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第三章:婚約発表の宴と“聖女”リリアナの横顔
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正式な婚約発表の宴が、明日に迫っていた。
ソフィア・エレナは朝早くから身支度や打ち合わせに追われながら、どうにも落ち着かない気分を抱えている。もともと貴族の令嬢として、こうした大規模な宴席に出る経験はそこそこあるのだが――今回ばかりは、以前とは比べものにならないほど注目を浴びる立場だ。
何しろ、“王子に捨てられた令嬢”が、“冷酷公爵”との新たな婚約を発表するというのだから、どんな好奇の視線が飛んでくるか分からない。さらに、その裏では“聖女”リリアナの存在も絡み合っている。
しかも国王自らが主催し、多くの貴族や有力者を招待する宮廷の宴となれば、下手な振る舞いはできない。ソフィアの名誉や、グランヴェル伯爵家、そして婚約相手であるヴァルフォード公爵家の評判にまで影響を与えかねない一大イベントなのだ。
もっとも、心細いばかりではない。――いまのソフィアには、アレクシス・ヴァルフォードという頼もしい存在がある。
第二章のラスト、二人は王宮を後にする馬車の中で互いの思いを多少なりとも確かめ合った。大それた愛の告白などではないが、アレクシスはソフィアを守ろうとしてくれている――その事実だけで、ソフィアの心は以前に比べるとはるかに安定している。
とはいえ、やはり不安がまったくないわけではない。あのエドワード王子がどんな顔で、どんな言動をしてくるか分からないし、“新たな聖女”として注目を集めるリリアナがどのような振る舞いを見せるかも未知数だ。
(でも……もうわたしは、あの頃のわたしじゃないわ)
ベッドサイドの鏡の前で、ドレスの最終チェックをしながら、ソフィアはそっと自分に言い聞かせる。
ほんの少し前まで――婚約破棄されたばかりの頃までは、王子への未練や屈辱的な思いに支配されていた。けれど、アレクシスの存在が希望をくれた。政略とはいえど、彼となら“真の絆”を築けるかもしれない――そう思うと、不思議と明日への恐れが和らぐのだ。
宴の前日、グランヴェル伯爵家にて
昼下がり、ソフィアは伯爵家の奥座敷で、侍女たちとともに明日の宴の段取りについて確認していた。ドレス、装飾品、髪型やメイクの最終仕上げ、そして侍女たちの立ち位置やエスコートの順序――すべてが滞りなく運ぶようにリハーサルを繰り返す。
そこへ、父であるグランヴェル伯爵が慌ただしくやって来る。
「ソフィア、少しよろしいか? 今、ヴァルフォード公爵家から連絡があったのだが、アレクシス公爵が直々に明日の迎えを申し出てくださったそうだ」
「公爵様が直接……?」
ソフィアは驚き、思わず侍女たちと顔を見合わせた。通常、こうした宮廷での大宴へは、それぞれが自分の馬車で赴き、会場で合流するのが慣例である。いくら婚約相手とはいえ、公爵がわざわざ伯爵家に迎えに来るというのは、かなりの厚意と言えるだろう。
伯爵は少し微笑みながら続ける。
「お前が騒ぎ立てられることを心配しての配慮だろう。公爵家の馬車で一緒に入場する方が、ソフィアの身の安全も確保しやすい――というわけだ。さすがに心遣いが行き届いているな」
「そう……なんですね」
そう口にするソフィアの胸は、じんわりとした温かさで満たされていく。
(公爵様……本当に、わたしを大切に思ってくださっているのかもしれない)
もちろん、彼がそこまでしてくれるのには政治的な狙いがあるのかもしれないが、それでもエドワード王子のように「自分優先で相手を蔑ろにする」やり方とはまるで違う。
自然と緊張が解け、ふっと微笑みが浮かびそうになる。ソフィアはなんとか気持ちを落ち着けて、伯爵に向き直った。
「……わたしも、そのほうが心強いです。ぜひお受けしましょう。公爵様には感謝をお伝えくださいね」
「ああ。では、そう返事しておく。お前も準備を怠るなよ。明日は大変な一日になるだろうからな」
「はい、お父さま」
伯爵が去ったあと、侍女たちはやや興奮気味に囁き合う。
「公爵様、なんて優しい……! あの“冷酷公爵”と呼ばれる方が、まさかこんなにも気遣いを示すなんて……」
「噂は当てにならないものですね。ソフィア様が幸せになってくださるなら、わたしたちも嬉しいです」
その言葉に、ソフィアは照れくさいような、でも悪くない気持ちになる。
(どうか……明日は大きな波乱にならないでほしい。わたしと公爵様が、無事に“婚約者”として皆に認められますように)
内心、そう祈るように願いながら、ソフィアはドレスの裾にそっと手を触れた。
宴当日、伯爵家に現れた公爵
そして迎えた宴の当日。
ソフィアは朝から幾度も髪型やメイクを直し、少しでも完璧な状態で臨むべく奮闘していた。ドレスは淡いアイスブルーを基調としたもので、胸元と裾には銀糸の刺繍があしらわれている。肌を滑らかに見せる化粧も完璧で、侍女たちが総力を挙げた成果がはっきりと表れていた。
「とても美しいですよ、ソフィア様……! まるで雪の妖精が舞い降りたかのようですわ」
「そうね、本当に……。きっと公爵様も目を奪われるはずです」
侍女の賛辞に、ソフィアは恥ずかしさからか微かに頬を染めるが、しかしこれからが本番だと思うと自然と背筋が伸びる。
そこへ、伯爵家の執事が扉を叩く音がした。
「ソフィア様、ヴァルフォード公爵様がおいでになりました。すぐに一階の応接室へご案内いたしますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、すぐに向かいます」
ソフィアは意を決し、侍女たちとともに階下へ降りていく。そこにはすでに父の伯爵とアレクシスが言葉を交わしている最中だった。
アレクシスは、漆黒のタキシードのような礼服に身を包んでいる。軍服姿の彼しか見たことがないソフィアにとって、その姿は新鮮であり、そしてあまりにも絵になる。颯爽とした立ち姿、深い色合いの服に映える整った顔立ち――胸が思わずどきりと高鳴るほど、彼は美しかった。
そんな彼が、ソフィアに気づいて微笑む。いつもは感情をあまり表に出さないはずなのに、今日はどこか柔らかな雰囲気だ。
「……おはようございます、ソフィア嬢。すばらしくお似合いですね」
短い言葉ながら、温かい響き。ソフィアはまるで胸をくすぐられるような感覚に襲われながら、かろうじて微笑を返す。
「ありがとうございます。公爵様も、とても素敵……」
言葉を詰まらせつつも、そう伝えると、アレクシスはほんの少しだけ笑みを深めた気がした。
伯爵はそんな二人を見守りながら、気恥ずかしそうに咳払いする。
「では、馬車の用意ができているようですので、行ってまいりなさい。公爵様、娘をよろしくお願いします」
「はい。責任をもってお連れいたします」
こうして、ソフィアはアレクシスにエスコートされて、伯爵家の門前へ出た。そこには公爵家の馬車が待ち構えており、御者や護衛の騎士たちが整然と並んでいる。
アレクシスがさりげなくソフィアの手をとって、馬車へと導いてくれる。その仕草ひとつとっても、穏やかな優しさが感じられるものだった。
――まるで夢を見ているかのような心地でソフィアは馬車に乗り込む。周囲には、伯爵家の使用人や近隣の者たちが遠巻きに見守っているが、その視線もどこか祝福の色が混じっているように思えた。
馬車の中、穏やかな会話
伯爵家を出た馬車は、王都の中心にある王宮へと向かっていく。車輪の音が心地よく響く中、ソフィアは窓から外の景色を眺めながら、隣に座るアレクシスに視線を向けた。
昨日、わざわざ迎えに来てくれると聞いたときから、ずっと気になっていたことがある。
