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第三章『情熱』
第21話 私たち、ずっと歌っていたい
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再び厨房に戻ると、私は急須に触ってみた。熱さが指に伝わって、手を温めた。
よかった。希茶はまだ冷めていない。
ーーそういえば、保温ポットを買えばいいじゃないか?
私は湯呑みを手に取って、カウンターに置いた。
願い事を考えながら、希茶を注ぎ始めた。
希茶を注げば注ぐほど、味わってみたくなった。その衝動にこらえながら、私は湯呑みから視線を剥がした。
注ぎ終わってから、湯呑みをお盆に載せた。
そろそろもう一つの願い事が叶う。
私は思わず笑みを浮かべた。
次は水樹のオムライス。オムライスを作るのは初めてだけど、そんなに難しくないだろう。
調理する前に、私は髪をポニーテールに結んで、エプロンをつけておく。
下準備として鶏肉と玉ねぎを切ってから、フライパンにバターを入れた。バターが完全に溶けたあと、私は鶏肉と玉ねぎを炒め始めた。
数分後、いろいろな野菜を加えて塩を振りかけた。
そして、ボールを取り出して卵を割り入れた。白身と黄身を混ぜてから、卵液をフライパンに加えた。
いい匂いが厨房の空気に漂う。
その匂いを嗅いで、私は少し力を抜いた。
まだまだ素人なんだけど、料理は意外と楽しい。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
料理を終えると、私は結んだ髪を下ろして、エプロンを外した。
出来立てのオムライスをお皿に盛り、お盆に載せて運んでいく。
「お待たせしました!」
言って、私はお盆をテーブルに置いた。
相談者が希茶を飲み干すと、店長の個人事務所に瞬間移動されることを思い出して、先にオムライスを出すことにした。
オムライスを食べている間にいきなり瞬間移動されたら戸惑ってしまうだろう……。
そういえば、水樹はオムライスを頼んだから何かを描いてほしいのかもしれない。食べ始める前に訊いておいたほうがいい。
「ところで、描いてほしいものはありますか?」
「あの、言葉ですけど」
とっくに決めたのか、水樹は迷わず即答した。
ーー言葉、か。「ハートを描いてほしい!」とでも答えると思ったけど、実は……。
「言葉、ですか? 私は書道が苦手なんですが」
「そんなことないでしょ。とにかく、描きたい言葉なのは『私雨』」
ーーワタクシアメ?
知らない言葉を聞いて、私は面食らった。
しかし、漢字がなんとなくわかった。『私雨』だろう。
書道が本当に苦手なので、簡単な漢字でよかった。
「わかりました。では、今から描き始めます」
私はケチャップボトルを手に取って、軽く絞った。
漢字の書き順を思い出そうとしながら、私はボトルを徐々に移動する。
描くのに三分ぐらいかかってしまった。オムライスはもう冷めているのかな?
とにかく、仕上がったオムライスを水樹に見せて、緊張しながら彼女の感想を待っていた。
オムライスを無言で見つめてから、水樹はこう言った。
「完璧です! 本当に!」
その言葉に、私は胸を撫でおろす。
奇跡が起こったのか、久しぶりの書道が大成功だった。
私は安堵の溜息を吐いて、彼女に目をやった。
「さて、次のライブも『完璧』にしましょうか?」
と、私はさらに笑みを浮かべながら言った。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
見慣れた店長の個人事務所。
私が室内を見回すと、水樹が瞬間移動されていないことに気づいた。
それなら、ここに入れられるのは希茶を飲んだ人と担当しているメイド(つまり私)だけなんだろう。
「ご機嫌よう、お嬢様。お名前は?」
そう言ったのは、机の上に脚をバタバタさせながら座っている叶。
私たちは同時に彼女に視線を向けた。
まだ昼下がりなので部屋の中は明るく、今日はその輝いている空色の髪の毛と整えた顔がよく見える。
「夢輝愛子です」
私は叶から視線を逸らすと、夢輝の横目が目に入った。瞬間移動のせいか、彼女は今にも気絶しそう。
「お素敵な名前ですね」
ーーまだその決まり文句、か。皆に同じことを言ったら意味がなくなるのではないか?
