政略結婚?いいえ、甘々新婚生活ざまあです

霧島

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第四章:新たなる同盟と王都への帰還

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1.周辺領地との交渉――見え始めた光

 貧しい辺境の地・オルディア領に希望をもたらすべく、ヴァレリアとレオネルは少数の護衛を伴い、周辺領地との同盟交渉 に向かった。
 馬車は荒れた道を軋みながら進み、時折、馬を休ませながらも、彼らは広大な荒野を越えていく。荷台には鉱石のサンプルや試験的に採れた野菜、そしてオルディア領の現状や将来像を示す書類がぎっしりと詰め込まれている。

 行く先々で待ち受けるのは、決して優しい現実ばかりではなかった。
 彼らの訪れた ビルラス子爵領 や カークストン領 は、いずれも小規模ながら独自の生産を行う土地。だが、軍備は脆弱で、近頃の盗賊や魔物騎士の噂に怯えているのはオルディア領と変わらない。
 「わが領地も財政は火の車でしてね。あなた方と組むことで、こちらにメリットはあるのですか?」
 ビルラス子爵は疑わしげな目で、ヴァレリアが差し出す地図を見つめた。
 「はい。私たちのオルディア領には まだ未開発の鉱山 があります。そこから取れる鉄鉱石や魔石の原石は、将来的に大きな交易品になるはず。しかも、川沿いを整備すれば農産物の収穫も増える可能性が高い。協力していただければ、互いの不足を補い合い、盗賊などに対抗できる強固な守りを築けるでしょう」
 ヴァレリアが堂々と説明すると、子爵の側近たちは色めきだった。既に一部を採掘している鉱石サンプルの質が、予想以上に良かったのだ。
 (まずは「将来の利益」を具体的に見せる。そこに“同盟”を結ぶ意義があると思わせるのが重要)
 王都での政治交渉を間近で見てきたヴァレリアにとって、こうした説得は得意分野だった。今は公爵令嬢の身分を失っているとはいえ、培った知識と話術は衰えていない。

 一方、レオネルも真摯な態度で補足する。
 「オルディア領が発展すれば、その恩恵は近隣諸領にも及びます。特に 兵力面の連携 は不可欠です。私たちだけでは防ぎきれない大規模な盗賊や魔物騎士の襲撃も、隣領と協力すれば迎え撃てるはず。どうか、力を貸してほしい」
 自領の発展だけでなく、周辺を巻き込んでの相互支援――それが今回の交渉の肝だ。はじめは渋い顔をしていた子爵も、レオネルとヴァレリアの熱意にほだされ、一歩踏み出す意向を示した。

 こうして、ビルラス子爵領 との間には 「相互防衛協定」 が結ばれ、鉱石や農産物の一部を提供する代わりに、兵の増援や見返りの資金援助を受けるという形が仮契約としてまとまった。
 続いて訪れた カークストン領 でも似たような提案を重ね、多少の条件交渉はあったものの、最終的には友好関係を築く道筋ができる。

 「少しずつだけれど、うまくいき始めたね」
 馬車を走らせながら、レオネルが安堵の笑みを浮かべる。
 「ええ。最初は私たちなんて相手にされないかと思っていたけど、“鉱石”という確かな材料があるのは大きいわ。皆、自分たちも生き延びるのに必死だからこそ、実利 を見せれば耳を貸してくれるの」
 ヴァレリアは王都の権力争いに翻弄された過去を思い出しながら、改めて “説得材料” の大切さを噛み締めた。


---

2.魔物騎士の侵攻――破滅の足音

 ところが、そんな矢先、オルディア領から暗い知らせが届く。
 「魔物騎士が北方の砦を襲った……? しかも、領内の鉱山周辺にも姿を見せはじめている……?」
 伝令としてやってきた兵士は、緊迫した面持ちで続ける。
 「どうやら何者かが暗躍しているようです。先日から目撃されている “黒鎧の兵団” が、山道を越えて領内に流入したとの報告が相次いでいます。しかも、盗賊たちも彼らと共闘しているかのように動いているらしく……」

