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第一章
005 悪辣な透明人間
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ひゃは! 上手くいった! 上手くいったぞ! 俺はやはり運が良い!
それは、偶然だった。高卒でフリーターの俺が、ある日突然謎の廃墟に連れてこられて、異能を与えられたのである。
俺は常々、誰かを貶めたい。殺したいと思っていた。
やることなすこと、全部が最悪な人生。運が無さすぎた。俺は悪くない。悪いのはこの世界だ。
けれども運というのは、いつか揺り戻しがある。そう信じていた。そして今こそが、その揺り戻しがやってきたときだ。
俺はこれまでの人生運が最悪だったが、これからは最高に違いない。何といっても俺の異能は【存在希薄】であり、名称こそ微妙だが、いわゆる透明人間になるようなものだった。
これを使えば俺が近くにいても、気づかれることがない。あの化け物だって、俺の横を通り過ぎていった。
だからこそ偶然にも、俺はパンクファッションの男が糸目のガキを襲っているのを、近くで堪能することができたのである。
安全圏から人が死ぬかもしれないという状況を見ることができて、俺はワクワクした。糸目のガキが、焼き殺される姿を楽しみにしていたのである。
だがその結果は、俺の予想に反したものになった。なんとパンクファッションの男が化け物に殺されて、糸目のガキは逃げおおせたのである。
これはこれで面白かったが、糸目のガキが生き延びたことが気にくわない。
だから俺は、糸目のガキを追いかけた。すると糸目のガキは、とある部屋に逃げ込んだのである。
けどこのとき、俺はあることに気がついた。ドアにあるパネルが、緑色に光っていたのだ。
そういうことか。誰かが部屋にいると、パネルが光るのか。
俺も最初どこかの部屋にいたので、内側からでは光っていることが分からないのは知っている。
だからこの部屋に入った糸目のガキは、今頃助かったと安堵しているところだろう。
しかしここで、俺はあることを思いつく。
そうだ。この部屋に、あの虫の化け物どもを連れてきてやろう。
俺は天才的な発想だと思いながらも、そこらのゴミを組み合わせて、一応近くに目印を形作っておいた。
そうして先ほどのパンクファッションの男が殺されていた場所に、急いで戻る。少し道に迷ったが、なんとか間に合った。
化け物たちは、未だにパンクファッションの男の死体から、血や体液を啜っている。
ミイラ状態になっていて気持ちが悪かったが、それよりも俺はその光景に興奮していた。
これまで何度も、俺はヤンキー共にはイラつかされてきたからだ。だからミイラとなった男を見ても、俺はざまあみろと思ったのである。
またパンクファッションの男は、化け物のアゴで解体されていた。その中で俺の視界に、転がっている頭部が入ってくる。
それを見て直感的にまさしくこれだと思い、転がっていた頭部のモヒカンを掴む。
結果としてそれを拾ったのはいいものの、これでどうやって化け物どもを連れて行こうかと、俺は次に頭を悩ませた。
血に反応していたのは、見ていたので知っている。だが自傷して血を流すのは、ごめんだった。
加えてこいつはもうミイラなので、血などはほとんど残ってはいない。
しかしその中で俺は、あることをふと閃めいた。
そうだ。体液も啜るんだったら、小便でも問題ないだろ!
俺はこのとき、自分を天才だと思ったね。だからミイラとなった男の頭部に、小便をかけてやった。
ヤンキーに小便をかけるのは、とても気持ちが良い。ざまあみやがれ!
けど片手で急いで行ったからか、残尿が少しパンツの中で漏れてしまった。最悪だ。
すると虫の化け物は【存在希薄】により俺のことは見つけていないが、手に持った頭部には反応をし始める。
最初は俺の存在に気がついたのかと焦ったが、左手に持つ頭部の方に集まってきたので、大丈夫そうだった。
ついでに俺は落ちていたスマートウォッチを拾って、ジーパンのポケットにしまう。
おそらく虫の化け物に解体されたときに、外れたようである。あとで終わったら、エンを移し替えることにした。
そうして俺は頭部を持ちながら虫の化け物どもを引き連れて、糸目のガキがいる部屋の前まで戻ったのである。
虫の化け物どもを誘導するのには少々時間がかかったが、糸目のガキはまだ部屋の中にいるようだった。ドアのパネルは、未だに緑色に光っている。
ははっ、怖くて震えているんだろうなぁ! 実に俺は、運が良い!