「公爵様……本日はわたしのために、こうしていただいてありがとうございます。けれど……大丈夫なのでしょうか? 本来なら、別々に入場するのが慣例では……」
するとアレクシスは静かに首を振る。
「構いません。私の立場であれば、多少の慣例を破っても咎められることは少ない。むしろ、私と一緒に入場したほうが、貴女に変な人が近づきにくくなるでしょう」
「……そう、ですね」
ソフィアは思わず微笑んでしまう。頼もしい。その言葉には、エドワード王子を筆頭にした“好奇や不穏な思惑”からソフィアを守ろうとする意図が隠れている。
「ありがたいです。実は、やはり少し不安だったんです。王子やリリアナ様にどんな顔をされるか……あるいは、他の貴族の方々から何を言われるか……」
するとアレクシスは、ふっとソフィアの手を軽く握る。馬車の狭い空間で、彼の体温がじかに伝わってきて、ソフィアの胸が一瞬にして高鳴る。
「ご安心を。今日の宴で貴女がもし嫌な思いをさせられることがあれば、私がすべて遮ります。……決して、貴女を一人にはさせません」
「――」
短い言葉ながら、その力強い宣言にソフィアは言葉を失う。胸がドクドクと音を立て、頬が熱くなるのを自覚する。
(ああ……わたし、こんなに頼りになる人がそばにいるなんて、幸せかもしれない)
一方で、“一時的な優しさ”に浮かれすぎてはいけないという自制も働くが、それでもソフィアはこの安心感を手放したくないと思った。
やがて馬車は王宮の正門に近づく。すでに多くの貴族たちの馬車が並んでおり、華やかな衣装を纏った男女が続々と宮殿内へ入っていく様子が窓から見て取れる。
ソフィアの緊張が高まる。アレクシスがその気配を感じ取ったのか、やんわりと彼女の手を離し、柔らかい口調で言う。
「さあ、行きましょう。貴女は胸を張っていればいい。その姿を見せるだけで、周囲は黙るものです」
「……はい、ありがとうございます」
ソフィアは決意を新たにし、馬車の扉が開けられると同時にアレクシスに手を借りながら外へ降り立った。
華やかな婚約発表の宴が開幕する
王宮の大広間――そこは豪奢な装飾と色とりどりの花々に彩られ、数百人規模の貴族や賓客であふれていた。天井にはシャンデリアが幾つも吊り下げられ、広い床は鏡のように磨き上げられている。壁際では、召使いたちがワインや軽食を載せたトレーを運び、談笑に興じる人々に配っている。
そんな中、ソフィアとアレクシスが連れ立って入場した瞬間、ちらほらと驚きや好奇の視線が注がれた。
たいていの者は、ソフィアが王子に捨てられた過去を知っている。その“捨てられ令嬢”が、いまや公爵家との縁談を得て、堂々とこの場に姿を見せるのだ。しかも、噂に名高い“冷酷公爵”が自らエスコートしているのだから、なおさら人々の関心を集めるのは当然だった。
しかし、アレクシスの隣で清楚なドレスを纏ったソフィアは、気後れすることなく軽く会釈を返して歩みを進める。少なくとも、外見的には堂々とした姿が保てている――アレクシスの言葉を思い出しながら、胸を張るよう意識していたからだ。
やがて、王家の者たちが控える一角が見えてくる。国王夫妻とエドワード王子、そして第一王子の姿もある。第一王子は病弱ゆえ公の場にはめったに出てこないが、今日はあくまで“顔見せ”程度に現れているようだ。
ソフィアはそこに、噂の聖女リリアナがいるだろうかと思って目を凝らすが、見当たらない。――すると、ちょうど国王のそばで侍女のように身を置いていた令嬢が、こちらへ視線を送っていることに気づく。
金色の巻き髪に、白を基調とした華麗なドレス。大きな瞳は印象的だが、その奥に潜む感情は一瞥しただけでは読み取れない。
(あの方が……リリアナ様?)
ソフィアは直感的にそう思う。まだ確信はないが、その存在感は際立っている。周囲の貴族も彼女をちらちらと見ては、畏怖や嫉妬、あるいは興味の目を向けているようだ。
アレクシスは、そんなリリアナの視線を受け流すように、国王のもとへ足を運んだ。ソフィアも続く。
国王は例によって余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、二人に声をかけた。
「ヴァルフォード公爵、よく来てくれた。ソフィア嬢も……今日はいよいよ婚約を披露するのだろう? 楽しみにしておるよ」
「恐れ入ります、陛下。お招きいただき、感謝しております」
アレクシスが恭しく頭を下げる。ソフィアも続いて礼を取った。すると、横に立っていたエドワード王子が、どこかぎこちない笑みを浮かべながらソフィアに目を向ける。
「ソフィア……ずいぶん綺麗になったね。ああいや、前から綺麗だったけど……その、今日はとりわけ……」
まるで自分が大切にしていたものを、今さら惜しむかのような態度。しかし、もうソフィアは動揺しない。微笑みながら、静かに会釈してみせるだけだ。
「ありがとうございます。おかげさまで、わたしはもう貴方の婚約者ではありませんから、気にせずともよろしいのですよ」
その言葉には、ほんのわずかに皮肉を含ませた。エドワードは苦い顔をするが、反論はしない。もしかすると、ソフィアの変化に戸惑っているのかもしれない――だが、もう関係ないのだ。
そして、ソフィアが視線を正面に戻すと、そこには先ほどの金髪の令嬢――リリアナが、穏やかな笑みを浮かべて近づいてきていた。
「あなたが……ソフィア・エレナ様ね? 初めまして、“聖女”と呼ばれています、リリアナ・マグノリアといいます」
そう名乗った声は柔らかく、まるで小鳥がさえずるようだ。表情も親しみやすそうに見えるが、その瞳の奥には強い自負心が宿っているように感じる。
ソフィアは内心の警戒を隠しつつ、礼儀正しく微笑んで返す。
「こちらこそ、はじめまして。お噂はよく耳にしておりますわ、リリアナ様。……今回の宴でも、特別に賓客として招かれていると聞きました」
「ええ、国王陛下のお許しをいただいて。わたくしも“聖女”として、皆さまにご挨拶しなくてはなりませんので」
リリアナはそう言いながら、ちらりとエドワードの横顔を見やる。その仕草が何を意味するのか、ソフィアには分からない。――だが、王子に向けるまなざしは、ソフィアと話しているときとはまるで違う、何かしらの独占欲のようなものが混じっているように見えた。
(この方が……エドワード王子を奪っていった女性、ということなのね)
そんなことを考えていると、唐突にリリアナがクスリと笑い、ソフィアの耳元へそっと顔を寄せる。
「ねえ、ソフィア様。あなたは……わたくしが王子様に選ばれたことを、恨んでいたりはしないのかしら?」
その声は小さく、周囲には聞こえない。悪意か挑発か、あるいは好奇心か――いずれにせよ、ソフィアを試すような問いかけだった。
一瞬、ソフィアは反射的に言葉を詰まらせそうになるが、深呼吸して冷静に答える。
「いいえ、わたしはもう王子の婚約者ではありません。むしろ、あなたがそれを望んで勝ち取ったのでしょう? ならばどうぞ、そのまま王子を大切にして差し上げてください」
その返しに、リリアナは目を見開く。一瞬、驚きの表情が混じったが、それはすぐに笑みへと転じた。
「ふふ、そう……。ならば、あなたも幸せになりなさいな。あの“冷酷公爵”とね。……けれど、もしあなたがこの国に仇なすようなことをすれば、わたくしは“聖女”として容赦しませんわ。神聖なる力はわたくしの味方ですもの」
その言葉は、一見すると友好的に聞こえる。しかし、ソフィアにはなんとも言えない不快感が湧く。リリアナの瞳に映る自信は、まるで自分こそがこの国の頂点に立つ存在だと信じて疑わないかのようだ。
(何なの……。この人は、“聖女”としての力を振りかざしている?)
