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第一章
006 虫のクリーチャーは仲間?
しおりを挟むこない……な?
あれから僕は、虫のクリーチャーたちに襲われないという事実を活かして、死んだ振りをしている最中だ。
加えて虫のクリーチャーたちを集めて、体の上に何体も乗せている。ぱっと見では、襲われているように思われるだろう。
そうして油断して様子を見に来た者を、確認しようとしたのである。
あわよくば、近づいてきたところに反撃できる可能性もあった。
ドアの先で出待ちしているかもしれなかったので、現状ではこれが最善かと考えたのである。
相手の異能もパンク系の男のような遠距離型ならヤバいけど、ここまで姑息なやり方からして、違うような気がしていた。
しかしこれは絶対ではないので、ある意味賭けになる。
もしもヤバそうだったら、虫のクリーチャーたちを投擲などしてなんとか隙を作りつつ、逃げ出す予定だ。
けれどもここまで考えたのにもかかわらず、体感時間にして数十分何も起きなかった。
いい加減ここに留まる方が危ない気がしてきたので、僕は方針を変える。
虫のクリーチャーたちを体にぶら下げながら、一体をドアの外に投擲した。
虫のクリーチャーは床に転がったあと、何事も無かったかのように周囲をうろつく。
よし、少なくとも、虫のクリーチャーが感知できるような存在はいないようだな。
僕は少々不安があるものの、部屋を出ることを決める。
するとここまであえて視界に入れなかった存在、あのパンク系の男の頭部に意識が向く。ミイラのようになっており、どこか悲痛な表情をしているようにも見える。
結果として一旦おちついたことで、今更ながら気持ち悪さが込み上げてきた。けどこんな狂った状況だからか、想像していたよりも平気である。
おかしい。血の気が引くような、ゾッとした感じがしない。
過去に親戚のお葬式で、棺桶に入った亡骸を見たときに感じたそれが、一切なかったのである。
けど精神的に安定しているなら、そっちの方がいいかもしれない。身がすくんで動けなくなるよりは、マシだろう。
僕はとりあえず、そう思うことにした。
ちなみにパンク系の男の頭部は、そのまま置いておく。なんか小便臭いし、触りたくなかったというのもある。
けど色々と葛藤した末に、少しだけ触れて、【吸収融合】が可能か試してみた。
もしもパンク系の男の頭部を【吸収融合】して異能【消毒の炎】が手に入ったら、状況がよくなると思ったからである。
しかし反応は無く、吸収することはできなかった。そう都合よく異能が手に入るとは、いかないみたいである。
これに僕は残念半分、ホッとしたのが半分だった。
もしかしたら頭部を吸収したことで、僕の頭の横にパンク系の男の頭が生える可能性もあったからである。
更にそれで、パンク系の男の意識まであったら最悪だ。まだこの異能について、わからないことが多い。
そうした可能性も、十分あり得たのである。だからこそ、僕は色々と葛藤したのだ。
とりあえずは死んだ人間で、頭部だけの場合、【吸収融合】が発動しないことはわかった。
あと今更だけど、ここまで頭部を運んできて置いていくとか、普通に頭がおかしい。生理的に嫌悪感がする。
そう考えると、ドアストッパー代わりに置いた人物が、ますますサイコパスに思えて仕方がない。
僕の中では現状、その人物はかなりの危険人物に位置している。対話は、まず無理だと考えていた。
加えて僕のことを殺そうとしてきた訳だし、出会ったらこちらも殺す気で行くしかない。
もちろん人を害することに抵抗はあるけど、それよりも自分の命の方が大事だ。
現状異能という謎の力があるし、デスゲームのような状況だ。殺すのを躊躇ったら、おそらく自分が殺される。
それに前提として、僕の右腕は化け物だ。なおさら、他人から攻撃される可能性が高いと思われた。
僕も死にたくない。死にたくないんだ。
なので心ではまだ覚悟が決まらない状況にもかかわらず、自分にそう言い聞かせて意識を少しずつ変えていくことにした。
そうしてパンク系の男の頭部をそのまま放置して、僕はドアを出る。見れば周囲には、人影が一切存在していない。
だけど近くの床には、明らかに目印のような物がある。瓦礫やゴミなどが、人の手で重ねられている痕跡があった。
やっぱり、ここに人が来たのは間違いない。またこれを置いたのは、僕を殺そうとした者だろう。
その者は、いったいどこに消えたのだろうか? 殺す工程までが好きで、実際に襲われているところには興味が無かったのだろうか?