そうしてドアを開けようとするが、なぜか開かない。
ちっ、金を払えってことかよ。しかも何でか20エンになっているし最悪だ。誰かが入っていると、値段が倍になるってことかよ!
少々気にくわないが、仕方がない。俺は20エン支払い、ドアを開けた。そしてドアストッパー代わりにして、男の頭部を置く。
これは俺が部屋をバレずに覗けるようにする為であり、また何かあれば逃げ出せるようにするためだ。
手でドアを押さえていたら、もし逃げ出す時に何かいたと気づかれる可能性があるからな。
【存在希薄】で実質透明人間になっているし、この方が都合がいい。
するとここまでついてきた虫の化け物どもが、頭部なんて目もくれずに、糸目のガキの元へと向かっていった。
ひゃは! 上手くいった! 上手くいったぞ! 俺はやはり運が良い!
これから起きる惨劇に、俺は下品だが勃起した。自分がこんなことに興奮するとは、これまでの人生では考えられないことだ。
けど昔から女の腹を殴るリョナものが好きだったし、そうした才能はあったのだろう。
そうして糸目のガキが哀れにも虫の化け物に捕まり、吸い殺されると思われたそのときだった。
は? 意味が分からねぇ。
糸目のガキが虫の化け物を取り込んで、右腕がその虫の化け物みたいになった。しかも周りの化け物どもが、どういう訳か糸目のガキを襲うことをしない。
なんだよそれ! ふざけるな! チートじゃねえかよ! 俺にその異能をよこせ!
心の中でそう悪態をつきながらも、俺は即座にこの場からの離脱を決意する。
仮にもし物語のやられ役なら、ここで糸目のガキにやられるのだろう。だが、この俺は違う。【存在希薄】があれば、後から暗殺染みたこともできるはずだ。
だからここは、クールに去るぜ。糸目のガキ、お前がイキっていられるのも、今のうちだからな!
そうして俺は、その場から離れた。
ちっ、運が悪いなぁ。糸目のガキが吸い殺されるところが見たかったのによぉ。まあ仕方がねえか。次の獲物を探すことにしよう。
すると俺が、そう思っているときだった。目の前に、あの気持ちの悪い虫の化け物が数匹現れる。
だが俺はそれに対して、全く平然としていた。なんせ俺には、【存在希薄】がある。化け物どもなんて、全く脅威でもなんでもな――
「え?」
そう思った瞬間、俺の股間に何かが突き刺さっていた。見ればそれは、長い舌のようなもの。虫の化け物が血を啜るための、あの器官である。
「ひぎゃぁあああ!?」
当然俺はあまりの痛みと恐怖に、叫び声を上げた。しかも痛みによってか、【存在希薄】が解除されてしまう。
その結果、虫の化け物どもが俺の存在に気がつく。
「ひぃ! 来るな! 来るんじゃねぇえ!」
まるで先ほどの糸目のガキのように、俺はそう叫んだ。
けれども痛みで動けなかった俺は、あっという間に捕まってしまう。【存在希薄】を使おうとしても、なぜか上手く発動できなかった。
なんでだよぉ! なんでこうなるんだよぉ!
そして逃げらずに化け物どもに血を啜られながら、あることを思う。
【存在希薄】は、あくまでも存在を薄くするだけで、消えた訳ではないということを。だから小便と、勃起したときの余臭に反応したのかもしれない。
また虫の化け物も確実に俺を見つけた訳ではなく、なんとなく違和感のある場所に、舌を突き出しただけなのだろう。実際突き刺した直後は、血を啜られることはなかった。
つまり何が言いたいのかというと、俺は、運が無かったということである。
なんだよ。やっぱり最悪な人生じゃねえか。運が無さすぎた。俺は悪くない。悪いのはこの世界だ。
だから次は異世界にチート持ちで、転生させてくれよ……。
そうして俺の命は、呆気なく散るのだった。
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