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二章
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しおりを挟む「神託、だと?」
「そう。神の思惑と、巡礼を望む人の願いが合致した時に巡礼者が出た例が過去に数件ある。どれも詳細は不明。理由は神殿が秘匿しているから、かな。巡礼者が出たら王国に報告義務が一応は存在するんだけど、その数件だけは全て事後承諾、しかも巡礼者が死亡、または行方不明になった後に報告されている」
「……きなくせえな。ますますあいつを止めてやんねえと!!」
こうしちゃいられないとばかりに席を立とうとするリオンの体を見えない魔法で縛って拘束した元魔法師団長はにっこり笑った。
「……話を聞いていたのかな?止めるのはやめた方が良いって言ったよね?」
「っ、でも、止めねえとあいつは死ぬんだぞ!?」
元宮廷魔法師団長はすっと真顔になり、リオンに顔を近づけた。
「あのさ、リオンはいままで奥さんの事人とも思ってなかったじゃないか、いきなりどうしちゃったわけ?情でも沸いた?」
「……俺が、助けないといけないんだ。そんで、今までの事もちゃんと、ちゃんと謝って……」
俯いてぼそぼそ言うリオンに元魔法師団長は眉を顰める。
「ーーとりあえず、さっき魔法で自白しそうになってたとこ、教えてよ。なんか奥さんリオンにとって大事っぽいし、急に何があったの?それとも何にもなくて自分の事情に巻き込んで子供殺しちゃった罪悪感とか?」
いぶかしむ彼にリオンは苦い笑みを返した。人の心の嫌な部分をずばずば言うこういう所は苦手としていたところだった。
「相変わらずだな。……それもあるよ。それ以外だと、お前も知ってるんだろうが、あいつが全滅した辺境の城塞都市の唯一の生き残りで、俺が唯一俺の意思で助けたやつって事だな」
「???」
「城塞都市?あのリオンが陛下とケンカしたっていうやつ?」
「そっか、お前はその時別の任務についてたんだっけか?」
「そうだよ。急な外交の用事に呼び出されてね。仕方なしに後から合流したんだ。そしたらびっくり、暫くは国内をまわって魔物を討伐してから魔王討伐に向かう予定だったのが、全部すっ飛ばして魔王討伐に行くってきいたんだから」
「……まあ、今なら話してもいいか。あの時ーーーー」
リオンの話を聞いて、元魔導士団長は嘆息した。
「そんな事が……。王子、いや今は陛下か。陛下も皆も僕に知られないようにしていたのは僕がリオンの味方をするからだろうね」
「……俺に負い目があるからか」
「まあ、それもあるけど、それだけじゃなくて、僕はリオンの故郷の事を少し聞いていたからね、まあ、この国の常識と違うんだろうなとは思ってたから」
お茶を優雅に飲むその手元はわずかに震えている。
リオンはそれを見ないふりをして目をそらした。
「ーーーーって事は、彼女はリオンが英雄として自分の意思で助けられた唯一の人ってことか」
じとっと見つめられたリオンはますます視線をそらした。
ふむっと元魔導士団長は考え込む。
「それにしても、陛下も酷なことをする。国の為、自身の為に彼女を消そうとしたのか」
「そんな事言ってもいいのか?」
この問答にどこかデジャヴを感じながらもリオンはあえて聞いた。
元魔導士団長は穏やかに告げた。
「リオンももうわかっているんだろうけど、もうすぐ死ぬ人間に怖い物なんてないさ」
やっぱりか、とリオンは彼をぐっと瞳を閉じた。
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