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第2章 波乱
第15話 ゴ・ミ
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そして9階。近くに高い建物が無いせいか、廊下から見下ろす景色はやたらと爽快だった。正面に小さく見える明かりは、琢磨君とよく夜食を買いに行ったコンビニだ。
楽しい話をしながら手を繋いで歩いた記憶が直ぐに甦ってくる。あの時は本当に幸せだったし、別れの時がこんなにも早く訪れるなんて夢にも思って無かった。不味い......また目がウルウルして来たわ。
「おい、何外見て暮れなずんでんだ? 琢磨の思い出に浸ってんのか?」
「別に」
突然声掛けられて、思わず顔を背けてしまう。また泣いてる姿を見られたく無かったから。こんな私でも、まだ少しはプライドが残ってたらしい。
正直......自分の心内をズバズバ言い当てられるのに、少し慣れて来た気がする。まぁ、心が強くなって来てる訳なんだから、それはそれでいいんだけどね......
「マドモアゼルは、俺の後ろに隠れてればいいぞ。後は任せといてくれ」
「うん......」
そして遂に、戦いの火蓋が切って落とされたのである。ピンポーン......喜太郎さんは、私が深呼吸する間すら与えずに、いきなりインターホンを押したのでした。そんなことをすれば、当然のように、中から人が出て来ちゃうじゃない! ああ、なんてことしてくれるの......
やがて、ギー、バタン。
「影山琢磨さんですね」
「ああ、はい。そうです」
うわぁ、居た......ハルマゲドン!
「お荷物です。ここに受領印お願いします」
とにかく自然体。喜太郎さんは澄まし顔で『Paul Smith』を差し出してる。どこをどう見たって普通の宅配員。文句の付けようの無い化けっ振りだ。
一方、琢磨君の方はと言うと、伝票に書かれている『差出人:桜木結衣』の文字と、紙袋に描かれている『Paul Smith』のロゴを見詰めながら、何やら眉間にシワ寄せてる。と言うよりか鋭い目付きで睨み付けてる。荷物に触ってみれば、直ぐにそれがネクタイだって分かる筈だ。
何だか今にも怒り出しそうで恐いんだけど......大丈夫かな? 受け取ってくれる? それとも受け取ってくれない? 頼むから受け取って下さい! 取り敢えず私の目の前で投げ飛ばしたりしないで!
そんな私の不安を他所に、琢磨君が下した判定はと言うと......
「なるほどね......こいつの気持ちがよく分かったよ!」
見れば琢磨君は、顔を真っ赤に紅潮させてる。しかも目は吊り上がってるし、眉間には更なる無数のシワが飛び出してる。それって、もしかして、もしかして......怒ってる? あらら......完璧に怒ってるわ。
「次の配達が有るんだから、早く受領印押してくれよ」
「ふんっ、荷物の受け取りを拒否する。こんな『ゴミ』なんかさっさと持ち帰ってくれ」
そんな捨てセリフを吐きながら、ポイッ。何と『Paul Smith』を喜太郎さんに向けて投げ飛ばしたのである。
この時、ピキッ......喜太郎さんの血管からそんな音が聞こえた気がした。案の定、鬼の形相を浮かべてるじゃない!
「おい、ちょっと待ってくれ」
その声は驚く程に低かった。なんでそんなに低いのよ!
「ん、まだ用が有んのか?」
こっちもこっちでバリトンボイスだ。琢磨君も低過ぎる!