しかし、ソフィアはぐっと感情を飲み込む。いまここで突っかかっても無意味だ。それに、そばにはアレクシスがいる。彼が何か感じ取ったのか、静かにリリアナの方へ鋭い視線を投げかける。
「……リリアナ様。ソフィア嬢に何かご用ですか?」
「あら、公爵様。いえいえ、ただのご挨拶ですわ。婚約者が変わるって、大変でしょう? つい気になってしまって」
そう言い残して、リリアナはふわりと笑い、王子のそばへ戻っていく。エドワードがこちらを窺うようにしているのが視界の端で見えたが、ソフィアは視線を合わせない。
――リリアナという“聖女”。噂通り、ただものではない。美貌と自信に満ちたその立ち振る舞い、そして人の心を探るような鋭さを秘めている。
(まあいいわ。わたしには公爵様がいてくれるし、あの人たちとはもう無関係……のはず)
そう自分に言い聞かせ、ソフィアはできるだけ平静を保つ。
すると、アレクシスが小声で言った。
「……なにか、余計なことを言われませんでしたか?」
「ちょっとだけ挑発的だったかもしれません。でも、大丈夫です。わたし、もう王子のことで動揺するつもりはありませんから」
ソフィアがきっぱりと答えると、アレクシスはわずかに安心した表情になる。
「ならばよかった。もしあの聖女があなたに何かしようとしたら、私が阻止しますからね……」
どこまでも頼もしい言葉だった。
宴の最中、始まる婚約披露
しばらくして、やがて国王が壇上へ上がり、挨拶が始まる。今日の宴は“ヴァルフォード公爵とグランヴェル伯爵令嬢の婚約発表”がメインの目的だが、同時に“聖女リリアナを国民にお披露目する”場でもある。
国王の宣言に続き、リリアナが“神の御加護”を祈りながら軽く挨拶をすると、会場からは拍手が沸き起こる。人々は新たな聖女の存在に期待を寄せているのだろう。
リリアナは優雅に微笑みながら、手を振って応える。その様子はまるで王妃のような貫禄さえ漂わせており、エドワード王子を横に従えている姿は端から見れば絵になるものかもしれない。
(わたし……あの場に立つはずだったのに、いまは違うのね)
ソフィアはそう感じるが、不思議と後悔はない。むしろ、“いまの道”を選んでよかったとさえ思う。
続いて、国王が今度はソフィアとアレクシスの名を呼び、二人を壇上へ招き寄せる。会場の視線が一気に集中し、ソフィアは思わず緊張から喉が渇くのを感じる。
しかし、アレクシスがそっと肘を差し出し、ソフィアを支えるようにエスコートしてくれる。その支えがあるだけで、ソフィアは堂々と歩を進めることができた。
壇上に立つと、国王が高らかに宣言する。
「皆の者、すでにご存知かもしれぬが、ヴァルフォード公爵とグランヴェル伯爵令嬢が、このたび婚約を結ぶこととなった。王家としても、これを正式に認め、祝福するものである。まずは二人から、一言ずつ挨拶をもらおうか」
広い会場に響く王の声。その背後には、エドワードやリリアナの姿も見える。――あまり見たくはないが、ソフィアは視界の端にその動向を捉えながら、まずはアレクシスが一歩前へ進むのを確認した。
アレクシスは深く礼をして、端正な声で語り始める。
「皆さま、本日はこのように盛大な場を設けていただき、誠に感謝いたします。わたくし、アレクシス・ヴァルフォードは、国王陛下のご許可を得て、ソフィア・エレナ嬢を正式に婚約者とすることにいたしました。……本来、私は戦場に生きる身と思っておりましたが、彼女という存在が、私にとってかけがえのない支えになりつつあるのです」
その言葉に、会場がざわめく。“冷酷公爵”が、まるで愛を語るかのような口調で公の場に立っているのだから無理もない。ソフィア自身も驚き、胸がじんと熱くなる。
アレクシスは視線を一度ソフィアに向け、それからまた会場の方へ戻す。
「どうか皆さま、彼女を暖かく見守っていただければ幸いです。わたしは、妻となる彼女を全力でお守りいたします」
そう言い終えると、再び礼をする。会場の人々は最初は唖然としたようだったが、やがて拍手が沸き起こり、パラパラと歓声が上がるのが聞こえる。
次に、ソフィアの番だ。彼の言葉による感動が胸を突いているせいで、声がうまく出るか自信がなかったが、必死に平静を装って口を開く。
「わ、わたくし、ソフィア・エレナは、ヴァルフォード公爵様との婚約を心から嬉しく思っております。今はまだ至らぬことばかりですが、公爵様や皆さまのご期待に添えるよう、精一杯努めてまいります。どうぞ、よろしくお願いいたします……」
最後の方は少し震えが混じったが、拍手とともに暖かい視線が注がれているのを感じる。もっとも、中には面白くなさそうにしている者や、好奇の目を向けている者もいるだろう。しかし、今のソフィアには、この場に立てている喜びが大きい。
(わたしは、もう過去の屈辱に囚われない。新しい未来を、ここで掴んでみせる)
そんな決意を胸に、ソフィアはそっとアレクシスの隣へ並んだ。アレクシスが小さく微笑んでくれる。それだけで、心が満たされるような感覚があった。
王子と聖女の不穏な気配
婚約披露の挨拶が終わり、一旦式次第は幕を下ろす形となる。あとは自由に歓談や食事を楽しみつつ、新たな婚約者と聖女の登場を祝うというのがこの宴の趣旨だ。
ソフィアとアレクシスは、一通りの貴族から祝福の言葉を受け、時に軽い会話を交わした。とりわけ女性たちからは、「あのヴァルフォード公爵を落とすなんてすごいわ」などと興味津々に尋ねられることもある。もちろん、“冷酷公爵”の真実はソフィアが一番よく知っているが、いまは笑ってごまかすしかない。
そんな中、グランヴェル伯爵や知己の貴族たちも声をかけてくれ、ソフィアの緊張はだいぶ和らいできた。アレクシスも必要以上に口を挟むことなく、しかしソフィアが困ったときには即座に助け船を出してくれる。まさに絶妙なエスコートだった。
――ところが。
宴が中盤に差しかかったころ、ふとソフィアは会場の片隅でエドワード王子とリリアナが口論のようなものをしている様子を目撃する。二人とも声をひそめてはいるが、表情は険しい。
(どうしたのかしら……?)
