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番外編 ピロートーク(修視点)7話
三 更新プログラム
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松江営業所は、社員は僕と徹平くんの二人だ。地方採用のパート社員のおばさま一人が平日午前八時から午後三時勤務で、合計三人で回している。
あとは出入りの業者である下請け、孫請けのひとたちで構成されている。営業所長はおいておらず、岡山支社の管理下にある、ごくごく小さな営業所である。
三ヶ月と少し前、僕が異動してきた。
そこには僕の前任者と、僕がひそかに片想いをしている徹平くんがいた。
結川徹平くん。
明るくて朗らかで穏やかで一見普通のサラリーマン。
見た目は小動物風である。
ただし、キュートな外見とは裏腹に、実は裏の顔がある。
徹平くんは、問題を抱えた営業所や支社があれば、そこに送り込まれ、体力と人たらしと笑顔で問題を解決する、「パワハラ上司専用部下」と評価されている。
上司による理不尽なパワハラを、体育会系ド根性と笑顔でナチュラルに乗り切っていく。
なまじ体力と忍耐力が凄いため、理不尽を投げても投げても解決され、相手のほうが根負けする。
これまで異動先で幾人もの問題社員を更生させてきた実績により、徹平くんは陰で役員たちに「修正パッチ」だとか「更新プログラム」と呼ばれているのである。
その様子を、僕も目の当たりにしたことがある。徹平くんを知る前のことだ。
僕が、あるパワハラ上司にいじめられて嫌がらせを受け、退職を考えていたとき。
人事に相談したところ、「更新プログラムを送る」と言うので、いったい何の話だと怪訝に思って詳細を訊ねたら、後輩社員を異動させるということだった。
先輩ヅラして後輩社員をパワハラから庇おうとしたら、後輩社員はあっという間にパワハラ上司を手懐けていた。
その後輩社員こそが、徹平くんである。しかもパワハラ上司は、徹平くんの掌の上で転がされていることに最後まで気づいていなかった。
徹平くんはしれっと
「俺、あーいうひと得意なんです」
と言って、なんのこともなさそうだった。
僕は「心配して損した」という気持ちを抱えてしまったのだが、しばらくして営業所の飲み会の二次会で二人になったときに、
「あーいうひと得意なんですけど、しんどいので、高岡さんが庇ってくれたって聞いたとき、そんなのしてくれるひとは初めてで、めっちゃ嬉しかったです。いつも生贄にされるんで……」
とこぼしていて、徹平くんの印象が変わった。
その後、気付いた。
他の人と違って、徹平くんは僕を頼ろうとしない。むしろ、一緒に仕事をしていると、フォローしてくれることも多い。
気づかないうちに配慮されていることも多々あり、僕は気づきたいと思った。
それからは、徹平くんが、僕や他の人にしているフォローを、徹平くんが隠し通せるのか、僕が気付けるかを争う攻防戦のように思えてきた。
会えると嬉しいと思うようになるのに、時間はかからなかった。
なんとか視界に入りたくて、瓶底眼鏡をコンタクトにしたり、見た目に気を遣うようになった。
異動になって分かれると、僕は、徹平くんと同じ営業所への異動願を出し続けた。仕事で成功した褒美に、何度か一緒にしてもらえた。
そしてとうとう、島根で一緒になることになったのだ。
定員二名の小さい営業所なので、向かい合わせのデスクになる。楽しみでならなかった。
僕の前任者は引き継ぎ後に異動していく。僕は徹平くんとふたりになれて幸せを満喫する予定だった。
しかし、いざふたりになる直前、僕の前任者が恐ろしいことを言い残していったのだ。
取引先の社長は、結川狙いのゲイである――と。
そのとき初めて、自分が徹平くんにずっと片想いしていたことに気づいた。わかっていたが、そこだけは気づかないようにしていたといったほうが正確かもしれない。
「会いたい」の正体に名前がついてしまった。
そして困った。
