麻布先輩は俺のもの

rin of the chanchan

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かんだ、だん

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俺の好きなもの。

きなこもち。世界史。ちっちゃいカエル。麻布先輩。

俺の嫌いなもの。

セロリ。数学。でっかいカエル。麻布先輩の嫌いな人。

保健の授業中、高校一年になる神田暖(かんだ だん)は、今日も反対側の校舎にいる麻布千夜を見ていた。

麻布先輩、また窓の外見てる。授業、興味ないのかな。何考えてんだろ。

あ、ちょっと眠くなってる。

…あー。

かわいい。

神田は顔をつっぷして、左手で握りしめていたシャーペンを、机に向かってゴンゴン打ちつけた。

「いきなり何してんの、うっさいな」

そう言って頭を容赦なく叩いてきたのは、隣に座っていた木村 麻布(きむら まふ)であった。

「いってえぇ!」

神田はまふの方を振り返って恨めしそうな顔で見つめる。

「…あーあ。なーまふお前さ、名前、名字にできねぇ?」

「はあ?」

「そんでもって、もちっと髪伸ばして肩くらいにして…黒ピンつけろよ。スカートも巻きすぎんな。あとリボンじゃなくてネクタイな。顔も整形しろ、そうすりゃ完璧だ」

「アンタあまりにも失礼過ぎる事言ってるんだけどわかってる?私のアイデンティティを全否定すんな」

ああ麻布先輩。
まふめ、麻布先輩の文字を二文字も貰っておきながら麻布先輩とは似ても似つかない。

「アンタ気持ち悪いよ。さっきから千夜さんずっと見て」

「るせーな。喋る機会なんてそうそう無いんだからよ、見るくらいーじゃねぇか」

「そうだったね、アンタが気持ち悪いのは今に始まったことじゃなかったわ」

くっそ、さっきから何がしたいんだ、いちいち突っかかってきやがって。
まふの野郎、自分がちょーっと委員会で麻布先輩と知り合ったからって、「千夜さん」なんて呼びやがって。くっそおおー。

ああ麻布先輩。

俺は中3のとき、麻布先輩に一目惚れした。有風亞(アルファ)学園の入学面接会場案内役が、麻布先輩だったのだ。

麻布先輩は俺の方を見て、

「緊張してる?」

とニッコリ笑って言った。

「あ、は…い、少し…」

そう言って顔を伏せた俺はますます緊張してしまって、面接会場に着くまで、もう二度と麻布先輩の顔を見ることはできなかった。
滑り止めで受けた筈の高校だったが、俺は実力のあるバド部に入りたいからという理由で両親を説得し、この学校に来たのだった。元々学校の偏差値だけで入学を決めさせる親ではなかったので、俺が思うよりずっとすんなりと納得してくれた。

しかし入学したからといって、そう簡単に麻布先輩に会える訳ではなかった。

麻布先輩は帰宅部だったのだ。

親にバド部に入ると入学を説得した手前、バド部に入らない訳にはいかない。
麻布先輩の入っている部活とバド部、掛け持ちするつもりだったのに。

どうにかして、麻布先輩と話したい。

休み時間。
俺は、下谷孝之介(しもたに こうのすけ)と秋葉順(あきば じゅん)と共に、無言で弁当を頬張っていた。

別に仲が悪いという訳じゃない。むしろ逆だ。ただ今日は、たまたま皆話す話題がないだけだ。だからといって気まずくもならない。
自分で言うのもなんだが、友達とは程よく良い関係を築けていると思う。

喉乾いたな。
母さんが揚げ物ばっか入れっから。高校男子は茶色いものが好きだなんて、そんな考え方は嫌いだ。

…きなこ、茶色だけど。

「俺、飲み物買ってくる」

そう言って、俺は席を立った。

「あ、かんだ、ま、まっふぇ、僕にコーヒー買っふぇきて」

下谷がミートスパゲティを口いっぱいにため込みながら言った。
出たよ。「茶色いものが好きな男子」代表め。

「はいはい。こうちゃん、無糖でいいんだろ」

「そう、ありぶぁと」

「秋葉は?」

「え、いいのーーー?じゃあオレンジで!」

チビの秋葉はチューチューと棒状ゼリーを吸って食べている。
いいのってお前、俺が聞くってわかってたくせに。

「嘘くせぇぜあざと野郎」

「へっへっへ」

廊下に出て、右曲がって左曲がって、暫く歩いて、反対側の校舎へ。
そう、この学校、自販機がこっちの校舎にしかないのだ。



…そう、こっちの校舎にしかない。



…フッフッフッフッフ。



麻布先輩に、会える!!!



いや、会えるかどうかなんて分かんないんだけど。わざわざ教室まで押し掛けたりできないし。

あわよくば、廊下でばったり…なんちって。
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