 これまで散発的に襲撃を繰り返してきた 盗賊団 と 魔物騎士 が、一つの勢力として合流している疑惑――もしそれが事実なら、オルディア領ばかりか周辺諸領も危機に陥るのは時間の問題だ。
 「一体、誰がそんな真似を……」
 レオネルは苦渋の表情を浮かべつつ、地図を睨む。オルディア領は広いが、中心となる城塞は一つしかなく、大軍を相手にするのは困難だ。周辺領地と同盟を結んだといっても、まだ準備は整ったばかりで、即座に援軍を大量に派遣できる状況ではない。

 ヴァレリアは、自分が王都にいた頃の情勢を思い返していた。
 (王太子エドワードが財政を乱し、兵士の給料を滞らせ、元兵士が盗賊化する事例が増えている――そう聞いていたわ。さらに、私が破棄された改革案の中には“辺境での魔物討伐と防衛強化”も含まれていたのに、すべて放置された。結果、こんな形で被害が拡大したのかもしれない)
 苛立ちと虚しさが混ざり合う感情を抱えながら、ヴァレリアはレオネルに問いかける。
 「……今すぐ、私たちはオルディア領に戻るべきね。周辺領地との交渉はある程度まとまったし、彼らに具体的な救援要請 を出すしかないわ。もう時間がないもの」
 「ああ、そうだな。ここで領地を見捨てるわけにはいかない」

 こうして、周辺領地をあとにした一行は、急ぎオルディア領へと引き返した。ところが道中、早くも不穏な影が襲ってくる。
 暗い雲が垂れ込める夕刻、馬車の先を行く護衛兵たちが急に叫び声を上げた。
 「来たぞ、例の黒鎧だ!」
 視線を向けると、荒れ地の向こうから 黒い甲冑 を身にまとった集団が二列縦隊で進撃してくる。先頭の男は血のように紅いマントを翻し、その背後には大きな獣――まるで魔物を品種改良したかのような獰猛な狼型の生物を従えていた。
 「……まさか、こんな所まで来ているなんて!」
 レオネルが剣を抜き、護衛兵たちも慌てて構える。馬車の御者は馬を止め、混乱の中で立ち往生しそうになる。
 ヴァレリアは即座に兵士たちの配置を確認し、レオネルと目配せを交わした。
 「敵の数は十数名……だけど、魔物を含めれば戦力はそれ以上ね。ここで押し返すのは厳しいかもしれない」
 「逃げるにしても、馬車が狙われたら厄介だ。ヴァレリア、馬車を砦の方角へ先に走らせろ。俺たちが少しでも時間を稼ぐ」
 「わかったわ。護衛兵の半分は私と馬車を守って。残りはレオネルと一緒に敵を引きつけて」

 敵は魔物の俊敏さを活かし、馬車を正面から狙ってきそうだった。そこで、ヴァレリアは 視線誘導 のため、数名の兵士を囮として左右に展開させるよう指示する。加えて、地形を使い、少しでも敵を遠回りにさせようという作戦だ。
 突然の襲撃に動揺しつつも、彼女は的確な采配を下す。
 「大丈夫、今の私たちは昔の弱小オルディア領じゃない。少なくとも、レオネルと兵士が戦線を支えてくれれば、この程度の小規模な先遣隊は何とかなるはず……!」


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3.黒鎧との激戦――見え隠れする陰謀

 激しい砂塵が舞う荒野で、レオネル率いる兵士たちが 魔物騎士の先遣隊 と激突した。
 剣戟が交わされ、黒鎧の兵士が振るう刃が火花を散らす。人の形を保ちながらも、どこか常軌を逸した力を発揮するその騎士たちは、まるで身体能力が強化されているかのようだ。
 「くっ……何なんだ、この力は……」
 複数の兵士が斬り結ぶ中で、黒鎧は驚異的な体捌きで攻撃をいなし、かと思えば魔物のような低い唸り声を上げる者もいる。
 一方、レオネルは戦場の隅から冷静に状況を分析しながら、槍兵と弓兵 の連携を指示する。
 「焦るな! 奴らは攻撃力こそ凄まじいが、防御が疎かになっている場面もある。間合いを測って一撃を入れろ!」

