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第一章
007 犯人と推測
しおりを挟むこの平和島という男がパンク系の男、つまり毒島のスマートウォッチを持っていたという事実。これだけで、色々と答えが分かってしまう。
それを決定づけるのは、やはりストッパー代わりに置かれていた毒島の頭部に他ならない。
だとすれば、平和島の【存在希薄】という異能の使い方も、おのずと予想することができた。
おそらく平和島は、僕と毒島のやり取りを見ていたのだろう。
それで結果的に、僕が籠っている部屋に虫のクリーチャーたちを嗾けた。
【存在希薄】があれば、虫のクリーチャーすらも多少は欺けたのかもしれない。少なくとも僕は、平和島の存在に全く気がつくことができなかった。
だとすれば逃走する僕を追いかけて部屋を特定した後、部屋の前に目印を置いて、再度毒島の元に戻ったのだろう。あの目印は、そのための物だったようだ。
そして毒島のスマートウォッチと頭部を持ち、虫のクリーチャーたちを誘導したのだろう。
もしかして毒島の頭部が小便臭かったのは、平和島が放尿したからなのかもしれない。それで虫のクリーチャーたちも、その臭いで毒島の頭部を追いかけていたとかだろうか?
どう考えても、この平和島という男は頭がおかしい。サイコパスだとしか、考えられなかった。
けどそんな男が、何故かここで死んでいる。もしかして、他の人物が関わっているのだろうか?
そう思いつつ、平和島の亡骸を再度確認してみる。するとある部分に、穴があることに気がつく。
ん? ジーパンの股間部分に、穴があるな……もしかして……。
僕は脳内で、パズルのピースがカチャリとハマったような感覚がした。
まず毒島の頭部には小便がかかっており、その臭いで虫のクリーチャーたちが追いかけていた可能性がある。
だとすれば小便の臭いには、敏感ということだろう。もちろん血を吸うので、血の方が見つけやすいのかもしれない。
しかし小便も血ほどでは無いにしろ、ある程度は感じ取ることが可能だったのだろう。
そして平和島は毒島の頭部に小便をかけた際に、出しきっていない小便などの臭いの元が、仮にパンツの中から漏たとする。
であれば答えは簡単だ。虫のクリーチャーは、平和島が【存在希薄】の異能で姿を消していても、小便の臭いを感じ取ったのだろう。
元々虫のような化け物だ。本能でとりあえず攻撃することもあるかもしれない。
そして不意を突かれた平和島は、こうして死亡したのだろう。
素人の推理、いや推測だけど、そこそこ理にかなっている気がする。
もちろん普通に他の者に殺された場合や、意図せぬ事故が起きたのかもしれない。
けどそう思った方が、僕の精神衛生的には安心できた。死因が判明しているのと、理由不明な何かによって死亡したのとでは、そこには大きな差がある。
そして僕の推測が正しい場合、一つ気をつけることがあった。それは怪我や放尿をしたあと、虫のクリーチャーたちが反射的に僕を攻撃する可能性についてだ。
今は体に纏わりつかせている通り、安全な状態である。でもそれは、意外と薄氷の上を歩いているような状況だったのかもしれない。
何となく本能的に大丈夫なような気もするけど、注意しておいた方がいいだろう。
そうして僕は再びスマートウォッチへと、意識を向ける。
確か他にもスマートウォッチには、エンを移動させる機能があったはずだ。それを使って、僕のスマートウォッチにエンを移動しておこう。
まずは手に持っていた毒島のスマートウォッチにある、お財布のアイコンをタップする。
90エン
毒島の所持していた金額は、90エンのようだった。おそらく僕のように最初部屋にいたのであれば、出る時に10エンを使ったのだろう。
画面を操作すると、譲渡項目が現れた。もちろん全額選択して、決定を押す。だけどこの時点ではまだ、譲渡が完了していない。
どうやら僕の方でも、受け取るための操作をする必要があるようだ。
なので一度毒島のスマートウォッチを床に置いて、自分のスマートウォッチを操作することにした。けどここで、一つ問題が起きる。
そうだった。僕の右腕、化け物じゃん……。
一応腕のサイズは、以前とあまり変わらない。けど指先はムカデの足のようであり、黒い外骨格に覆われている。果たして、この指で反応するのだろうか?
