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第10話 カフェ開店の決意
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第10話 カフェ開店の決意
朝の村は、霧に包まれていた。
私はリナと一緒に、村の中心にある小さな広場を歩いていた。
昨日、子供たちが「空き家があるよ!」と教えてくれた場所――村はずれの古い一軒家だ。
木造の平屋で、屋根に穴が開き、壁は傾いている。
でも、広さは十分。厨房にできそうな部屋もあれば、客席に使える広い居間もある。
「ここを……カフェにしましょう」
私は建物の前に立ち、深く息を吸った。
リナが目を輝かせた。
「お嬢様! 本当にここでお店を?」
「ええ。名前はもう決めてるわ。『ドルチェ・エレナ』」
ドルチェは、この世界の言葉で「甘いもの」という意味。
私の名前を付けるのは少し恥ずかしいけど、看板にすれば覚えやすいはず。
まずは村長に交渉だ。
村長の家は広場のすぐ隣。
朝食中だったらしい村長は、渋い顔で私たちを迎えた。
「またお前か。何の用だ?」
「この空き家を借りさせてください。お店を開きたいんです」
私は頭を下げた。
村長はコーヒー(この世界の似た飲み物)をすすりながら、鼻で笑った。
「店ねえ。甘いお菓子を売るって話か?」
「はい。昨日配ったケーキ、覚えていますか? あれを売るお店です」
村長の目が少し揺れた。
昨日、子供たちが持って帰ったケーキの欠片を、村長もこっそり食べたらしい。
「……まあ、誰も使ってねえ家だ。好きにしろ」
「ありがとうございます! 家賃は?」
「家賃?」
村長が首を傾げた。
「領主が村の家を使うのに、家賃なんかとるか。税金で十分だ」
この世界では、領主が村の施設を使うのは当たり前らしい。
(ラッキー!)
私は内心でガッツポーズ。
「では、改装費用として、村の皆さんに仕事をお願いしたいんです。大工仕事や掃除を手伝っていただければ、報酬をお支払いします」
村長が目を丸くした。
「報酬……? 領主が村人に金払うなんて、聞いたことねえぞ」
「私は皆さんと一緒に、この村を良くしたいんです」
私の言葉に、村長はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。明日、村の男どもを集めてやる」
「ありがとうございます!」
私は深くお辞儀をした。
帰り道、リナが興奮して言った。
「お嬢様、明日から改装ですね! 看板も作らないと!」
「うん。あと、メニューも決めなきゃ」
基本はショートケーキ、クッキー、プリン、モンブラン。
季節の果物を使ったタルトも追加したい。
材料は村の畑で取れるものも多いし、足りないものは近くの町で仕入れられる。
午後、私は屋敷に戻って試作を続けた。
今日はプリン。
牛乳、卵、砂糖、バニラ。
シンプルだけど、この世界の人には新鮮な味のはず。
カラメルソースを鍋で煮詰め、プリン液を流し込み、湯煎で焼く。
焼き上がりを冷やしている間、看板のデザインを考えた。
『ドルチェ・エレナ』
可愛いフォントで、ケーキのイラスト付き。
(村に絵の上手い人がいたら、お願いしよう)
夕方、プリンが完成。
ぷるぷるの表面に、カラメルをかけていただく。
「……完璧!」
滑らかで、甘すぎず、苦味のアクセントが効いている。
リナにも食べさせて、大絶賛された。
夕暮れ時、村の広場に人が集まっていた。
どうやら、今日の私の話が話題になっているらしい。
子供たちが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、お店いつできるの?」
「ケーキ、毎日食べられるの?」
私は笑って答えた。
「もうすぐよ。一週間後にはオープンできると思うわ」
大人たちも、遠巻きにこちらを見ている。
まだ完全に信用されているわけじゃない。
でも、昨日より少し、表情が柔らかい。
その時――
遠くから、馬の蹄の音が聞こえた。
村の入り口に、一人の騎士が馬を止めた。
黒いマントに、銀の鎧。
辺境伯の紋章が入った旗。
(……まさか、もう?)
騎士が馬を降り、村長に近づいた。
「辺境伯レオン様の命により、領主エレナ・フォン・クラリス殿下の安否を確認しに参りました」
村人たちがざわつく。
私は少し緊張しながら、前に出た。
「私がエレナです。ご苦労様です」
騎士が片膝をついた。
「殿下、無事で何よりです。辺境伯様が、近いうちに直接ご挨拶に伺うとのことです」
(レオン……最初のイケメン登場!)
私は内心でドキッとした。
冷徹だけど優しい辺境伯レオン。
カフェの常連第一号になる人。
まだオープン前なのに、もう来客予告?
