婚約破棄された悪役令嬢は、辺境でスイーツカフェをオープンしたらイケメンたちに溺愛されました

霧島

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第7話 辺境への長い馬車旅

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 第7話 辺境への長い馬車旅

馬車は王都を離れて三日目。

最初は舗装された王道を快適に進んでいたが、昨日から道はどんどん荒れてきた。

ガタガタと揺れる車内に、私は窓の外を眺めていた。

緑の平原が広がり、遠くに山脈が見える。

(……きれいな景色。でも、そろそろあのイベントが起きる頃だよね)

ゲームの追放ルートでは、辺境への道中で盗賊に襲われるシーンがあった。

エレナはパニックになって泣き叫び、使用人たちに守られて辛うじて逃げる――という展開。

でも今は、使用人は私とリナと御者の三人だけ。

武器らしい武器もない。

(でも、私は前世の知識がある。慌てる必要はないはず……)

「お嬢様、お弁当をいただきますか?」

リナが籠からサンドイッチを取り出した。

王都を出る前に、屋敷のコックが作ってくれたものだ。

「ありがとう、リナ。一緒に食べましょう」

私は笑顔で受け取った。

ハムと野菜を挟んだシンプルなものだけど、異世界のパンにバターとマスタードが合って美味しい。

食べ終わる頃、馬車が急に止まった。

「どうしたの?」

私が窓から顔を出すと、御者のオジさんが緊張した声で言った。

「前方に人が倒れております。様子を見てきます」

道の真ん中に、一人の男がうつ伏せに倒れていた。

旅人のような粗末な服で、背中に血が滲んでいる。

「怪我人だ! リナ、水と包帯を持ってきて!」

私はすぐに馬車を降りた。

前世で少し応急処置の講習を受けたことがある。

近づいてみると、男はまだ息があった。

二十代後半くらいの、がっしりした体格の冒険者風。

「大丈夫ですか?」

男が弱々しく目を開けた。

「……盗賊に……荷物を……」

その瞬間――

周囲の茂みから、ガサガサと音がした。

「やれやれ、生きてたか」

「おいおい、上客が来たぞ」

五人の男たちが、剣や斧を手に現れた。

典型的な盗賊スタイル。汚れた服に、顔を布で隠している。

(きた……!)

御者のオジさんが慌てて馬車を守ろうとするが、手に持っているのは鞭だけ。

リナは私の後ろに隠れて震えている。

盗賊のリーダーらしき男が、ニヤニヤしながら近づいてきた。

「へえ、美人さんだな。金目のものと一緒に、こっちもいただこうか」

他の盗賊たちが下品に笑う。

(普通ならここで絶体絶命だけど……)

私は深呼吸して、冷静に状況を分析した。

相手は五人。武装しているけど、動きが雑。

おそらく本物の強者じゃなく、落ちこぼれの盗賊団。

そして、私には――秘密兵器がある。

「リナ、籠の中のあれを取って」

私は小声で指示した。

リナが慌てて籠から小さな袋を取り出す。

中身は、王都で買った特殊な調味料――

前世でいう「激辛唐辛子パウダー」だ。

この世界にはまだ辛いものはほとんどない。

私はそれを大量に仕入れておいた。スイーツのアクセント用だけど、今は別の使い道。

「みんな、目を閉じて!」

私は叫びながら、袋を開けて風上に向かって全力で振りまいた。

「ぐわっ!?」

「目が、目がぁぁぁ!!」

赤い粉が風に乗って、盗賊たちの顔に直撃。

唐辛子のカプサイシンが、目と鼻を猛烈に攻撃する。

盗賊たちは武器を投げ出して、地面を転げ回り始めた。

「な、何だこれ!? 毒か!?」

「熱い! 熱いいいい!」

私はすかさず御者に叫んだ。

「今よ! 馬車を走らせて!」

御者が慌てて馬を走らせる。

倒れていた冒険者の男も、御者が抱えて馬車に放り込んだ。

馬車が猛スピードで駆け出す。

後ろから盗賊たちの悲鳴が遠ざかっていく。

「……やった!」

私は馬車の中でガッツポーズをした。

リナが呆然と私を見ている。

「お、お嬢様……あれは何ですか!?」

「秘密の武器よ。スイーツ作りの材料なんだけど、こういう使い方もできるの」

私は笑った。

少しして、男が目を覚ました。

「……助けてくれたのか。ありがとう」

男は苦しそうに体を起こした。

名前はガレン。冒険者ギルド所属のCランクだという。

盗賊に荷物を奪われたが、命は助かった。

「その粉、すげえな。あいつら、しばらく戦えねえだろう」

ガレンは感心したように言った。

「また作れるから、よかったらお裾分けするわ」

私は新しい袋を渡した。

ガレンは目を丸くして受け取った。

「マジか……これ、冒険者ギルドで売れるぞ!」

その後、ガレンは傷が癒えるまで一緒に旅をすることになった。

彼は剣の腕も立ち、道中の護衛になってくれた。

(ゲームのイベントを、こんな風にクリアしちゃった)

私は窓の外を見ながら、満足げに微笑んだ。

辺境への道は、まだ半分。

でも、もう怖いものなんてない。

私の新しい人生は、順調に始まっている。

そう思った、旅の四日目だった。

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