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しおりを挟む目覚ましは滅多にかけねえが。
大体決まった時間に眼が覚める。
「……」
なんか違和感。
空気が違う。
コーヒーと食いもんの匂い。
なんだ?
「あ。起きた?」
石倉の笑う顔。
昔と変わんねえな。
俺はなんで石倉の笑う顔覚えてんだろう。
しゃべった事無かったのに。
3年間、同じ教室にいた。それだけなのに。
「おはよっ!って昼過ぎてるし」
「ああ…おはよ」
起きたら。
テーブルの上にコーヒーとなんか入った皿。
「ご飯、食べて!」
俺は朝メシは食わねえんだが。
同伴でメシ食うし。
アフターも飲み食いすっから。太る。
「いや、俺メシは…」
「なに言ってんのよ。朝ご飯食べないと脳が働かないんだよ!食べて!」
面倒くせえ。
旨そうな匂いはすっけど。
「なんでため息つくのよ」
石倉なりに。礼のつもりなんだろうが。
正直、面倒くせえ。
「食べないの…?」
困った様な顔する。
マジ。面倒くせえな。
「なにこれ」
テーブルの前でスプーンで皿の中身つつく。
「卵のリゾット。胃に優しいよ」
「ふうん。ウチ、卵とかあったっけ?」
「コンビニで買ってきた。スーパー近くにあれば良いのに。コンビニって高い!」
おばちゃんか、お前は。
スプーンで掬って一口。
石倉の期待に満ちた顔。
「…旨えな」
うん。期待してなかったけど。旨い。
「やったあ!」
ガッツポーズの石倉。
「お前、料理上手いんだな」
「えへへー」
ニタニタすんな。
「自炊は中学校の頃からしてるからね」
へえ。そうですか。
「お兄ちゃんに美味しいもの食べさせてあげたかったから、頑張ったんだ」
「お兄ちゃん?」
「10歳上なんだけど。優しくて、いっつもあたしの事考えてくれて。そんで…」
コイツ。
ブラコンだ。
「お兄ちゃんはね、あたしの事凄い可愛がってるから。莉緒が幸せになるまで見届けるとか言って、彼女も作んないで」
お前の兄ちゃんとかどうでも良い。
「お兄ちゃんが頑張って高校行かせてくれたから、あたしも頑張ってお兄ちゃんにお返ししなきゃなんないの」
高校、って。
「お前。親は」
「いないよ。中一の時二人共死んじゃったから」
そうか。それは。
「悪い事聞いたな…」
「でもね、お兄ちゃんが仕事頑張って短大まで行かせてくれて。それでね」
いや、もう良いって。
そんな兄貴がいるんなら。なんで。
「お前、兄貴んとこ行けば良いじゃねえか」
「……」
兄貴のハナシではしゃいでた顔が。
暗くなる。
「今…連絡取れなくて」
なんでだ。
「時々電話くれるけど…仕事であちこち行ってるから」
「携帯ぐれえ持ってるだろ」
「わかんない…」
なんだそれ。
可愛い妹なら連絡先くれえ教えるだろ。
「おま…」
おっと。
客から電話だ。
「黙ってろよ」
石倉がぶんぶん縦に首振った。
「はい、龍二です。どうしたの?」
『あのね、今日の約束の時間ずらせるかしら?残業なりそうなの』
「良いよ。仕事大変だね。頑張ってる人好きだけど頑張り過ぎないでね」
『龍二優しい!じゃ何時にする?』
「そうだな、俺は何時でも…」
いきなり。
けたたましい着信音。
石倉が自分の携帯お手玉する。
『…なに?』
「ああ、今外なんだよ。隣いる人がさっきから携帯煩くてさ」
どうにか誤魔化して電話切った。
「…石倉あ」
「やっ、ごめんなさい!鳴ると思わなくてっ」
「てめえも水商売してんだろが。マナーにしとけよ」
「やっ、ホントすいません!なんで三白眼なんすかっ!なんで手グーなのっ」
石倉のこめかみ。
「ぎゃあっ!いでででっ!!」
グリグリしてやった。
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