LA・BAR・SOUL(ラ・バー・ソウル) 第1章 プロローグ

吉田真一

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第2章 波乱

第17話 良心の呵責

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「マドモアゼル......まだ問題は解決してないぞ。二人は君が誤解してるって言ってるんだ。その誤解とやらを、しっかりと聞いてやろうじゃないか。それと......この二人も君を誤解してると思うぜ」

 この二人が何を言おうとも、私は足を止めるつもりは無かった。でも最後に喜太郎さんが発したそんな一言に、私の足は反射的にその動きを止める。

「この二人が私を誤解してる?......それって、どう言うことなのよ!」

 私はこの二人に誤解されるようなことは何もやって無い。喜太郎さんまで私を『ゴミ』に仕立てるのかと、振り返って睨み付けてやった。しかし......喜太郎さんの顔は驚く程に冷静だった。そしてまた、驚く程に穏やかだったのである。

『マドモアゼル、まぁ、これでも飲め』......もしここが『LA・BAR・SOUL』だったなら、今日6杯目のミネラルウォーターをグラスに注いでくれていたんだろう。

 私はイメージの中で、そんな喜太郎さんの注いでくれたミネラルウォーターをゆっくり飲み干していった。すると......不思議なことに、オーバーヒートしていた私の脳が冷却を始めていく。

 もしかしたら、店で飲んだミネラルウォーターには、鎮静と言う名の魔法が掛けられていたのかも知れない。

「おい、琢磨氏。君達も結衣さんに話したいことが有るようだし、結衣さんも、君達に話すこと有るんだと思う。良かったら立ち話も何だから、家の中で話さないか?」

 見れば、こんな騒ぎを聞き付けた他の入居者が、扉の隙間からチラチラこっちを見ている。もう11時近いし、いつ警察に通報されてもおかしく無い状況だ。騒ぎになって一番困るのは、きっとそこに住んでる本人なんだと思う。

「分かった......中に入ろう」

「ご理解、感謝する。さぁマドモアゼル、行くぞ」

「......」

 無言の私の背中を後押しする喜太郎さん。やっぱこの人が一番落ち着いてる。多分だけど......彼はきっとこの状況に持ち込みたかったんだと思う。その為に彼は敢えて感情を高ぶらせるような発言、行動を繰り返し、『良心の呵責』を引き出したんだろう。

 
  ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ここで一旦、『ディベート選手権』が始まる前に、私は頭の中を整理しておきたいと思う。ちゃんと理論武装しておきたかったから。

まず①
 私は琢磨君に振られた。その理由は、琢磨君の誕生日である今日、美也子がこの家に居たことを考えれば明らかだ。琢磨君は私を捨てて、美也子を拾ったものと思われる。どちらからリアクションを起こしたかは不明だが、そこは大した問題じゃ無い。

続いて②
 見てしまった......エンジ色のパンプスと同時に、タブレットが置かれているのを。タブレットを私から奪い取る動機、またそれを行うことが出来る実行犯の存在を考えると、二人が共謀した可能性が極めて高い。恐らく、琢磨君が主犯格で、美也子が実行犯なのだろう。

続いて③
 美也子が私に叫んだ『誤解』とは、一体何を意味しているのか?
 タブレットを盗んだのは琢磨君に頼まれたからって言いたいんだろうか? もちろんその可能性は高いと思ってる。あとは、美也子と琢磨君の関係を私が誤解してる、それも言いたいのかも知れない。でも誕生日に一人暮らしの男の家に上がりこんどいて、今更誤解もくそも無いだろう。

続いて④
 琢磨君が私に叫んだ『誤解』とは何を意味しているのか?
 タブレットを盗んだのは美也子の単独犯だとでも言いたいのだろうか? もしそうだとしたら、それはもう責任の擦り付け合いだ。人間として、二人共終わってる気がする。

 それとも美也子が言ったように、二人の関係を私が誤解してるって言いたいんだろうか? でも振った女に今更そんなこと言い訳する必要無いんじゃない? もうあなたは私を捨てたのよ。そこを忘れないで......

最後に⑤
 喜太郎さんが言った『二人が私を誤解してる』......それは何を意味しているのか?

 そのことに関しては、これと言って思い当たる節が無い。まぁ別に今更この二人に誤解されようがどう思われようがどうでもいいんだけどね。

 そんなこんなで......一体私は頭の中を整理することが出来たのだろうか? 正直考え過ぎて、余計頭が混乱してしまったような気がする。ここはやっぱ期待させて貰おう。喜太郎さんの未知数なるその手腕に......

 正直、これまでの半生において、ここまで守られ、そしてここまで頼もしく思えた男性に出逢ったことが無い。この時点で既に私は、自分の心の変化に気付いていたのかも知れない。

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