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第6話 荷造りと別れ
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第6話 荷造りと別れ
朝の陽光がカーテンの隙間から差し込む部屋で、私は最後の荷物をトランクに詰めていた。
服は必要最低限。宝石類はほとんど置いていく。どうせ辺境では派手なドレスなんて邪魔になるだけだ。
代わりに詰め込んでいるのは――
「砂糖、小麦粉、バター、チョコレートの素になるカカオ豆……あと、現代風のレシピノート!」
私は前世の知識をぎっしり書き込んだ手製のノートを大事に包んだ。
ブラック企業で働いていた頃、唯一の癒しがお菓子作りだった。
休みの日はケーキやクッキーを焼いて、同僚に配ったりしていたっけ。
(あのスキルが、異世界でこんなに役立つなんて)
思わず笑みがこぼれる。
「お嬢様、こちらは?」
リナが困惑顔で、豪華なティアラを持ってきた。
「それは置いていきましょう。売れるなら売って、開店資金に充てるわ」
「開店……?」
リナが首を傾げる。
私はにっこり笑って答えた。
「辺境で小さなカフェを開くの。スイーツ専門のお店よ」
「すいーつ……?」
リナは聞き慣れない言葉に目を丸くしたけど、すぐに目を輝かせた。
「お嬢様のお菓子なら、きっと大繁盛します!」
「ありがとう、リナ。あなたがいてくれて本当に助かる」
私はリナの手を取った。
ゲームでは追放された後も唯一ついてきてくれる忠実なメイド。
でも今は、もうただの「忠実」じゃなくて、大切な仲間だ。
午後になると、屋敷の使用人たちが玄関ホールに集まってきた。
父上の命令で「最低限の使用人しか連れて行くな」と言われたけど、別れの挨拶くらいは許されるらしい。
「お嬢様……お気をつけて」
「お体に障りませんよう」
年配の執事やメイドたちが、次々と頭を下げてくれた。
昔の私は高飛車だったから、みんな恐れていたはずなのに……。
(最近、優しくしてよかった)
少し胸が熱くなる。
そんな中、意外な人物が現れた。
「……エレナ」
弟のレオンだった。
クラリス家の次男、十三歳。ゲームでは姉を軽蔑していたキャラだ。
「レオン、どうしたの?」
私が声をかけると、レオンは少しもじもじして、小さな包みを差し出した。
「これ……母上の庭で摘んだハーブティーの葉。辺境は寒いって聞いたから、体を温めるのにいいって……」
包みを開けると、丁寧に乾燥させたハーブが詰まっていた。
「ありがとう、レオン。本当に嬉しい」
私は素直に笑った。
レオンは顔を赤くして、すぐに逃げるように去っていった。
(……可愛い弟だなあ)
最後に、母が現れた。
公爵夫人はいつもの冷たい表情で、私の前に立った。
「……荷物は済んだのか」
「はい、お母様」
私はお辞儀をした。
母は一瞬、視線を逸らした。
「辺境は厳しい土地だ。魔物も出る。甘い考えでいると、すぐに命を落とす」
「覚えておきます」
「……これを」
母が差し出したのは、小さな革袋だった。
中を覗くと、金貨がぎっしり。
「父上には内緒だ。少しでも役に立てばいいが」
「お母様……!」
私は驚いて見上げた。
母はそっぽを向いたまま、ぽつりと呟いた。
「……無事でいろ、エレナ」
それだけ言って、すぐに背を向けて去っていった。
背中が、少し震えているように見えた。
(……ありがとう、お母様)
私は革袋を大事に抱きしめた。
夕方、馬車が屋敷の前に止まった。
御者は無口な中年男性。父上が選んだ、口の堅い人だろう。
荷物を積み終え、私とリナが馬車に乗り込む。
玄関に残った使用人たちが、静かに手を振っている。
私は窓から身を乗り出し、みんなに手を振り返した。
「みんな、ありがとう! またいつか会いましょう!」
馬車がゆっくりと動き出す。
クラリス公爵邸の大きな門が、徐々に遠ざかっていく。
華やかな王都の街並みを通り抜け、城壁の外へ。
夕日が地平線に沈み、辺境への長い道が続いている。
「リナ、これから大変かもしれないけど……よろしくね」
「はい、お嬢様! どこまでもお供いたします!」
リナが元気に答えた。
私は窓の外を見ながら、心の中で呟いた。
(さよなら、王都。さよなら、悪役令嬢の人生)
(こんにちは、私の新しい人生)
馬車は夜の闇の中を、ゆっくりと進んでいった。
