キメラフォックス ~デスゲームでクリーチャーに異能【吸収融合】を使い、人外となっていく狐顔~

乃神レンガ

文字の大きさ
12 / 38
第一章

012 普通ではない何か

しおりを挟む

 そう思ってしまうのも、仕方がなかった。けど同時に、チャンスでもある。たぶんあの自動販売機は、普通に使用できる気がした。

 ここからだと商品までは分からないけど、光っているのが見える。なんとなくそれは、わざと商品を見えなくしているような光り方にも思えた。

 また本来の自動販売機よりも、大きいような気がする。距離が離れていても分かるくらいなので、それなりに大きいようだった。

 他にも汚れ一つない白一色で、ここからでもよく目立つ。いや、目立つように配置されているのだろう。

 まるで砂漠にあるオアシスのように、デスゲームの参加者を誘っているようにも思えた。

 だとしたら普通に、エンで買い物ができるかもしれない。

 けど問題は、周囲の池である。こういう状況だと、大抵池の中に化け物がいるのが定番だった。

 目の前の光景は、あからさま過ぎるのである。罠の一つや二つあっても、おかしくはない。

 なので僕は少しの間周囲を探索しつつ、池の様子をうかがう。だけど周囲には何か役立つようなものは無く、池に異変のようなものも発生しなかった。

 なので僕はとりあえず、安全を確認した後に、遠くから拾った石を投げ入れてみる。

 そうして僕が池に石を投げ入れると、ポチャリという音と共に、水面に波紋はもんが広がった。

 特に何も起きない……んん?

