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プロローグ
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━━橙色の照明が次々と窓外を通り過ぎ、車輪がレールを踏む音に合わせて車体が揺れる。
トンネルの内壁から視点を少しばかり内側に寄せれば、窶れた自分の表情が呪いのように窓硝子に映り込んでいる。育ての親であった祖母が亡くなり、行き場を失った人間の顔だ。祖母が育ての親であるのは、僕が自分の苗字を漢字で書けるようになった頃にはもう両親が他界していたためだ。
僕は今年の四月から高校生になる予定だった。友達と遊びまくって合格した偏差値四十あるかないかのような底辺高校だから惜しくはないけど、一度は高校へ行ってみたいという願望が誰しもあるものだろう。
「はぁ」
僕は、そう、高校生になる予定だった。しかし、どうだろう。
僕が今向かっているのは山奥も山奥━━地元の人でも近寄らないような山の斜面にある研究所だ。
両手の指で、ちぎれんばかりに握り締めている一枚の紙を改めて見下ろす。
『皆で楽しめアルバイト! 試験用フルダイブギア被験者募集中!』
その少し下の方に条件やら報酬やら様々なことが書いてある。纏めると、
〇一年間休みなし
〇帰宅不可
〇外出不可
〇持ち物持ち込み不可
〇食事不要
〇睡眠不要
〇報酬:1000万/年
友達が高校生活を謳歌している中で、僕は両親の借金を返すために、こんな意味の分からないアルバイトをやらなければならない。
条件とか色々と適当な癖に報酬だけ無駄に良いのが凄く不安だ。
⋯⋯それに先ず、フルダイブギアって何だ?
■
電車を降りてからは近隣の住民らに場所を聞きながら、徒歩でその研究所へ辿り着いた。想像していた通り、研究所は茂みに隠れるように山の頂上より少しだけ低い位置に置かれている。
「待ってたよ」
茶髪のロングで眼鏡をかけた美人さんが僕を出迎えてくれた。研究所にも、洒落た見た目の人がいるとは思わなかった。
⋯⋯いや、彼女も服は白衣だけどね。
「よろしくお願いします。雨宮ルルといいます」
「よろしくね。ルルくん。皆もう中で貴方のこと待ってるから、ささっと説明済ませて実験始めちゃいましょう」
「あ、はい」
彼女は『実験大好き』って感じがよく伝わってくる女性で、名前を言うより先に僕の手を引いて実験室へと連れて行った。
建物の内部はどこも無機的で真っ白な部屋が並んでいるような感じ。ただ、生体認証システムが導入されているらしくて開き方が最先端だ。
「けれど、ルルくんが体験するフルダイブギアは私たちの研究の中でも、ダントツの最先端技術なんだからね」
と、彼女が言ったため期待してはみたが、連れて来られた部屋の中には年寄りばかりしかいなかった。
「⋯⋯最先端、とは?」
「いやいや平均年齢で判断しちゃ駄目だよ! 技術を見て、技術を」
「え、ごめんなさい。あの白衣を着た老人たちがフルダイブギアなのかと思ってました。フルダイブギアと人間の間に子供は生まれるのか、みたいな研究かと」
「⋯⋯ルルくん、なかなか恐ろしいこと言うわね」
科学者の才能がありそうよ━━と彼女に言われ、僕は少しだけ嬉しかった。
被験者である僕が到着したことを知って、独り、老人がこちらへ歩み寄って来る。白髪も無くなりかけの頭としわくちゃの顔をした背の低い男の人だ。僕を連れて来てくれたお姉さんが歩行を助けている辺り偉い人なのだろう。
「よくぞ、来てくれた。ええ、雨宮ルルくん、だったね。よろしく」
向けられた老人の右手を僕は遠慮がちに握り返す。
「よろしくお願いします」
「うむ。さて、早速説明だが⋯⋯」
老人は振り返って、弟子と思しき若い男性と頷き合った。
すると、弟子が何らかのリモコンを操作してスクリーンに映像を投射する。説明が開始された。
⋯⋯まあ、纏めると。
フルダイブギアというのはゲームをするための機械であり、全身でゲームの世界を体感できる凄い装置らしい。で、僕のやることはその装置を頭に装着した状態でゲームをして、不備があれば報告することだけ。
