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最終章 社内、午前八時
十三 お泊りセット
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姉に、
「俺、シンガポール行くかも」
とメッセージを送信したら、マーライオンの画像が送られてきた。
公用語は中国語、マレー語、英語だってさ、と調べて追い打ち。期せずして先に公用語を知っていた俺。
高岡主任の部屋に来ている。
午後十時。すっかり夜。
「部屋の鍵。僕の家で待ってて」
と、会社で部屋の鍵を渡されて、俺は一度自宅に戻り、それから高岡主任の部屋に来た。今日は重要な会議があって、総出だったらしい。
はー、脱力。
今日はたいへんだったな~。
午前午後は姉の付き合い。社シスくんへのお土産のために会社に行ったら、エレベーターホールであんなことになっちゃって。
あとから聞いたところによると、高岡主任はシンガポール行きに、条件をつけた。
結川徹平も同行してほしい、と。
そんなの、まかりとおるのかよ。
社シスくんが役員室で耳にした情報というのは、高岡主任が秘書課の女性をつれていくのではなく、秘書代わりに俺を連れていくという話だった。
で、俺はそれを、人事課長、労務の係長を通じて、翌日の月曜日、つまり明日知らされる予定だった。
勘違いによる前倒しってわけ。
そして俺は「問題解決により高岡主任のシンガポール行きが決まった」と皆様の前で叫んでしまい、俺が同行を了承したと勘違いした高岡主任と管理部長は大喜び。
勘違いのピタゴラスイッチにより俺のシンガポール行きが二足飛びに確定。
大団円。
呆然とする俺。
ビスケットを食う社シスくん。
エレベーターで菓子を食っていた犯人として、社シスくんは無事、役員にしぼられていた。
あーあ。
「えー、中国語……? 英語……?」
俺の大学のときの第二外国語はスペイン語でして……。ちなみにオラしか記憶にない。挨拶。
高岡主任は、俺がまだ打診されてないと途中で気づいたけど、都合が悪いのでスルーすることにしたらしい。
高岡主任はまだ帰ってきていないので、俺は部屋を失礼がない程度に片づけ、軽く掃除をしたり、夜食を作ったりして過ごしていた。風呂も入った。準備もした。高岡主任と、肌を重ねたいな……。
『てっぺい』かごには、俺のスウェットと、お泊まり用のセットがきちんと用意されていた。
喧嘩というか、揉めてしまった日の翌朝、脱いで置いていったもの。高岡主任が、俺のために買ってくれたスウェット。
ちゃんと洗って、畳んであって、高岡さんが俺を想いながらこれを用意していたと思うと、なんだか胸がぎゅっとなる。
もしかしたら、あのまま、ここには二度と来ないかもしれなかったのに。
このてっぺいシールを貼るときの、高岡主任の嬉しそうな様子を思い出し、俺は、なんであんな幸せを手放せるつもりでいたんだろうと不思議に思う。
一緒に暮らせないならせめて徹平くんを感じられるようにとつぶやいた、あの横顔を。
「修さん……」
あのときも、別れたくなかったから、そばにいたかったからこそ、答えを出せなかったんだ。
だから、いまはほっとしてる。
そっか、俺も同じ会社で、海外赴任か。シンガポール。
……いや、なんもできねぇよ。マジで。
どうするんだよ、これから。
言葉もできないのに、俺、いったい何の仕事するの?
会社内における人間関係をゴルフコンペで乗り切ってきただけの俺に、シンガポールでいったい何が通用するというの?
これまで以上に考えることが山積みだ。頭を抱えてしまう。
けど、高岡主任と離れ離れにならない方法が、もうひとつ見つかったことは、それはそれで、泣きたくなるんだ。
まだそばにいられる。
二度目のお別れは来なかったんだ。
「俺、シンガポール行くかも」
とメッセージを送信したら、マーライオンの画像が送られてきた。
公用語は中国語、マレー語、英語だってさ、と調べて追い打ち。期せずして先に公用語を知っていた俺。
高岡主任の部屋に来ている。
午後十時。すっかり夜。
「部屋の鍵。僕の家で待ってて」
と、会社で部屋の鍵を渡されて、俺は一度自宅に戻り、それから高岡主任の部屋に来た。今日は重要な会議があって、総出だったらしい。
はー、脱力。
今日はたいへんだったな~。
午前午後は姉の付き合い。社シスくんへのお土産のために会社に行ったら、エレベーターホールであんなことになっちゃって。
あとから聞いたところによると、高岡主任はシンガポール行きに、条件をつけた。
結川徹平も同行してほしい、と。
そんなの、まかりとおるのかよ。
社シスくんが役員室で耳にした情報というのは、高岡主任が秘書課の女性をつれていくのではなく、秘書代わりに俺を連れていくという話だった。
で、俺はそれを、人事課長、労務の係長を通じて、翌日の月曜日、つまり明日知らされる予定だった。
勘違いによる前倒しってわけ。
そして俺は「問題解決により高岡主任のシンガポール行きが決まった」と皆様の前で叫んでしまい、俺が同行を了承したと勘違いした高岡主任と管理部長は大喜び。
勘違いのピタゴラスイッチにより俺のシンガポール行きが二足飛びに確定。
大団円。
呆然とする俺。
ビスケットを食う社シスくん。
エレベーターで菓子を食っていた犯人として、社シスくんは無事、役員にしぼられていた。
あーあ。
「えー、中国語……? 英語……?」
俺の大学のときの第二外国語はスペイン語でして……。ちなみにオラしか記憶にない。挨拶。
高岡主任は、俺がまだ打診されてないと途中で気づいたけど、都合が悪いのでスルーすることにしたらしい。
高岡主任はまだ帰ってきていないので、俺は部屋を失礼がない程度に片づけ、軽く掃除をしたり、夜食を作ったりして過ごしていた。風呂も入った。準備もした。高岡主任と、肌を重ねたいな……。
『てっぺい』かごには、俺のスウェットと、お泊まり用のセットがきちんと用意されていた。
喧嘩というか、揉めてしまった日の翌朝、脱いで置いていったもの。高岡主任が、俺のために買ってくれたスウェット。
ちゃんと洗って、畳んであって、高岡さんが俺を想いながらこれを用意していたと思うと、なんだか胸がぎゅっとなる。
もしかしたら、あのまま、ここには二度と来ないかもしれなかったのに。
このてっぺいシールを貼るときの、高岡主任の嬉しそうな様子を思い出し、俺は、なんであんな幸せを手放せるつもりでいたんだろうと不思議に思う。
一緒に暮らせないならせめて徹平くんを感じられるようにとつぶやいた、あの横顔を。
「修さん……」
あのときも、別れたくなかったから、そばにいたかったからこそ、答えを出せなかったんだ。
だから、いまはほっとしてる。
そっか、俺も同じ会社で、海外赴任か。シンガポール。
……いや、なんもできねぇよ。マジで。
どうするんだよ、これから。
言葉もできないのに、俺、いったい何の仕事するの?
会社内における人間関係をゴルフコンペで乗り切ってきただけの俺に、シンガポールでいったい何が通用するというの?
これまで以上に考えることが山積みだ。頭を抱えてしまう。
けど、高岡主任と離れ離れにならない方法が、もうひとつ見つかったことは、それはそれで、泣きたくなるんだ。
まだそばにいられる。
二度目のお別れは来なかったんだ。
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