ま、常連客がいないから決まり文句だとはバレないだろうけど。
「あ、ありがとうございます。でも、私たちはなんでここに連れてこられたんですか?」
「願い事を叶えるためですよ」
そう言って、叶は手を差し伸べる。
反射的だったのか、夢輝は迷わずその手を取った。
そして、叶の手に光が輝き出し、部屋の中がさらに明るくなった。
眩しすぎる光に私たちは目が眩む。
再び目を開けると、叶が作り笑いを浮かべながら手を引いたのを見た。
「次のライブはきっと成功しますよ。安心してください」
言って、彼女はもう一度手を伸ばして、扉を開ける。
光が消えていくにつれ、部屋が前の暗さに戻ってきた。
気づいたら、私たちは食堂のテーブルの前に立っている。
私はもうこの現象に慣れているけど、夢輝は初めてだからかなりショックを受けただろう。
彼女は席につこうとすると、少しふらついた。
「大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと目眩がしただけです」
夢輝が席につくと、水樹と目が合った。
水樹は心配げに私たちに視線を投げかけた。
「何かあったんですか? オムライスを食べ終わったあと、皆がいなくなったことに気がつきましたけど」
ーー彼女は周りの状況に気がつかなかったほどオムライスに夢中だったのか? 私の料理の腕は思ったより上手かもしれない……。
夢輝に目をやると、彼女はさっき起こった出来事をひたすら言葉にしようとしている。
瞬間移動。そんな現象を経験したことのない人に説明するのはかなり難しい。私だって説明できないと思う。説明ができたとしても、おそらく変人呼ばわりされるだろう。
「あの、そこは……ちょっと説明しにくいですけどね。でも安心してください。どうやら、私たちの願い事が叶ったらしいです!」
「つまり、満席が保証できました?」
「うん、その通りです! だから、次のライブも頑張りましょうね! 結構大変だと思いますけど……。新曲を作らないとし、新しい振り付けを考え出さないと……」
「私も手伝うから大丈夫ですよ」
と、うなだれる夢輝を慰めるように水樹は言った。
二人が食べ終えると、私はお皿を片付け始めた。
会計を済ませてから、彼女たちは立ち上がって店のドアを開けた。
出る前に、夢輝は振り返ってこう言った。
「また来ますね!」
本当にいい人たちなんだ。しかも、彼女たちの精一杯頑張っている姿を見ると、私もやる気が湧いてくる。
カランコロンカランと店のドアベルが鳴り出して、私は一人きりで店内に立っていた。
ーー次のライブに行けるといいなぁ……。
よかった。希茶はまだ冷めていない。
ーーそういえば、保温ポットを買えばいいじゃないか?
私は湯呑みを手に取って、カウンターに置いた。
願い事を考えながら、希茶を注ぎ始めた。
希茶を注げば注ぐほど、味わってみたくなった。その衝動にこらえながら、私は湯呑みから視線を剥がした。
注ぎ終わってから、湯呑みをお盆に載せた。
そろそろもう一つの願い事が叶う。
私は思わず笑みを浮かべた。
次は水樹のオムライス。オムライスを作るのは初めてだけど、そんなに難しくないだろう。
調理する前に、私は髪をポニーテールに結んで、エプロンをつけておく。
下準備として鶏肉と玉ねぎを切ってから、フライパンにバターを入れた。バターが完全に溶けたあと、私は鶏肉と玉ねぎを炒め始めた。
数分後、いろいろな野菜を加えて塩を振りかけた。
そして、ボールを取り出して卵を割り入れた。白身と黄身を混ぜてから、卵液をフライパンに加えた。
いい匂いが厨房の空気に漂う。
その匂いを嗅いで、私は少し力を抜いた。
まだまだ素人なんだけど、料理は意外と楽しい。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
料理を終えると、私は結んだ髪を下ろして、エプロンを外した。
出来立てのオムライスをお皿に盛り、お盆に載せて運んでいく。
「お待たせしました!」
言って、私はお盆をテーブルに置いた。
相談者が希茶を飲み干すと、店長の個人事務所に瞬間移動されることを思い出して、先にオムライスを出すことにした。
オムライスを食べている間にいきなり瞬間移動されたら戸惑ってしまうだろう……。
そういえば、水樹はオムライスを頼んだから何かを描いてほしいのかもしれない。食べ始める前に訊いておいたほうがいい。
「ところで、描いてほしいものはありますか?」
「あの、言葉ですけど」
とっくに決めたのか、水樹は迷わず即答した。
ーー言葉、か。「ハートを描いてほしい!」とでも答えると思ったけど、実は……。
「言葉、ですか? 私は書道が苦手なんですが」
「そんなことないでしょ。とにかく、描きたい言葉なのは『私雨』」
ーーワタクシアメ?
