医食武同源 ~お江戸健康生活探求物語~

篁千夏

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【コラム】和食は最高! ……なのか?

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本作は、医食同源という言葉に、武を加え、食と健康について考える作品ですが。
日本食サイコー!と褒め称える内容ではないので、最初に釘を差しておきますね。
また、玄米食を信仰のレベルで称賛する意見に、与するものでもありませんので。

たしかに日本食は、魚介類に穀物が中心で低脂肪、ヘルシーと思われていますが。
しかしそれは、近代栄養学の視点からヘルシーなメニューを組み合わせればです。
当たり前に話ですが、ここを見逃している日本食礼賛本が、かなり目につきます。
西洋で発達した科学には、普遍性と再現性があり、否定すべきではないのですよ。

むしろ江戸時代の庶民の食事メニューを見ると、炭水化物過多でタンパク質不足。
味噌汁にしろ梅干しにしろ漬物にしろ、現在のより遥かに塩分が高かったんです。
ある意味、塩で飯を食べていた部分があり、脳卒中で倒れる人も多かったのです。
塩分の多い食事は、高血圧を引き起こし、脳卒中の原因のひとつになるのですね。

もう一点、日本の場合は肥料に人糞を使うため、寄生虫が多かった面もあります。
戦後、日本にやって来たGHQは、日本人の寄生虫の保有率の多さに驚いたとか。
昔懐かしの映像で、DDTでノミやシラミの駆除を受ける子供が多かったように。
日本人は清潔好きですが、体内にも体外にも、寄生虫がとても多かったんですね。

このためか、野菜は湯がいて食べるものが多く、大根などの根菜類も多いですね。
野菜の生食=サラダが発達せず、このため各種のビタミン類も不足しがちでした。
ここらへんは叶精作先生と組んだ拙作『はんなり半次郎』でもネタにしましたが。
江戸時代の食事礼賛に対する疑義が、本作品の企画の段階で意図したものでした。

さらに日本人には、「コレさえ食べておけば充分」みたいな秘薬信仰があります。
食事はバランスが大事、炭水化物・タンパク質・脂質の量と質を考えるのが基本。
各種ビタミンも過不足なく、微量元素も適時適材適所で。積み重ねが健康を維持。
なにか、特別な食材を薬剤的に取りさえすれば健康になる、というのは幻想です。

作品に武術を取り入れたのは、そもそも日本人にスポーツの概念がないからです。
江戸時代にスポーツ的な形で健康維持する人間は、そもそも存在しませんでした。
個人的な楽しみを「道楽」と呼び、修業的なものよりも下に見る風潮もあります。
お釈迦様は苦行では悟りを得られないと説いたのに、苦行的な方向を好みますし。

ただ、武術自体は長い歴史の中で積み重ねられた、貴重な経験と工夫の集積です。
こちらが日本人自身に軽視されるのは、とても寂しいという部分が、大きいです。
日本に武道修業に来たフランス人曰く、柔道の内股という技を見つけた人は天才。
頸動脈を圧迫する絞め技で、戦闘力を奪う発想は欧州では生まれ得なかった…と。

良き部分も含めて、是々非々で盛り込めないか…というのが、企画の原点でした。
上手くできているかはわかりませんが、なんとか物語に落とし込めたら幸いです。
もともと、こういうコラムとセットで考えていた企画ですので、ご笑覧ください。
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