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三十二話
しおりを挟む「え……まあ、はい。わかりました」
次の日からセルフィーナ様も登下校を一緒にしたいレイに伝えると少し間があいてわかりましたと返ってきた。なんだその間は。
ルミも基本は一緒だが時折攻略対象であるらしいエドワルド様に連れて行かれる。レイ曰くエドワルド様はルミが好きらしく猛アタック中だそうだ。それなら邪魔するわけにはいかない。二度もルミの邪魔をしてなるものか。
「あの、セルフィーナ・ファイスです。よろしくお願いします」
「レイです。よろしく」
レイは素っ気なく答えると私の横にやってきた。
「ベルティア様行きましょう」
そう言ってセルフィーナ様の事は軽くスルーしてさっさと先に行ってしまおうとする。
セルフィーナ様が私を睨んできている気がするが気のせいだと思いたい。
セルフィーナ様はめげずにレイの隣にやってきて必死にレイに話しかけていた。
しかしレイも右から左へと受け流す。
「あの、レイ」
「何ですか、ベルティア様」
良い笑顔である。その笑顔をセルフィーナ様に向けてやれ。
「もう少し会話を楽しむべきじゃないかしら」
言葉のキャッチボールをしろと訴えれば面倒くさそうにしながらもセルフィーナ様の話をちゃんと聞き始めた。
教室に着くといつものようにレイは自分の教室に戻って行く。
するとセルフィーナ様が私に向かって口を開いた。
「何で邪魔するの!?」
「そんな事していないですけど」
むしろ会話の手助けをしてやったくらいだと思うのだが。何を言ってるんだ!怒れれば良いのだがそんな勇気はない。
「どうせ拾ってくれた恩義があるから仕方なくあなたの側にいてくれているだけなのに、本当に図々しいわね」
その言葉に私は少し傷付いた。やっぱりそうなのだろうか。命の恩人だと思ってレイは…レイもルミも私の側にいてくれているのだろうか。
それを聞いていた他のクラスメイトのレイを狙う令嬢達がヒソヒソ何か言って笑っている。
みんなそう思っているのだろうかと涙が流れそうになったがなんとか堪えた。
それから今日のように登下校を一緒にしてレイがいなくなると文句を言われる日々が続いた。
今日は魔法の授業があるので私は気合を入れた。というよりこの学園は魔法に力を入れているので魔法の時間がメインと言ってもいい。
みんなそれぞれ自分に合った属性の魔法を習得していく。魔力量がBランクの者は中級魔法を目標にAランクの者は上級、そしてSランクの者は最上級魔法を。とは言ってもこのクラスにはAランクまでしかいないが。いや、一人Sランクの人がいた。セルフィーナ様だ。彼女は試験の日に体調を崩してテストを最後まで受けれなかったそうだ。そのためBクラスにいるだけで実際はSクラスに入れる実力があるらしい。
クラスの子たちはどんどん下級魔法を会得していく。
しかし私はいくらやっても上手く出来ない。下級の攻撃魔法である風の刃を出来るように練習しているのが上手くいった試しがない。発動できたと思っても途中で消えてしまう。
その度に周りの人たちがクスクス笑っているのが聞こえる。
「ベルティア様って本当に才能ないわね」
「あれでレイ様やルミ先輩の隣にいられるって相当神経が図太いのか身の程知らずなのかどっちなのかしらね」
どっちもよとバカにされる。
やめて…。そんな事私が一番わかっているのに。いつだって本当は私みたいな何の取り柄とない人間が二人の側にいていいのかって思ってた。
でも二人が笑ってくれるから、比べても仕方がないって思った。だからその事に目を背けて三人で一緒に入られたのに。
ここに来て私は自分への自信が一気になくなってしまった。どんどん弱気になっていく。そんな自分も嫌だ。
授業が終わりレイが迎えに来てくれた。移動しながらレイは私を心配そうに見ていた。
「ベルティア様どうかしましたか?何かあれば相談してくださいね」
「何にもないわ!今日も魔法が上手くいかなくて少し落ち込んでただけだから」
嘘は言っていない、それも本当の事である。それだけでない事も確かだがこんな事言いたくない。