 混沌とした戦いの中、ヴァレリアと護衛兵たちが馬車を守りつつ、なんとか 砦 の方向へ進もうとする。しかし、そこにも黒鎧が一体現れ、獣型の魔物が鋭い牙をむいて襲ってきた。
 「ひっ……!」
 馬車の御者が悲鳴を上げるが、ヴァレリアは身を翻して 携帯していた短剣 を握りしめる。王都で習った護身の構えを思い出しながら、魔物の目を睨んだ。
 (こんな怪物、まともにやり合うのは危険……でも、怯んでいたら馬車が破壊されてしまう!)
 周囲の護衛兵も必死に抵抗するが、魔物の力は圧倒的だ。地を蹴り、低い姿勢で突進してくる牙がいまにも体を噛み砕きそうに迫る。
 だがその時、凛とした矢の音 が空を裂き、魔物の横っ面をかすめた。
 「下がれ――!」
 レオネルの声が響き、続けざまに兵士たちが弓矢を放つ。魔物は数本の矢を受けて痛みに唸り声を上げ、微かに後退する。そこを狙って護衛兵が短槍で一撃を加えると、ようやく魔物は地に沈んだ。
 「助かったわ、レオネル……!」
 「馬車を急いで砦へ向かわせるんだ。ここは俺たちが持ちこたえる!」

 黒鎧の兵士たちは、獣を失ってもなお執拗にレオネルたちに迫る。苛烈な戦いが続く中、やがて 黒鎧の一人 が低い声で叫んだ。
 「今日のところは引くぞ……奴らが思いの外、粘りやがる」
 と同時に、黒鎧の兵士たちは足並みを揃え、素早く撤退を始める。まるで正規軍のような統率の取れた動きに、レオネルと兵士たちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
 「……あれほどの力と規律を持った連中が、ただの野盗の寄せ集めとは思えない」
 レオネルは荒い息をつきながら、撤退していく黒鎧の背中を睨む。


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4.王都からの急使――救援要請と再会

 どうにかオルディア領の砦へ逃げ込んだヴァレリアたちは、体制を立て直すべく、他の兵士や領民に状況を伝える。すると、そこへ思いもよらぬ客が訪れた。
 「ヴァレリア様……! 私です、アデルです!」
 現れたのは、かつて王宮でヴァレリアの下で補佐をしていた 青年アデル。彼女が追放された後も密かに動き続け、王都の内情を探っていた人物だ。
 「アデル……! あなた、王都に残っていたんじゃないの?」
 久方ぶりの再会に、ヴァレリアは思わず声を上げる。アデルの表情は疲弊に満ちていたが、彼女を見つけて安堵したように微笑んだ。
 「実は今、王都は大変なことになっています。王太子エドワード殿下とセシリアが権力を握り、国庫は浪費され続け、兵士や官吏も次々にやめてしまって……。それで、王都周辺にも盗賊や魔物騎士が現れはじめた んです」
 「やっぱり……」
 この辺境だけでなく、王都周辺まで混乱が広がっているという現実。さらにアデルは、思いもよらぬ事実を明かした。
 「エドワード殿下は財政破綻を恐れ、どうにか外部から資金を引き出そうと必死ですが、もはや貴族たちもあまり動いていません。そこで殿下は、“辺境開発の主導者を探せ” と部下に命じ、噂になっている“オルディア領を復興させた才女”を探し回っているとか。……つまり、ヴァレリア様を探しているんです」
 ヴァレリアは激しい憤りを感じた。
 (今になって私にすがるつもり? 散々無実の罪を着せて追放しておきながら、都合が悪くなると呼び戻そうだなんて、勝手すぎる!)
 アデルは言葉を続ける。
 「そこで、私は抜け道を使ってここへ来ました。王都が本気で崩壊しかけている んです。破綻はもはや時間の問題……。もしオルディア領や周辺諸領が手を貸さなければ、この国は内乱や外敵の侵入で滅びるかもしれない。それくらい逼迫しています」