王子がリリアナを宥めるように手を伸ばしているが、リリアナはそれを振り払っている。外聞が悪いと気づいたのか、王子は慌てて周囲を見回し、そのままリリアナの手を引いて廊下のほうへ消えていった。
ソフィアとしては無関係だし、首を突っ込むつもりもない。だが、妙に胸騒ぎを覚えるのも事実だった。
(リリアナ様……まさか、王子と不仲になっている? そんな話は耳にしなかったけれど)
あれほど堂々とした女性が、なぜあんな風に王子と揉めているのか。会場の目を憚らず、あそこまで感情的になっているリリアナを見ると、彼女にとってよほど都合の悪い何かがあったのだろうか――。
「ソフィア嬢、どうかしましたか?」
アレクシスの声で、ソフィアははっと我に返る。どうやら視線を一点に向けたまま固まっていたらしい。
「いいえ、少し気になることが……。王子とリリアナ様が口論しているように見えたのです」
「……そうですか。まあ、あの二人なら何があってもおかしくないでしょう。お気になさらず。貴女が気遣う必要はありません」
アレクシスは落ち着いた口調で言い、ソフィアを安心させるように微笑む。確かにその通りだ――ソフィアが関与することではない。
(そう、もうわたしはあの人たちに振り回されない。わたしの人生は、これからは公爵様と……)
しかし、その瞬間、宴の奥のほうで何やら人だかりができ、悲鳴のような声が上がった。ざわめきが広がり、貴族たちが動揺している様子。
「どうした?」「誰か倒れたのか?」
そんな声が飛び交う中、ソフィアたちも急いでそちらへ向かうと――なんと、一人の女性が息苦しそうに胸を押さえ、床に膝をついていた。
周囲は大騒ぎになっているが、彼女の侍女らしき人も慌てており、どう対処すればいいか分からない様子だ。
「どいてください! 薬師や神官はいるか!? 早く手当を……!」
たまたま近くにいた侍医が駆け寄るが、どうやら応急処置がうまくいっていないようだ。呼吸困難を起こしているのか、女性の顔は苦痛に歪んでいる。
(大丈夫かしら……。このままでは危ないかも……)
そう思ったソフィアの隣をすり抜けるようにして、リリアナが現れた。いつの間にか口論を終えて戻ってきたのか、周囲をかき分けながら女性に近づく。
「下がってください! わたくしが“聖女の奇跡”を使います!」
その言葉に、周囲の人々は「おお……!」とどよめく。リリアナは女性の頭をそっと支え、慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、神聖なる祈りの言葉を口にしながら手をかざす。
しばらくすると、女性の苦しそうな呼吸が次第に落ち着いていき、顔色が少しずつ良くなっていくのが分かった。まるで本当に奇跡が起きたかのようだ。
その光景に、周囲からは感嘆や歓声が上がる。「さすが聖女様だ!」「本当に救いの力をお持ちなのか!」と口々に囁く人々。
リリアナはそっと女性を侍女に預けると、会場の視線を一身に受けながら、まるで舞台役者のように優雅にお辞儀をした。
(すごい……本当に癒やしの力が使えるの?)
ソフィアは驚きつつも、妙に胸騒ぎがする。――リリアナが神聖な力を持つ“聖女”なのは確かだろうが、彼女がさっきの口論で見せた険しい表情との落差が大きすぎる。まるで、何か意図的に演じているかのように思えてならない。
しかし、周囲の貴族たちはリリアナへの賛辞を惜しまない。彼女の力で一人の命が救われたのだ。エドワード王子も安堵の表情を浮かべている。
(王子とリリアナ様……。あの二人の間に何か問題があるとしても、こうして“聖女”が力を示せば、人々は彼女を讃えるわ。王子の評価も上がるでしょうし……)
漠然と、ソフィアはそんなことを考える。――だが、この一件でリリアナの株が上がる一方、“新たな聖女”を崇拝する空気はますます強まるだろう。国王もその力を利用して、王家の安泰を図るに違いない。
そのうち、リリアナにとって“邪魔な存在”と見なされる者は、容赦なく排除されるかもしれない――そんな嫌な予感が頭をかすめる。
ともあれ、今回の宴のメインは無事に成し遂げられた。ソフィアとアレクシスは、周囲の冷やかし混じりの祝福を受け流しつつ、深夜近くまで続く祝宴をなんとか乗り切ることができたのだった。
エンディング:波乱の序章
婚約発表の宴は、最後まで大きな混乱なく終了した。
もっとも、リリアナが“聖女の力”を見せつけた一件は人々の記憶に強烈に焼き付いたようで、あの場面を目撃した貴族たちは皆「リリアナ様こそ真の聖女だ」「彼女がいれば国は安泰だ」と口々に称えている。
そんな空気の中、ソフィアは“捨てられた令嬢”という立場から一転、“冷酷公爵の婚約者”として、一定の評価を得ることができた。人々の視線は好奇心や羨望、あるいは疑念や妬み……さまざまだが、少なくとも冷遇されることはないだろう。アレクシスがその影響力を持って、ソフィアをしっかり庇護してくれるからだ。
宴の翌朝。ソフィアは体の疲れを癒やしきれないまま起き上がり、窓から差し込む日の光を浴びながら思う。
(婚約発表は無事に終わった……でも、これで本当に平穏になるとは思えない。リリアナ様の力は本物だし、王子の様子もどこか不安定……。それに、国王の思惑や、公爵様の隠された事情だって、まだ全部を知っているわけじゃない)
それでも、ソフィアはひとつ確信していることがある。――“わたしはもう、一人で立ち向かうわけではない”ということ。
彼女の隣には、頼れる公爵がいる。アレクシス・ヴァルフォードという、冷酷と噂されながらも実は優しい男が。
(わたしは、あの方と共に生きていく。たとえどんな波乱が待ち受けていても、もう迷わない。絶対に、わたしの手で未来を掴んでみせる……!)