辺境への旅立ち――それは、私の夢の第一歩だった。
朝の陽光がカーテンの隙間から差し込む部屋で、私は最後の荷物をトランクに詰めていた。
服は必要最低限。宝石類はほとんど置いていく。どうせ辺境では派手なドレスなんて邪魔になるだけだ。
代わりに詰め込んでいるのは――
「砂糖、小麦粉、バター、チョコレートの素になるカカオ豆……あと、現代風のレシピノート!」
私は前世の知識をぎっしり書き込んだ手製のノートを大事に包んだ。
ブラック企業で働いていた頃、唯一の癒しがお菓子作りだった。
休みの日はケーキやクッキーを焼いて、同僚に配ったりしていたっけ。
(あのスキルが、異世界でこんなに役立つなんて)
思わず笑みがこぼれる。
「お嬢様、こちらは?」
リナが困惑顔で、豪華なティアラを持ってきた。
「それは置いていきましょう。売れるなら売って、開店資金に充てるわ」
「開店……?」
リナが首を傾げる。
私はにっこり笑って答えた。
「辺境で小さなカフェを開くの。スイーツ専門のお店よ」
「すいーつ……?」
リナは聞き慣れない言葉に目を丸くしたけど、すぐに目を輝かせた。
「お嬢様のお菓子なら、きっと大繁盛します!」
「ありがとう、リナ。あなたがいてくれて本当に助かる」
私はリナの手を取った。
ゲームでは追放された後も唯一ついてきてくれる忠実なメイド。
でも今は、もうただの「忠実」じゃなくて、大切な仲間だ。
午後になると、屋敷の使用人たちが玄関ホールに集まってきた。
父上の命令で「最低限の使用人しか連れて行くな」と言われたけど、別れの挨拶くらいは許されるらしい。
「お嬢様……お気をつけて」
「お体に障りませんよう」
年配の執事やメイドたちが、次々と頭を下げてくれた。
昔の私は高飛車だったから、みんな恐れていたはずなのに……。
(最近、優しくしてよかった)
少し胸が熱くなる。
そんな中、意外な人物が現れた。
「……エレナ」
弟のレオンだった。
クラリス家の次男、十三歳。ゲームでは姉を軽蔑していたキャラだ。
「レオン、どうしたの?」
私が声をかけると、レオンは少しもじもじして、小さな包みを差し出した。
「これ……母上の庭で摘んだハーブティーの葉。辺境は寒いって聞いたから、体を温めるのにいいって……」
包みを開けると、丁寧に乾燥させたハーブが詰まっていた。
「ありがとう、レオン。本当に嬉しい」
私は素直に笑った。
レオンは顔を赤くして、すぐに逃げるように去っていった。
(……可愛い弟だなあ)
最後に、母が現れた。
公爵夫人はいつもの冷たい表情で、私の前に立った。
「……荷物は済んだのか」
「はい、お母様」
私はお辞儀をした。
母は一瞬、視線を逸らした。
「辺境は厳しい土地だ。魔物も出る。甘い考えでいると、すぐに命を落とす」
「覚えておきます」
「……これを」
母が差し出したのは、小さな革袋だった。
中を覗くと、金貨がぎっしり。
「父上には内緒だ。少しでも役に立てばいいが」
「お母様……!」
私は驚いて見上げた。
母はそっぽを向いたまま、ぽつりと呟いた。
「……無事でいろ、エレナ」
それだけ言って、すぐに背を向けて去っていった。
背中が、少し震えているように見えた。
(……ありがとう、お母様)
私は革袋を大事に抱きしめた。
夕方、馬車が屋敷の前に止まった。
御者は無口な中年男性。父上が選んだ、口の堅い人だろう。
荷物を積み終え、私とリナが馬車に乗り込む。
玄関に残った使用人たちが、静かに手を振っている。
私は窓から身を乗り出し、みんなに手を振り返した。
「みんな、ありがとう! またいつか会いましょう!」
馬車がゆっくりと動き出す。
クラリス公爵邸の大きな門が、徐々に遠ざかっていく。
華やかな王都の街並みを通り抜け、城壁の外へ。
夕日が地平線に沈み、辺境への長い道が続いている。
「リナ、これから大変かもしれないけど……よろしくね」
「はい、お嬢様! どこまでもお供いたします!」
リナが元気に答えた。
私は窓の外を見ながら、心の中で呟いた。
(さよなら、王都。さよなら、悪役令嬢の人生)
(こんにちは、私の新しい人生)
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辺境への旅立ち――それは、私の夢の第一歩だった。
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