 苦渋の沈黙が砦に広がる。レオネルや兵士たちは、王都から追放されたヴァレリアの仇のような存在であるエドワードを救う必要などないと思っている節もある。しかし、国が滅びれば辺境もただでは済まない。大混乱が広がれば、さらに盗賊や魔物騎士が跋扈するのは目に見えている。
 「ヴァレリア、どうする? 今のこの領地だって、黒鎧の連中に怯えているのに、王都を助ける余力なんて……」
 レオネルの問いかけに、ヴァレリアは大きく息をつきながら答える。
 「……放置すれば、私たちも巻き添えを食うかもしれない。それに、このままだと国全体が荒廃して、“あの黒鎧の軍勢” を止めるどころじゃなくなるわ。――やるしかない。だけど、“ただで” とはいかないわ」
 そう、ここは 復讐と正義 を両立する好機かもしれない。彼女自身が追放された“汚名”を晴らし、自分を陥れた者たちに“ざまあ”を言い渡すためにも――。
 「王太子殿下が本当に助けを求めているなら、相応の“代価”を払ってもらうわ」


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5.オルディア領連合軍の結成――決戦への布石

 王都救済という重大な課題を前に、ヴァレリアとレオネルはまず 周辺領地との同盟 を一層強固にする必要があった。ビルラス子爵領やカークストン領のほか、幾つかの小領地にも協力を求め、「連合軍」 としてまとまる方針を打ち出す。
 「皆さん、王都が崩壊すれば、私たち辺境の領地も孤立し、強大な敵に蹂躙される可能性が高い。ここで手をこまねいていては共倒れになるだけです」
 会合の席で、ヴァレリアははっきりと言い切った。
 「私たちはこれまで、辺境同士でなんとか生き延びる術を模索してきました。でも今こそ、大きな行動を起こすときです。王都に“私たちの条件”を突きつけ、正式に協力体制を築かせる。そうすれば、国全体の秩序を取り戻す第一歩になるはず」

 小領主たちの中には王太子に対して強い不信感を抱く者が少なくない。だが、ヴァレリアが示す 「条件」 の中には、辺境へ十分な支援を行うことや、新たな税制改革、軍備強化の予算などが盛り込まれていた。王都側にそれを受け入れさせれば、辺境の領地も損にはならない。
 「確かに、一度国全体をまとめ直す必要がある。そうしなければ、盗賊や魔物騎士の侵略を永遠に繰り返すだけだろう」
 ビルラス子爵やカークストン領主らも同意し、こうして オルディア領連合軍 が結成される運びとなった。各領地から選抜された兵士や騎馬隊、さらには多少の資金と物資が集められ、総勢数百名規模の部隊となる。
 これまで貧しく脆弱だった辺境が、ヴァレリアとレオネルの呼びかけに応じて一つの意思をもって動き出したのだ。

 「兵の士気は高まっている。俺たちはもう、黙って見ているだけの領地じゃない」
 レオネルは胸を張る。ヴァレリアもその横顔に頼もしさを感じつつ、深く頷いた。
 「ここからが本番ね。大丈夫、これまで積み重ねてきた努力は、きっと無駄にはならないわ」


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6.王都決戦――再会する王太子との対峙

 ついに オルディア領連合軍 は王都へ向けて進軍を開始した。道中、黒鎧の魔物騎士や盗賊団の小規模な隊と幾度か衝突するが、以前に比べて兵力も指揮系統も整っている連合軍の前に、敵は大きな被害を出して撤退を繰り返す。
 やがて、王都リベルタの外郭が見え始める頃には、都市周辺も荒廃していた。あちこちで火の手が上がり、街道は荒れ、避難民らしき人々が疲れきった様子でさまよっている。
 「想像以上ね……。まさかここまで酷いとは」
 ヴァレリアは愕然としながら、王都の変貌ぶりに言葉を失う。華やかだった城壁や建造物の一部が崩れ落ち、ところどころで略奪の跡が見受けられた。
 エドワードの治世がいかに失敗だったかを、この惨状が物語っているようだ。

 やがて、王宮に近づくと、城門付近には疲弊した兵士たちが守りについていた。遠巻きにオルディア領連合軍の到来を見て、警戒を強めるが、ヴァレリアは使者を立てて交渉を申し出る。
 「私たちは敵ではありません。王都を救うために来ました。ただし、正式な面会 と こちらの条件 を受け入れる意志があるならば、門を開いてください」
 この言葉に、城門の兵士たちは明らかに困惑していた。だが、やがて内部からバタバタと人の動く音がして、門がゆっくりと開かれる。