知らない言葉を聞いて、私は面食らった。
しかし、漢字がなんとなくわかった。『私雨』だろう。
書道が本当に苦手なので、簡単な漢字でよかった。
「わかりました。では、今から描き始めます」
私はケチャップボトルを手に取って、軽く絞った。
漢字の書き順を思い出そうとしながら、私はボトルを徐々に移動する。
描くのに三分ぐらいかかってしまった。オムライスはもう冷めているのかな?
とにかく、仕上がったオムライスを水樹に見せて、緊張しながら彼女の感想を待っていた。
オムライスを無言で見つめてから、水樹はこう言った。
「完璧です! 本当に!」
その言葉に、私は胸を撫でおろす。
奇跡が起こったのか、久しぶりの書道が大成功だった。
私は安堵の溜息を吐いて、彼女に目をやった。
「さて、次のライブも『完璧』にしましょうか?」
と、私はさらに笑みを浮かべながら言った。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
見慣れた店長の個人事務所。
私が室内を見回すと、水樹が瞬間移動されていないことに気づいた。
それなら、ここに入れられるのは希茶を飲んだ人と担当しているメイド(つまり私)だけなんだろう。
「ご機嫌よう、お嬢様。お名前は?」
そう言ったのは、机の上に脚をバタバタさせながら座っている叶。
私たちは同時に彼女に視線を向けた。
まだ昼下がりなので部屋の中は明るく、今日はその輝いている空色の髪の毛と整えた顔がよく見える。
「夢輝愛子です」
私は叶から視線を逸らすと、夢輝の横目が目に入った。瞬間移動のせいか、彼女は今にも気絶しそう。
「お素敵な名前ですね」
ーーまだその決まり文句、か。皆に同じことを言ったら意味がなくなるのではないか?
ま、常連客がいないから決まり文句だとはバレないだろうけど。
「あ、ありがとうございます。でも、私たちはなんでここに連れてこられたんですか?」
「願い事を叶えるためですよ」
そう言って、叶は手を差し伸べる。
反射的だったのか、夢輝は迷わずその手を取った。
そして、叶の手に光が輝き出し、部屋の中がさらに明るくなった。
眩しすぎる光に私たちは目が眩む。
再び目を開けると、叶が作り笑いを浮かべながら手を引いたのを見た。
「次のライブはきっと成功しますよ。安心してください」
言って、彼女はもう一度手を伸ばして、扉を開ける。
光が消えていくにつれ、部屋が前の暗さに戻ってきた。
気づいたら、私たちは食堂のテーブルの前に立っている。
私はもうこの現象に慣れているけど、夢輝は初めてだからかなりショックを受けただろう。
彼女は席につこうとすると、少しふらついた。
「大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと目眩がしただけです」
夢輝が席につくと、水樹と目が合った。
水樹は心配げに私たちに視線を投げかけた。
「何かあったんですか? オムライスを食べ終わったあと、皆がいなくなったことに気がつきましたけど」
ーー彼女は周りの状況に気がつかなかったほどオムライスに夢中だったのか? 私の料理の腕は思ったより上手かもしれない……。
夢輝に目をやると、彼女はさっき起こった出来事をひたすら言葉にしようとしている。
瞬間移動。そんな現象を経験したことのない人に説明するのはかなり難しい。私だって説明できないと思う。説明ができたとしても、おそらく変人呼ばわりされるだろう。
「あの、そこは……ちょっと説明しにくいですけどね。でも安心してください。どうやら、私たちの願い事が叶ったらしいです!」
「つまり、満席が保証できました?」
「うん、その通りです! だから、次のライブも頑張りましょうね! 結構大変だと思いますけど……。新曲を作らないとし、新しい振り付けを考え出さないと……」
「私も手伝うから大丈夫ですよ」
と、うなだれる夢輝を慰めるように水樹は言った。
二人が食べ終えると、私はお皿を片付け始めた。
会計を済ませてから、彼女たちは立ち上がって店のドアを開けた。
出る前に、夢輝は振り返ってこう言った。
「また来ますね!」
本当にいい人たちなんだ。しかも、彼女たちの精一杯頑張っている姿を見ると、私もやる気が湧いてくる。
カランコロンカランと店のドアベルが鳴り出して、私は一人きりで店内に立っていた。
ーー次のライブに行けるといいなぁ……。
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