制御不能なS級魔法使いは、パーティーのお荷物 ― ストレス解消に神々の領域で無双してきます ―

霧島

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4-1 招待されたのに、徒歩で来ました

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第4章 神々の領域へ(神界決戦)

4-1 招待されたのに、徒歩で来ました

 ――そこは、あらゆる概念が形を失う空間だった。

 空も大地も存在せず、ただ「在る」と「無い」の境界が淡く揺らめいている。
 光は方向を持たず、時間は輪を描いて自分に戻る。
 ここは、神々が棲む領域。人の理が及ばぬ“外界”――。

 その中心に、ひとりの少女が立っていた。

「……ここどこですか?」

 銀の髪を揺らしながら、きょとんと辺りを見渡す。
 歩けば床ができ、立ち止まれば足元が消える。
 空を見上げても、空が生まれる。

「うーん……また変なとこ来ちゃいましたねぇ。
 転送魔法なんて使ってないのに、いつの間に?」

 そう、彼女――ダイア・ミレニアは、自分の足でここに来たのだった。


---

 一方、神界の奥。

 七つの天輪が重なり、黄金の玉座が現れる。
 そこに座すは、魔神王アズモディアス。
 千の世界を支配する神々の中でも最古にして最強。
 彼は、ゆるやかに目を開いた。

「……来たか。人の子よ。」

 その声ひとつで、空間が震えた。
 雷もないのに閃光が走り、霧が引くように世界が明瞭になる。

 アズモディアスは、悠然と王座に肘をつき、微笑した。

「愚かな人間。貴様を“招待”してやった。
 神々の世界に足を踏み入れる栄誉を与えよう。」

「え? 招待? いえ、普通に歩いてたら、なんか着いちゃって。」

「……は?」

 神の思考が一瞬停止する。
 黄金の光が一拍遅れて明滅した。

「歩いて……来ただと?」
「はい。地平線の端っこが明るく見えたから、あっち行こうかな~って。
 そしたら、なんかドアっぽいのがあったんですよね。」

「ドアっぽい……?」
「押したら“カチッ”って音がして、気づいたらここに。」

「……神界の結界を……“ドア扱い”……?」

 アズモディアスの眉がぴくりと動いた。
 神々の結界は、千の封印陣を重ねた絶対障壁。
 世界の理そのものを防壁とする最上位の封印。
 それを、ドアのノリで突破してきたのだ。

「信じられん……。貴様は神か?」
「いえ、人間です。ほら、ちゃんと息してますし。」
「息の有無は問題ではない!!!」


---

 アズモディアスは深く息を吐き、片手を上げた。
 指先に黒い光が集まり、空間が捻れる。
 すると、ダイアの前方に壮麗な宮殿が出現した。

「ここは神々の議場。選ばれし神のみが入れる場所だ。」
「おぉ~、床ピカピカですねぇ!」
「磨いたのは神聖なる侍従たちだ。貴様のような存在が踏むのもおこがましい。」
「すみません、靴の泥、落としておきますね」
「泥など存在しない!!!」

 ダイアは、全く悪びれずにほうき魔法をかけ、床をさらに磨いた。
 すると床が発光し、反射率が100%を超える。

「おおっ、眩しい……!」
「光の神々が倒れるぞぉぉぉ!」

 周囲の神々が慌てて日傘を差す。


---

「……なるほど。」
 アズモディアスは静かに立ち上がり、ダイアを見下ろした。
「貴様は我らの理に触れぬ存在。
 神でも悪魔でもない。だが、世界を“揺らす”ほどの力を持つ。」

「えー、そんなに大げさな。私、ただ歩いてきただけですよ?」
「歩いて神界に来られる人間がいるか!!」

 王の怒声が響く。
 雷鳴のような声。
 しかしダイアはまったく動じない。

「それで、“ご招待”っておっしゃいましたけど、
 何をすればいいんですか?」

 その素直な問いに、アズモディアスの口角が上がる。
「簡単なことだ。貴様の力を見せてみろ。
 神々の秩序を壊すほどの魔力……この私の前で、証明せよ。」

「証明、ですか。なるほど……」
 ダイアは小さくうなずいた。
「えっと……魔法、撃っていいんですか?」
「構わん。ここは神界。地上には一切干渉せぬ。
 好きに放て。」

「えっ!? 地上に影響なし!? つまり――」
 瞳が一瞬で輝く。
「禁呪、撃ち放題ってことですね!!」

「……今、すごく嫌な予感がしたぞ。」


---

 ダイアは空を見上げる。
 無限に広がる白い世界。
 神々の領域に満ちる“何もない”を感じ取るように、ゆっくりと息を吸い込んだ。

「ここ、ほんとに誰にも迷惑かかりませんよね?」
「うむ。我が保証する。」
「よかったぁ~。じゃあ、遠慮なく!」

「なっ……ちょ、待っ――」

 アズモディアスの制止の声を遮るように、
 ダイアの周囲に赤い魔法陣が幾重にも展開する。

「まずは肩慣らしですっ♪」

 軽い声とともに、神界の空が赤く染まった。
 天輪が軋み、雲のようなエネルギーが吹き飛ぶ。

「な……この力……ッ!? まだ詠唱の途中だというのに……!」

 アズモディアスは思わず身を乗り出した。
 彼の瞳に映るのは、無邪気な笑みの少女。
 だが、その背後には――世界そのものを焦がす火が揺らめいていた。

「……ふむ。やはり、興味深い。」
 神王は笑う。
「よかろう。ならば、神々の力で受けて立とう。」

 七つの天輪が再び輝き、神々の軍勢が整列する。
 光の柱が幾千と立ち上り、白の世界が戦場に変わっていく。


---

 しかし、当の本人はといえば――。

「うわぁ、空に模様出ました! かわいいですねぇ~!」
「戦場に感想を言うなぁぁぁぁ!!!」

 こうして、神々とひとりの少女の“とんでもない戦い”が、
 静かに幕を開けたのである。


---

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