また、彼らの開発したカプセルの中に入ることで睡眠も運動も食事も排泄も不要になるらしい。心置きなくゲームをレビューして欲しい、と言われた。
「ゲームのジャンルは?」
どうせ老人の作った認知症対策アプリみたいなものだろう━━と期待せずに尋ねると、
「MMORPGだよ」
老人がドヤ顔でそう答えた。MMORPGねぇ⋯⋯ほぅ、分からん。
まあ、 どうせ老人向けアプリ「one more time please(もう一度お願いします)」の並べ替えだろう。
⋯⋯いや、それだと「G」が足りないか。あぁ、ジジイの「G」ね、なるほど。
なんて失礼な解読をしているうちに早速テストプレイの時間となった。頭に格好悪い機械を接続させられてカプセルの中に入れられる。
「ルルくん、怖くなったら言ってね。いつでも回線を切断するわ」
ああ、茶髪の美人さんはとても優しくて良い人だ。怖がりな僕のために気を遣ってくれるなんて。
「ありがとうございます」
それに貴女、結構稼いでるんでしょう? けど、彼氏はいないはず。もし、僕が無事に帰って来られたら結婚しましょうそうしましょう。僕の借金を返して下さいお願いします。
僕の心の声を知ってか知らずかお姉さんがニコッと微笑んでくれた。かわいい。
「そろそろスタートしましょうか。入り方は分かるわね?」
「は、はい」
緊張する。正直、こんな盛大なプロジェクトを僕が受けて良かったのか。不安だ。何だかんだ皆優しくて良い人そうだし、ああ、出来る限り迷惑かけないように、切断なんかはしないようにしよう。
「━━よし。いきます」
覚悟を決めた僕は、事前に言われていた通り、
「ゲームスタート」
と、電脳世界へ没入するための合言葉を発したのだった。
━━青年を無事にゲーム内へ送れたことで、研究所内は大盛り上がり。
茶髪の美人なお姉さんはシャンパンを買うことを頼まれ、「えー」と文句を言いながらも、最年少の自分に任せられるのは当たり前かと仕方なく部屋を出た。
下山するのは面倒だと思いつつ、彼女が研究所を抜けて少し経った頃。
「!?」
唐突に、鼓膜を突き破るほどの衝撃音が背後から響き、振り返る。すると、信じ難い光景が山頂の辺りに広がっていた。
「あ、あ、そんな⋯⋯」
燃え上がる建物、赤く光り輝く木々、上る煙。
事態を察した彼女は大慌てで消防へ連絡を入れたが⋯⋯。
━━原因はある研究室のガス爆発。研究所に勤めていた大半が焼死。
発見された遺体のほとんどは身元も分からないほど焼け崩れていたらしい。しかし、雨宮ルルという青年の遺体はフルダイブギアを被ったままであったため、直ぐにそれは彼のものだと判明した。
トンネルの内壁から視点を少しばかり内側に寄せれば、窶れた自分の表情が呪いのように窓硝子に映り込んでいる。育ての親であった祖母が亡くなり、行き場を失った人間の顔だ。祖母が育ての親であるのは、僕が自分の苗字を漢字で書けるようになった頃にはもう両親が他界していたためだ。
僕は今年の四月から高校生になる予定だった。友達と遊びまくって合格した偏差値四十あるかないかのような底辺高校だから惜しくはないけど、一度は高校へ行ってみたいという願望が誰しもあるものだろう。
「はぁ」
僕は、そう、高校生になる予定だった。しかし、どうだろう。
僕が今向かっているのは山奥も山奥━━地元の人でも近寄らないような山の斜面にある研究所だ。
両手の指で、ちぎれんばかりに握り締めている一枚の紙を改めて見下ろす。
『皆で楽しめアルバイト! 試験用フルダイブギア被験者募集中!』
その少し下の方に条件やら報酬やら様々なことが書いてある。纏めると、
〇一年間休みなし
〇帰宅不可
〇外出不可
〇持ち物持ち込み不可
〇食事不要
〇睡眠不要
〇報酬:1000万/年
友達が高校生活を謳歌している中で、僕は両親の借金を返すために、こんな意味の分からないアルバイトをやらなければならない。
条件とか色々と適当な癖に報酬だけ無駄に良いのが凄く不安だ。
⋯⋯それに先ず、フルダイブギアって何だ?
