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第1章 憂鬱
第6話 マドモアゼル
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「たっ、たっ、琢磨君のこと知ってるの?!」
マスターのため口が移ってしまったようだ。でもなぜだかあまり違和感が無い。逆に話がし易くて、これはこれでいいのかも知れない。で、話を元に戻すと......
恐らくこの時、私の眉毛は20センチ程飛び上がってたと思う。だってこの人の口からそんな名前が飛び出すなんて、夢にも思ってなかったんだから。
「いや、会ったことも無ければ話したこと無い。だから顔も知らん。それがどうかしたか?」
カシャ、カシャ、カシャ......この人は多分、心底意地か悪いんだと思う。そんな私の驚きに対して全く無反応。しかも気取った手つきで淡々と食器を片している。こっちは必死になってるんだから、少しくらい手休めたらどうなのよ!
い、いけない......この人はきっと私を試してるんだ。琢磨って呼び捨てにしてるくらいだから、きっと友達なんだろう。ならば琢磨君が私を振った理由を知ってるのかも?
そう......きっとそうよ。この人はその理由を私に話そうか迷ってるんだ! よし、ならば、少し頭を冷やして......
「琢磨君は交遊が広い人。きっとあなたもその一人なんでしょう。因みに......彼、私のこと何か言ってました?」
「そんなに焦る必要も無いだろう。時間はたっぷり有るんだから。まずは一杯作らせてくれ。手伝って貰ったお礼だ」
おごってくれるのは有難いと思う。ただちょっと一点だけ聞き捨てならないことが有るんだけど......た、たっぷり時間は有るってどう言うことなのよ?!
そりゃあ有りますよ。振られてデートが無くなっちゃったんだから。でもその会話の中で、敢えてそれを言う必要性がどこに有るの? 『手伝って貰ったから一杯おごる。話はその後で』でいいんじゃない?!
何だかだんだん腹立ってきた。やっぱ聞くこと聞いたらとっとと帰ろう......こんな所に居たって、心の穴なんか埋まりやしない。
するとマスターは頼んでもいないのに、『全て』のタネ明かしを始めたのである。とにかくこの余計なお節介が気に入らないわ......
「不審に思っただろうけど......俺は色々なことを観察して推理するのが癖になっちゃってる訳だ。
まず①、マドモアゼルは雪夜に傘も持たずに店へ入って来た。今も傘立てに傘が無いから間違い無いだろう。これだけでも、普通の状態じゃ無いことが分かる。
次に②、マドモアゼルは店に入る直前まで泣いていた。それは流れ落ちたマスカラと、涙の跡を見れば誰でも分かることだ。
そして③、マドモアゼルは男へのプレゼントを長時間雪に当てないようコートの中で温めていた。クシャクシャになった紙袋を見れば一目瞭然だ。まだホカホカしてるんじゃないか?
更に④、マドモアゼルはそんな状態でたった一人この店へやって来た。トータル的に見れば、失恋したことは明らかだ。お悔やみ申し上げます。(誰がマドモアゼルだっ?! まぁ......確かに私はまだ独身だけどね)
そして最後に......⑤、これは俺からマドモアゼルへのプレゼントだ。プレゼントだからお代は要らん。もっとも、要らなきゃ捨てるだけのことだが......」
見ればマスターは得意満面、カウンターの内側から何やら白い円形状の物体を差し出している。
「こっ、これは?!」
「『Ristorante Venezia』へ9時半指定で届ける予定だった代物だ。さっき電話があって、キャンセル出来るかと聞かれたんだが、もう作っちゃったからそれは困ると答えたところ。
あの店、なんか急に専属のパテシエが辞めちゃったらしくて、うちにケーキの依頼が来るようになった訳だ。ハッ、ハッ、ハッ」
それは何と、『琢磨君、誕生日おめでとう!』......そんなチョコレートのメッセージボードが掲げられたバースデーケーキだったのである。
!!! それを見た途端、頭の中が真っ白になっていく。まるで天空の大草原を白馬に股がり、駆け巡っているかのようだった。やがて......そんな白馬から豪快に落馬した私は、再び現実の世界へと強制的に舞い戻って来たのでした。
お陰で理解出来たわ。私が琢磨君に振られたことをあなたが知ってた理由。それと、それと、それと......あなたがデリカシーの無い最低人間だってことをね! もう、もう、もう、我慢の限界よ!
「全てを分かった上で、あなたはこれを私にプレゼントするって言うのね? しかもハッ、ハッ、ハッですって! バカにしないでよ! 私が振られたことが、あなたはそんなに楽しいの? もう帰る!
その前に......私もあなたに言いたいことを言わせて貰う。さっきから見てるとお客さん一人も来ないじゃない! そりゃそうでしょう。こんな客を不愉快にさせる店なんか誰が来るって言うの? とっとと潰れちゃえばいいのよ! うっ、うっ、うっ......」
何て日だ! 今日はもう最低......こんな店やっぱ来るんじゃ無かった。
マスターのため口が移ってしまったようだ。でもなぜだかあまり違和感が無い。逆に話がし易くて、これはこれでいいのかも知れない。で、話を元に戻すと......