そう心に誓いながら、ソフィアは一歩ずつ歩み出す。
――まだ道のりは始まったばかり。リリアナと王子の関係が、この先どのような形で波紋を広げるのか。そして、アレクシスが抱える秘密や、“戦場の悪魔”とまで呼ばれた過去は、果たしてソフィアの未来に何をもたらすのか。
これから先、さまざまな困難が待ち受けているとしても、もはや彼女は恐れない。かつてのように王家の意向に縛られて絶望する日々はもう終わりだ。
“冷酷公爵”による、甘くて痛快な“溺愛”と“ざまあ”の物語が、いままさに本格的に動き出していく――。
ソフィア・エレナは朝早くから身支度や打ち合わせに追われながら、どうにも落ち着かない気分を抱えている。もともと貴族の令嬢として、こうした大規模な宴席に出る経験はそこそこあるのだが――今回ばかりは、以前とは比べものにならないほど注目を浴びる立場だ。
何しろ、“王子に捨てられた令嬢”が、“冷酷公爵”との新たな婚約を発表するというのだから、どんな好奇の視線が飛んでくるか分からない。さらに、その裏では“聖女”リリアナの存在も絡み合っている。
しかも国王自らが主催し、多くの貴族や有力者を招待する宮廷の宴となれば、下手な振る舞いはできない。ソフィアの名誉や、グランヴェル伯爵家、そして婚約相手であるヴァルフォード公爵家の評判にまで影響を与えかねない一大イベントなのだ。
もっとも、心細いばかりではない。――いまのソフィアには、アレクシス・ヴァルフォードという頼もしい存在がある。
第二章のラスト、二人は王宮を後にする馬車の中で互いの思いを多少なりとも確かめ合った。大それた愛の告白などではないが、アレクシスはソフィアを守ろうとしてくれている――その事実だけで、ソフィアの心は以前に比べるとはるかに安定している。
とはいえ、やはり不安がまったくないわけではない。あのエドワード王子がどんな顔で、どんな言動をしてくるか分からないし、“新たな聖女”として注目を集めるリリアナがどのような振る舞いを見せるかも未知数だ。
(でも……もうわたしは、あの頃のわたしじゃないわ)
ベッドサイドの鏡の前で、ドレスの最終チェックをしながら、ソフィアはそっと自分に言い聞かせる。
ほんの少し前まで――婚約破棄されたばかりの頃までは、王子への未練や屈辱的な思いに支配されていた。けれど、アレクシスの存在が希望をくれた。政略とはいえど、彼となら“真の絆”を築けるかもしれない――そう思うと、不思議と明日への恐れが和らぐのだ。
宴の前日、グランヴェル伯爵家にて
昼下がり、ソフィアは伯爵家の奥座敷で、侍女たちとともに明日の宴の段取りについて確認していた。ドレス、装飾品、髪型やメイクの最終仕上げ、そして侍女たちの立ち位置やエスコートの順序――すべてが滞りなく運ぶようにリハーサルを繰り返す。
そこへ、父であるグランヴェル伯爵が慌ただしくやって来る。
「ソフィア、少しよろしいか? 今、ヴァルフォード公爵家から連絡があったのだが、アレクシス公爵が直々に明日の迎えを申し出てくださったそうだ」
「公爵様が直接……?」
ソフィアは驚き、思わず侍女たちと顔を見合わせた。通常、こうした宮廷での大宴へは、それぞれが自分の馬車で赴き、会場で合流するのが慣例である。いくら婚約相手とはいえ、公爵がわざわざ伯爵家に迎えに来るというのは、かなりの厚意と言えるだろう。
伯爵は少し微笑みながら続ける。
「お前が騒ぎ立てられることを心配しての配慮だろう。公爵家の馬車で一緒に入場する方が、ソフィアの身の安全も確保しやすい――というわけだ。さすがに心遣いが行き届いているな」
「そう……なんですね」
そう口にするソフィアの胸は、じんわりとした温かさで満たされていく。
(公爵様……本当に、わたしを大切に思ってくださっているのかもしれない)
もちろん、彼がそこまでしてくれるのには政治的な狙いがあるのかもしれないが、それでもエドワード王子のように「自分優先で相手を蔑ろにする」やり方とはまるで違う。
自然と緊張が解け、ふっと微笑みが浮かびそうになる。ソフィアはなんとか気持ちを落ち着けて、伯爵に向き直った。
「……わたしも、そのほうが心強いです。ぜひお受けしましょう。公爵様には感謝をお伝えくださいね」
「ああ。では、そう返事しておく。お前も準備を怠るなよ。明日は大変な一日になるだろうからな」
「はい、お父さま」
伯爵が去ったあと、侍女たちはやや興奮気味に囁き合う。
「公爵様、なんて優しい……! あの“冷酷公爵”と呼ばれる方が、まさかこんなにも気遣いを示すなんて……」
「噂は当てにならないものですね。ソフィア様が幸せになってくださるなら、わたしたちも嬉しいです」
その言葉に、ソフィアは照れくさいような、でも悪くない気持ちになる。
(どうか……明日は大きな波乱にならないでほしい。わたしと公爵様が、無事に“婚約者”として皆に認められますように)
内心、そう祈るように願いながら、ソフィアはドレスの裾にそっと手を触れた。
宴当日、伯爵家に現れた公爵
そして迎えた宴の当日。
ソフィアは朝から幾度も髪型やメイクを直し、少しでも完璧な状態で臨むべく奮闘していた。ドレスは淡いアイスブルーを基調としたもので、胸元と裾には銀糸の刺繍があしらわれている。肌を滑らかに見せる化粧も完璧で、侍女たちが総力を挙げた成果がはっきりと表れていた。
「とても美しいですよ、ソフィア様……! まるで雪の妖精が舞い降りたかのようですわ」
「そうね、本当に……。きっと公爵様も目を奪われるはずです」
侍女の賛辞に、ソフィアは恥ずかしさからか微かに頬を染めるが、しかしこれからが本番だと思うと自然と背筋が伸びる。
そこへ、伯爵家の執事が扉を叩く音がした。
「ソフィア様、ヴァルフォード公爵様がおいでになりました。すぐに一階の応接室へご案内いたしますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、すぐに向かいます」
ソフィアは意を決し、侍女たちとともに階下へ降りていく。そこにはすでに父の伯爵とアレクシスが言葉を交わしている最中だった。
アレクシスは、漆黒のタキシードのような礼服に身を包んでいる。軍服姿の彼しか見たことがないソフィアにとって、その姿は新鮮であり、そしてあまりにも絵になる。颯爽とした立ち姿、深い色合いの服に映える整った顔立ち――胸が思わずどきりと高鳴るほど、彼は美しかった。
そんな彼が、ソフィアに気づいて微笑む。いつもは感情をあまり表に出さないはずなのに、今日はどこか柔らかな雰囲気だ。
「……おはようございます、ソフィア嬢。すばらしくお似合いですね」
短い言葉ながら、温かい響き。ソフィアはまるで胸をくすぐられるような感覚に襲われながら、かろうじて微笑を返す。
「ありがとうございます。公爵様も、とても素敵……」
言葉を詰まらせつつも、そう伝えると、アレクシスはほんの少しだけ笑みを深めた気がした。
伯爵はそんな二人を見守りながら、気恥ずかしそうに咳払いする。
「では、馬車の用意ができているようですので、行ってまいりなさい。公爵様、娘をよろしくお願いします」
「はい。責任をもってお連れいたします」
こうして、ソフィアはアレクシスにエスコートされて、伯爵家の門前へ出た。そこには公爵家の馬車が待ち構えており、御者や護衛の騎士たちが整然と並んでいる。
アレクシスがさりげなくソフィアの手をとって、馬車へと導いてくれる。その仕草ひとつとっても、穏やかな優しさが感じられるものだった。
――まるで夢を見ているかのような心地でソフィアは馬車に乗り込む。周囲には、伯爵家の使用人や近隣の者たちが遠巻きに見守っているが、その視線もどこか祝福の色が混じっているように思えた。
馬車の中、穏やかな会話
伯爵家を出た馬車は、王都の中心にある王宮へと向かっていく。車輪の音が心地よく響く中、ソフィアは窓から外の景色を眺めながら、隣に座るアレクシスに視線を向けた。
