婚約破棄された悪役令嬢は、辺境でスイーツカフェをオープンしたらイケメンたちに溺愛されました

霧島

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第9話 屋敷の掃除とスイーツ試作

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第9話 屋敷の掃除とスイーツ試作

朝の陽光が、割れた窓から斜めに差し込んでくる。

埃が舞う古い屋敷のホールで、私は腰に手を当てて大きく伸びをした。

「……よし、今日から本格的に大掃除よ!」

隣でリナが、箒と雑巾を抱えて気合い十分に頷いた。

「はい、お嬢様! どこから始めましょうか!」

まずは一階のキッチン。

屋敷の奥にあった大きな厨房は、長い間使われていないせいで、鍋やフライパンが錆びつき、棚にはクモの巣が張っていた。

「うわ……これは予想以上ね」

私は苦笑いしながら、袖をまくった。

でも、逆に言えば自由に改造できるということ。

この広い作業台、大きな石窯、古いけどまだ使えるオーブン――

(完璧! カフェの厨房にぴったりだわ)

私たちは二人で黙々と掃除を始めた。

割れた窓に板を打ち付け、床を雑巾がけし、棚を拭き、錆びた道具を磨く。

汗だくになりながらも、だんだん厨房がきれいになっていくのが楽しくて仕方なかった。

昼過ぎ、ようやく一段落。

「リナ、ちょっと休憩しましょう」

私は持ってきた水差しからコップに注ぎ、リナに渡した。

「ありがとうございます、お嬢様……!」

リナはごくごくと飲み干して、ふうっと息をついた。

「でも、本当に綺麗になりましたね。まるで新しい厨房みたいです」

「うん。これなら、すぐにでもお菓子が作れそう」

私は満足げにキッチンを見回した。

そして――いよいよ本番。

「リナ、材料を運んできてくれる?」

籠の中には、王都から持ってきた砂糖、小麦粉、バター、卵、牛乳、そして少しのバニラの香料。

この世界の食材は現代と少し違うけど、基本は同じ。

まずはシンプルに、ショートケーキを作ってみることにした。

石窯に火を起こし、生地を混ぜ、スポンジを焼く。

厨房に、バターと砂糖の甘い香りが広がり始めた。

「わあ……いい匂い……」

リナがうっとりと鼻をくんくんさせる。

スポンジが焼き上がり、冷ます間に生クリームを泡立てる。

この世界の生クリームは少し濃厚で、泡立ちがいい。

砂糖を加えてホイップし、苺(この世界では似た赤い果実「ルビーベリー」)をスライス。

スポンジを切り、分けてクリームと果物をサンド。

最後に上からクリームを塗り、ルビーベリーを飾って――

「完成!」

小さなケーキが三つ、皿の上に並んだ。

見た目は……まあ、初めての異世界オーブンにしては上出来!

「リナ、味見してみて」

私は一切れを切り、リナに差し出した。

リナは緊張した様子でフォークを口に運んだ。

「……!!」

次の瞬間、リナの目が涙で潤んだ。

「お、お嬢様……これ、なんて美味しいんですか……!」

「本当? よかった!」

私は自分の分も一口。

うん、スポンジはふわふわ、クリームは濃厚で甘すぎず、ルビーベリーの酸味がアクセント。

現代の味にかなり近い!

「私、こんな美味しいケーキ、食べたことありません……!」

リナが感動で震えている。

「これを村の人たちにも食べてもらいたいな」

私は窓の外を見た。

夕方近く、村の子供たちが数人、屋敷の前を通りかかった。

昨日クッキーをあげた子たちだ。

「あ、お嬢様だ!」

子供たちが気づいて、手を振ってくる。

私はケーキを一切れずつ皿に乗り、庭に出た。

「みんな、ちょうどいいところに来たわね。これ、食べてみて?」

子供たちが目を丸くする。

「ケーキ……? クッキーよりすごいやつ?」

「うん、新作よ」

子供たちは恐る恐る一口。

そして――

「うわああああ!!」

「おいしすぎる!!」

「もっと食べたい!!」

大興奮。

一人の男の子が、涙目で言った。

「お姉ちゃん、毎日作ってくれる?」

私は笑って頷いた。

「毎日とは約束できないけど、たくさん作るつもりよ。お店ができたら、みんな来てね」

子供たちが歓声を上げて、村の方へ駆けていった。

きっと、今頃村中に噂が広がっているはず。

リナが、厨房から新しいケーキを持ってきてくれた。

「お嬢様、私ももう一つ……いいですか?」

「もちろん。リナの分もちゃんとあるわよ」

私たちは二人で、残りのケーキを分け合った。

夕日が厨房をオレンジに染める。

ボロボロだった屋敷が、少しずつ「私の家」になっていく感じ。

(明日からは、村の空き店舗を探そう)

(カフェ「ドルチェ・エレナ」、もうすぐオープン)

甘い香りに包まれながら、私は静かに決意した。

ここでの生活、絶対に楽しくする。

そう思った、辺境での初めての夜だった。

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