【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨

文字の大きさ
43 / 44
第五章『生死』

第43話 善意と悪意の対決(後編)

しおりを挟む
 矢那華やなかは手でポケットを探る。銃を取り出そうとしているんだろう。
 それでも、私は動じない。むしろ、「かかってこい!」と言わんばかりに身構えた。
 銃を取り出すまで時間がある。だから、私は飛び出して不意打ちする。

「な、何!?」

 矢那華やなかは床にく。
 私は銃を探っている彼女の手を掴んで、めにする。
 唸り声を出して、矢那華やなかは私の腹を蹴ろうとする。
 しかし、私はそれを簡単にかわして、彼女を子供のように抱き上げた。
 矢那華やなかはどんなに必死に藻掻いて足を振っても無駄だった。この調子で進めば、私の勝利になりそう。
 
「銃を持っているのがわかるのよ!」

 と、私は言って彼女の身体からだを強く振る。
 すると、彼女が取り出そうとしていた銃がポケットから落ちて、床にぶつかった。
 それを見た矢那華やなかは半泣きになりそうになった。
 そして、今まで修羅場を傍から観察していた叶《かなえ》が戦闘に参加する。かなえは落ちた銃を拾って、矢那華やなかに見せた。
 
「これはもう要らないね。銃は斎場にふさわしくないよ」

 言って、かなえは銃を壁に叩きつけ、念のため何回か踏む。
 銃を踏むたび、矢那華やなかは唸り声を出した。
 彼女にはもう武器がない。必死に藻掻くことしかできない。

「ど、どうして銃を持っているのがわかったの……!?」

 と、矢那華やなかは声を絞り出すように叫んだ。
 正直、彼女は頭がよくなさそう。主犯がそんなことを叫んだら、警察がすぐに来るんじゃないか?

「タイムスリップしたんだ! 前回はあんたに膝を撃たれたせいで葬式に行けなかった。でも、叶《かなえ》が行きたいから、私はあんたを倒さなきゃ! 復讐だよ!!」

 叫んで、私は矢那華やなかかなえのほうに放り出した。
 かなえ矢那華やなか身体からだを受け取って、廊下の床を引きずり始めた。
 矢那華やなかは藻掻きすぎたせいか、体力を全部尽くしたようだ。床に引きずられながら、彼女は小さく唸った。
 私たちは廊下の突き当りにあった部屋に入って、矢那華やなかを閉じ込めた。

「今警察を連絡するから、矢那華やなかを見張ってください」

 かなえは凛々しそうに両手を腰に当てて、そう言った。
 私が頷くと、かなえきびすを返して、廊下を走り出した。
 よりによって、私はと二人きりになってしまった……。
 身体からだが痛いのか、警察を恐れているのか、彼女はえつを漏らした。
 もう何もしようとしないだろうと思って、私は矢那華やなかのそばに座った。 

「もう、零士れいじを首にしてやるよ……」
「ほう、『ただの部長』じゃなかったっけ?」
「私はそんな言葉を言わなかったけど」

 ーーしまった。この時点で彼女はその台詞を言わなかったんだ。

「なんでもない」

 言って、私は溜息を吐いた。
 葬式はこんなものだろうか? 違う、多分。
 普通に上手くいくだろう。銃を持ってくる人は来ないだろう。少なくとも、めっに来ない。
 言い方が悪いけど、この混乱は妙にふさわしく感じた。なぜかのぞみはこんなことが好きだったんだろうと思った。
 しかし、あくまで葬式だから混乱が良くないに決まっているだろう。

 ーーそういえば、警察はいつ来るのかな? これ以上この問題児の子守りをしたくないよ……。

 そう考えた途端、誰かがドアをノックした。
 私は床から飛び出してドアを開けた。
 視界に入ったのは、かなえと二人の警官だった。

「この銃ですか?」
「はい、そうです。わたくしはできるだけ振れないようにしたので、ほとんど犯人の指紋が残していると思います」
「助かります、お嬢さん」

 そして、一人の警官が部屋に入ってきて、矢那華やなかに目をやった。

矢那華やなかさんですか?」
「……はい」

 矢那華やなかは観念したように溜息を漏らした。

「銃器所持の容疑で逮捕します」

 言って、警官は矢那華やなかに手錠をかけ、廊下で立っている警官と目配せをした。
 彼女の遠ざかっていく姿を見つめながら、私は頭の中でガッツポーズをして、「ざまあみろ」と思った。
 私はかなえと廊下を歩いて、斎場の一階に向かっていく。
 矢那華やなかが逮捕されたからには、待ちわびた葬式が始まるんだろう。

 ーーさらば、矢那華やなか部長……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

処理中です...