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第十三章
449 ブラックヴァイパー ①
しおりを挟む潜入前に、一応打ち合わせをしておく。
まず俺は旅人のモブメッツであり、路銀が尽きたので、割りのよさそうなこの勧誘に乗ったことにした。
それと偽装擬態を使って、冒険者証もBに偽装している。
また剣技と、多少の聖属性魔法が使える魔法剣士という設定だ。
ちなみにレフは、相棒の白い子犬のフーレであり、マスコット的存在である。
あとは、潜入後の細かい動きについても話し合った。まあそれについては実際に動いてから、臨機応変にやってみよう。
そうしてブラックヴァイパーの本拠地に近づくと、ハイロウが門番に声をかける。
「俺だ。レッドリバーのハイロウでさぁ。言われた通り、強者を連れてきた」
「お前か。そいつが強者なのか? どこにでもいる平凡な男に見えるぞ」
門番の男は俺を見て、そう言った。ちなみにレッドリバーというのは、ハイロウたちのパーティ名らしい。
「一見そうかもしれないが、俺の強者警戒には間違いなく反応があったんだ。それに強者かどうかは、このあと判明するはずでさぁ」
「そうか……まあ、いいだろう。入れ。今はちょうど幹部である狂犬のポッチさんが、修練部屋にいる。強者かどうかは、ポッチさんが見てくれるだろう」
門番の男はハイロウの言葉に納得したのか、建物へ入るのを許可してくれた。
どうやら現在、狂犬のポッチという幹部がいるらしい。とりあえず、そいつに力を見せることになりそうだ。
「へへ、ありがとうございやす。わかりやした」
そうしてハイロウが門番の男に礼を言うと、俺たちを連れて建物の中に入る。
建物の中は、意外と整っていた。だが何人もの強面の男たちがおり、こちらを注目している。
だがそれを気にせずに、俺とハイロウたちは建物内を進んでいく。
その間に、俺はポッチという人物について教えてもらう。
「幹部のポッチさんは、この大陸では珍しい犬の獣人でさぁ。荒事専門でして、元Bランク冒険者という肩書もありやす。気をつけてくだせぇ」
「なるほど。犬の獣人か。わかった」
そういえば獣人とは、まだ関わったことが無かったはずだ。転移者のブラッドはたしか獣人ではなく、正確にはウェアウルフだったはずである。
なので獣人と直接関わるのは、何気にこれが初めてになるかもしれない。
一応城のダンジョンの城下町でも、獣人は僅かに見かけていたが、俺と関わることは無かったしな。
そうしてハイロウに案内されて、俺は修練部屋とやらにやってくる。
修練部屋は広々とした部屋であり、中ではマフィアの構成員たちが鍛練をしていた。
ただマフィアの構成員といっても、見た目は冒険者崩れにしか見えない。
そしてその中には、革鎧を身に纏った人型の白い犬が立っている。身長は180cmほどであり、茶色い鋭い目をしていた。おそらくあれが、狂犬のポッチなのだろう。
本当に獣人だ。転移者のブラッドも、似たような感じだったことを思い出す。ある意味懐かしい。
すると俺たちが入ってきたことに、狂犬のポッチが気がついて視線を向けてきた。それと同時に、ハイロウが口を開く。
「ポッチさん、強者を連れて来やした! 役に立つかどうか、確かめてくだせぇ!」
「ははっ、本当に連れてこれたのか! おもしれえ!」
ハイロウの話を聞いて、ポッチが大きな口を開いて声を上げる。その声色は、中年男性のような感じだった。
白い犬の頭部なので、その見た目から年齢を推測するのは難しい。だが声色から察するに、おそらく三十代後半くらいだろう。
そしてポッチは手下の修練を止めさせると、こちらへとやってきた。
「んで、お前がこいつらに連れてこられた強者なのか?」
「ああ、俺はモブメッツという。Bランク冒険者で旅人だ。路銀が尽きたから、雇ってもらおうと思ってな。それと、こいつは相棒のフーレだ」
「わん!」
俺はそう言って、白い子犬になっているレフのことも紹介する。
だがそのとき、レフのことを見たポッチが驚きの言葉を口にした。
「なっ、なんて可愛らしい子なんだ!」
「ん?」
最初は、単なる小動物好きなのかと思った。だが、それはすぐに否定される。
「おい、俺様にそいつをよこせ! げへへ、溜まってて仕方ねえんだ! 可愛がってやるからよぉ!」
「は?」
「にゃ゛!?」
その表情は、明らかにレフのことを性的に見ていた。あまりの出来事に身の危険を感じたのか、レフが素の声を出して俺の後ろに隠れる。
俺は念のため、確認するようにこう問いかけた。
「一応訊いておくが、俺の相棒に性的なことをしようとしているのか? こいつは獣人ではなくて、単なる犬だぞ? それに、子犬だ!」
するとポッチは俺の言葉に一瞬だけ静止すると、すぐさま笑みを浮かべて、その問いかけに回答した。
「ぎゃははっ! それは承知の上だ! この大陸に同族はまずいねえ! だが溜まるもんは溜まるんだよ! それである日気づいちまった! 俺様と犬の違いは、二足歩行か四足歩行かで、あとは大きいか小さいかだけということにな!
