婚約破棄された悪役令嬢は、辺境でスイーツカフェをオープンしたらイケメンたちに溺愛されました

霧島

文字の大きさ
8 / 40

第8話 辺境領地到着

しおりを挟む
 第8話 辺境領地到着

馬車が最後の山道を越えた瞬間、目の前に広がったのは――

広大な森と、点在する小さな畑、そして中央にぽつんと建つ古びた屋敷。

それが、私の新しい領地――アルデンベルク領だった。

「……これが、私の城?」

私は馬車から降りて、呆然と呟いた。

ゲームのCGではもっとボロボロだったけど、実物は想像以上に荒れ果てている。

屋敷の壁は苔むし、窓ガラスは半分割れ、庭は雑草だらけ。

村は屋敷から少し離れた場所に二十軒ほどの家が固まっていて、煙突から薄い煙が上がっているだけ。

「ここが……お嬢様の領地でございます」

御者のオジさんが、申し訳なさそうに言った。

旅の途中で助けた冒険者ガレンは、昨日近くの町で別れた。

「また何かあったらギルドに連絡してくれよ」と言い残して、元気よく去っていった。

残っているのは私、リナ、そして御者だけ。

「……まあ、予想通りね」

私は気を取り直して笑った。

ボロボロだからこそ、自由に改装できる。

ここを私の理想のスローライフ拠点にするんだ。

まずは村長に挨拶しなきゃ。

私たちは屋敷の前を通り抜け、村の中心へ向かった。

村の広場には井戸があり、数人の村人が集まっていた。

私が近づくと、みんながぴたりと会話を止めてこちらを見た。

年配の男性が代表して前に出る。

五十代くらい、日に焼けた頑丈そうな体格。

「お前さんが、新しい領主か?」

声は低く、警戒心がむき出しだ。

「はい。エレナ・フォン・クラリスです。これからよろしくお願いします」

私は優しく頭を下げた。

村人たちが顔を見合わせる。

「クラリス公爵家の……追放されたお嬢様だろ」

「王都で何かやらかしたんだろ」

「こんな辺境に飛ばされて、すぐに逃げ帰るんじゃねえか」

小さな声で囁きが漏れる。

(うわ、冷たい……)