 「ヴァ、ヴァレリア様……。お戻りになったのですね……!」
 出迎えたのはかつて彼女を知る者たち――財務官僚の一部であり、今や疲れ切った顔で青ざめている。
 「私を“追放” したのはどこの誰だったかしら? 今さら呼び戻されて来たわけじゃないわよ。こちらから“救済” として来てあげただけ。早速だけれど、王太子エドワード殿下 に取り次いでもらえる?」
 ヴァレリアの冷たい声音に、官僚たちは恐縮しきりだ。しかし、それでも王都崩壊の危機を前に、彼女に頼るほか道がないのだろう。

 王宮の廊下を通されると、以前よりも明らかに活気が失われているのがわかる。あの煌びやかな装飾や行列が目に見えて減り、侍女や兵士の姿もまばらだ。
 通された謁見の間には――かつてヴァレリアが婚約破棄を言い渡された、因縁の場所でもある――王太子エドワードが神経質そうに玉座に座っていた。その隣には、派手な衣裳を纏いながらもやつれた表情の セシリア の姿もある。

 「お、お前は……ヴァレリア……?」
 エドワードは驚愕に目を見開く。かつて追放処分にしたはずの女が、今や立派な装いで、しかも 数百名規模の軍勢 を率いてやってきたのだ。
 「ええ、私よ。追放された公爵令嬢、ヴァレリア・ド・カサノヴァ。だけど今は、オルディア領をはじめとする辺境連合軍の代表 として来たわ」
 エドワードは一瞬、醜い感情を露わにしそうになるが、追い詰められた状況からか、すぐに取り繕って震え声を出す。
 「ヴァ、ヴァレリア……いや、その……よくぞ戻ってくれた。お前なら王都を救える。悪かったと思っている。だから、頼む……助けてくれ!」
 あれだけ高圧的であったエドワードが、今や弱々しい姿で懇願している。ヴァレリアは心底忌々しさを感じつつ、しかしそれを表面には出さず、冷静な声を保つ。
 「助けてほしいなら、条件があるわ。 まず、私を追放した“無実の罪” を正式に取り消して、私とカサノヴァ家の名誉を回復すること。次に、辺境領地への正当な支援を約束すること。最後に――あなたが“私の軍” に協力費を支払い、指揮権を委ねること。」
 エドワードは顔を歪める。まるでプライドが砕かれるような屈辱感があるのだろう。隣のセシリアも「そんなの受け入れられるわけ――!」と声を荒げるが、ヴァレリアは容赦なく言葉を重ねた。
 「文句があるなら、別に構わないわ。私たちはこのまま帰ってもいいの。あなたの財政はすでに崩壊寸前、国の内外で反乱や侵略が起きるのは時間の問題。――この国が滅んでもいいなら、どうぞご勝手に」
 その冷徹な宣言に、セシリアは青ざめる。彼女が今得ている贅沢も特権も、国が瓦解すればすべて無に帰す。結局、セシリアは何も言い返せず、エドワードに視線で訴えるしかなかった。
 「くっ……わ、わかった……! すべて、そなたの言う通りにしよう。私が間違っていた。だから……力を貸してくれ……」
 どこか涙目になりながらエドワードが呟いた瞬間、ヴァレリアはようやく 心の底からの勝利感 を感じる。
 (私を“悪女”呼ばわりし、何も聞き入れず追放したくせに……今になって頭を下げるなんて、本当に見苦しい。けれど、この決着こそが私の“ざまあ”――)


---

7.黒鎧の軍勢との最終決戦――ヴァレリアの采配

 エドワードがヴァレリアとの「協定」に署名した直後、王都外縁で大規模な戦闘が勃発したとの報せが入る。黒鎧の軍勢 が本隊を率いて一斉に王都へ侵攻を始めたのだ。
 「奴らは国が乱れているのを知って、一気に首都を奪取しようとしているのだろう。……行くぞ、皆!」
 ヴァレリアとレオネルは、オルディア領連合軍を率いて城壁の外へ展開し、王都側の兵士たちも渋々ながら加勢する形となった。
 敵の数は数百とも言われ、盗賊や元兵士、そして「魔物化」のような力を持つ黒鎧兵が混ざり合っている。だが、ここには同じ数百単位の連合軍が存在し、ヴァレリアの的確な指示がある。

