元カレが社内で迫ってくる

みつきみつか

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第四章 屋上、夜

二 連れ込まれる

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 ひとりでエレベーターに乗るとき、背後から声を掛けられた。

「屋上で何の話してたの?」

 目敏いな~。
 高岡主任。
 屋上の喫煙スペースで経営企画の次長と、渉外の主任と三人で話してたの、俺も見てた。高岡主任は吸わないひとなんだけど二人は電子タバコ。全員、キッチリスーツでシュっとしてる人たちだから、雰囲気の違う空間になってた。かっこよかった。

「いや、とくには……。雑談です」
「なんだか親密だったね」

 エレベーター内。ふたりきり。監視カメラはあるものの、マイクはついていないので、会話していても内容が誰かに漏れる危険はない。

「えーっと、秘密で……」
「秘密?」
「とてもプライベートなことなので……」
「ふーん」

 にこにこしてるけど内心いらついてるなー。誤解だって。
 てか何?
 嫉妬?
 俺に? 相手に?

「俺のことじゃなくて相手のことなんです」
「わかってるよ。からかっただけ」

 でもエレベーターを降りてすぐの打ち合わせ用ブースが空いているのをみて、流されるままに引きずり込まれる俺。高岡主任の後ろ手に閉まるドア。

「僕も徹平くんの時間が欲しい……」

 でも仕事中だってばよ。労働者の俺の就業中の時間は会社のものだよ。
 各フロアにある打ち合わせブースは、二、三名が入れる狭い個室だ。音は漏れない密室。室内に監視カメラはない。ドアの上半分は曇りガラスで、下はふつうのガラス。外から見える。
 俺を奥に押しやって、バレないようにキスしてくる。

「徹平くん、誰にでも愛想よくて親切で距離まで近くて困る」
「キスしたいのは高岡さんだけですよ」
「……っ」

 腕を回したら外に見えるから、屈んでくる高岡主任の胸に手を添える。
 あたたかい唇に、ワイシャツ越しの胸。触れているとドキドキしてきてたまらなくて、しかも俺だけではなく、高岡主任の鼓動も指先で感じる。
 ずっと気づかなかったな。高岡主任もドキドキしていること。
 どうして、ひっつきたくなるんだろう。触れたくなるんだろう。
 髪を梳かれて、頬を包まれて、舌を絡ませていると、多幸感に満たされる。
 このあいだの日曜日、オクトーバーフェストで、俺は三年前に付き合っていて再会した高岡主任との、別れの誤解をといた。
 つまり、俺は高岡主任が当時別れるつもりで「これからどうしようね」と切り出したのではないと理解した。
 高岡主任は、俺が「高岡さんと俺との関係は簡単に別れられる程度のものだったわけではなかった」と思っていたことを理解してくれた。
 日曜日の夜は、なんとなく一緒にいたくて、俺のほうから誘って、俺の部屋でセックスしたんだ。高岡主任はすごく幸せそうで、俺も、なんだか安心したのだった。
 その夜は、高岡主任は名残惜しそうに帰っていった。今週に入って、お互い忙しくて連絡することも約束も何もないまま。だから触れると、ドキドキと安心が同時進行。

「いつか見られちゃいますよ」
「叱られるかな」
「叱られるで済みます? 始末書で済んだらいいですけど。総務で回し読みされそう」
「添削してあげるよ」
「高岡主任も書くんですよ」

 なに楽しそうにニヤニヤしてるんだか。
 はあ。
 俺たちがこれから、どうするのか。
 そういう話しはまだしてない。
 でも、また付き合うっていうのは、どうなんだろうと俺は思ってる。
 高岡主任から何も話されてない以上、こちらから切り出すのも気が引ける。
 高岡主任が今も、むかしのように俺を好きでいるのかは定かでない。心のしこりだっただけかもしれない。
 しかも、俺はこのたび、神戸にいくことになった。高岡主任はしばらく本社にいるだろうけど、近い将来、シンガポールで買収計画のある会社に出向になることがほぼ確定してる。だから、高岡主任が本社にいるうちに仕留める必要があったんだ。
 それに、遠くなるだけではなくて、俺たちは男同士だ。
 高岡主任にとって、俺との関係なんて、デメリットしかない。そのデメリットも相当なダメージをともなうと思う。
 いつか来るお別れが、早いのか、それとも遅いのか。
 俺たちの関係というのは、そういう類のものなんだ。
 だから、高岡主任を縛るわけにはいかないんだ。
 そう思っているんだけど……。

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