ゲームでも、村人たちはエレナを「役立たずの貴族」と軽蔑していた。

税金だけ取って、魔物対策もろくにしない領主だったから、当然っちゃ当然。

「皆さん、初めまして」

私は大きな声で言った。

「私はこれからここで暮らします。領地のこと、村のこと、ちゃんと責任を持ってやっていきたいと思っています」

村長らしき男性が、鼻で笑った。

「責任ねえ。前の領主代理もそう言って、結局何もせずに王都へ帰っちまったよ」

「魔物が出るたびに被害が出てるのに、騎士もよこさねえ」

「税金だけはきっちり取るくせに」

村人たちが次々と不満を口にする。

私は静かに聞いていた。

確かに、クラリス家はここを放置していた。

だからこそ、私が変えるチャンス。

「皆さんのご不満、よくわかりました」

私は深くお辞儀をした。

「これからは、ちゃんと領地を守ります。魔物対策も、村の暮らしも、少しずつ改善していきます」

村長が眉をひそめた。

「口だけなら誰でも言える。どうやって? お嬢様に何ができるんだ?」

その言葉に、私はにっこり笑った。

「まずは、皆さんに私の気持ちをわかってもらいたいんです」

私はリナに目配せした。

リナが籠から、布に包んだものを取り出す。

「これを、皆さんに」

布を開けると、中から出てきたのは――焼きたてのクッキー。

王都を出る前に、屋敷のオーブンで大量に焼いておいたもの。

バターの香りがふわっと広がる。

「甘いお菓子です。どうぞ召し上がってください」

村人たちが怪訝な顔をする。

この世界では、甘いものは高級品。

砂糖は貴重で、貴族しか食べられない。

子供たちが興味津々で近づいてくる。

「いいの?」

一人の女の子が恐る恐る手を伸ばした。

「ええ、たくさんあるから」

私がクッキーを渡すと、女の子はぱくりと口に入れた。

「……!」

目が丸くなる。

「お、おいしい……!」

「甘い! こんな甘いお菓子、初めて!」

子供たちが次々と手を伸ばす。

大人たちも、半信半疑で一口。

「……これは……」

村長まで、黙って二枚目を手に取っていた。

広場に、静かな驚きの空気が広がった。

「どうですか?」

私が聞くと、村人たちが顔を見合わせた。

「まあ……悪くはない」

「こんな美味いもん、食ったことねえ」

「領主様が、こんなもの作れるのか?」

私は笑った。

「これから、もっと美味しいものを皆さんに食べてもらいたいんです」

「そのために、ここでお店を開こうと思っています。甘いお菓子専門のカフェを」

村人たちがざわつく。

「お店? ここで?」

「客なんか来るのかよ」

私は頷いた。

「来ます。絶対に」

私の自信に、村人たちは少し戸惑った様子だった。

村長が、咳払いをして言った。

「……まあ、やってみりゃあいいさ。失敗しても、俺たちには関係ねえ」

でも、その目は少し柔らかくなっていた。

別れ際、子供たちが手を振ってくれた。

屋敷に戻る道中、リナが興奮して言った。

「お嬢様! みんな喜んでました!」

「うん、第一歩ね」

私は屋敷を見上げた。

ボロボロだけど、ここが私の城。

明日から、掃除と改装と――スイーツ作り。

新しい生活が、始まる。

そう思った、到着の日だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~

黒崎隼人
ファンタジー
王太子アルベルトから「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられ、辺境へ追放された公爵令嬢エリザベート。しかし彼女は動じない。なぜなら彼女には、前世で日本の農業研究者だった記憶があったから! 痩せた土地、疲弊した人々――「ならば私が、この地を楽園に変えてみせる!」 持ち前の知識と行動力で、次々と農業改革を成功させていくエリザベート。やがて彼女の噂は王都にも届き、離婚を告げたはずの王太子が、後悔と疑問を胸に辺境を訪れる。 「離婚した元夫婦」が、王国を揺るがす大きな運命の歯車を回し始める――。これは、復縁しない二人が、最高のパートナーとして未来を築く、新しい関係の物語。

婚約破棄されました(効率の悪い労働でした) ― 働いてない? 舞踏会は、充分重労働ですわ! ―

ふわふわ
恋愛
「働いていない?――いいえ、舞踏会も社交も重労働ですわ!」 前世で“働きすぎて壊れた”記憶を持ったまま、 異世界の公爵令嬢ルナ・ルクスとして転生したヒロイン。 生まれながらにして働く必要のない身分。 理想のスローライフが始まる――はずだった。 しかし現実は、 舞踏会、社交、芸術鑑賞、気配り、微笑み、評価、期待。 貴族社会は、想像以上の超・ブラック企業だった。 「ノブレス・オブリージュ?  それ、長時間無償労働の言い換えですわよね?」 働かないために、あえて“何もしない”を選ぶルナ。 倹約を拒み、金を回し、 孤児院さえも「未来への投資」と割り切って運営する。 やがて王都は混乱し、 なぜか彼女の領地だけが安定していく――。 称賛され、基準にされ、 善意を押し付けられ、 正義を振りかざされ、 人格まで語られる。 それでもルナは、動かない。 「期待されなくなった瞬間が、いちばん自由ですわ」 誰とも戦わず、誰も論破せず、 ただ“巻き込まれない”ことを貫いた先に待つのは、 何も起きない、静かで満たされた日常。 これは―― 世界を救わない。 誰かに尽くさない。 それでも確かに幸せな、 働かない公爵令嬢の勝利の物語。 「何も起きない毎日こそ、私が選び取った結末ですわ」

【完結】ちびっ子元聖女は自分は成人していると声を大にして言いたい

かのん
恋愛
 令嬢に必要な物は何か。優雅さ?美しさ?教養?どれもこれも確かに必要だろう。だが、そうではない。それがなければ、見向きもされず、それがなければ、壁の花にすらなれない。それとはなにか。ハッキリ言おう。身長である!!!  前世聖女であったココレットが、今世は色恋に花を咲かせようと思っていた。しかし、彼女には今世身長が足りなかった。  これは、自分は成人していると声を大にして言いたい元聖女のはじまりの話。  書きたくなって書いた、勢いと思いつきのお話です。それでも良い方はお読みください。

【完結】辺境伯令嬢は国境で騎士領主になりたいのに!

葉桜鹿乃
恋愛
辺境伯令嬢バーバレラ・ドミニクは日夜剣と政治、国境の守りに必要な交渉術や社交性、地理といった勉強に励んでいた。いずれ、辺境伯となった時、騎士として最前線に立ち国を守る、そんな夢を持っていた。 社交界には興味はなく、王都に行ったこともない。 一人娘なのもあって、いつかは誰か婿をとって家督は自分が継ぐと言って譲らず、父親に成人した17の時に誓約書まで書かせていた。 そして20歳の初夏に差し掛かる頃、王都と領地を往来する両親が青い顔で帰ってきた。 何事かと話を聞いたら、バーバレラが生まれる前に父親は「互いの子が20歳まで独身なら結婚させよう」と、親友の前公爵と約束を交わして、酒の勢いで証書まで書いて母印を押していたらしい?! その上王都では、バーバレラの凄まじい悪評(あだ名は『怪物姫』)がいつの間にか広がっていて……?! お相手は1つ年上の、文武両道・眉目秀麗・社交性にだけは難あり毒舌無愛想という現公爵セルゲウス・ユージーンで……このままだとバーバレラは公爵夫人になる事に! そして、セルゲウスはバーバレラを何故かとても溺愛したがっていた?! そのタイミングを見計らっていたように、隣の領地のお婿さん候補だった、伯爵家次男坊まで求愛をしに寄ってきた!が、その次男坊、バーバレラの前でだけは高圧的なモラハラ男……?! 波瀾万丈のコメディタッチなすれ違い婚姻譚!ハッピーエンドは保証します! ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも別名義で掲載予定です。 ※1日1話更新、できるだけ2話更新を目指しますが力尽きていた時はすみません。長いお話では無いので待っていてください。

【完結】ひっそりと暮らさせて下さい

甘塩ます☆
恋愛
王子は森で出会った女性を好きになるが……

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...