「……お伝えください。楽しみにしています」
私は微笑んだ。
騎士が去っていった後、村人たちが私をじろじろ見始めた。
「辺境伯様が……?」
「お嬢様、すごい人だったのか……」
評価が、少し上がった気がする。
夜、屋敷のベッドで、私は天井を見上げた。
明日から改装。
一週間後、オープン。
そして、最初の特別なお客様。
(絶対に、成功させる)
甘いプリンの味を思い出しながら、私は静かに目を閉じた。
カフェ「ドルチェ・エレナ」、もうすぐ開店。
私の新しい人生、本当のスタートライン。
そう思った、決意の夜だった。
朝の村は、霧に包まれていた。
私はリナと一緒に、村の中心にある小さな広場を歩いていた。
昨日、子供たちが「空き家があるよ!」と教えてくれた場所――村はずれの古い一軒家だ。
木造の平屋で、屋根に穴が開き、壁は傾いている。
でも、広さは十分。厨房にできそうな部屋もあれば、客席に使える広い居間もある。
「ここを……カフェにしましょう」
私は建物の前に立ち、深く息を吸った。
リナが目を輝かせた。
「お嬢様! 本当にここでお店を?」
「ええ。名前はもう決めてるわ。『ドルチェ・エレナ』」
ドルチェは、この世界の言葉で「甘いもの」という意味。
私の名前を付けるのは少し恥ずかしいけど、看板にすれば覚えやすいはず。
まずは村長に交渉だ。
村長の家は広場のすぐ隣。
朝食中だったらしい村長は、渋い顔で私たちを迎えた。
「またお前か。何の用だ?」
「この空き家を借りさせてください。お店を開きたいんです」
私は頭を下げた。
村長はコーヒー(この世界の似た飲み物)をすすりながら、鼻で笑った。
「店ねえ。甘いお菓子を売るって話か?」
「はい。昨日配ったケーキ、覚えていますか? あれを売るお店です」
村長の目が少し揺れた。
昨日、子供たちが持って帰ったケーキの欠片を、村長もこっそり食べたらしい。
「……まあ、誰も使ってねえ家だ。好きにしろ」
「ありがとうございます! 家賃は?」
「家賃?」
村長が首を傾げた。
「領主が村の家を使うのに、家賃なんかとるか。税金で十分だ」
この世界では、領主が村の施設を使うのは当たり前らしい。
(ラッキー!)
私は内心でガッツポーズ。
「では、改装費用として、村の皆さんに仕事をお願いしたいんです。大工仕事や掃除を手伝っていただければ、報酬をお支払いします」
村長が目を丸くした。
「報酬……? 領主が村人に金払うなんて、聞いたことねえぞ」
「私は皆さんと一緒に、この村を良くしたいんです」
私の言葉に、村長はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……わかった。明日、村の男どもを集めてやる」
「ありがとうございます!」
私は深くお辞儀をした。
帰り道、リナが興奮して言った。
「お嬢様、明日から改装ですね! 看板も作らないと!」
「うん。あと、メニューも決めなきゃ」
基本はショートケーキ、クッキー、プリン、モンブラン。
季節の果物を使ったタルトも追加したい。
材料は村の畑で取れるものも多いし、足りないものは近くの町で仕入れられる。
午後、私は屋敷に戻って試作を続けた。
今日はプリン。
牛乳、卵、砂糖、バニラ。
シンプルだけど、この世界の人には新鮮な味のはず。
カラメルソースを鍋で煮詰め、プリン液を流し込み、湯煎で焼く。
焼き上がりを冷やしている間、看板のデザインを考えた。
『ドルチェ・エレナ』
可愛いフォントで、ケーキのイラスト付き。
(村に絵の上手い人がいたら、お願いしよう)
夕方、プリンが完成。
ぷるぷるの表面に、カラメルをかけていただく。
「……完璧!」
滑らかで、甘すぎず、苦味のアクセントが効いている。
リナにも食べさせて、大絶賛された。
夕暮れ時、村の広場に人が集まっていた。
どうやら、今日の私の話が話題になっているらしい。
子供たちが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、お店いつできるの?」
「ケーキ、毎日食べられるの?」
私は笑って答えた。
「もうすぐよ。一週間後にはオープンできると思うわ」
大人たちも、遠巻きにこちらを見ている。
まだ完全に信用されているわけじゃない。
でも、昨日より少し、表情が柔らかい。
その時――
遠くから、馬の蹄の音が聞こえた。
村の入り口に、一人の騎士が馬を止めた。
黒いマントに、銀の鎧。
辺境伯の紋章が入った旗。
(……まさか、もう?)
騎士が馬を降り、村長に近づいた。
「辺境伯レオン様の命により、領主エレナ・フォン・クラリス殿下の安否を確認しに参りました」
村人たちがざわつく。
私は少し緊張しながら、前に出た。
「私がエレナです。ご苦労様です」
騎士が片膝をついた。
「殿下、無事で何よりです。辺境伯様が、近いうちに直接ご挨拶に伺うとのことです」
(レオン……最初のイケメン登場!)
私は内心でドキッとした。
冷徹だけど優しい辺境伯レオン。
カフェの常連第一号になる人。
まだオープン前なのに、もう来客予告?
「……お伝えください。楽しみにしています」
私は微笑んだ。
騎士が去っていった後、村人たちが私をじろじろ見始めた。
「辺境伯様が……?」
「お嬢様、すごい人だったのか……」
評価が、少し上がった気がする。
夜、屋敷のベッドで、私は天井を見上げた。
明日から改装。
一週間後、オープン。
そして、最初の特別なお客様。
(絶対に、成功させる)
甘いプリンの味を思い出しながら、私は静かに目を閉じた。
カフェ「ドルチェ・エレナ」、もうすぐ開店。
私の新しい人生、本当のスタートライン。
そう思った、決意の夜だった。
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