 一瞬何も起きないかと思われたけど、水面に新たな動きが現れ始める。

 な、何かいるのか? とりあえず、いつでも逃げられるようにはしておこう。

 またいつでも虫のクリーチャーを囮にできるように、右手で一匹掴んでおく。

 すると、その時だった。池から唐突とうとつに、何かがぬるりと現れる。

「え?」

 それは、スキンヘッドの中年男性だった。まばたきをすることなく、歩くように池からこちらへと浮上してきたのだ。

 服装はワイシャツにズボンとシンプルだけど、革靴は片方しかはいていない。それと池から出てきたので、当然のようにずぶ濡れだった。

 そして僕を見つけると、スキンヘッドの中年男性が何かを口にする。

「タス……ケ、テ……クレ」

 するとその瞬間、僕にまとわりついていた虫のクリーチャーたちが、一斉に逃げ出した。掴んでいる個体も、一生懸命足をシャカシャカと忙しない。

 明らかに目の前の存在に対して、虫のクリーチャーたちは恐れを抱いている。普通ではない。

 ゆえに目の前の存在に対して、僕はクリーチャーが擬態しているのだと、そのように判断を下す。

 これは逃げるべきか? 虫のクリーチャーたちが恐れているということは、確実に危険な存在なのは間違いない。

 だけど新しいクリーチャーということは、たぶん【吸収融合】の対象になるはずだ。強くなるには、どうにかして触れて発動する必要がある。

 逃げるべきか戦うべきか。僕はどちらかを選択する必要があった。

 すると僕が、そのように考えていたときである。そこへ、乱入者たちが現れた。

「は、はじめさん! 見つけたわ! あそこよ!」
「てめぇ、逃げられるとは思うなよ! 害虫をけしかけやがって! 覚悟しろよ! この虫野郎!」
「ひょ?」

 突然のことに、僕は変な声が出てしまう。だがそれも、仕方がなかった。

 そう。どういう訳か先ほどいたと思ってた一という男と、守られていたはずの厚美という女性が、この場に現れたのである。

 マジか。ここにきて、あいつらも現れるのかよ。

 幸い二人とはまだ多少の距離が離れており、即座に何かが起きることはない。

 むしろあの擬態クリーチャーと、二人の方が近くなっていた。二人は僕を見つけてから、こちらへと向かってきていたのである。

 故に二人が擬態クリーチャーに気がつくのは、当然だろう。ギョッとした感じで、二人は足を止める。

 僕ばかりに意識が向いていたのか、今更その存在に気がついたみたいだ。

 また擬態クリーチャーも同様に、二人の存在を認識したようである。

「なんだお前は!」
「え、なにあれ、あの人びしょれなんだけど……」

 二人は擬態クリーチャーを見て、そのような言葉を口にする。そこに気味悪がってはいても、恐れた様子はない。

 おそらく池から出てくるところを見ていなかったから、クリーチャーだとは思っていないのだろう。

 両目ガン開きでびしょ濡れのスキンヘッドのおっさんが、片方の靴だけ履いて立っているように見える。

 それだけでも十分にヤバいやつに見えるけど、クリーチャーと判断できるかと言われれば、まだ微妙なラインだった。

 クリーチャーの可能性はあるけど、単にヤバいだけの人間かもしれない。二人からしたら、そんな感じなのだろう。

 けど僕は、あのおっさんが擬態クリーチャーだということを知っている。

 池からぬるりと生えるように浮上してきたことや、虫のクリーチャーたちがおびえて逃げ出したのは、十分にその判断材料になった。

 だから擬態クリーチャーに対して、僕は強い警戒をしている。だけど二人はまだ、そこまでには至ってはいない。

 すると擬態クリーチャーが、不意に声を発した。

「タス……ケ、テ……クレ」

 それは先ほど僕が聞いた内容と、全くもって同じもの。怪しさしかないけど、二人の受け取り方は違ったみたいだ。

「は? どういうことだ?」
「もしかしてあの狐顔の化け物が、そこの池に突き落としたんじゃない?」
「まじかよ! 最低だな! やっぱりあいつ、右腕があの害虫にそっくりだし、人に擬態した化け物だろ!」

 どういう訳か、僕の方が擬態クリーチャーだと思われたらしい。

 確かにぱっと見びしょ濡れのおっさんよりも、右腕がクリーチャーの僕の方が、そう見えてもおかしくはないだろう。

 これはどうするべきか。たぶんあの二人は、僕のことを殺す気だ。ここまで何かの方法で追いかけてきたみたいだし、間違いないだろう。

 今も強い殺気のようなものが、はじめという男から向けられている気がした。

 それに人ではなく化け物、クリーチャーだと思われているのなら、僅かにあった躊躇ためらいも、おそらくは消えている。

 なら僕は、この盤面ばんめんを上手く活用しなければいけない。擬態クリーチャーにとっては、あの二人も獲物のはずだろう。

 するとそこで、一という男が擬態クリーチャーに声をかけた。

「おい、そこのおっさん! 金を払うなら、助けてやってもいいぜ! 有り金全部置いていけ! でなければ、殺してでも奪うからな!」

 うわっ、この男、言っていること盗賊じゃんか。

 あの様子では、たとえ有り金を全て受け取っても、その後に相手を殺すような気がしてならない。

 けれども当然、擬態クリーチャーがそれに答えることはなかった。相変わらず、同じように助けを口にするばかりである。

 しかし僕が、そう思ったときだった。もう一人の厚美という女性が、あることに気がつく。

「待って、あの男、スマートウォッチを着けていないわよ?」
「あ? マジだ。いったいどうやって外したんだ?」

 確かに厚美という女性が言う通り、擬態クリーチャーはスマートウォッチを着けてはいなかった。

 たぶん着けていないのは、そもそもがクリーチャーだからだろう。またスマートウォッチはやはり特別なのか、擬態できないのかもしれない。

 異能と同じように、このスマートウォッチも普通の物ではないのだろう。そんな気がする。

 あとは身に着けている衣服については、その元になった人物が着ていた衣服という可能性が高い。靴が片方ないのは、回収できなかったからだろうか?

 だけど靴とは違って、スマートウォッチ自体は回収ができているはずだ。あれは死亡したとき以外では、現状外れることはない。

 元になったおっさんを殺して衣服などを奪ったとすれば、その中にスマートウォッチがあってもおかしくはなかった。

 けど身に着けていないということは、もしかしたら本人以外は着けられないような、そんな仕掛けが元々あるのかもしれない。

 そんなことを僕が思っていると、擬態クリーチャー側が不意に動きをみせる。

 「タス……ケ、テ……クレ」

 同じことを口にしながら、二人の方へと歩き出したのだ。

 僕の方に来なかったのは、単純に数が少ないからだろうか? 獲物として数の多い方へと、本能的に向かった可能性がある。

 いや待てよ、未だに僕の右手には一匹の虫のクリーチャーがいるし、数としては同数か。

 それなら僕が完全に警戒しているのに対して、二人がまだ油断しているからかもしれない。

「止まれ! てめえはなんか普通じゃねえ! それ以上近づくと、ぶん殴るぞ!」
「き、気持ち悪いわ! はじめさん、あの男を近づけないで!」

 するとまるでゾンビのように向かってくる擬態クリーチャーに対して、二人もようやくその異常に気がつき始めたようだ。

 一という男は異能で全身に鉄をまとうと、擬態クリーチャーに対して強い警告を発する。

 だが当然、それで擬態クリーチャーは止まらない。結果として、二人のすぐ近くまで迫ってしまう。

「ちっ、イカレ野郎がよぉ! 死にやがれ!」

 そして一という男が、とうとう擬態クリーチャーへと殴りかかる。鉄の拳が、その顔面を強打した……かのように思われた。

「は?」

 けれども擬態クリーチャーの頭部はスライムのように形を変えると、ぐにゅりとその拳を飲み込んだのである。

 見れば弾力だんりょく性とねん性のありそうな、灰色の何かに変化していた。

 そして拳が直撃した瞬間、まるでプロボクサーのカウンターのように、一瞬で相手のひじ辺りまでをその中へと引きずり込んだのだ。

 傍から見ていた僕でも視認するのが難しいほどに、それは早業だったのである。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し
ファンタジー
 ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。  しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

処理中です...