加えて俺様はより獣に近い獣人が好みで、更にはロリコンだ! つまり子犬は十分その対象ってわけだぜ!」
「うわっ……」
「にゃぁ……」
とんでもない変態に遭遇してしまった。その言い分だと人族の場合、子ザルに手を出すようなものかもしれない。
「普段はモンスターのグレイウルフを捕まえて無理やりヤッているが、俺様は犬の獣人だ! だからヤルなら犬が一番最高なんだぜ! だから俺様に、そのカワイ子ちゃんをよこせ!」
こいつ、グレイウルフともしているのか……。普通に性病とか大丈夫だろうか。いや、それは俺が気にすることではないだろう。
それよりも、こんな変態にレフを渡すことなどありえない。
故に俺は、当然この変態にNOを突きつける。
「ふざけるな。誰が渡すものか。こいつは俺の相棒で、家族のようなものだ!」
「はっ! なら力づくで奪い取ってやるぜぇえええ――」
するとポッチは高らかにそう叫び、俺に襲い掛かってきた。元Bランク冒険者ということもあり、その動きは速い。並の冒険者では、太刀打ちすることはできないだろう。
だが俺は擬剣パンドラソードを素早く抜くと、すれ違いざまに難なくその両腕の肘から先をきれいに切断してみせた。
「――うぇ? ぎゃぁあああ!?」
一瞬ポッチは何が起きたのか理解できなかったようだが、両肘の先から吹き出す己の血を見て、その事実を理解して絶叫する。
「う、嘘だろ。あの狂犬のポッチさんが!?」
「何が起きたんだ。全く見えなかったぞ」
「おいおいおい、どうするんだよあれ!」
「ポッチさんの仇を、いや俺じゃあ無理だ!」
「それよりヒールを使えるやつはいないのか!」
その光景に、周囲の者たちも騒ぎ始めた。
俺はそれを意に介さず、擬剣パンドラソードを振って血を飛ばすと、鞘に収める。
そして転がっている両腕を拾うと、ポッチに近づいてこう言い放つ。
「俺の相棒に今後手を出さないと誓うなら、この腕をくっつけてやろう。さぁ、どうする?」
「ひぃい! わ、わかった! もう手を出さねえ! だ、だから、助けてくれ!」
「その言葉、忘れるなよ?」
ポッチの必死の懇願を聞き入れた俺は、セイントヒールを使って切断した腕をくっつけてやる。両腕は見事に繋がった。
「う、動く、動くぞ! よかった。よかったぁ!」
そしてポッチは指が動くことを確認して、安堵の声を上げる。
ふむ。たぶん可能だろうと直感で分かっていたが、本当に上手く繋がったようだ。
先ほど孤児にこっそりセイントヒールを発動していたことで、繊細な発動が意識しやすかったかもしれない。これは、良い実験になったな。
しかしだとしても、擬態した姿とはいえ、レフを性的に襲おうとしたことは許せない。だが今ここで始末すると、流石に潜入した意味がなくなる。
故にこれらが全て終わるか、ちょうどいい機会があれば、その魂ごと消し去ってやろう。
俺はそう思いながら、目の前のポッチへの怒りを抑え込むと、笑みを浮かべながら声をかけた。
「それで、俺は合格か?」
「え……? あ、ああ! ご、合格だ! この狂犬のポッチが、あんたの力をみ、認めるッ!」
そうして狂犬のポッチから合格を得たことで、俺はブラックヴァイパーへの潜入を果たすのだった。
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