昨日、わざわざ迎えに来てくれると聞いたときから、ずっと気になっていたことがある。
「公爵様……本日はわたしのために、こうしていただいてありがとうございます。けれど……大丈夫なのでしょうか? 本来なら、別々に入場するのが慣例では……」
するとアレクシスは静かに首を振る。
「構いません。私の立場であれば、多少の慣例を破っても咎められることは少ない。むしろ、私と一緒に入場したほうが、貴女に変な人が近づきにくくなるでしょう」
「……そう、ですね」
ソフィアは思わず微笑んでしまう。頼もしい。その言葉には、エドワード王子を筆頭にした“好奇や不穏な思惑”からソフィアを守ろうとする意図が隠れている。
「ありがたいです。実は、やはり少し不安だったんです。王子やリリアナ様にどんな顔をされるか……あるいは、他の貴族の方々から何を言われるか……」
するとアレクシスは、ふっとソフィアの手を軽く握る。馬車の狭い空間で、彼の体温がじかに伝わってきて、ソフィアの胸が一瞬にして高鳴る。
「ご安心を。今日の宴で貴女がもし嫌な思いをさせられることがあれば、私がすべて遮ります。……決して、貴女を一人にはさせません」
「――」
短い言葉ながら、その力強い宣言にソフィアは言葉を失う。胸がドクドクと音を立て、頬が熱くなるのを自覚する。
(ああ……わたし、こんなに頼りになる人がそばにいるなんて、幸せかもしれない)
一方で、“一時的な優しさ”に浮かれすぎてはいけないという自制も働くが、それでもソフィアはこの安心感を手放したくないと思った。
やがて馬車は王宮の正門に近づく。すでに多くの貴族たちの馬車が並んでおり、華やかな衣装を纏った男女が続々と宮殿内へ入っていく様子が窓から見て取れる。
ソフィアの緊張が高まる。アレクシスがその気配を感じ取ったのか、やんわりと彼女の手を離し、柔らかい口調で言う。
「さあ、行きましょう。貴女は胸を張っていればいい。その姿を見せるだけで、周囲は黙るものです」
「……はい、ありがとうございます」
ソフィアは決意を新たにし、馬車の扉が開けられると同時にアレクシスに手を借りながら外へ降り立った。
華やかな婚約発表の宴が開幕する
王宮の大広間――そこは豪奢な装飾と色とりどりの花々に彩られ、数百人規模の貴族や賓客であふれていた。天井にはシャンデリアが幾つも吊り下げられ、広い床は鏡のように磨き上げられている。壁際では、召使いたちがワインや軽食を載せたトレーを運び、談笑に興じる人々に配っている。
そんな中、ソフィアとアレクシスが連れ立って入場した瞬間、ちらほらと驚きや好奇の視線が注がれた。
たいていの者は、ソフィアが王子に捨てられた過去を知っている。その“捨てられ令嬢”が、いまや公爵家との縁談を得て、堂々とこの場に姿を見せるのだ。しかも、噂に名高い“冷酷公爵”が自らエスコートしているのだから、なおさら人々の関心を集めるのは当然だった。
しかし、アレクシスの隣で清楚なドレスを纏ったソフィアは、気後れすることなく軽く会釈を返して歩みを進める。少なくとも、外見的には堂々とした姿が保てている――アレクシスの言葉を思い出しながら、胸を張るよう意識していたからだ。
やがて、王家の者たちが控える一角が見えてくる。国王夫妻とエドワード王子、そして第一王子の姿もある。第一王子は病弱ゆえ公の場にはめったに出てこないが、今日はあくまで“顔見せ”程度に現れているようだ。
ソフィアはそこに、噂の聖女リリアナがいるだろうかと思って目を凝らすが、見当たらない。――すると、ちょうど国王のそばで侍女のように身を置いていた令嬢が、こちらへ視線を送っていることに気づく。
金色の巻き髪に、白を基調とした華麗なドレス。大きな瞳は印象的だが、その奥に潜む感情は一瞥しただけでは読み取れない。
(あの方が……リリアナ様?)
ソフィアは直感的にそう思う。まだ確信はないが、その存在感は際立っている。周囲の貴族も彼女をちらちらと見ては、畏怖や嫉妬、あるいは興味の目を向けているようだ。
アレクシスは、そんなリリアナの視線を受け流すように、国王のもとへ足を運んだ。ソフィアも続く。
国王は例によって余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、二人に声をかけた。
「ヴァルフォード公爵、よく来てくれた。ソフィア嬢も……今日はいよいよ婚約を披露するのだろう? 楽しみにしておるよ」
「恐れ入ります、陛下。お招きいただき、感謝しております」
アレクシスが恭しく頭を下げる。ソフィアも続いて礼を取った。すると、横に立っていたエドワード王子が、どこかぎこちない笑みを浮かべながらソフィアに目を向ける。
「ソフィア……ずいぶん綺麗になったね。ああいや、前から綺麗だったけど……その、今日はとりわけ……」
まるで自分が大切にしていたものを、今さら惜しむかのような態度。しかし、もうソフィアは動揺しない。微笑みながら、静かに会釈してみせるだけだ。
「ありがとうございます。おかげさまで、わたしはもう貴方の婚約者ではありませんから、気にせずともよろしいのですよ」
その言葉には、ほんのわずかに皮肉を含ませた。エドワードは苦い顔をするが、反論はしない。もしかすると、ソフィアの変化に戸惑っているのかもしれない――だが、もう関係ないのだ。
そして、ソフィアが視線を正面に戻すと、そこには先ほどの金髪の令嬢――リリアナが、穏やかな笑みを浮かべて近づいてきていた。
「あなたが……ソフィア・エレナ様ね? 初めまして、“聖女”と呼ばれています、リリアナ・マグノリアといいます」
そう名乗った声は柔らかく、まるで小鳥がさえずるようだ。表情も親しみやすそうに見えるが、その瞳の奥には強い自負心が宿っているように感じる。
ソフィアは内心の警戒を隠しつつ、礼儀正しく微笑んで返す。
「こちらこそ、はじめまして。お噂はよく耳にしておりますわ、リリアナ様。……今回の宴でも、特別に賓客として招かれていると聞きました」
「ええ、国王陛下のお許しをいただいて。わたくしも“聖女”として、皆さまにご挨拶しなくてはなりませんので」
リリアナはそう言いながら、ちらりとエドワードの横顔を見やる。その仕草が何を意味するのか、ソフィアには分からない。――だが、王子に向けるまなざしは、ソフィアと話しているときとはまるで違う、何かしらの独占欲のようなものが混じっているように見えた。
(この方が……エドワード王子を奪っていった女性、ということなのね)
そんなことを考えていると、唐突にリリアナがクスリと笑い、ソフィアの耳元へそっと顔を寄せる。
「ねえ、ソフィア様。あなたは……わたくしが王子様に選ばれたことを、恨んでいたりはしないのかしら?」
その声は小さく、周囲には聞こえない。悪意か挑発か、あるいは好奇心か――いずれにせよ、ソフィアを試すような問いかけだった。
一瞬、ソフィアは反射的に言葉を詰まらせそうになるが、深呼吸して冷静に答える。
「いいえ、わたしはもう王子の婚約者ではありません。むしろ、あなたがそれを望んで勝ち取ったのでしょう? ならばどうぞ、そのまま王子を大切にして差し上げてください」
その返しに、リリアナは目を見開く。一瞬、驚きの表情が混じったが、それはすぐに笑みへと転じた。
「ふふ、そう……。ならば、あなたも幸せになりなさいな。あの“冷酷公爵”とね。……けれど、もしあなたがこの国に仇なすようなことをすれば、わたくしは“聖女”として容赦しませんわ。神聖なる力はわたくしの味方ですもの」
その言葉は、一見すると友好的に聞こえる。しかし、ソフィアにはなんとも言えない不快感が湧く。リリアナの瞳に映る自信は、まるで自分こそがこの国の頂点に立つ存在だと信じて疑わないかのようだ。
(何なの……。この人は、“聖女”としての力を振りかざしている?)