「俺の空耳かも知れないが......あんた今この荷物を『ゴミ』って言ったな?」
「ほほう......『ゴミ』を『ゴミ』と言って何が悪い? 大体そんなの宅配屋に関係無いだろ」
うわぁ、完全にバチり始めてる......頼むから止めてよぉ。もう私は喜太郎さんの背中でブルブル震えてることくらいしか出来ることは無かった。
「もう一度聞くぞ。今あんたは、マドモアゼルが愛情込めて買った極上の『Paul Smith』を、ことも有ろうか『ゴ・ミ』と・言・っ・た・ん・だ・な!」
もうストレートに喧嘩売ってるじゃん! しかも半分正体明かしてるし。もうぐちゃぐちゃだわ。
「愛情込めてだと? ふざけんなっ!」
「ふざけんなは、お前の方だ!」
バシッ!......遂に始まってしまった。気付けば喜太郎さんは、琢磨君の襟首を掴んで思いっきりたくし上げてる。今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
まさかこれも喜太郎さんの計算尽くされた作戦だって言うの? だったらちょっとやり過ぎだよ! 予想だにもしなかった修羅場の到来に、私の頭は全くついていけない。
「こっ、こいつ狂ってる! おい、警察呼んでくれ!」
きっと家の中に誰か居るんだろう。琢磨君は後ろを向いてそんな言葉を投げ付け始めた。
「警察だと? 上等じゃねぇか! 警察が来て困るのはそっちの方じゃないのか?! 大体なぁ、マドモアゼルがどんな辛い気持ちで、今日を過ごしたのかお前分かってんのか? 一度は愛したお前の女なんだろ。男として恥ずかしく無いのかよ?!」
「マドモアゼル? 誰だそりゃ? こいつは何言ってんだ?!」
いつの間にやら喜太郎さんは、勢いで家の中に入っちゃってるし。それ完璧な家宅侵入じゃん!
ついさっきまでずっと冷静だった喜太郎さん......それが一体どうしちゃったって言うんだろう? このままじゃ琢磨君、怪我しちゃいそうだし、そんなことになったら喜太郎さんもただじゃ済まない。やっぱダメ。止めなきゃ......止めなきゃ!
今私が止めなきゃ、誰が止める!
そんなこんなで......遂に私は我慢の限界に達したのでした。
「喜太郎さんもう止めて!」
言ってしまった。現れてしまった。ぶち壊してしまった。多分、こんな大きな声を出したのって、生まれて初めてだと思う。正直......もう琢磨君のことも、タブレットのことも、全てがどうでもよくなってた気がする。きっと私の脳がキャパオーバーしてしまったんだろう。すると、
「そっ、その声は......ま、まさか......結衣?!」
思った通り......気付かれちゃった。当たり前だわ......
楽しい話をしながら手を繋いで歩いた記憶が直ぐに甦ってくる。あの時は本当に幸せだったし、別れの時がこんなにも早く訪れるなんて夢にも思って無かった。不味い......また目がウルウルして来たわ。
「おい、何外見て暮れなずんでんだ? 琢磨の思い出に浸ってんのか?」
「別に」
突然声掛けられて、思わず顔を背けてしまう。また泣いてる姿を見られたく無かったから。こんな私でも、まだ少しはプライドが残ってたらしい。
正直......自分の心内をズバズバ言い当てられるのに、少し慣れて来た気がする。まぁ、心が強くなって来てる訳なんだから、それはそれでいいんだけどね......
「マドモアゼルは、俺の後ろに隠れてればいいぞ。後は任せといてくれ」
「うん......」
そして遂に、戦いの火蓋が切って落とされたのである。ピンポーン......喜太郎さんは、私が深呼吸する間すら与えずに、いきなりインターホンを押したのでした。そんなことをすれば、当然のように、中から人が出て来ちゃうじゃない! ああ、なんてことしてくれるの......
やがて、ギー、バタン。
「影山琢磨さんですね」
「ああ、はい。そうです」
うわぁ、居た......ハルマゲドン!
「お荷物です。ここに受領印お願いします」
とにかく自然体。喜太郎さんは澄まし顔で『Paul Smith』を差し出してる。どこをどう見たって普通の宅配員。文句の付けようの無い化けっ振りだ。
一方、琢磨君の方はと言うと、伝票に書かれている『差出人:桜木結衣』の文字と、紙袋に描かれている『Paul Smith』のロゴを見詰めながら、何やら眉間にシワ寄せてる。と言うよりか鋭い目付きで睨み付けてる。荷物に触ってみれば、直ぐにそれがネクタイだって分かる筈だ。
何だか今にも怒り出しそうで恐いんだけど......大丈夫かな? 受け取ってくれる? それとも受け取ってくれない? 頼むから受け取って下さい! 取り敢えず私の目の前で投げ飛ばしたりしないで!
