婚約破棄された悪役令嬢は、辺境でスイーツカフェをオープンしたらイケメンたちに溺愛されました

霧島

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第30話 王太子本人の来訪

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第30話 王太子本人の来訪

カフェ「ドルチェ・エレナ」拡張オープンから数日後。

朝の営業が始まる少し前、村の入り口が大騒ぎになった。

豪華な金色の馬車が四台、王家の旗をはためかせて入ってくる。

周囲を王都の親衛騎士が固め、紋章入りの旗が風に揺れる。

村人たちが集まり、子供たちが目を丸くする。

「……王太子殿下だ」

誰かが呟いた。

私は厨房から出て、店の前に立った。

レオン、カイル、シルヴィオ、リオ――四人も自然と私の周りに集まる。

馬車がカフェの前に止まり、扉が開いた。

降りてきたのは、金色の髪に碧の瞳の美青年。

王太子セシル・フォン・レグラム本人だった。

ゲームの主人公の相手、かつての私の婚約者。

セシルは少し疲れたような顔で、私に近づいてきた。

親衛騎士たちが道を開け、マリアも馬車から降りて後ろに控える。

「エレナ……久しぶりだ」

セシルが静かに言った。

私は優雅にお辞儀をした。

「セシル殿下、ご来店ありがとうございます。遠くからお疲れ様です」

セシルが苦笑いした。

「……いきなり『殿下』か。昔は名前で呼んでくれたのに」

私は微笑んだまま、答えなかった。

店内に案内し、一番いいテラス席へ。

セシルは座り、周囲を見回した。

拡張された店内、笑顔の村人たち、甘い香り。

「……本当に、素晴らしい店だ。噂以上だよ」

私はチョコレートパフェと紅茶を運んだ。

「まずは、これをどうぞ。お話はそれから」

セシルはスプーンを入れ、一口。

瞳が少し見開かれる。

「……これは……魔力が、確かに回復する」

マリアも隣でパフェを食べ、幸せそうな顔。

セシルはパフェを半分食べたところで、切り出した。

「エレナ、頼みがある。  
王国が今、魔物の大襲撃の危機に瀕している。  
マリアの魔力だけでは抑えきれず、宮廷の魔術師たちも疲弊している」

私は静かに聞いた。

「君のスイーツが、みんなを救う。  
王都に戻ってくれ。宮廷専属の菓子職人として、君の才能を王国のために使ってほしい。  
地位も名誉も、昔以上のものを与える。クラリス家への処分も取り消す」

大ざまぁの予感がする提案。

村人たちがざわつき、四人が私を心配そうに見る。

私はパフェのグラスを置き、微笑んだ。

「殿下のお心遣い、ありがとうございます」

セシルが少し安堵した顔。

「でも、お断りします」

セシルの表情が凍りついた。

「……なぜだ? 王国のためだぞ。君の家族のためでもある」

私はきっぱりと言った。

「私はもう、クラリス家の人間じゃありません。  
家族も、私を追放した時点で縁を切ったんです」

セシルが言葉に詰まる。

「それに、王国の危機は残念ですが……私はここで幸せです。  
この村で、みんなと一緒に暮らすのが、私の選んだ道」

私は四人と村人たちを見回した。

レオンが無言で頷き、カイルが守るように立つ。

シルヴィオがツンとした顔で、リオがガッツポーズ。

セシルが立ち上がり、声を少し大きくした。

「エレナ、君の才能は王国に必要だ!  
ここで埋もれさせるのは、もったいない!」

私は静かに、でもはっきり答えた。

「殿下、私はここで埋もれてなんかいません。  
みんなが笑顔になって、村が活気づいて、毎日が楽しいんです。  
殿下と王都にいた頃より、ずっと幸せです」

セシルが、初めて動揺した顔になった。

マリアが小声で。

「殿下……エレナさんの言う通りです。私も、ここに来てわかりました。  
エレナさんは、ここにいるべきなんです」

セシルはパフェの残りを一口食べ、深いため息をついた。

「……わかった。無理強いはしない。  
でも、レシピだけでも――」

「レシピは差し上げます。卸し販売も、考えます。  
ただ、私自身は動きません」

セシルが苦笑いした。

「……完全に、負けたよ。君に」

大ざまぁ、完遂。

王太子本人が直接来て、頭を下げて頼んだけど、完全拒絶。

セシルは立ち上がり、最後に言った。

「エレナ、幸せでいてくれ。  
それは、本心だ」

私は微笑んでお辞儀。

「殿下も、お幸せに」

王太子の馬車が去っていく。

村人たちが大歓声。

「お嬢様、かっこよかった!!」

「王太子様を断っちゃうなんて!」

四人が、私を囲む。

レオンがぽつりと。

「……よく、言った」

カイルが頷き。

「正しい選択だ」

シルヴィオがツンとして。

「……お前がここにいる方が、いい」

リオが大声で。

「エレナ、最高!! 俺たちとずっと一緒にいてくれよ!」

私はみんなを見て、胸がいっぱいになった。

王国は後悔し、王太子は完敗。

でも、私はここで、みんなと、甘い毎日を選ぶ。

カフェは今日も、甘い香りに満ちていた。

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