「レイ様、今日授業で分からないところがあったんです。教えていただけませんか」
セルフィーナ様が間に入って来てレイに勉強を教えてと可愛らしくお願いする。
「え、でも」
レイは私を見て渋るが私も分からないので三人で一緒にやろうと言えばわかったと頷いてくれた。場所を決めて移動しようとしたところで私は思い出したように声を上げる。
「あ、私忘れ物しちゃったから取りに行ってくるわね。二人で先に行っていて」
少しでも二人にしろというセルフィーナ様からの無言の圧力を感じたのだそう言って教室に戻ろうとする。レイがついて来ようとしたのだが一人で大丈夫だからと先に行かせた。
30分くらい時間を稼いだ私はそろそろいいだろうと思い二人の元へ向かう。二人に近付いていくと笑い声が聞こえたのでこっそりと見てみると二人がとても楽しそうにおしゃべりしているのが目に入った。
レイがセルフィーナ様に優しい笑顔を向けている。
いや…嫌だ!私は二人を見てそう思った。
私に気付いたレイが声をかけてくるが耳に入ってこない。ただ嫌だ…その感情だけが私の頭を支配した。
ここにいたくない。今すぐこの場を離れたい。
「あの!やっぱり私、今日はやめておくわ!二人とも頑張ってね」
「えっ、ベルティア様!」
レイの声が聞こえたが何も心配はいらないからレイはついてくるなよと釘をさし駆け出した。
はしたないと先生達に見つかれば怒られそうだが今はそんな事気にしていられない。
とにかく急いで自分の部屋に戻った。
「いや…嫌だよ…」
部屋に着くなり涙が溢れる。その場にうずくまり私は泣いた。
レイが笑っていた、あんなに楽しそうに。
他の女の子に笑いかけないで…。
こんな風に思うなんてレイが他の女の子に笑いかけているのを見なかったから気が付かなかった。
嫌だよ…レイが私以外の女の子に笑いかけるのは。お願い私だけにして…。
嫌だよ…レイが他の子のものになってしまったら。もう私の側にはいてくれないの?
そんなの嫌だ!
ルミの隣にエドワルド様がいた時はエドワルド様頑張れと思った。でもレイの時は違った。協力を求められた時もモヤモヤしていた。何で気が付かなかったんだろう。
レイが笑いかけるのもレイの隣にいるのも全部私がいい…。
ずっと側にいたせいで気づかなかったの?
私はこんなにもレイが好きだって…。
ずっと泣き続けていたら扉をノックされた。今は誰にも会いたくない。
「ベルティア様、いらっしゃいますか?ルミです」
ルミだった。ルミなら会いたい、会って話したいと思った。急いでルミを部屋に招き入れるとルミは私を見て驚いた。
「ベルティア様どうしたんですか!」
「ル、ルミー!!」
私はルミに抱きついて先程の事を全部話した。
「…レイの事が、好きなんですね」
「うん」
「なら、気持ちを伝えましょうよ」
ルミはそう言うが私みたいな魔法も全く使えない、成績も悪くないくらい。スタイルも良くない。こんな私がレイを好きでいていいのかと悩んでいるとルミが私をそっと抱き寄せた。
「ベルティア様はそのままで良いんです」
「でも!」
「ベルティア様は私たちが何も出来ない能無しだったら嫌いになりましたか?」
「そんな事あるはずない!」
私はレイとルミの能力が好きなわけではない。二人がレイとルミだから好きなのだ。
レイがレイだったから私は恋をしてしまったのだ。
「私たちもそんな事気にしていません。ベルティア様がベルティア様だからこそ大好きなんですよ」
だから何も出来ないとかそんな事気にせず好きだと伝えろとルミは言った。レイがどう答えるかは私からはなんとも言えないが、少なくともちゃんと考えて返事をくれると自信を持って言えると言ってくれた。
ルミの言葉に少し勇気がでてくる。
「それにベルティア様は今のままで十分魅力的ですよ…」
「ありがとう」
ルミに元気をもらい私は頑張ると決めた。
目が腫れないようにとルミが魔法をかけてくれたのでスッキリしている。
明日から私は頑張る。まだ気持ちを伝えるに勇気はないけど…。
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