで咳払いや足音が聞こえたり、ちょっと気配があるだけ。
 自分のデスクにいって、パソコンを立ち上げて、イントラに総務の管理者権限で入って、社内掲示板の公開済みになっている記事を非公開に戻して、来週月曜日の公開に設定し直して、そしたら作業は終わり、メールで報告して……。
 頭の中で作業を組み立てながら、エレベーターに乗り込んだ俺は、財務課のフロアを押していた。

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