このまま、見過ごすのか。
遅刻寸前のように焦った。
とにかく居ても立ってもいられず、僕は酒の力で、徹平くんとの交際を取り付けることに成功した。
告白して、もし徹平くんから嫌がられたら、酒のせいで口が滑ったとか、冗談だと誤魔化すつもりだった。
普段の雰囲気からして恋人はいなさそうだったが、もしいたら立ち直れないとも思っていた。本当は恋人の有無など、確かめたくなかったほどだ。
自他ともにイエスマンと認める徹平くんは僕の告白に、いとも簡単にイエスと答えた。
危ないところだった。
もし社長の告白のほうが早かったらと思うとぞっとする。120%イエスである。
大雪対応をふたりで乗り切ったお疲れさま会を部屋でとりおこない、真夜中に告白した。あのときは、緊張で息が止まるかと思った。
翌日の昼に起きてアルコールが抜けて、僕は「あれは夢だったのかな?」と言いたげな顔をしている徹平くんに、「せっかくお付き合いするからには、ふたりで楽しく過ごしたい」などと言ってダメ押ししておいた。
それからというもの、できる限りふたりで過ごすようになり、あらゆる観光地をデートし、ふたりで過ごした。
徹平くんは社交的で性格が良く、相性も良く、打ち解けるとさらに仲が深まり、手をつなぐのも、キスをするのも、スムーズだった。
付き合って、明日で三ヶ月目に突入する。
さいきん、お互いの部屋でキスをするうちに、触れる時間が長くなって、舌を絡ませるようになっていた。
先週の土日はキスをして、流れでまさぐりあって、お互いに脱いで、下着姿になって、徹平くんの体を舐めたりして、下着の上からこすりあった。
体をつなげたい。そんな衝動が自分にあったなんて。
しかし、どうすればいいのかわからない。
結果、触り合って、僕は緊張してすぐに出してしまい、徹平くんも、僕が舐めたらすぐに出た。
お互いになんとか平静を取り繕い、そこからは、誤魔化すように明るく楽しく過ごした。
帰り際、僕は素知らぬ顔でいるのは限界で、追い詰められているみたいに、
「次は、徹平くんとセックスしたい」
と言った。
徹平くんは真っ赤になって、
「俺も、修さんと、したいです」
と答えたのだった――。
あとは出入りの業者である下請け、孫請けのひとたちで構成されている。営業所長はおいておらず、岡山支社の管理下にある、ごくごく小さな営業所である。
三ヶ月と少し前、僕が異動してきた。
そこには僕の前任者と、僕がひそかに片想いをしている徹平くんがいた。
結川徹平くん。
明るくて朗らかで穏やかで一見普通のサラリーマン。
見た目は小動物風である。
ただし、キュートな外見とは裏腹に、実は裏の顔がある。
徹平くんは、問題を抱えた営業所や支社があれば、そこに送り込まれ、体力と人たらしと笑顔で問題を解決する、「パワハラ上司専用部下」と評価されている。
上司による理不尽なパワハラを、体育会系ド根性と笑顔でナチュラルに乗り切っていく。
なまじ体力と忍耐力が凄いため、理不尽を投げても投げても解決され、相手のほうが根負けする。
これまで異動先で幾人もの問題社員を更生させてきた実績により、徹平くんは陰で役員たちに「修正パッチ」だとか「更新プログラム」と呼ばれているのである。
その様子を、僕も目の当たりにしたことがある。徹平くんを知る前のことだ。
僕が、あるパワハラ上司にいじめられて嫌がらせを受け、退職を考えていたとき。
人事に相談したところ、「更新プログラムを送る」と言うので、いったい何の話だと怪訝に思って詳細を訊ねたら、後輩社員を異動させるということだった。
先輩ヅラして後輩社員をパワハラから庇おうとしたら、後輩社員はあっという間にパワハラ上司を手懐けていた。
その後輩社員こそが、徹平くんである。しかもパワハラ上司は、徹平くんの掌の上で転がされていることに最後まで気づいていなかった。
徹平くんはしれっと
「俺、あーいうひと得意なんです」
と言って、なんのこともなさそうだった。
僕は「心配して損した」という気持ちを抱えてしまったのだが、しばらくして営業所の飲み会の二次会で二人になったときに、