■
電車を降りてからは近隣の住民らに場所を聞きながら、徒歩でその研究所へ辿り着いた。想像していた通り、研究所は茂みに隠れるように山の頂上より少しだけ低い位置に置かれている。
「待ってたよ」
茶髪のロングで眼鏡をかけた美人さんが僕を出迎えてくれた。研究所にも、洒落た見た目の人がいるとは思わなかった。
⋯⋯いや、彼女も服は白衣だけどね。
「よろしくお願いします。雨宮ルルといいます」
「よろしくね。ルルくん。皆もう中で貴方のこと待ってるから、ささっと説明済ませて実験始めちゃいましょう」
「あ、はい」
彼女は『実験大好き』って感じがよく伝わってくる女性で、名前を言うより先に僕の手を引いて実験室へと連れて行った。
建物の内部はどこも無機的で真っ白な部屋が並んでいるような感じ。ただ、生体認証システムが導入されているらしくて開き方が最先端だ。
「けれど、ルルくんが体験するフルダイブギアは私たちの研究の中でも、ダントツの最先端技術なんだからね」
と、彼女が言ったため期待してはみたが、連れて来られた部屋の中には年寄りばかりしかいなかった。
「⋯⋯最先端、とは?」
「いやいや平均年齢で判断しちゃ駄目だよ! 技術を見て、技術を」
「え、ごめんなさい。あの白衣を着た老人たちがフルダイブギアなのかと思ってました。フルダイブギアと人間の間に子供は生まれるのか、みたいな研究かと」
「⋯⋯ルルくん、なかなか恐ろしいこと言うわね」
科学者の才能がありそうよ━━と彼女に言われ、僕は少しだけ嬉しかった。
被験者である僕が到着したことを知って、独り、老人がこちらへ歩み寄って来る。白髪も無くなりかけの頭としわくちゃの顔をした背の低い男の人だ。僕を連れて来てくれたお姉さんが歩行を助けている辺り偉い人なのだろう。
「よくぞ、来てくれた。ええ、雨宮ルルくん、だったね。よろしく」
向けられた老人の右手を僕は遠慮がちに握り返す。
「よろしくお願いします」
「うむ。さて、早速説明だが⋯⋯」
老人は振り返って、弟子と思しき若い男性と頷き合った。
すると、弟子が何らかのリモコンを操作してスクリーンに映像を投射する。説明が開始された。
⋯⋯まあ、纏めると。
フルダイブギアというのはゲームをするための機械であり、全身でゲームの世界を体感できる凄い装置らしい。で、僕のやることはその装置を頭に装着した状態でゲームをして、不備があれば報告することだけ。
また、彼らの開発したカプセルの中に入ることで睡眠も運動も食事も排泄も不要になるらしい。心置きなくゲームをレビューして欲しい、と言われた。
「ゲームのジャンルは?」
どうせ老人の作った認知症対策アプリみたいなものだろう━━と期待せずに尋ねると、
「MMORPGだよ」
老人がドヤ顔でそう答えた。MMORPGねぇ⋯⋯ほぅ、分からん。
まあ、 どうせ老人向けアプリ「one more time please(もう一度お願いします)」の並べ替えだろう。
⋯⋯いや、それだと「G」が足りないか。あぁ、ジジイの「G」ね、なるほど。
なんて失礼な解読をしているうちに早速テストプレイの時間となった。頭に格好悪い機械を接続させられてカプセルの中に入れられる。
「ルルくん、怖くなったら言ってね。いつでも回線を切断するわ」
ああ、茶髪の美人さんはとても優しくて良い人だ。怖がりな僕のために気を遣ってくれるなんて。
「ありがとうございます」
それに貴女、結構稼いでるんでしょう? けど、彼氏はいないはず。もし、僕が無事に帰って来られたら結婚しましょうそうしましょう。僕の借金を返して下さいお願いします。
僕の心の声を知ってか知らずかお姉さんがニコッと微笑んでくれた。かわいい。
「そろそろスタートしましょうか。入り方は分かるわね?」
「は、はい」
緊張する。正直、こんな盛大なプロジェクトを僕が受けて良かったのか。不安だ。何だかんだ皆優しくて良い人そうだし、ああ、出来る限り迷惑かけないように、切断なんかはしないようにしよう。
「━━よし。いきます」
覚悟を決めた僕は、事前に言われていた通り、
「ゲームスタート」
と、電脳世界へ没入するための合言葉を発したのだった。
━━青年を無事にゲーム内へ送れたことで、研究所内は大盛り上がり。
茶髪の美人なお姉さんはシャンパンを買うことを頼まれ、「えー」と文句を言いながらも、最年少の自分に任せられるのは当たり前かと仕方なく部屋を出た。
下山するのは面倒だと思いつつ、彼女が研究所を抜けて少し経った頃。
「!?」
唐突に、鼓膜を突き破るほどの衝撃音が背後から響き、振り返る。すると、信じ難い光景が山頂の辺りに広がっていた。
「あ、あ、そんな⋯⋯」
燃え上がる建物、赤く光り輝く木々、上る煙。
事態を察した彼女は大慌てで消防へ連絡を入れたが⋯⋯。
━━原因はある研究室のガス爆発。研究所に勤めていた大半が焼死。
発見された遺体のほとんどは身元も分からないほど焼け崩れていたらしい。しかし、雨宮ルルという青年の遺体はフルダイブギアを被ったままであったため、直ぐにそれは彼のものだと判明した。
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