【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨

文字の大きさ
41 / 44
第五章『生死』

第41話 一瞬だけの一安心

しおりを挟む
 計画に反して、結局私たちは同じ電車に乗り込んだ。
 私は立ったまま吊革つりかわを握りしめて、かなえは窓側の席に座っている。
 長い間走っていて、私の呼吸はまだ荒い。
 私より体力が高いのか、かなえはあまり疲れていないようだった。座席に座ったまま、彼女は困惑した表情で私を見上げた。
 
 ーーやっぱり説明したほうがいいだろうか……

「さっきのことなんだけど、少しでも説明してくれないの?」

 と、かなえは頭を掻きながら言った。

 『必要があったら説明する』と言ったものの、その『必要』が思ったより早く来た。だから、どう説明すればいいのかまだわからない。タイムスリップから説明しようか? それとも病院のことからしたほうがいいのかな……。
 思いを巡らせて、私は必死にわかりやすい説明を考えようとした。

 ーーああ、考えておけばよかったのに。

 まだ車内にいることに気がついて、私は説明を始める前に声をひそめておいた。

「私はタイムスリップしたんだ。二時間前に時間をさかのぼることを願って、希茶きちゃを飲んだ。なぜなら、私は矢那華やなかに撃たれて入院したから。一週間も病室にせることになったから、お葬式に行けなかった。でも、私はタイムスリップの計画を立ててかなえに提案すると、許可されて時間を遡ることができたんだ」

 説明を終えて、私は息を吐いた。
 私が話している間、かなえは相槌を打ったり頷いたりしていた。話を聞いて驚くだろうと思ったけど、彼女の表情は一切変わらなかった。
 やっぱり、真相を隠す必要はなかった。

「わたくし……タイムスリップの許可をあげたのか。つまり、のぞみは願い事を変えたんだ?」

 言って、かなえは自嘲するように苦笑した。

「そう。零士れいじと再び会えたし、お互いに告白したし、今更そんな願い事を持つ必要はないでしょ?」
「そうね。ま、悪い事なんかじゃない。少し驚いただけ」

 叶《かなえ》は『少し驚いただけ』と言い足したものの、顔にはまったくそう見えない。どんな表情を浮かべても、彼女の気持ちがやっぱり読み切れない。
 電車がいきなり揺れると、私は吊革を放してしまってめく。バランスを取り戻したあと、音声合成の声が車内に響いた。
 何回も電車を乗り換えて、私たちはそろそろ斎場に到着するようだ。

『ツギは不動前デス』

 電車が停車すると、かなえは座席から立ち上がって、先に電車を降りた。
 彼女の姿を見失わないように、私は人混みを掻き分けた。電車を降りると、彼女が駅前で待っていることに気づいた。

「こっちだよー、のぞみ!」

 言いながら、彼女は背伸びして手を振った。
 休む間もなく、私たちは集合場所に向かった。

♡  ♥  ♡  ♥  ♡

 斎場の外にたどり着くと、葬式の始まりを待っている何十人もの人が視界に入った。
 念のため、私は人混みの中で矢那華やなかがいないか確認した。幸い、彼女の姿はどこにもなかった。
 とりあえず、私たちは少し休んでもいいだろう。私は安堵の溜息を吐いて、かなえに視線を向けた。
 しかし、彼女はそこにいなかった……。一体どこに行ったんだろう?
 再び人混みを見回すと、かなえが他人と喋っていることに気がついた。
 吐息を漏らしてから、私は覚悟を決めてそこに向かった。
 メイド喫茶で働いているとはいえ、まだ雑談が苦手なんだ。しかも、葬式に行くのは初めてだから、どんな話をすればいいのか全然わからない。
 まあ、かなえもそうだけど……。
 私は彼女を真似したらなんとかなるだろう。そう決めて、私は会話に参加しようとした。

「あ、のぞみ! こっちに来てください」

 のぞみの葬式でその名前を聞いたら、皆が混乱するんではないだろうか?
 私はそう思ったけど、のぞみはただの源氏名だと思い出した。彼女の本名は身内しか知らないだろう。
 それに、家族はゆめゐ喫茶に行ったことがないならのぞみという源氏名を聞いたこともないかもしれない。

のぞみですか? 初めまして、優菜ゆうなです」

 同じ自己紹介を何回も聞いて、私は既視感を覚えそうになった。
 見知らぬ人と挨拶を交わして、葬式が始まるまで時間を潰した。賑やかな場外から離れて、私は一人でベンチに座った。
 そういえば、矢那華やなかがそろそろ来るんじゃないか? あと三十分なのに、彼女の気配はない。もちろん来ないほうがいいけど、おかしい。
 もしかして、斎場まで送ってくれるというのは罠だったのか? それなら、私たちは車に乗り込んだ途端に銃で殺されたんだろう。無理もない話だ。
 この時点ではまだ起こっていないことなのに、術後の痛みを思い出すと寒気がした。
 今度こそ、私は無事に矢那華やなかと対決しないと。
 しかし、弾丸は避けられないし、武器を持っていないし、私は勝てるわけがないじゃないか?
 それでも、矢那華やなかを止めなければならない。
 きびすを返して皆が喋っている場所に戻ろうとすると、あの見覚えのある車が視界に入った。

 ーー矢那華やなかが、来たんだ……。

 その眼差しはまるで私の身体からだを射貫くように鋭い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...