 「弓兵隊は高所から黒鎧の動きを抑えて! 騎馬隊は左右から敵の陣形を崩すの。盗賊出身の兵は、隊列を組むのが苦手だから、そこを突くのよ」
 ヴァレリアの采配が冴え渡り、レオネルが先頭を切って槍兵を率い、敵の中心を突く。周辺領地の連合軍も協同してサイドを固め、魔物騎士を一体ずつ着実に仕留めていく。
 荒野の砂塵と血の臭いが立ち込める中、戦いは激しさを増していく。黒鎧の指揮官らしき男が憤怒の咆哮を上げ、異様な力を放ちながら騎馬兵を薙ぎ払う様子も見える。だが、それでも連合軍は怯まない。
 「うおおおっ……!!」
 レオネルが渾身の一突きを放ち、黒鎧の指揮官を地に倒す。すると、まるで糸が切れたかのように、残った黒鎧兵たちは後退を始め、やがて四散して逃げ去っていった。
 「勝った……! やったぞ、皆!」
 歓声が王都近郊にこだまする。領民たちや兵士たちは互いに抱き合い、涙を流す者もいる。これがどれほど大きな勝利か、誰もが理解していた。

 戦闘がひと段落したあと、ヴァレリアは戦場を見渡しながら深く息をつく。
 (これで“今の危機” は去ったと言えるかもしれない。でも、私たちはまだ問題の根本解決をしたわけじゃないわ。国全体を立て直さないと、また同じような脅威が訪れるに違いない)
 そう、ここからが本当の意味での “改革” の始まりなのだ。


---

8.ざまあと新たな未来――ヴァレリアの選択

 決戦を終えた翌日、王宮の謁見の間は再びヴァレリアとエドワードの対峙の場となった。ただし、今回は正規の儀式として“ヴァレリアへの謝罪と名誉回復” を行うためのもの。王宮の重臣や貴族たちが見守る中、エドワードは公文書を読み上げる。
 「……かつて、ヴァレリア・ド・カサノヴァに掛けられた不正疑惑は無実 であったと認める。よって、追放処分を取り消し、これまでの名誉を回復する。さらに――」
 エドワードは悔しそうに視線を伏せる。だが、公に宣言せねばならない。
 「さらに、オルディア領をはじめとする辺境連合に対して、十分な軍備・資金援助を行い、新たな税制改革を約束する。これは王家として正式な確約とする……」
 重々しい沈黙が広間に漂い、ヴァレリアはそれを静かに受け止める。やがて、彼女はエドワードに近づき、一言だけ――。
 「ようやく、あなたもわかったのね」
 その言葉は、それ以上の侮蔑や罵倒を含まない。ただ、冷たく突き放すような響きがあった。周囲の貴族たちは、王太子のあまりの惨めさに同情する者もいれば、溜飲を下げる者もいる。
 「……ヴァレリア、私は……本当にすまなかった……」
 頭を下げるエドワード。その横で、愛妾セシリアはうろたえた様子で場から去ろうとするが、もはや誰も彼女に目をかけない。自身の取り巻きも大半が散り散りになり、彼女が築いた虚飾の地位は一夜にして崩れ去った。

 こうしてヴァレリアは 名誉を取り戻す と同時に、オルディア領連合軍の代表として、国全体の改革に着手する立場を得た。かつて彼女が王都で提言した 財政再建案や辺境開発計画 は、ようやく日の目を見ることになる。
 「この国を変えるにはまだ時間がかかるけど……私たちならきっと、やり遂げられるわ」
 そう呟く彼女の側には、レオネルがいる。
 「ヴァレリア、これからも俺たちと一緒にいてくれるんだろう? 国を救うのも大事だが、まずは俺たちのオルディア領をもっと発展させたいし……何より、君の存在が必要だ」
 レオネルはあどけない笑みを浮かべ、そっと彼女の手を取る。ヴァレリアは少しだけ照れくさそうにしながら、しっかりと手を握り返した。
 「もちろんよ。私には“大切な居場所” ができたから……。王都の再建に協力するのも、オルディア領の将来を築くのも、私たちが望む形で進めていきましょう」