しかし、ソフィアはぐっと感情を飲み込む。いまここで突っかかっても無意味だ。それに、そばにはアレクシスがいる。彼が何か感じ取ったのか、静かにリリアナの方へ鋭い視線を投げかける。
「……リリアナ様。ソフィア嬢に何かご用ですか?」
「あら、公爵様。いえいえ、ただのご挨拶ですわ。婚約者が変わるって、大変でしょう? つい気になってしまって」
そう言い残して、リリアナはふわりと笑い、王子のそばへ戻っていく。エドワードがこちらを窺うようにしているのが視界の端で見えたが、ソフィアは視線を合わせない。
――リリアナという“聖女”。噂通り、ただものではない。美貌と自信に満ちたその立ち振る舞い、そして人の心を探るような鋭さを秘めている。
(まあいいわ。わたしには公爵様がいてくれるし、あの人たちとはもう無関係……のはず)
そう自分に言い聞かせ、ソフィアはできるだけ平静を保つ。
すると、アレクシスが小声で言った。
「……なにか、余計なことを言われませんでしたか?」
「ちょっとだけ挑発的だったかもしれません。でも、大丈夫です。わたし、もう王子のことで動揺するつもりはありませんから」
ソフィアがきっぱりと答えると、アレクシスはわずかに安心した表情になる。
「ならばよかった。もしあの聖女があなたに何かしようとしたら、私が阻止しますからね……」
どこまでも頼もしい言葉だった。
宴の最中、始まる婚約披露
しばらくして、やがて国王が壇上へ上がり、挨拶が始まる。今日の宴は“ヴァルフォード公爵とグランヴェル伯爵令嬢の婚約発表”がメインの目的だが、同時に“聖女リリアナを国民にお披露目する”場でもある。
国王の宣言に続き、リリアナが“神の御加護”を祈りながら軽く挨拶をすると、会場からは拍手が沸き起こる。人々は新たな聖女の存在に期待を寄せているのだろう。
リリアナは優雅に微笑みながら、手を振って応える。その様子はまるで王妃のような貫禄さえ漂わせており、エドワード王子を横に従えている姿は端から見れば絵になるものかもしれない。
(わたし……あの場に立つはずだったのに、いまは違うのね)
ソフィアはそう感じるが、不思議と後悔はない。むしろ、“いまの道”を選んでよかったとさえ思う。
続いて、国王が今度はソフィアとアレクシスの名を呼び、二人を壇上へ招き寄せる。会場の視線が一気に集中し、ソフィアは思わず緊張から喉が渇くのを感じる。
しかし、アレクシスがそっと肘を差し出し、ソフィアを支えるようにエスコートしてくれる。その支えがあるだけで、ソフィアは堂々と歩を進めることができた。
壇上に立つと、国王が高らかに宣言する。
「皆の者、すでにご存知かもしれぬが、ヴァルフォード公爵とグランヴェル伯爵令嬢が、このたび婚約を結ぶこととなった。王家としても、これを正式に認め、祝福するものである。まずは二人から、一言ずつ挨拶をもらおうか」
広い会場に響く王の声。その背後には、エドワードやリリアナの姿も見える。――あまり見たくはないが、ソフィアは視界の端にその動向を捉えながら、まずはアレクシスが一歩前へ進むのを確認した。
アレクシスは深く礼をして、端正な声で語り始める。
「皆さま、本日はこのように盛大な場を設けていただき、誠に感謝いたします。わたくし、アレクシス・ヴァルフォードは、国王陛下のご許可を得て、ソフィア・エレナ嬢を正式に婚約者とすることにいたしました。……本来、私は戦場に生きる身と思っておりましたが、彼女という存在が、私にとってかけがえのない支えになりつつあるのです」
その言葉に、会場がざわめく。“冷酷公爵”が、まるで愛を語るかのような口調で公の場に立っているのだから無理もない。ソフィア自身も驚き、胸がじんと熱くなる。
アレクシスは視線を一度ソフィアに向け、それからまた会場の方へ戻す。
「どうか皆さま、彼女を暖かく見守っていただければ幸いです。わたしは、妻となる彼女を全力でお守りいたします」
そう言い終えると、再び礼をする。会場の人々は最初は唖然としたようだったが、やがて拍手が沸き起こり、パラパラと歓声が上がるのが聞こえる。
次に、ソフィアの番だ。彼の言葉による感動が胸を突いているせいで、声がうまく出るか自信がなかったが、必死に平静を装って口を開く。
「わ、わたくし、ソフィア・エレナは、ヴァルフォード公爵様との婚約を心から嬉しく思っております。今はまだ至らぬことばかりですが、公爵様や皆さまのご期待に添えるよう、精一杯努めてまいります。どうぞ、よろしくお願いいたします……」
最後の方は少し震えが混じったが、拍手とともに暖かい視線が注がれているのを感じる。もっとも、中には面白くなさそうにしている者や、好奇の目を向けている者もいるだろう。しかし、今のソフィアには、この場に立てている喜びが大きい。
(わたしは、もう過去の屈辱に囚われない。新しい未来を、ここで掴んでみせる)
そんな決意を胸に、ソフィアはそっとアレクシスの隣へ並んだ。アレクシスが小さく微笑んでくれる。それだけで、心が満たされるような感覚があった。
王子と聖女の不穏な気配
婚約披露の挨拶が終わり、一旦式次第は幕を下ろす形となる。あとは自由に歓談や食事を楽しみつつ、新たな婚約者と聖女の登場を祝うというのがこの宴の趣旨だ。
ソフィアとアレクシスは、一通りの貴族から祝福の言葉を受け、時に軽い会話を交わした。とりわけ女性たちからは、「あのヴァルフォード公爵を落とすなんてすごいわ」などと興味津々に尋ねられることもある。もちろん、“冷酷公爵”の真実はソフィアが一番よく知っているが、いまは笑ってごまかすしかない。
そんな中、グランヴェル伯爵や知己の貴族たちも声をかけてくれ、ソフィアの緊張はだいぶ和らいできた。アレクシスも必要以上に口を挟むことなく、しかしソフィアが困ったときには即座に助け船を出してくれる。まさに絶妙なエスコートだった。
――ところが。
宴が中盤に差しかかったころ、ふとソフィアは会場の片隅でエドワード王子とリリアナが口論のようなものをしている様子を目撃する。二人とも声をひそめてはいるが、表情は険しい。
(どうしたのかしら……?)