「あーいうひと得意なんですけど、しんどいので、高岡さんが庇ってくれたって聞いたとき、そんなのしてくれるひとは初めてで、めっちゃ嬉しかったです。いつも生贄にされるんで……」
とこぼしていて、徹平くんの印象が変わった。
その後、気付いた。
他の人と違って、徹平くんは僕を頼ろうとしない。むしろ、一緒に仕事をしていると、フォローしてくれることも多い。
気づかないうちに配慮されていることも多々あり、僕は気づきたいと思った。
それからは、徹平くんが、僕や他の人にしているフォローを、徹平くんが隠し通せるのか、僕が気付けるかを争う攻防戦のように思えてきた。
会えると嬉しいと思うようになるのに、時間はかからなかった。
なんとか視界に入りたくて、瓶底眼鏡をコンタクトにしたり、見た目に気を遣うようになった。
異動になって分かれると、僕は、徹平くんと同じ営業所への異動願を出し続けた。仕事で成功した褒美に、何度か一緒にしてもらえた。
そしてとうとう、島根で一緒になることになったのだ。
定員二名の小さい営業所なので、向かい合わせのデスクになる。楽しみでならなかった。
僕の前任者は引き継ぎ後に異動していく。僕は徹平くんとふたりになれて幸せを満喫する予定だった。
しかし、いざふたりになる直前、僕の前任者が恐ろしいことを言い残していったのだ。
取引先の社長は、結川狙いのゲイである――と。
そのとき初めて、自分が徹平くんにずっと片想いしていたことに気づいた。わかっていたが、そこだけは気づかないようにしていたといったほうが正確かもしれない。
「会いたい」の正体に名前がついてしまった。
そして困った。
このまま、見過ごすのか。
遅刻寸前のように焦った。
とにかく居ても立ってもいられず、僕は酒の力で、徹平くんとの交際を取り付けることに成功した。
告白して、もし徹平くんから嫌がられたら、酒のせいで口が滑ったとか、冗談だと誤魔化すつもりだった。
普段の雰囲気からして恋人はいなさそうだったが、もしいたら立ち直れないとも思っていた。本当は恋人の有無など、確かめたくなかったほどだ。
自他ともにイエスマンと認める徹平くんは僕の告白に、いとも簡単にイエスと答えた。
危ないところだった。
もし社長の告白のほうが早かったらと思うとぞっとする。120%イエスである。
大雪対応をふたりで乗り切ったお疲れさま会を部屋でとりおこない、真夜中に告白した。あのときは、緊張で息が止まるかと思った。
翌日の昼に起きてアルコールが抜けて、僕は「あれは夢だったのかな?」と言いたげな顔をしている徹平くんに、「せっかくお付き合いするからには、ふたりで楽しく過ごしたい」などと言ってダメ押ししておいた。
それからというもの、できる限りふたりで過ごすようになり、あらゆる観光地をデートし、ふたりで過ごした。
徹平くんは社交的で性格が良く、相性も良く、打ち解けるとさらに仲が深まり、手をつなぐのも、キスをするのも、スムーズだった。
付き合って、明日で三ヶ月目に突入する。
さいきん、お互いの部屋でキスをするうちに、触れる時間が長くなって、舌を絡ませるようになっていた。
先週の土日はキスをして、流れでまさぐりあって、お互いに脱いで、下着姿になって、徹平くんの体を舐めたりして、下着の上からこすりあった。
体をつなげたい。そんな衝動が自分にあったなんて。
しかし、どうすればいいのかわからない。
結果、触り合って、僕は緊張してすぐに出してしまい、徹平くんも、僕が舐めたらすぐに出た。
お互いになんとか平静を取り繕い、そこからは、誤魔化すように明るく楽しく過ごした。
帰り際、僕は素知らぬ顔でいるのは限界で、追い詰められているみたいに、
「次は、徹平くんとセックスしたい」
と言った。
徹平くんは真っ赤になって、
「俺も、修さんと、したいです」
と答えたのだった――。
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