こういうタッチパネルは、人間の静電気とかで反応していると聞いたことがある。なのでもしかしたら、操作できない可能性もあった。
僕は嫌な予感がしつつも、右手の指先で自身のスマートウォッチに触れてみる。
「おっ」
すると予想に反して、普通に画面が起動した。どうやらこのスマートウォッチは、化け物の指先でも反応するらしい。
よ、よかった。もし反応しなかったら、詰んでいたかもしれない。
これから先自分のスマートウォッチが操作できなかった場合、とても不味いことになっていた気がする。
どう考えてもこのスマートウォッチは重要アイテムであり、操作する場面というのは、おそらくこの先出てきたことだろう。
なので僕は操作できたことにホッとすると、次にお財布のアイコンをタップして、受け取る側の操作をした。
また右手でタップしていて分かったことだけど、意外とこの指は器用に動かすことができる。なら同時に、物をつまむこともできるはずだ。
そう思って床に置いていたスマートウォッチを右手の指先で、つまむようにして拾ってみる。結果は成功であり、バランスもとれていた。
よし。これなら大丈夫そうだ。
そうしてスマートウォッチ同士の画面を近づけると、『ピッ』という僅かな電子音が鳴る。
見れば僕スマートウォッチの残高が、80エンに90エンが足されて、合計170エンに切り替わっていた。所持金が増えると、何だか嬉しくなる。
僕は同じ方法で、平和島のスマートウォッチからもエンを移動した。平和島は70エンを持っており、これで僕の所持金は240エンになる。
現状ドアを開ける以外に使い道を知らないけど、きっと他にも使い道があることだろう。そのためのエンは、多いに越したことはない。
そうして役目を終えた毒島と平和島のスマートウォッチだけど、何かに使えるかもしれないので、念のため腰に下げたビニール袋に入れておく。ポケットに入れるには、二つは少々邪魔だ。
まあ何はともあれ、僕は運が良かった。命を狙ってきた平和島も死んでいたし、エンも手に入った。あと他に、気になることはあるだろうか?
そう考えると僕は平和島の亡骸を見て、あることを思う。
人の死体がほぼ全てそろっているなら、僕の【吸収融合】は発動するのだろうか? もし上手くいけば、他人の異能を手に入れられるかもしれない。
毒島のときは頭部だけだったけど、今回は全身がそろっている。なので可能性はあった。そんな考えが、脳裏によぎったのである。
リスクは当然あるだろう。でも、上手くいった際の恩恵は計り知れない。
僕の脳内で、様々な考えが浮かんでは消えていく。だけど最終的に、僕は【吸収融合】を発動することに決めた。
まあ既に化け物だし、これからも他のクリーチャーと融合する可能性が高い。なら現状から悪化するのは、遅いか早いかの違いになる。だから、ここで試した方がいいだろう。
正直この右腕だけで、この先を乗り越えられるとは考えづらい。毒島の【消毒の炎】を見ているからこそ、なおさらそう思う。
故に僕は困難に直面すれば、その都度【吸収融合】をクリーチャーに対して発動する可能性が高い。
であれば他人に【吸収融合】を発動するのも、時間の問題のような気がした。
だから必要なのは、ここで踏み切る覚悟だけである。
僕は一度虫のクリーチャーと融合した経験があるからか、ある意味振り切れていたのかもしれない。
そうして平和島の亡骸に、左手で触れる。変形する可能性を考慮して足で触れようか迷ったけど、歩けなくなる方が不味いと考えた故の選択だった。
また右腕は現状安定しているので、バランスが崩れて武器としての性能の低下を避けた形である。
ただ一つ不安なのは、スマートウォッチについてだ。けどこのデスゲームでは、重要なアイテムには違いない。なんとなく変形しても、外れないような気がした。
なので僕は総合的に考えて、左腕を選択したのである。
そして【吸収融合】の感覚は一度目で掴んでいるので、その感覚を思い出して発動してみた。
「え?」
でも結果は、まさかの不発。
「吸収融合! ……だめか」
声に出しても、無駄だった。つまり人の死体では、【吸収融合】は発動しないみたいである。それは体全体が残っていても、同じみたいだった。
残念だけど、これは諦めるしかなさそうだ。
そうは思いながらも、どこか安心している自分がいた。やはり分かっていても、変形は恐ろしかったのである。
でもこれは、人の死体だったからかもしれない。虫のクリーチャーとの融合も、生きている虫のクリーチャーだったからこそ、発動したという可能性もある。
なのでもし生きている人間に異能を発動できたのであれば、吸収できるかもしれなかった。
もし試せる機会があれば、やってみよう。まああまり、気は進まないけど。
すると、そんな時だった。
「ひ、ひぃ!?」
「ん?」
背後から叫び声が聞こえたので振り返ると、スーツ姿をした小太りの中年男性が、こちらに怯えた眼差しを向けている。
それは僕から見ても完全に、化け物を見るような視線だった。
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