あと考えられるとすれば、その者にも何か起きていた可能性がある。それで、確認する暇がなかったのかもしれない。
しかしどちらにしても、現状他に手がかりは無かった。
とりあえず、僕を殺そうとした者には気をつけながら、なんとか出口を探すことにしよう。問題は、どちらに進むかだな。
部屋の外は通路になっており、右に行くか、それとも左に行くかである。
よし。逃げてきた方とは、逆の方に行こう。
そうして何となく僕は、この部屋に来たときとは別の道を進むことにした。
先ほど投擲した虫のクリーチャーを拾うと、体にしがみつかせる。その事に対して、既に嫌悪感は全く無い。
死んだふりで数十分体の上に乗せていたことで、完全に慣れてしまっていた。むしろ、安心感さえある。
うん。どう見ても、虫のクリーチャーに寄生された化け物だな。僕なら、まず出会ったら逃げるだろう。
右腕がこうなった時点で、仲間を集めるのは難しいと考えていた。加えてこうして虫のクリーチャーをある意味装備していると、余計にその可能性が低下しているように思えてしまう。
でも仲間を探すために外すよりは、今の方が断然安全だった。少なくとも、この右腕だけで十分に戦えるのか判明するまでは、つけておきたい。
だから僕は、虫のクリーチャーたちを装備したまま、先へと進むことにした。
おそらくこれがもしゲームなら、人間側のロウルートか、クリーチャー側のカオスルートの分岐点かもしれない。
序盤にそんな分岐点を用意しないで欲しいところだけど、これは現実なのでどうしようもなかった。
僕はため息を吐くと、現状ではクリーチャー側で行くことを決めたのである。
大丈夫。人間側よりも、クリーチャー側の方が気楽に違いない。
だってデスゲームとかサバイバルものだと、最後はやっぱり人間同士の殺し合いになるだろ? だから大丈夫だ。
それに、あとから修正も可能なはず。どうにかして右腕を誤魔化す術ができれば、人間側に戻ることもできるだろう。うん。きっとそうに違いない。
そうして僕は自分にそう言い聞かせながら、虫のクリーチャーたちと先へと進む。通路はしばらく一本道であり、変化に乏しい。だけどそこで、前方になにやらあるものが見えてくる。
あれは、虫のクリーチャーたちか?
見れば僕の身に纏っている虫のクリーチャーたちの同種たちが、何かに群がっている。
……何となく群がっている理由が思いつくけど、一応確認しに行ってみよう。
僕は嫌な予感がしつつも近づいてみる。するとそこにあったのは、予想通りのものだった。
「うわっ……」
それは何者かの死体であり、血と体液を啜られたのか、ミイラになっている。
加えてクリーチャーたちのアゴで解体されたのか、首や手足が切断されていた。おそらく、切断面から血などを啜るためだろう。
正直、とてもグロイ。軽く吐きそうだ。
パンク系の男のときは状況が状況だったし、頭部だけでどこか現実味が薄かった。けどこうして心が一度落ち着いた後に遭遇すると、クルものがある。
また頭部だけと、こうして全身がわかる形で解体されているのとでは、大きな差があった。
解体された関係か内臓や骨の一部が露出していることで、人間の死というものを強く意識させられる。
だけどこんな解体されて血を啜られたミイラでも、貴重な情報源であることには違いない。僕はそのミイラを、観察し始めた。
まずミイラは、男性のようである。白いTシャツと、青いジーパンを履いていたようだ。解体の時に切り裂かれたのか、衣服の端が散らばっている。
また髪は黒髪の短髪で、ミイラだからか年齢は分かりづらい。けど何となく、二十代~三十代くらいのような気がした。
他に気になるのは、左腕に巻かれたスマートウォッチだろうか。
それに恐る恐る触れてみると、驚くことにベルトの部分がすんなりと外れたのである。
!? なんで外れたんだ? もしかして、死んでいるからだろうか?
僕のスマートウォッチはどうやっても外れないので、逆にこうして簡単に外れるのは、それしか考えられなかった。
そうしてスマートウォッチを左手で拾うと、画面に触れてみる。すると自分のスマートウォッチのように、画面が起動した。
おおっ。起動したな。これでもしかしたら、このミイラのことが何か分かるかもしれない。
そう思い画面を見ると、黒髪黒目をした青年の顔アイコンが目に入る。
デフォルメなので少し分かりづらいけど、やはり二十代~三十代なのは、間違いなさそうだ。とりあえず、詳細を確認してみよう。
僕は、その顔アイコンをタップした。するとスマートウォッチには、以下の内容が表示される。
名前:平和島梵太郎
年齢:26
性別:男
異能:存在希薄
どうやらこのスマートウォッチの持ち主は、平和島梵太郎という名前らしい。
そしてこの者の異能は、【存在希薄】というようだった。
名称から想像するなら、自身の存在を薄くする感じだろうか? 誰かに見つからずに行動したり、暗殺に使えそうな異能である。
ん? 誰からも見つからずに、行動? それは、虫のクリーチャーにも適応されるのだろうか? いや、こうして殺されているわけだし、微妙なところか?
情報が不足しているな。他に、何かないか探してみよう。
そう思い一度スマートウォッチを自分のポケットに入れると、次に平和島という男のポケットも漁ってみる。
ん? これは……スマートウォッチじゃないか! なんでこいつが持っているんだ? もしかして、誰かを殺して奪ったのだろうか?
他に所持品は無さそうなので、とりあえずこのスマートウォッチの内容も、確認してみることにしよう。
僕は先ほどと同じように、スマートウォッチを起動した。するとその顔のアイコンを見て、思わず動きを止める。
これはもしかして……。
その顔のアイコンは、金髪のモヒカンとピアス。そして鋭い目をしていた。とても既視感がある男のものである。
僕はまさかと思いつつも、アイコンをタップした。するとそこには、予想通りの結果が映し出される。
名前:毒島消治
年齢:22
性別:男
異能:消毒の炎
「マジかぁ……」
この内容を見て、僕は思わずそう呟やいてしまう。だが、それも仕方がない。
なぜならこの瞬間、僕を殺そうとした犯人が判明したからだった。
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