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第1章

第13話 継承

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 元スパイ。響きだけならカッコよく聞こえる単語。お姉さんは確かにそう言った。 

 聞いた瞬間は、何を言っているのか分からなかった。

「私は元は普通の魔法だったんだよ。うちの家は貧乏だったからねー。借金もあったし、それを返すためにスパイになった。」

 それだけ聞くなら普通の話に聞こえる。お姉さんは長い話をした。

 でもスパイのルールで、一度スパイになったものは生涯政府のもとで働かなくてはならない。住むところも政府の寮になる。でもお姉さんは途中で嫌になって逃げ出した。

 始めの方はカッコよくていい仕事だと思ってたけど、捕まっていく人の悲しい顔を見るのが嫌になったらしい。

 もちろん政府の中では指名手配された。一度捕まりそうになった時に、知らない人がかくまってくれたらしい。

「その時に、私は魔法を変えてもらったんだ。魔法を変えることができる魔法に。」

 魔法を変えることができる魔法は、継承していく。それを20歳になった時に教えてもらった。

 そして変えてもらった瞬間、その知らない人は亡くなったらしい。

「多分、継承すると、前の人は死んでしまうんだと思う。そして、その人のメモを見たら、継承した人は、継承したときから20年しか生きれないらしい。」

 その話を聞くと少し怖くなった。お姉さんが変えてもらった時の歳は26のとき、今は、45歳だ。もう残られた時間は少ないらしい。

「リョウ。継承してくれないか?」

 もちろん不安だ。自分はあと20年しか生きることができないことも嫌だ。だが聞いたときから答えは決まっていた。

 その日、お姉さんは亡くなってしまった。その日はよく眠れなかった。

「案外、こういうときって涙が出ないんだな。」

 そんなことを呟きながら、目を閉じた。

■ ■ ■

「これが全ての理由だよ。だから後、自分は10年ちょっとしか生きれない。」

 ルカもリリさんも、出された料理には一切手をつけず、黙って話を聞いていた。場の空気が悪くなったので、

「さあ、まずご飯食べよう!冷めちゃうよ?」

 無理矢理話題を変え、自分は2人を無視して料理を食べる。しばらくして、2人もようやく食べ続けた。食べ終わって、店を出たとき。

「リョウさん。」

 ルカが話しかけてきた。

「本当に、後10年しか生きれないんですか?」

 声で少し泣いているのが分かった。

「そうだね。ずっと黙っててごめんね。なかなか言うタイミングがなくてね。でも後10年もあるよ?」

「10年なんてすぐ来ますよ。」

 結局、こんな状態で同じ魔法の人は見つからなかった。
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