 そして、しばらくして行われた小さな式典で、レオネルはヴァレリアに――
 「もし、君さえ良ければ、俺と……共に未来を築いてくれないか?」
 と、正式な求婚を告げた。領内の人々や周辺領地の代表たちも祝福してくれ、ヴァレリアは涙を浮かべながら笑って受け入れる。
 「ええ、喜んで。――私の再起と、この領地、そして国の新たな始まりのために」

 追放された公爵令嬢 は、こうして 辺境の地で自らの才能と絆を育み、やがて国の柱となるほどの大きな存在 となった。
 “汚名” を着せた王太子はその頭を垂れ、誰もが信じられなかった ざまあ の結末が、今ここに実現する。
 (……これで私の復讐は一つの終わりを迎えた。でも、私の生きる道はまだまだ続く。愛する人たちと共に、この国を再生させるために――)

 瓦礫のように崩れかけた王国の再建 は、これから始まる長い道のりだろう。だが、ヴァレリアの心には、もはや挫折や恐怖よりも、“希望” と “愛” の温かさが満ちていた。
 “追放ざまあ”を乗り越えた彼女は、確かに 新しい人生 を手に入れたのだ。


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◆エピローグ:荒野に咲く花

 後日談。
 オルディア領に戻ったヴァレリアとレオネルは、まず 灌漑設備や鉱山開発 を全面的に再スタートさせる。王都からの正式な支援も入り、必要な人材や物資がこれまでとは比べ物にならないほど集まり始めた。
 周辺領地との同盟関係もより強固になり、互いに軍事・経済両面で支え合うことで、かつては不毛の地だった辺境が徐々に豊かさを取り戻していく。
 領民たちは笑顔で畑を耕し、子供たちは新しく開設された学び舎で基礎教育を受ける日がやってきた。
 そしてヴァレリアは、かつて自分を救ってくれた人々の恩に報いるため、オルディア領の発展に全力を注ぎながら、王都の再建にも協力を惜しまない。王太子エドワードは依然として不評だが、ヴァレリアの提案をもとに財政改革が進み、“形だけ” とはいえ国王代理としての責任を多少は果たすようになったらしい。セシリアは姿を消したが、もう誰も彼女を気に留めない。

 ある日の穏やかな午後。
 オルディア領の館の庭には美しい花が咲き乱れ、かつて荒野だった場所とは思えない光景が広がっていた。ヴァレリアは薄いドレスをまといながら、その庭を散策している。
 「ヴァレリア、ここにいたのか」
 レオネルがやってきて、自然に隣に立つ。
 「ええ、昔はこの辺りも雑草と砂しかなかったのに……見違えるほど綺麗になったわ」
 「そうだな。これも君が始めた改革のおかげだよ」
 そう言いながら、レオネルはそっと彼女の手を取り、優しく微笑む。これまでも互いを支え合ってきた二人は、これから先も同じ未来を歩んでいくのだろう。
 風がやわらかく頬を撫で、新しい季節の香りを運んでくる。王都から追放されたときには感じられなかった“自由” と“安らぎ” が、ヴァレリアの胸に満ちていた。
 「さあ、忙しくなるわよ。私たちにはまだ、やることが山ほどあるもの」
 「ああ、楽しみだな。君と一緒なら、どんな困難でも乗り越えられる気がする」

 二人の笑い声が、かつての荒野に優しく広がっていく。
 ――彼女の“追放ざまあ”は終わり、新たな愛と使命が始まる。
 華やかな王宮から遠く離れた辺境の地で、ヴァレリアは 本当の幸福 を見つけたのだった。


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感想 1

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みんなの感想(1件)

おじちゃん
2025.09.18 おじちゃん

タイトルと内容が全く違うんですが…。ヴァレリアさんが主人公のかなりシリアスなお話、ですよね?

解除

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