王子がリリアナを宥めるように手を伸ばしているが、リリアナはそれを振り払っている。外聞が悪いと気づいたのか、王子は慌てて周囲を見回し、そのままリリアナの手を引いて廊下のほうへ消えていった。
ソフィアとしては無関係だし、首を突っ込むつもりもない。だが、妙に胸騒ぎを覚えるのも事実だった。
(リリアナ様……まさか、王子と不仲になっている? そんな話は耳にしなかったけれど)
あれほど堂々とした女性が、なぜあんな風に王子と揉めているのか。会場の目を憚らず、あそこまで感情的になっているリリアナを見ると、彼女にとってよほど都合の悪い何かがあったのだろうか――。
「ソフィア嬢、どうかしましたか?」
アレクシスの声で、ソフィアははっと我に返る。どうやら視線を一点に向けたまま固まっていたらしい。
「いいえ、少し気になることが……。王子とリリアナ様が口論しているように見えたのです」
「……そうですか。まあ、あの二人なら何があってもおかしくないでしょう。お気になさらず。貴女が気遣う必要はありません」
アレクシスは落ち着いた口調で言い、ソフィアを安心させるように微笑む。確かにその通りだ――ソフィアが関与することではない。
(そう、もうわたしはあの人たちに振り回されない。わたしの人生は、これからは公爵様と……)
しかし、その瞬間、宴の奥のほうで何やら人だかりができ、悲鳴のような声が上がった。ざわめきが広がり、貴族たちが動揺している様子。
「どうした?」「誰か倒れたのか?」
そんな声が飛び交う中、ソフィアたちも急いでそちらへ向かうと――なんと、一人の女性が息苦しそうに胸を押さえ、床に膝をついていた。
周囲は大騒ぎになっているが、彼女の侍女らしき人も慌てており、どう対処すればいいか分からない様子だ。
「どいてください! 薬師や神官はいるか!? 早く手当を……!」
たまたま近くにいた侍医が駆け寄るが、どうやら応急処置がうまくいっていないようだ。呼吸困難を起こしているのか、女性の顔は苦痛に歪んでいる。
(大丈夫かしら……。このままでは危ないかも……)
そう思ったソフィアの隣をすり抜けるようにして、リリアナが現れた。いつの間にか口論を終えて戻ってきたのか、周囲をかき分けながら女性に近づく。
「下がってください! わたくしが“聖女の奇跡”を使います!」
その言葉に、周囲の人々は「おお……!」とどよめく。リリアナは女性の頭をそっと支え、慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、神聖なる祈りの言葉を口にしながら手をかざす。
しばらくすると、女性の苦しそうな呼吸が次第に落ち着いていき、顔色が少しずつ良くなっていくのが分かった。まるで本当に奇跡が起きたかのようだ。
その光景に、周囲からは感嘆や歓声が上がる。「さすが聖女様だ!」「本当に救いの力をお持ちなのか!」と口々に囁く人々。
リリアナはそっと女性を侍女に預けると、会場の視線を一身に受けながら、まるで舞台役者のように優雅にお辞儀をした。
(すごい……本当に癒やしの力が使えるの?)
ソフィアは驚きつつも、妙に胸騒ぎがする。――リリアナが神聖な力を持つ“聖女”なのは確かだろうが、彼女がさっきの口論で見せた険しい表情との落差が大きすぎる。まるで、何か意図的に演じているかのように思えてならない。
しかし、周囲の貴族たちはリリアナへの賛辞を惜しまない。彼女の力で一人の命が救われたのだ。エドワード王子も安堵の表情を浮かべている。
(王子とリリアナ様……。あの二人の間に何か問題があるとしても、こうして“聖女”が力を示せば、人々は彼女を讃えるわ。王子の評価も上がるでしょうし……)
漠然と、ソフィアはそんなことを考える。――だが、この一件でリリアナの株が上がる一方、“新たな聖女”を崇拝する空気はますます強まるだろう。国王もその力を利用して、王家の安泰を図るに違いない。
そのうち、リリアナにとって“邪魔な存在”と見なされる者は、容赦なく排除されるかもしれない――そんな嫌な予感が頭をかすめる。
ともあれ、今回の宴のメインは無事に成し遂げられた。ソフィアとアレクシスは、周囲の冷やかし混じりの祝福を受け流しつつ、深夜近くまで続く祝宴をなんとか乗り切ることができたのだった。
エンディング:波乱の序章
婚約発表の宴は、最後まで大きな混乱なく終了した。
もっとも、リリアナが“聖女の力”を見せつけた一件は人々の記憶に強烈に焼き付いたようで、あの場面を目撃した貴族たちは皆「リリアナ様こそ真の聖女だ」「彼女がいれば国は安泰だ」と口々に称えている。
そんな空気の中、ソフィアは“捨てられた令嬢”という立場から一転、“冷酷公爵の婚約者”として、一定の評価を得ることができた。人々の視線は好奇心や羨望、あるいは疑念や妬み……さまざまだが、少なくとも冷遇されることはないだろう。アレクシスがその影響力を持って、ソフィアをしっかり庇護してくれるからだ。
宴の翌朝。ソフィアは体の疲れを癒やしきれないまま起き上がり、窓から差し込む日の光を浴びながら思う。
(婚約発表は無事に終わった……でも、これで本当に平穏になるとは思えない。リリアナ様の力は本物だし、王子の様子もどこか不安定……。それに、国王の思惑や、公爵様の隠された事情だって、まだ全部を知っているわけじゃない)
それでも、ソフィアはひとつ確信していることがある。――“わたしはもう、一人で立ち向かうわけではない”ということ。
彼女の隣には、頼れる公爵がいる。アレクシス・ヴァルフォードという、冷酷と噂されながらも実は優しい男が。
(わたしは、あの方と共に生きていく。たとえどんな波乱が待ち受けていても、もう迷わない。絶対に、わたしの手で未来を掴んでみせる……!)
そう心に誓いながら、ソフィアは一歩ずつ歩み出す。
――まだ道のりは始まったばかり。リリアナと王子の関係が、この先どのような形で波紋を広げるのか。そして、アレクシスが抱える秘密や、“戦場の悪魔”とまで呼ばれた過去は、果たしてソフィアの未来に何をもたらすのか。
これから先、さまざまな困難が待ち受けているとしても、もはや彼女は恐れない。かつてのように王家の意向に縛られて絶望する日々はもう終わりだ。
“冷酷公爵”による、甘くて痛快な“溺愛”と“ざまあ”の物語が、いままさに本格的に動き出していく――。
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表紙はかなさんのファンアートです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
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