そんな私の不安を他所に、琢磨君が下した判定はと言うと......
「なるほどね......こいつの気持ちがよく分かったよ!」
見れば琢磨君は、顔を真っ赤に紅潮させてる。しかも目は吊り上がってるし、眉間には更なる無数のシワが飛び出してる。それって、もしかして、もしかして......怒ってる? あらら......完璧に怒ってるわ。
「次の配達が有るんだから、早く受領印押してくれよ」
「ふんっ、荷物の受け取りを拒否する。こんな『ゴミ』なんかさっさと持ち帰ってくれ」
そんな捨てセリフを吐きながら、ポイッ。何と『Paul Smith』を喜太郎さんに向けて投げ飛ばしたのである。
この時、ピキッ......喜太郎さんの血管からそんな音が聞こえた気がした。案の定、鬼の形相を浮かべてるじゃない!
「おい、ちょっと待ってくれ」
その声は驚く程に低かった。なんでそんなに低いのよ!
「ん、まだ用が有んのか?」
こっちもこっちでバリトンボイスだ。琢磨君も低過ぎる!
「俺の空耳かも知れないが......あんた今この荷物を『ゴミ』って言ったな?」
「ほほう......『ゴミ』を『ゴミ』と言って何が悪い? 大体そんなの宅配屋に関係無いだろ」
うわぁ、完全にバチり始めてる......頼むから止めてよぉ。もう私は喜太郎さんの背中でブルブル震えてることくらいしか出来ることは無かった。
「もう一度聞くぞ。今あんたは、マドモアゼルが愛情込めて買った極上の『Paul Smith』を、ことも有ろうか『ゴ・ミ』と・言・っ・た・ん・だ・な!」
もうストレートに喧嘩売ってるじゃん! しかも半分正体明かしてるし。もうぐちゃぐちゃだわ。
「愛情込めてだと? ふざけんなっ!」
「ふざけんなは、お前の方だ!」
バシッ!......遂に始まってしまった。気付けば喜太郎さんは、琢磨君の襟首を掴んで思いっきりたくし上げてる。今にも殴り掛かりそうな勢いだ。
まさかこれも喜太郎さんの計算尽くされた作戦だって言うの? だったらちょっとやり過ぎだよ! 予想だにもしなかった修羅場の到来に、私の頭は全くついていけない。
「こっ、こいつ狂ってる! おい、警察呼んでくれ!」
きっと家の中に誰か居るんだろう。琢磨君は後ろを向いてそんな言葉を投げ付け始めた。
「警察だと? 上等じゃねぇか! 警察が来て困るのはそっちの方じゃないのか?! 大体なぁ、マドモアゼルがどんな辛い気持ちで、今日を過ごしたのかお前分かってんのか? 一度は愛したお前の女なんだろ。男として恥ずかしく無いのかよ?!」
「マドモアゼル? 誰だそりゃ? こいつは何言ってんだ?!」
いつの間にやら喜太郎さんは、勢いで家の中に入っちゃってるし。それ完璧な家宅侵入じゃん!
ついさっきまでずっと冷静だった喜太郎さん......それが一体どうしちゃったって言うんだろう? このままじゃ琢磨君、怪我しちゃいそうだし、そんなことになったら喜太郎さんもただじゃ済まない。やっぱダメ。止めなきゃ......止めなきゃ!
今私が止めなきゃ、誰が止める!
そんなこんなで......遂に私は我慢の限界に達したのでした。
「喜太郎さんもう止めて!」
言ってしまった。現れてしまった。ぶち壊してしまった。多分、こんな大きな声を出したのって、生まれて初めてだと思う。正直......もう琢磨君のことも、タブレットのことも、全てがどうでもよくなってた気がする。きっと私の脳がキャパオーバーしてしまったんだろう。すると、
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思った通り......気付かれちゃった。当たり前だわ......
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