LA・BAR・SOUL(ラ・バー・ソウル) 第1章 プロローグ

吉田真一

文字の大きさ
1 / 26
第1章 憂鬱

第1話 柱時計

しおりを挟む

表紙は蒼耀さんに描いて頂きました。
Special Sunkus 蒼耀さん!
@soyo_sta


  ※ ※ ※ ※ ※ ※


 万人から不義理な人間と罵られようとも、万人から後ろ指を指されようとも、そして、万人全てを敵に回そうとも...... 

 この膨れ上がった気持ちを、押さえ付けることは出来ない。 


 何びとに迷惑を掛けようとも、何びとを不幸に陥れようとも、そして何びとに涙させようとも.....

 もはや私の足を止めさせることなど、誰にも出来やしなかった。


 私は走る。パンプスの踵が折れてるのに、尚も走り続けた。

 タクシーを降りて、たったの5メートルしか無いのに、全力疾走してしまった。 


 なぜなら、

 それが私の進むべき未来だったのだから...... 


 ギー、バタン。勢いのまま私は扉を開ける。するとそこには、私の望むその人が居てくれた。優しい目でじっと私を見詰めてくれている。

 それは今日一日の寂しさ、悲しみ、怒り......そして味わった地獄全てを忘れさせてくれる程の安らぎで心が満たされた瞬間だったと思う。


「おかえり......」 

「ただいま......」 

 
 私が進むべき未来......それは全てを捨て、そして全てを受け入れること。ただそれだけ......私達の間に、それ以上の言葉は必要無かった。

 気付けば私は彼に抱きしめられ、そして唇を重ね合わせている。それは川の流れの如く、実に自然な成り行きだったと思う。

 身体は俄に震え出し、身体中がやたらと熱かったことを今でもはっきりと覚えている。それはきっと、身も心も通い合った瞬間だったんだんじゃないかな。このまま時間が止まって欲しい......きっと彼もそう思ってくれてたような気がする......


 そんな彼の腕の中で静かに目を瞑れば、自然と今日一日の物語が、頭の中を走馬灯のように流れ始めていった。それ程までに今日一日の出来事が、私に取ってとてつもなくドラマチックで、驚きの連続だったってことなんだろう。

 あの時の私は本当に純真無垢で、笑える程に幸せいっぱいだった。その後に訪れる地獄のことなんか、もちろん知る由も無かった訳なんだからね。


 それは今からちょうど6時間程前、

 柱時計の前に私が到着した時へと遡る......


  ※ ※ ※ ※ ※ ※

 
 2月10日(金)19:30 柱時計の前にて


 ああ、今日もまた早く着き過ぎちゃった。待ち合わせの時間までまだ30分もあるじゃん! でもまぁ、着いちゃったものは仕方が無い。じっくり待つしか無いか......あらら、小雪が舞って来た。ううっ、寒いわ。ブルブルブル......


 ここは東京都心、某オフィス街を抜けたモダンな並木道。クリスマスシーズンはとっくに終わってるけど、未だ樹木に施されたライトアップは、タウンガイドにも特集を組まれる程の豪華さを誇ってる。とにかく何度見ても凄いキレイ......こう言うのをメルヘンチックって言うんだよね。

 そんな街の中心部にそびえ立つ大きな柱時計の針は、19時30分を指してる。多分、今が一番人通りの多い時間帯なんじゃないかな。ザワザワザワ......ウジャウジャウジャ......

 因みに今日はなんと! 大事な琢磨(たくま)君の誕生日なの。愛する人の記念日ともなれば、私に限らず誰でも気合いが入ると思う。気合いが空振りしなきゃいいんだけどね。ちょっと不安だわ......

 彼は同じ会社に勤めるエリート営業マンで、成績はいつもトップクラス。中々のイケメンで女子社員にも人気が有るから、彼と付き合ってることは親友の美也子(みやこ)にすら話して無い。言ったらきっと大変なことになっちゃうと思うよ。 

 そんな琢磨君との待ち合わせ場所は、今日も中心部にそびえ立つ柱時計の真下。時報と共にオルゴールが鳴り響いて、可愛い人形達が惜し気も無く優雅な踊りを披露してくれる由緒有るカラクリ時計なの。この時計を見ているだけで幸せな気分になれるのは、きっと私だけじゃ無いと思うわ。


 それはそうと......今日は時間通りに来てくれるかな?  

 突然私の心に薄い雲が掛かり始めた。一体なんでそんなことを心配してるのかって言うと、彼プライベートに関してはやたらと時間にルーズなの。でも、仕事忙しそうだからそれは仕方がないよね......


 そんな愛する彼の姿を思い浮かべていれば、時間の経つのもあっと言う間だった。20分も経過すると、降り続いていた小雪が、いつの間にやら一人前の雪へとグレードアップしてる。モダンな石畳も今や真っ白な雪で覆い尽くされ始めてた。 

 そんなこんなで......デートに雪だるまコスプレもどうかと思って、店仕舞いした雑貨屋の屋根の下に身を移すことにしたわけ。とは言っても、宙から降り注ぐ雪を全て避け切る事は出来ない。 

 もうヤダ......プレゼントの中に雪が入ってきてる! 慌てて視線を落としてみると、『Paul Smith』と認められた紙袋の中身が、雪の仕業で白なる色に変化を始めてるじゃない!

 先週末、某有名百貨店で、悩みに悩み抜いて買ったネクタイとネクタイピンの王道セット。これを手にした彼の嬉しそうな顔が今から頭に浮かんで来る。ニタニタニタ...... 

 そんな甘い妄想を繰り返していれば、千切れるような寒さも、クリクリ始めた癖毛もなんのその。更に言っちゃうと、長い待ち時間すら至福の時間へと変化させちゃう訳だから、恋とは人を幸せに導く魔法のようだと、つくづく感じ入る弱冠24才、私こと桜木結衣(さくらぎゆい)がそこに居た。


 ところが......時間の経過と共に、そんな至福なる時間もやがては暗雲なる刻へと変化を遂げていったのでした。アララ......

 20時、定刻だ。ゴーン、ゴーン、ゴーン......雪帽子を被った柱時計が、一時間に一度のお勤めを始める。それまで静かにフリーズしていた可愛らしい人形達がまるで魂を取り戻したかのように、各々が各々の舞いを披露し始めた。 

「やったぁ、始まった!」 

「まぁ、可愛い!」 

 突如、人々の顔に笑顔が浮かび上がって、人形達をバックに写真撮影を始める賑やかカップルや、メロディに合わせて盆踊りを披露するほろ酔いサラリーマンなんかは数知れず。この由緒有る柱時計は、もう何年も訪れる人々に幸福を与え続けているんだろう。 

 そんな暖かい雰囲気の中、ただ一人だけ心が冷え切ったままの乙女が居たりもする。それは言うまでも無く......私だった。 

 やっぱ遅刻か......

 モヤモヤモヤ......

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...