恐らくこの時、私の眉毛は20センチ程飛び上がってたと思う。だってこの人の口からそんな名前が飛び出すなんて、夢にも思ってなかったんだから。
「いや、会ったことも無ければ話したこと無い。だから顔も知らん。それがどうかしたか?」
カシャ、カシャ、カシャ......この人は多分、心底意地か悪いんだと思う。そんな私の驚きに対して全く無反応。しかも気取った手つきで淡々と食器を片している。こっちは必死になってるんだから、少しくらい手休めたらどうなのよ!
い、いけない......この人はきっと私を試してるんだ。琢磨って呼び捨てにしてるくらいだから、きっと友達なんだろう。ならば琢磨君が私を振った理由を知ってるのかも?
そう......きっとそうよ。この人はその理由を私に話そうか迷ってるんだ! よし、ならば、少し頭を冷やして......
「琢磨君は交遊が広い人。きっとあなたもその一人なんでしょう。因みに......彼、私のこと何か言ってました?」
「そんなに焦る必要も無いだろう。時間はたっぷり有るんだから。まずは一杯作らせてくれ。手伝って貰ったお礼だ」
おごってくれるのは有難いと思う。ただちょっと一点だけ聞き捨てならないことが有るんだけど......た、たっぷり時間は有るってどう言うことなのよ?!
そりゃあ有りますよ。振られてデートが無くなっちゃったんだから。でもその会話の中で、敢えてそれを言う必要性がどこに有るの? 『手伝って貰ったから一杯おごる。話はその後で』でいいんじゃない?!
何だかだんだん腹立ってきた。やっぱ聞くこと聞いたらとっとと帰ろう......こんな所に居たって、心の穴なんか埋まりやしない。
するとマスターは頼んでもいないのに、『全て』のタネ明かしを始めたのである。とにかくこの余計なお節介が気に入らないわ......
「不審に思っただろうけど......俺は色々なことを観察して推理するのが癖になっちゃってる訳だ。
まず①、マドモアゼルは雪夜に傘も持たずに店へ入って来た。今も傘立てに傘が無いから間違い無いだろう。これだけでも、普通の状態じゃ無いことが分かる。
次に②、マドモアゼルは店に入る直前まで泣いていた。それは流れ落ちたマスカラと、涙の跡を見れば誰でも分かることだ。
そして③、マドモアゼルは男へのプレゼントを長時間雪に当てないようコートの中で温めていた。クシャクシャになった紙袋を見れば一目瞭然だ。まだホカホカしてるんじゃないか?
更に④、マドモアゼルはそんな状態でたった一人この店へやって来た。トータル的に見れば、失恋したことは明らかだ。お悔やみ申し上げます。(誰がマドモアゼルだっ?! まぁ......確かに私はまだ独身だけどね)
そして最後に......⑤、これは俺からマドモアゼルへのプレゼントだ。プレゼントだからお代は要らん。もっとも、要らなきゃ捨てるだけのことだが......」
見ればマスターは得意満面、カウンターの内側から何やら白い円形状の物体を差し出している。
「こっ、これは?!」
「『Ristorante Venezia』へ9時半指定で届ける予定だった代物だ。さっき電話があって、キャンセル出来るかと聞かれたんだが、もう作っちゃったからそれは困ると答えたところ。
あの店、なんか急に専属のパテシエが辞めちゃったらしくて、うちにケーキの依頼が来るようになった訳だ。ハッ、ハッ、ハッ」
それは何と、『琢磨君、誕生日おめでとう!』......そんなチョコレートのメッセージボードが掲げられたバースデーケーキだったのである。
!!! それを見た途端、頭の中が真っ白になっていく。まるで天空の大草原を白馬に股がり、駆け巡っているかのようだった。やがて......そんな白馬から豪快に落馬した私は、再び現実の世界へと強制的に舞い戻って来たのでした。
お陰で理解出来たわ。私が琢磨君に振られたことをあなたが知ってた理由。それと、それと、それと......あなたがデリカシーの無い最低人間だってことをね! もう、もう、もう、我慢の限界よ!
「全てを分かった上で、あなたはこれを私にプレゼントするって言うのね? しかもハッ、ハッ、ハッですって! バカにしないでよ! 私が振られたことが、あなたはそんなに楽しいの? もう帰る!
その前に......私もあなたに言いたいことを言わせて貰う。さっきから見てるとお客さん一人も来ないじゃない! そりゃそうでしょう。こんな客を不愉快にさせる店なんか誰が来るって言うの? とっとと潰れちゃえばいいのよ! うっ、うっ、うっ......」
何て日だ! 今日はもう最低......こんな店やっぱ来るんじゃ無かった。
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